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夜会への誘い
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私が仕事終わりにエリーゼの部屋で寛いでいると
「ねぇ、メアリー一緒に夜会に参加してほしいんだけど・・」
エリーゼが急に夜会の話をしてきた。
「エリーゼ、急にどうしたの。エリーゼ夜会って好きじゃないでしょ。」
「そうなんだけど・・ドラガル様に頼まれて・・」
「何を頼まれたの?」
私が不思議そうに尋ねると
「ドラガル様の知り合いのアワード様がメアリーを紹介してほしいって言われたみたいで・・どうもドラガル様、アワード様に色々とお世話になっているみたいで・・ねぇ、メアリーお願い」
エリーゼが手を合わせながら私に必死にお願いしてきた。私はそんなこと今までなかったため、私は仕方なく
「もう、仕方ないわねぇ。わかったわ、参加してあげる」
「ありがとう、メアリー」
エリーゼは嬉しそうにほほ笑んだ。そうして
「実を言うと・・ドラガル様って夜会好きじゃないでしょ、メアリーをアワード様に紹介するための夜会参加なんだけど・・ドラガル様に誘われたことが嬉しくて・・」
エリーゼはそう言うとほほを染めながら照れていた。そう話しているエリーゼを見ていると羨ましく思えた。
その後、私は自室に戻ると紹介される予定のアワード様のことを思い出していた。会ったのは一度きりでそれも短時間だったが、社交界の中で何度か彼を見たことがあったため全く知らないということはなかった。しかし、いつも脇に女性を連れており女性に困っているようには見えなかったけど・・どうして私なんかに会いたいのかしら・・もしかしてあの時何か気に障ることを言ったのかしら・・それにしても最近はあまり夜会で見かけていなかったように思うけど・・もう女遊びに飽きたのかしら・・以前はかなり遊び人だって噂されていたけど・・まぁ、あの容姿であの話しやすさだったら女の方もその気になるでしょうねぇ・・はぁ、なんだか憂鬱・・ただでさえ両親から夜会参加を義務のように宛がわれているのに・・私は溜息をついてベッドに倒れこんだ。でも、相手が決まっていたらそんなに周囲に気を使うこともないわよね、何かあったらエリーゼに頼めば何とかなるでしょうし、私はそう考えると幾分気持ちが楽になったため寝る準備を始めた。
しばらくしてエリーゼが夜会の招待状を私に届けてきた。規模はそれほど大きくはないみたいだったが、独身の男女が多く参加する予定の夜会だった。どうも近い日にちの夜会ではまだましな方だったらしいが・・独身が多いと聞いてやや気持ちが落ち込んでしまった。
夜会当日、私の実家にエリーゼの家の馬車が到着した。私はなるべく目立たないようにと選んだ紺色のドレスに身を包んでいた。エリーゼは、どうもドラガル様と合わせたみたいで赤いドレスを纏っていた。最近のエリーゼは以前とは比べ物にならないくらい綺麗になっており今日のエリーゼはまた格別に綺麗だった。そのエリーゼがドラガル様のことを話している様子は目がさらにくぎ付けになるほど綺麗だった。私はその様子を見ながら今日の夜会での移動は苦労するなぁと考えていた。夜会が開催される屋敷に到着して受付を終えホールに入るとすぐに参加者の視線がエリーゼに集まった。私はまずいと思い急いで壁の方に移動したが遅かった。気付くと多くの男性に囲まれエリーゼと離ればなれになってしまった。
「エリーゼ、エリーゼ」
私が何度呼びかけても人の波に搔き消されエリーゼには声が届いてないようだった。私は諦め、男性から声を掛けられる度に断りに言葉を発していた。いい加減疲れてきたころに私を取り巻く人だかりの中に見知った顔を見つけた。私は彼に駆け寄ると
「今日は、この方と約束をしているので申し訳ありませんがご一緒できません。申し訳ありません」
と言った。すると彼は私に答えるかのように私の肩に手を回すと
「悪かったねぇ。声を掛けるのだったら俺に断りを入れてからにしてくれるかなぁ。今日は俺が先約だから」
と言うと私にウインクしてきた。私は少し驚いたがすぐに平静を装うと彼の腕に手を絡めた。彼は私をエリーゼたちのところまで連れて行ってくれた。
「エリーゼ、どこに行っていたの。探したんだから・・大丈夫だった。あなたこんな場に慣れてないんだから・・」
私がエリーゼのことを心配して声を掛けると
「大丈夫よ、メアリー。ドラガル様がすぐに駆け付けてくれたから」
とドラガル様に寄り添いながらそう言った。そうして、
「それよりこの方が今回紹介する予定だった」
エリーゼにそう言われ、彼に腕を絡めていたことを思い出し急いで腕を離した。すると彼は私に向き直ると
「護衛騎士をしているアワード・ブルバスターだ。よろしく」
と私に向かって微笑みながら挨拶してきた。私も
「メアリー・ハルスタインです。よろしくお願い致します」
と笑顔で挨拶した。今からどうしたらいいのかと考えていると
「アワードすまないがエリーゼと踊ってくるから、お前は適当に過ごしておいてくれ」
ドラガル様はそう言うと、エリーゼを連れてホールへと歩いて行ってしまった。取り残された私は何を話せばいいかわからず楽しそうに踊っている二人を眺めていた。すると数人の男性がダンスを申し込んできた。私は再びアワード様の腕に手を絡めると
「申し訳ありません。今日はこの方と約策をしていますので」
と断った。私は溜息をつくと
「本当はパーティーに参加したくないんです」
と呟いた。アワード様は何も言わずにダンスを踊っている二人を眺めていた。
「私は伯爵令嬢なので親に参加するよういつも言われて・・少しでもいい身分の人に気に入られるように清楚な令嬢を演じ続けないといけないし・・あぁエリーゼが男性だったらよかったのに・・そうしたら結婚してほしいって言えたのに・・」
と苦笑いしながら二人の様子を眺めながら言った。
「今のは聞かなかったことにしておいてください。独り言ですから・・アワード様には素の私を見られてますから、今更清楚ぶっても無理でしょうし・・あの二人、凄く幸せそうですねぇ。羨ましい。あの二人ってどこでであったか知ってます」
私は話の内容を変えるため違う話題に話を変えた。
「ドラガルは教えてくれないから知らないんだ」
私はその返答を聞いてなんだか嬉しくなって
「そうなんですか。じゃあ内緒ですよ」
私はそう言うと周囲に聞かれないようにアワード様に手招きをした。アワード様が身をかがめ耳を近づけてきたため
「厩舎ですよ、厩舎」
と囁いて笑った。すると急に
「メアリーは、何かしたいこととかはないのか。ただパーティーに参加しているのではつまらないだろう」
とアワード様から声が掛かった。
「えっ、特には何もないです。いつもパーティーの準備や見合いで忙しいし・・早くいい相手を見つけないと両親に何を言われるか・・」
私は自分の意思がない返答に空しくなり俯いた。
「じゃあ、俺と付き合おうか。俺は侯爵家だから身分は問題ないだろう。自分で言うのもなんだがなかなかのいい物件だと思うが」
アワード様は私の顔を覗き込みながらそう言ってきたのだ。私は驚いて顔を上げたがアワード様はほほ笑んで私の返答を待っていた。私はからかわれているのだろうと思い
「私は清楚ではないですし、思ったことはすぐに言ってしまうし・・付き合っていると両親が知ったら何が何でも結婚に持ち込もうとしますよ。私なんかじゃなくてもっといい令嬢に声を掛けたらどうですか。アワード様はいい人そうですし・・」
と返答した。すると今度は
「俺は今の君がいい。付き合おう」
と言ってきた。私は何と返答したらいいのか分からずまた俯いてしまった。しばらく考えてから、時間が経てばアワード様も今の発言を撤回されるだろうと考えた私は
「今日のパーティーが終了した時に返事をしてもいいですか」
と返答した。するとアワード様はまたほほ笑まれると俺
「じゃあ、そういうことにしよう」
と言うと私の手を取ってホールへと誘った。私は気兼ねなくダンスを踊れることが嬉しく久しぶりにダンスを心から楽しむことができた。曲が終わるとほかの男性が私を誘うために寄ってきたが全てアワード様が断ってくれ、私が満足するまで一緒に踊ってくれた。何曲か連続で踊ると少し休憩するために端の方に置いてあるソファーに腰かけた。ソファーに私が座るとアワード様が
「何か飲み物でも取ってこようか」
と声を掛けてくれた。喉は乾いていたが私は首を振ると素直に自分の気持ちを口にした。
「アワード様が行ってしまわれるとまた他の方に声を掛けられてしまうので・・」
と・・すると
「分かった。じゃあ、テラスに移動しようか。ちょっと肌寒いが何か掛けるものでも借りよう」
アワード様はそう言うと私の手を引き、掛物と飲み物を手にするとテラスの奥まったところにあるソファーまで私を連れて行った。
「ところでメアリーは何歳なんだ。趣味とかはないのか、好きな食べ物とか」
「私は十七歳です。趣味は刺繍で好きな食べ物はケーキです。アワード様は好きな食べ物とかはあるんですか」
「そうだなぁ。俺は肉が好きかなぁ。甘いものはちょっと苦手だ。そうそう年齢は二十一で趣味は乗馬かなぁ。今度一緒に遠乗りに出掛けようか」
と話された。
「そうですねぇ、馬には乗ったことがないので・・正直馬車の方がいいです。寒くないし眠たくなったら寝れるので・・馬の方が楽しいんですか」
と尋ねてみた。
「そうだなぁ、馬の良さは風を感じることができるし馬車とは違った景色と堪能できると思うよ。それに体が密着するのがいい」
私はその返答を聞いてやっぱりアワード様は遊びなれておられると思った。そうして
「だからエリーゼは馬なのかしら・・」
と呟いてしまっていた。
「エリーゼはドラガル様と掛ける時、よく馬に乗って行くんです」
「そうなのか」
「でも、三時間とか乗ったらしんどくないんでしょうか。それよりも引っ付くことが重要なんでしょうか」
「いや、三時間は尋常じゃないなぁ。多分あの二人は馬に乗ること自体が好きなんだと思うよ」
「そうですよねぇ。エリーゼはああ見えて馬にも乗れて剣まで扱えるんですよ。この間王宮主催のパーティーがあった時、何人もの男性を再起不能にまでしたんですから」
私は自分のことのように興奮してエリーゼの話をしてしまった。
「メアリーは本当にエリーゼのことが好きなんだなぁ」
「えっ、はいそうです。エリーゼとは王宮で働くようになってから知り合ったんですけど裏がなくて公爵令嬢って感じが全くしないんです。だから、男性に全く興味がなかったエリーゼが今ではドラガル様にメロメロで見ていて驚くほどです。食堂で出会った時、ばれないようにフォローしようと思ったんですけど・・すぐにばれてしまって悪かったなぁて・・アワード様って軽い感じに見えますけど結構鋭いんですねぇ。実は私、以前からアワード様の事知っているんです。何度も夜会に参加しているので女性を連れて歩いている姿を何度も目にしていて・・でもいつも笑っているのに楽しそうに見えなくて・・間違っていたらすみません」
「あぁ、ばれてたか。そうなんだ。俺って侯爵家次男だろう。さっきも言ったけど優良物件だから女性が寄ってくるんだ。でもみんな俺のことを見るんじゃなくて俺の家を見て付き合いたいって思っている。だから話をしていてもいつも俺の話に合わせてくるし俺が尋ねても当たり障りのないことばかり返答してくる。そうなってくると何を聞いても答えが分かっているから面白くないだろう。それと違いメアリーはいいよ。思ったことを言ってくれるから、次は何て言ってくるのか、凄く気になるから一緒に居て楽しいよ。おまけに美人だし」
と笑顔で言ってきた。私は恥ずかしくなり俯きながら
「そうでもないですよ。すぐに思ったことを言ってしまうし、そんな一緒に居て楽しいことなんてないですよ。アワード様が思うほど美人でもないですし・・」
と言った。するとアワード様は私の顔を覗き込みながら
「メアリーは自身の評価がかなり低いなぁ。このホールで美人なのは・・まぁ一番はエリーゼで二番はメアリーかなぁ。じゃあ、一番と二番の違いって何だと思う」
私はそう言われ顔を上げるとアワード様を見つめた。
「さぁ」
「違いは、恋をしているかどうか。よく言うだろう。恋すると人は綺麗になるって」
「あぁ、確かに・・エリーゼは男性に興味もなかったしドレスもアクセサリーも全く興味がなかったのに・・今ではドラガル様にメロメロでドレスもアクセサリーも好んで身につけています。それにこの一年で驚くほど綺麗になりました」
「そうだろう。だからメアリーも恋をしたら今以上に綺麗になると思うよ。今日は俺の希望でメアリーを紹介してもらったんだけど、はっきり言って以前食堂で出会っていたんだけど顔を覚えていなかったんだ。ただ、もう一度話がしたいと思ったから紹介してもらった。正直顔なんてどうでもいいんだ。ただ一緒に居て楽しいのがいいなぁって・・でも実際会ってみてこんな美人でラッキーって思ったのも事実だが・・。美人でも話したいって思った人は今まで出会った中でいなかったから・・どうだろう、一度試しに俺と付き合ってみない」
とまた自然な流れで私に交際を申し込んできた。私はまだ迷っていたがこんな自分でもいいと言ってくれるアワード様ともっと話をしてみたいと思ったこともあり恥ずかしかったが
「アワード様、さっきの返事ですが・・私でよければお願いします」
と言った。するとなんとアワード様は私を抱き締めたのだ。私は驚きながら急いで
「アワード様、困ります」
とアワード様の胸を押した。
「すまなかった。つい嬉しくて」
アワード様はやや照れながらそう言いながら私から離れた。そうしてしばらくソファーで話をしていると夜会が終わる時間になっていた。私たちはまたドラガル達と落ち合うと馬車に乗り王宮へ帰ることにした。
アワード様は馬車の中で唐突に
「そうそう、俺たち付き合うことになったから」
「誰と誰がだ」
ドラガル様が尋ねると
「俺とメアリー」
とウインクしながら言っていた。私は恥ずかしくて俯いていた。するとエリーゼが
「メアリー、よかったわねぇ。アワード様なら大丈夫よ、きっとメアリーの事を大切にしてくれるわ。さっきドラガル様から色々聞いていたんだけど、聞けば聞くほどメアリーに合うんじゃないかと思っていたの」
と私の両手を握り締めながら言った。
今日は遅くなったため私は宿舎に戻らず実家に戻ってきていた。実家に到着すると待ってましたとばかりに母親が
「メアリー、今日はどうだった。誰かいい人に声は掛けられた。伯爵以上でなければ駄目よ。分かってるんでしょうねぇ。でどうだったの」
と立て続けに尋ねてきた。私はいつも通り
「今日も駄目だったわ。そんなにいい話はないわ」
私はそう返答すると足早に自室に戻り湯あみを早々に済ませベッドに潜り込んだ。考えるのは今日の夜会のことばかり・・アワード様と付き合うことになったけど返事が早急ではなかったのかと後悔したり、もっと相手のことを知ってからの返答でもよかったのではないかと・・考えるのは交際についてのことばかり・・なんと言っても初めての交際になるのでどうしたらいいのかわからないのが本音だった。私はそう思いながら悩む日々を送っていたが数日経っても特にアワード様から連絡は入ることはなかった。当初は仕事が忙しいのだろうと思っていたがドラガル様とエリーゼは会っているみたいだったので、そのうちあの交際の申し込みはやはり揶揄われたんだと思うようになっていた。
「ねぇ、メアリー一緒に夜会に参加してほしいんだけど・・」
エリーゼが急に夜会の話をしてきた。
「エリーゼ、急にどうしたの。エリーゼ夜会って好きじゃないでしょ。」
「そうなんだけど・・ドラガル様に頼まれて・・」
「何を頼まれたの?」
私が不思議そうに尋ねると
「ドラガル様の知り合いのアワード様がメアリーを紹介してほしいって言われたみたいで・・どうもドラガル様、アワード様に色々とお世話になっているみたいで・・ねぇ、メアリーお願い」
エリーゼが手を合わせながら私に必死にお願いしてきた。私はそんなこと今までなかったため、私は仕方なく
「もう、仕方ないわねぇ。わかったわ、参加してあげる」
「ありがとう、メアリー」
エリーゼは嬉しそうにほほ笑んだ。そうして
「実を言うと・・ドラガル様って夜会好きじゃないでしょ、メアリーをアワード様に紹介するための夜会参加なんだけど・・ドラガル様に誘われたことが嬉しくて・・」
エリーゼはそう言うとほほを染めながら照れていた。そう話しているエリーゼを見ていると羨ましく思えた。
その後、私は自室に戻ると紹介される予定のアワード様のことを思い出していた。会ったのは一度きりでそれも短時間だったが、社交界の中で何度か彼を見たことがあったため全く知らないということはなかった。しかし、いつも脇に女性を連れており女性に困っているようには見えなかったけど・・どうして私なんかに会いたいのかしら・・もしかしてあの時何か気に障ることを言ったのかしら・・それにしても最近はあまり夜会で見かけていなかったように思うけど・・もう女遊びに飽きたのかしら・・以前はかなり遊び人だって噂されていたけど・・まぁ、あの容姿であの話しやすさだったら女の方もその気になるでしょうねぇ・・はぁ、なんだか憂鬱・・ただでさえ両親から夜会参加を義務のように宛がわれているのに・・私は溜息をついてベッドに倒れこんだ。でも、相手が決まっていたらそんなに周囲に気を使うこともないわよね、何かあったらエリーゼに頼めば何とかなるでしょうし、私はそう考えると幾分気持ちが楽になったため寝る準備を始めた。
しばらくしてエリーゼが夜会の招待状を私に届けてきた。規模はそれほど大きくはないみたいだったが、独身の男女が多く参加する予定の夜会だった。どうも近い日にちの夜会ではまだましな方だったらしいが・・独身が多いと聞いてやや気持ちが落ち込んでしまった。
夜会当日、私の実家にエリーゼの家の馬車が到着した。私はなるべく目立たないようにと選んだ紺色のドレスに身を包んでいた。エリーゼは、どうもドラガル様と合わせたみたいで赤いドレスを纏っていた。最近のエリーゼは以前とは比べ物にならないくらい綺麗になっており今日のエリーゼはまた格別に綺麗だった。そのエリーゼがドラガル様のことを話している様子は目がさらにくぎ付けになるほど綺麗だった。私はその様子を見ながら今日の夜会での移動は苦労するなぁと考えていた。夜会が開催される屋敷に到着して受付を終えホールに入るとすぐに参加者の視線がエリーゼに集まった。私はまずいと思い急いで壁の方に移動したが遅かった。気付くと多くの男性に囲まれエリーゼと離ればなれになってしまった。
「エリーゼ、エリーゼ」
私が何度呼びかけても人の波に搔き消されエリーゼには声が届いてないようだった。私は諦め、男性から声を掛けられる度に断りに言葉を発していた。いい加減疲れてきたころに私を取り巻く人だかりの中に見知った顔を見つけた。私は彼に駆け寄ると
「今日は、この方と約束をしているので申し訳ありませんがご一緒できません。申し訳ありません」
と言った。すると彼は私に答えるかのように私の肩に手を回すと
「悪かったねぇ。声を掛けるのだったら俺に断りを入れてからにしてくれるかなぁ。今日は俺が先約だから」
と言うと私にウインクしてきた。私は少し驚いたがすぐに平静を装うと彼の腕に手を絡めた。彼は私をエリーゼたちのところまで連れて行ってくれた。
「エリーゼ、どこに行っていたの。探したんだから・・大丈夫だった。あなたこんな場に慣れてないんだから・・」
私がエリーゼのことを心配して声を掛けると
「大丈夫よ、メアリー。ドラガル様がすぐに駆け付けてくれたから」
とドラガル様に寄り添いながらそう言った。そうして、
「それよりこの方が今回紹介する予定だった」
エリーゼにそう言われ、彼に腕を絡めていたことを思い出し急いで腕を離した。すると彼は私に向き直ると
「護衛騎士をしているアワード・ブルバスターだ。よろしく」
と私に向かって微笑みながら挨拶してきた。私も
「メアリー・ハルスタインです。よろしくお願い致します」
と笑顔で挨拶した。今からどうしたらいいのかと考えていると
「アワードすまないがエリーゼと踊ってくるから、お前は適当に過ごしておいてくれ」
ドラガル様はそう言うと、エリーゼを連れてホールへと歩いて行ってしまった。取り残された私は何を話せばいいかわからず楽しそうに踊っている二人を眺めていた。すると数人の男性がダンスを申し込んできた。私は再びアワード様の腕に手を絡めると
「申し訳ありません。今日はこの方と約策をしていますので」
と断った。私は溜息をつくと
「本当はパーティーに参加したくないんです」
と呟いた。アワード様は何も言わずにダンスを踊っている二人を眺めていた。
「私は伯爵令嬢なので親に参加するよういつも言われて・・少しでもいい身分の人に気に入られるように清楚な令嬢を演じ続けないといけないし・・あぁエリーゼが男性だったらよかったのに・・そうしたら結婚してほしいって言えたのに・・」
と苦笑いしながら二人の様子を眺めながら言った。
「今のは聞かなかったことにしておいてください。独り言ですから・・アワード様には素の私を見られてますから、今更清楚ぶっても無理でしょうし・・あの二人、凄く幸せそうですねぇ。羨ましい。あの二人ってどこでであったか知ってます」
私は話の内容を変えるため違う話題に話を変えた。
「ドラガルは教えてくれないから知らないんだ」
私はその返答を聞いてなんだか嬉しくなって
「そうなんですか。じゃあ内緒ですよ」
私はそう言うと周囲に聞かれないようにアワード様に手招きをした。アワード様が身をかがめ耳を近づけてきたため
「厩舎ですよ、厩舎」
と囁いて笑った。すると急に
「メアリーは、何かしたいこととかはないのか。ただパーティーに参加しているのではつまらないだろう」
とアワード様から声が掛かった。
「えっ、特には何もないです。いつもパーティーの準備や見合いで忙しいし・・早くいい相手を見つけないと両親に何を言われるか・・」
私は自分の意思がない返答に空しくなり俯いた。
「じゃあ、俺と付き合おうか。俺は侯爵家だから身分は問題ないだろう。自分で言うのもなんだがなかなかのいい物件だと思うが」
アワード様は私の顔を覗き込みながらそう言ってきたのだ。私は驚いて顔を上げたがアワード様はほほ笑んで私の返答を待っていた。私はからかわれているのだろうと思い
「私は清楚ではないですし、思ったことはすぐに言ってしまうし・・付き合っていると両親が知ったら何が何でも結婚に持ち込もうとしますよ。私なんかじゃなくてもっといい令嬢に声を掛けたらどうですか。アワード様はいい人そうですし・・」
と返答した。すると今度は
「俺は今の君がいい。付き合おう」
と言ってきた。私は何と返答したらいいのか分からずまた俯いてしまった。しばらく考えてから、時間が経てばアワード様も今の発言を撤回されるだろうと考えた私は
「今日のパーティーが終了した時に返事をしてもいいですか」
と返答した。するとアワード様はまたほほ笑まれると俺
「じゃあ、そういうことにしよう」
と言うと私の手を取ってホールへと誘った。私は気兼ねなくダンスを踊れることが嬉しく久しぶりにダンスを心から楽しむことができた。曲が終わるとほかの男性が私を誘うために寄ってきたが全てアワード様が断ってくれ、私が満足するまで一緒に踊ってくれた。何曲か連続で踊ると少し休憩するために端の方に置いてあるソファーに腰かけた。ソファーに私が座るとアワード様が
「何か飲み物でも取ってこようか」
と声を掛けてくれた。喉は乾いていたが私は首を振ると素直に自分の気持ちを口にした。
「アワード様が行ってしまわれるとまた他の方に声を掛けられてしまうので・・」
と・・すると
「分かった。じゃあ、テラスに移動しようか。ちょっと肌寒いが何か掛けるものでも借りよう」
アワード様はそう言うと私の手を引き、掛物と飲み物を手にするとテラスの奥まったところにあるソファーまで私を連れて行った。
「ところでメアリーは何歳なんだ。趣味とかはないのか、好きな食べ物とか」
「私は十七歳です。趣味は刺繍で好きな食べ物はケーキです。アワード様は好きな食べ物とかはあるんですか」
「そうだなぁ。俺は肉が好きかなぁ。甘いものはちょっと苦手だ。そうそう年齢は二十一で趣味は乗馬かなぁ。今度一緒に遠乗りに出掛けようか」
と話された。
「そうですねぇ、馬には乗ったことがないので・・正直馬車の方がいいです。寒くないし眠たくなったら寝れるので・・馬の方が楽しいんですか」
と尋ねてみた。
「そうだなぁ、馬の良さは風を感じることができるし馬車とは違った景色と堪能できると思うよ。それに体が密着するのがいい」
私はその返答を聞いてやっぱりアワード様は遊びなれておられると思った。そうして
「だからエリーゼは馬なのかしら・・」
と呟いてしまっていた。
「エリーゼはドラガル様と掛ける時、よく馬に乗って行くんです」
「そうなのか」
「でも、三時間とか乗ったらしんどくないんでしょうか。それよりも引っ付くことが重要なんでしょうか」
「いや、三時間は尋常じゃないなぁ。多分あの二人は馬に乗ること自体が好きなんだと思うよ」
「そうですよねぇ。エリーゼはああ見えて馬にも乗れて剣まで扱えるんですよ。この間王宮主催のパーティーがあった時、何人もの男性を再起不能にまでしたんですから」
私は自分のことのように興奮してエリーゼの話をしてしまった。
「メアリーは本当にエリーゼのことが好きなんだなぁ」
「えっ、はいそうです。エリーゼとは王宮で働くようになってから知り合ったんですけど裏がなくて公爵令嬢って感じが全くしないんです。だから、男性に全く興味がなかったエリーゼが今ではドラガル様にメロメロで見ていて驚くほどです。食堂で出会った時、ばれないようにフォローしようと思ったんですけど・・すぐにばれてしまって悪かったなぁて・・アワード様って軽い感じに見えますけど結構鋭いんですねぇ。実は私、以前からアワード様の事知っているんです。何度も夜会に参加しているので女性を連れて歩いている姿を何度も目にしていて・・でもいつも笑っているのに楽しそうに見えなくて・・間違っていたらすみません」
「あぁ、ばれてたか。そうなんだ。俺って侯爵家次男だろう。さっきも言ったけど優良物件だから女性が寄ってくるんだ。でもみんな俺のことを見るんじゃなくて俺の家を見て付き合いたいって思っている。だから話をしていてもいつも俺の話に合わせてくるし俺が尋ねても当たり障りのないことばかり返答してくる。そうなってくると何を聞いても答えが分かっているから面白くないだろう。それと違いメアリーはいいよ。思ったことを言ってくれるから、次は何て言ってくるのか、凄く気になるから一緒に居て楽しいよ。おまけに美人だし」
と笑顔で言ってきた。私は恥ずかしくなり俯きながら
「そうでもないですよ。すぐに思ったことを言ってしまうし、そんな一緒に居て楽しいことなんてないですよ。アワード様が思うほど美人でもないですし・・」
と言った。するとアワード様は私の顔を覗き込みながら
「メアリーは自身の評価がかなり低いなぁ。このホールで美人なのは・・まぁ一番はエリーゼで二番はメアリーかなぁ。じゃあ、一番と二番の違いって何だと思う」
私はそう言われ顔を上げるとアワード様を見つめた。
「さぁ」
「違いは、恋をしているかどうか。よく言うだろう。恋すると人は綺麗になるって」
「あぁ、確かに・・エリーゼは男性に興味もなかったしドレスもアクセサリーも全く興味がなかったのに・・今ではドラガル様にメロメロでドレスもアクセサリーも好んで身につけています。それにこの一年で驚くほど綺麗になりました」
「そうだろう。だからメアリーも恋をしたら今以上に綺麗になると思うよ。今日は俺の希望でメアリーを紹介してもらったんだけど、はっきり言って以前食堂で出会っていたんだけど顔を覚えていなかったんだ。ただ、もう一度話がしたいと思ったから紹介してもらった。正直顔なんてどうでもいいんだ。ただ一緒に居て楽しいのがいいなぁって・・でも実際会ってみてこんな美人でラッキーって思ったのも事実だが・・。美人でも話したいって思った人は今まで出会った中でいなかったから・・どうだろう、一度試しに俺と付き合ってみない」
とまた自然な流れで私に交際を申し込んできた。私はまだ迷っていたがこんな自分でもいいと言ってくれるアワード様ともっと話をしてみたいと思ったこともあり恥ずかしかったが
「アワード様、さっきの返事ですが・・私でよければお願いします」
と言った。するとなんとアワード様は私を抱き締めたのだ。私は驚きながら急いで
「アワード様、困ります」
とアワード様の胸を押した。
「すまなかった。つい嬉しくて」
アワード様はやや照れながらそう言いながら私から離れた。そうしてしばらくソファーで話をしていると夜会が終わる時間になっていた。私たちはまたドラガル達と落ち合うと馬車に乗り王宮へ帰ることにした。
アワード様は馬車の中で唐突に
「そうそう、俺たち付き合うことになったから」
「誰と誰がだ」
ドラガル様が尋ねると
「俺とメアリー」
とウインクしながら言っていた。私は恥ずかしくて俯いていた。するとエリーゼが
「メアリー、よかったわねぇ。アワード様なら大丈夫よ、きっとメアリーの事を大切にしてくれるわ。さっきドラガル様から色々聞いていたんだけど、聞けば聞くほどメアリーに合うんじゃないかと思っていたの」
と私の両手を握り締めながら言った。
今日は遅くなったため私は宿舎に戻らず実家に戻ってきていた。実家に到着すると待ってましたとばかりに母親が
「メアリー、今日はどうだった。誰かいい人に声は掛けられた。伯爵以上でなければ駄目よ。分かってるんでしょうねぇ。でどうだったの」
と立て続けに尋ねてきた。私はいつも通り
「今日も駄目だったわ。そんなにいい話はないわ」
私はそう返答すると足早に自室に戻り湯あみを早々に済ませベッドに潜り込んだ。考えるのは今日の夜会のことばかり・・アワード様と付き合うことになったけど返事が早急ではなかったのかと後悔したり、もっと相手のことを知ってからの返答でもよかったのではないかと・・考えるのは交際についてのことばかり・・なんと言っても初めての交際になるのでどうしたらいいのかわからないのが本音だった。私はそう思いながら悩む日々を送っていたが数日経っても特にアワード様から連絡は入ることはなかった。当初は仕事が忙しいのだろうと思っていたがドラガル様とエリーゼは会っているみたいだったので、そのうちあの交際の申し込みはやはり揶揄われたんだと思うようになっていた。
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※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
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