上 下
63 / 63
■第7章: 雪上決戦!

【 第9話: さようなら、ミャー 】

しおりを挟む

 ニヤ国のみんなが協力して作ってくれた、この巨大な穴とこの仕掛け。
 このヒントは、俺がこの国にやってきた時に体験した『パラレルワールド』へのチューブ状の滑り台からだった。

 こうすれば、ニヤ国の人も、ヤーシブ国の人も、誰も傷付けず、殺さずに済むと考えたのだ。
 今日は幸いにも、昨夜降り積もった雪が、彼らたちの滑りをよりスムーズにさせてくれた。

 これが俺の考えた『全員の命を守るための作戦』だったんだ……。


「やったぁーーーーっ! 成功だぁーーーーっ!!」
「やったぞ、みんなーーーーっ!!」
「うおぉぉーーーーっ! やった、やったぁーーーーっ!!」
「ヤーシブを全員、穴に落としてやったぞぉーーーーっ!!」

「うおおおぉぉぉーーーーーーっ!!」

 ニヤ国の人々は、口々にこの作戦の成功を喜んだ。



 ――ただ一人を除いては……。



『ドサッ!』

 ミャーが突然、地面へと倒れてしまったのだ。

「ミャー!! 大丈夫か!!」

 『Mecchan Co』の魔法で、巨大な仕掛けのロープを全て解いたため、全身の力を使い切ってしまったようだ。
 俺は、急いで見張り台から降りると、身に纏っている鎧を脱ぎ捨て、ミャーの元へと駆け寄った。

「ミャー!! しっかりしろ!!」

 俺は、ミャーを抱きかかえる。
 ミャーは、疲れ切った表情を見せている。
 元気がなく、顔も少し血の気が足りない……。

「ミャー!! しっかりするんだ!!」
「タ、タロー……、ヤーシブたちは……」

「大丈夫だ! 全員、地下へと滑り落ちていった……」
「そ、そう……、良かった……」

「ミャー、しっかりするんだ! もう大丈夫だから……」
「タ、タロー……、ありがとう……」

 ミャーは、目に涙を溜めながら、力なく俺の腕でグッタリとしてしまった。
 そして、ミャーはゆっくりと目を閉じると、ガクッと頭を後ろへ倒し、右手がダラリと力を無くした……。

「ミャー……? おいっ、しっかりしろ……。ヤーシブはみんな穴に落ちたから……。ミャー……、目を覚ましてくれ……。お願いだ……。ミャー……、ミャーーーーーーッ!!」

 俺は、力を失ったミャーの体を力強く抱きしめた。
 ミャーの短い髪を右手に掴み、左手を背中へ回し、顔をミャーの頬に擦り付けて、人目をはばからず泣いた……。

 ミャーは、自分の全ての力を、この魔法に使ってしまったんだ……。
 ニヤ国の人々のために……。

「ミャーーーーーーーッ!!」


 一人も死なせないと約束したはずだったが、その約束を守ることができなかった……。
 俺にとって、一番必要な人、一番大切な人、一番約束を守らなければならなかった人を死なせてしまったことで、果てしない後悔と、ニヤ国の人たちへの申し訳ない気持ちで、俺の心は一杯だった。

 どうして、あの時、助けてあげられなかったのか……。

「ごめんよ……、ごめんよ……。ミャー……」

 俺は、ミャーを最後にもう一度強く抱きしめ、頬を擦り合うように押し当て、涙を流しながら何度も謝った……。
 こんなにも、ミャーのことを俺は、愛してしまっていたんだ……。

 さようなら、ミャー……。




 ……


『カプッ……』

 ……

『チュー、チュー、チュー……』


「んっ? カプッ……? チューチューチュー……?」

「タロー、おいしいにゃ~……♪」

「って、俺の血、また吸っちゃってんじゃーーーーんっ!!」

 ミャーは、俺の生き血で、見る見るうちに、顔色を良くしていった……。
 俺の生き血は、ミャーにとっての究極の栄養ドリンクのようだ……。


「タロー、復活したにゃ♪ ありがとにゃん♪」

 いつもの猫ニャンニャンの手と、かわいらしい八重歯を見せた笑顔で、そう無邪気に笑うミャーだった……。

 俺の涙を返せ……。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.12 花雨

作品登録しときますね(^^)

解除

あなたにおすすめの小説

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

愛を知ってしまった君は

梅雨の人
恋愛
愛妻家で有名な夫ノアが、夫婦の寝室で妻の親友カミラと交わっているのを目の当たりにした妻ルビー。 実家に戻ったルビーはノアに離縁を迫る。 離縁をどうにか回避したいノアは、ある誓約書にサインすることに。 妻を誰よりも愛している夫ノアと愛を教えてほしいという妻ルビー。 二人の行きつく先はーーーー。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

【完結済み】妹の婚約者に、恋をした

鈴蘭
恋愛
妹を溺愛する母親と、仕事ばかりしている父親。 刺繍やレース編みが好きなマーガレットは、両親にプレゼントしようとするが、何時も妹に横取りされてしまう。 可愛がって貰えず、愛情に飢えていたマーガレットは、気遣ってくれた妹の婚約者に恋をしてしまった。 無事完結しました。

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

悪役令嬢の残した毒が回る時

水月 潮
恋愛
その日、一人の公爵令嬢が処刑された。 処刑されたのはエレオノール・ブロワ公爵令嬢。 彼女はシモン王太子殿下の婚約者だ。 エレオノールの処刑後、様々なものが動き出す。 ※設定は緩いです。物語として見て下さい ※ストーリー上、処刑が出てくるので苦手な方は閲覧注意 (血飛沫や身体切断などの残虐な描写は一切なしです) ※ストーリーの矛盾点が発生するかもしれませんが、多めに見て下さい *HOTランキング4位(2021.9.13) 読んで下さった方ありがとうございます(*´ ˘ `*)♡

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。