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12.タンジェラの街の外壁で
しおりを挟む「良かった、こっちは雨が降っていなくて…」
タンジェラの街の門付近へ降り立つと、私は魔の森を振り返り眺める。
魔の森の上空には未だにどんよりとした雨雲が存在していて、魔の森では雨が今も降り続いているのだろう。
本来ならばここと同じで晴れていたはずなのに…。
「…非常に、申し訳ない気持ちになるわね」
魔の森にいるだろう人々にごめんなさい、悪気はまったくなかったのよ?と心の中で謝罪と弁明をしておく。
「…それにしても、見事に私達…びしょびしょね。汚れも目立つし…魔法で綺麗にしましょうか」
狼が入っているバスケットを地面に降ろすと、ぴょこりと周りの様子を伺う様に狼が顔を覗かせた。
キョロキョロと顔を動かして、バスケットの外を観察している。
控えめに言って、本当に可愛い…!
まぁ、その狼の姿も私同様、びしょびしょであった。
体毛は雨に濡れて全身、べったりとしているし、流れ出た血が固まっている所も。
___これは、一刻も早く魔法で綺麗さっぱり、もふもふにしてあげなければ…!
沸き上がる謎の使命感に駆られたエリーゼは、気合いを入れて魔法を発動すると狼の入ったバスケットごと、綺麗にしたのであった。
綺麗になった狼の黒い体毛は先程までの狼と同じだとは思えぬ程にふわっふわで、艶を帯びていた。
琥珀色の瞳と相まって尚良い。
こんな可愛い狼を目にする事が出来るなんて…!
生活魔法、ありがとう。ありがとう、ありがとう!!
狼の余りの可愛さにやられたエリーゼは、心の中で何度も何度も生活魔法への感謝を繰り返していたのであった。
今更ではあるが、魔法には生活魔法という種類が存在する。
その名の通り、日常生活に役立つ魔法がそれに分類され呼ばれているのだ。
…先程の様に衣服諸とも身体を清潔にしたり、飲み水を出せたり…と、その種類は様々。
生活魔法は、魔法研究所の生活魔法課という所で働いている方々が日々、生活魔法について研究していて、その成果は目覚ましいものがある。
たまに凄い失敗例が噂話として流れてくるけれど、死傷者が出ない限りは時には笑い話として話題になったり。
取り敢えず、大抵の冒険者はこの生活魔法を複数取得してから冒険者になる事が多いという事だ。…私もその中の一人だし。
狼を綺麗にして満足感に浸っていた私は、改めてびしょびしょで泥に汚れた己の服を見る。
思わず、酷い格好だわ…とどこか他人事の様に苦笑いをこぼしながら自分自身にも生活魔法を掛ける。
淡い光に自身が包まれたと思った時には、びしょびしょだった茶色の髪の毛や衣服がすでに乾いていて、泥などの汚れも綺麗に消え去っていた。うん、完璧ね!
…ちなみにジルはというと、属性が炎だからか全く濡れておらず、毛並みは普段通り美しいままだ。
少し付いていた泥の汚れも、炎を身に纏いぶるり、と身体を震わせると汚れも綺麗さっぱり。
皆綺麗になった所で、私はずっと気になっていた疑問を小さな黒い狼へと問い掛ける。
「…ねぇ、狼さん。魔物ではないあなたは…一体何なのかしら?」
すっきりした!とばかりに毛繕いをしていた狼の動きがピタリ、と止まる。
そして私を見た狼のその表情は、どこか迷い困っている様に見えた。
けれども直ぐに何かを伝える様にジルへと一鳴きすると、ジルが頷き口を開く。
『…エリーゼ様、まだ魔力が回復していないので少し結界を張って欲しい、との事です』
「結界を…?えぇ、構わないわ」
疑問に思いながらも言われた通り、私達を覆う程の結界を発動する。
すると、ぽふんと軽い音が狼の方から聞こえ、目を向けるがそこにはすでに狼の姿はなく、
___肩ほどまでの黒い髪に琥珀色の瞳を持った…私の肩ぐらいの身長の美少年、がそこにいたのである。
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