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29章 エピローグ・私の卒業式
97話 【エピローグ・2】 挙式だよ! 全員集合!?
しおりを挟む「なんか、最後までバタバタして悪かったな」
「ううん。楽しかったです。これまでの分が一気に押し寄せてきたって思えちゃって」
挙式を行うのは沖縄だけど、事前の打ち合わせは両親や千佳ちゃんと一緒に東京のサロンで行なう。
でも、沖縄の水谷さんからサロンのスタッフさんにコメントが来ていたんだって。
『原田結花さんに、あの衣装を当時のまま確保してあります』って。あと当時のお化粧やヘアメイクの履歴も残っていると。
サロンで何度かドレスの試着をしてみたけど、結局はやっぱり本番も「リハーサル」どおりにやろうと決めた。
あのドレスはもう最新モデルではなくて、東京のサロンには置いてなかった。
でも、そこまで現地のスタッフが推す一着とは……と不思議がったので、当時頂いていた写真をみんなで見たら、東京のスタッフさんだけじゃなく、一緒に見てくれた誰もが揃って「間違いない!」だった。しかも水谷はさんは私のためにずっと8ヶ月間も予約状態にしていたというから、「あの後に誰も着ていない」って。迷う理由はなかったよ。
メイクやヘアスタイルもあの日と同じにとお願いしたよ。そのお返事は「同じメンバーで担当します!」だったの。
新郎の衣装も自動的に同じものが用意されたんだよ。
「あの佐伯が大泣きしてたじゃないか」
「うん、ちぃちゃんに言ったの。夏休み頃には落ちつくから、遊びに来てねって」
今日は私の19歳の誕生日。陽人さんと二人で夕焼けの浜辺に座っていた。
明日には沖縄を発ち、そのまま成田空港経由でニューヨークに向かう。
私のパスポートも新しい名前に変わった。
二人だけ、いや千佳ちゃんだけのはずが、入籍の日にユーフォリアに集まってくれたみんなが再び大集合してくれた。それを水谷さんもチャペルの扉を開けるまで秘密にしていたなんて……!
全く予想していなかった光景に、あの「リハーサル」の時は何とか堪えた涙が、本番では止まらなくなってしまった。
「これから始めますけれど、流れはお嬢さんがご存じです」
「えっ?」
計画に気づいたのは開式の直前。
水谷さんの声に振り返ると、私のお父さんがモーニングスーツを着ていたんだ。
「お父さん……!?」
「あれだけいろいろあったんだ。当日にサプライズがあってもいいだろう?」
その場で説明がされて、陽人さんが先にひとりで祭壇の前まで進み、私がお父さんと二人でバージンロードを歩くという形に変えられた。
「結花、きれいになったな」
真っ赤な絨毯の上を二人で歩いているとき、お父さんがボソリと呟いた。
「突然現れてそんなこと言わないでよ。朝から泣かないように必死なんだもん……」
祭壇の前まで進んだとき、お父さんが陽人さんにこう言ったのを私は聞き逃さなかった。
「結花を……。娘をよろしく頼む」
もう駄目。その一言で涙が止まらなくなってしまって、まばたきをして必死に堪える。
ヴェールを上げたときに、陽人さんがそっとハンカチで拭いてくれた。
私の挙式打ち合わせの裏で、この計画を極秘で進めた千佳ちゃん。
それは、あの日のユーフォリアで私たちを送り出した後の「先生だけが結花の花嫁姿を独り占めするなんてずるい!」というコメントがきっかけだって。
千佳ちゃんが現地に行くことを宣言。その言葉でみんなもスケジュールを調整したって。
私の両親も含めてその計画は極秘扱いだったらしい。実の親子なのに……。
飛行機も宿泊場所もみんな別々に手配して、いきなり会場でご対面なんて。千佳ちゃんの結婚式の時は、私からもドッキリを仕掛けてもいいかと思ってしまったくらい。
でも、先生も言っていたとおり、千佳ちゃんが一番ぼろぼろに泣いていたんだ……。
そう、忘れちゃいけない。
陽人さんのご両親も出席してくれたこと。
あまり長い時間お話しすることはできなかったけれど、あの小室楓さんの写真を預かってきたのだと見せてくれた。
確かに雰囲気が私とよく似ている。控え室で手を合わせさせてもらい、陽人さんに生涯尽くすことを約束した。
「陽人、もう次はないからね。楓さんの分も結花さんを幸せにしてあげるのよ」
陽人さんのお義母さんとは引越しの荷づくりの時に何度もお会いして、楓さんとの一件も詳しく聞いていた。
挙式が終わった後のチャペル前、二人だけの予定だった写真には、みんな笑顔で同じ画面に収まっている。
でも何も知らない私たちは引き出物も用意してなかったから、その写真を焼き増しして飾り台紙に入れて、みんなへのお土産にさせて貰った。
新居の方から改めてお礼のお手紙を書いて送ろうと陽人さんも笑ってくれた。
「結花は手紙書くの苦にならないだろ? あれだけの名文を書けるんだから」
「あ、あれはですね……。もぉ、病室で泣きながら書いたんですからぁ!」
「あの手紙を超えるのは、後にも先にももらったことはないなぁ」
陽人さんはそんな私の頭を笑いながら撫でてくれた。
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