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28章 先生を好きでよかった

93話 もう、寂しさでは泣きません

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 年明けの1月1日、私は陽人さんに空港まで送ってもらった。

 日本のように同じようなお正月番組が何日間も続く習慣とは違って、アメリカでは新年のお祝いをしたあとは、翌日からすぐに通常の生活に戻ってしまう。

 だから、陽人さんがクリスマス休暇を取っていられるのはこの日までだったから。

 いくら私がいると言っても、まだ正式には婚約者でしかない。家族の都合という理由にはできないよ。

 名残惜しかったけれど、私も帰りの便を最初からこの日に設定していた。

「あと3か月、また離れちゃうけど頑張ろうな」

「はい。もう、私は陽人さんのものなんですから、頑張れます」

「こいつは……。短い期間でバタバタと疲れただろう」

「初日から大丈夫ですよ。陽人さん優しかったですから、毎晩抱っこで休ませてもらいました」

「あの放課後の廊下で一目惚れしてからだからなぁ、何年我慢したと思ってるんだ?」

「それは……、みんなには禁句ですからね?」



 ニューヨークで過ごした12日間、私たちは寂しかった3ヶ月を取り戻すように過ごしてきた。

 どこへ行くにも一緒。スーパーへのお買い物に連れてきてもらって、大きなカートに驚いたり、晴れた日には近所をお散歩したり。お天気が悪くても、キッチンやお部屋の使い方を教わって。夜は同じベッドで温もりを感じながら寝られた。

 そんな時間の中でも、私の進路を真面目に話し合って、必ず春に迎えに行くと約束してくれた。

 もうそれで大丈夫。またちょっとだけ寂しい時間になるけど、もう必要以上に心配したり、不安になって泣くこともない。

 今日も左手の薬指につけている指輪が私のお守りになってくれているのだから。

「もう職場の方には結婚の話もしてある。少しずつ引越しの用意しておいてくれよな? まぁ……釈迦に説法ってのはこのことか……」

「はいっ。それまでの期間、少し英会話を習おうと思っています」

 陽人さんがお仕事の時間、私は一人でお家にいることになる。お買い物や通院もあるから、日常会話くらいはできるようにしておきたいと思った。

 ユーフォリアのお仕事を終えてからでも、今は夜間のオンライン講座もある。日本が夜なら陽人さんはお仕事中の昼間だからちょうどいい。

「そうだ、結花に頼みがある」

「なんでしょう? 私のほうがいいんですか?」

「ああ、結花のほうが絶対に話が早いと思う」

 突然少し真顔になって、陽人さんは私に折り畳んであったメールのプリントを渡してくれた。

「これを進めておいてくれないか?」 

 メールの内容を読んで、陽人さんの顔を見た。

「これ、みんな知っているんですか?」

「あぁ、約束したろ。で挙げるって。ただ、本当は入籍と同じ日にしたかったんだが、滞在査証ビザの取得手続きの関係で俺たちはもう少し早く夫婦になっておく必要があってな。そっちの手続きと段取りはこのあとで色々と説明する」

 書かれているのは、挙式予約のやり取り。

 予約の日付は3月25日、場所はあの沖縄の教会だ。メールの相手はお世話になった水谷さんになっている。

「まぁ、あの時のモデルプランで構わないと思うが、細かい打ち合わせをしてくれるか?」

「分かりました。私ふうの可愛い式にしておきます」

「頼むぞ」

「はい、陽人さんもちゃんと食べてくださいね。春からは私が作りますから」

「ほんと、3ヶ月ぶりの結花の手料理は美味かったなぁ。またしばらくお預けか」

「レシピ送りましょうか?」

「この俺にあの味を作れると思うか?」

 うーん、きっと無理かな。材料が無駄になっちゃう。

「分かりました。ほんの少しの我慢です。私もこちらで手に入る食材で作れる練習しておきます」

 アナウンスが流れて、搭乗手続きが始まったと伝えてきた。

「結花……。楽しい時間をありがとう。もう少し頑張ろうな」

「はい。私もです。では……『行ってきます!』」


 そう、これから私の居場所は陽人さんの隣。

 少し気が早いかもしれないけれど、今度から「行ってきます」が普通になるんだ。

「体に気をつけてな。『行ってこい』」

「うん……」

 笑った陽人さんと名残惜しく唇を交わして、私は一度帰国の途についた。
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