上 下
4 / 98
1章 高校を中退した私…

4話 元気になったら会える…よ

しおりを挟む



 あの日の騒ぎは完全に伏せられて、連休が終わった週の水曜日。

 最後の手続きだと、私と両親の三人で放課後の学校に出向いた。

 校長室に全員が揃い、休学ではなく退学を申し出た。

 みんな裏では分かっていたけれど、学校内でのトラブルが原因ではなく、あくまで私の体調回復のためと強調したことで、担任の先生がホッとした顔になったのを見てしまった……。

 もしあの事件がなくても、遅かれ早かれ同じ手続きをしていただろうとその時に思ったよ。



「結花、置いてある荷物を持ってきなさい」

 手続きの間、一人で放課後の教室に向かう。

 体育のジャージはあまり着られなかったなと思いながら、ロッカーと机の中の荷物を取り出す。

 もともと、置いておくと隠されたり無くなることも少なからずあったから、私物はほとんど置いていない。

 まだ新学期で、それほど多くの荷物がなかったロッカーは、持ち帰る用意というより学年末の掃除に近かった。



 教室の中には誰もいない。授業が終わって塾に向かった子、部活に行った子もいたと思う。

 ひとりぼっちの教室。それでも今の私にはその状況の方がありがたかった。

「結花……」

「えっ……?」

 小さな声の方に振り向くと、一人の同級生の女の子が教室のドアの所から中をのぞき込んでいた。

「大丈夫、中に誰もいないよ」

 彼女は窓辺にいた私の隣に並んだ。

「ちぃちゃん、ごめんね……」

「ううん。あたし、何も出来なかった。せっかく高校までずっと一緒に来られたって喜んだのにね」

 佐伯さえき千佳ちかちゃんは小学校の6年生からずっと一緒だった。

 クラスメイト、友達……、ううん、二人三脚を組んでくれた……、私の唯一の親友。

 私の手術のあとの療養期間、他のクラスメイトたちが病室に来なくなっても、彼女だけは時間を見つけて顔を出してくれた数少ない存在だった。

 こんな時間に教室にいて、作業をしていた私の事情はすでに分かっているみたいだった。

「結花……」

「ちょっと、骨休めしてくるよ」

「うん……。落ち着いたら連絡ちょうだい。引っ越しはしないんでしょ?」

「そうだねぇ。今のところ予定ないよ。中卒の私でよければ、受験の息抜きにでもおいでよ。頭悪くても愚痴ぐらいは聞けるから。でも、ちぃちゃんを一番に考えるんだよ」

「ごめん……なさい……。結局あたし、結花を守れなかった……」

 千佳ちゃんが涙をこらえているのが分かる。

「ううん、いいんだよ。私にも休憩が必要なんだってことなんだから」

 お互いに分かっている。こうやって二人でいるだけで、噂の火の粉が彼女にも降りかかってしまったことも一度や二度じゃない。

 話し相手がいなくなって寂しくなるのは仕方ない。でも私の存在で彼女の人生まで棒に振ることはないのだから。

「じゃぁ、またね……」

「結花……、また会えるよね? 約束だよ?」

「もちろん。私も、落ち着いたら話せるようになると思うから」

「ねぇ、お願い結花。必ず会えるってここで約束して?」

「うん……。わかった……約束するよ」

 先日したばかりの指切りを彼女とも交わし、一緒に昇降口まで来てくれた親友を見送る。

 最後に下駄箱に入っていた上履きを取り出して、「原田」と書かれた名前シールを剥がすと、全ての作業が終わった。


 来客用の出入口で両親が待っていてくれた。

「忘れ物はない?」

「うん、大丈夫」

「それではお世話になりました」

 高校3年生になってすぐ、5月の夕方。

 私の高校生活は、こんな感じでひっそりと幕を下ろしたんだよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

くろぼし少年スポーツ団

紅葉
ライト文芸
甲子園で選抜高校野球を観戦した幸太は、自分も野球を始めることを決意する。勉強もスポーツも平凡な幸太は、甲子園を夢に見、かつて全国制覇を成したことで有名な地域の少年野球クラブに入る、幸太のチームメイトは親も子も個性的で……。

隔ての空

宮塚恵一
ライト文芸
突如として空に現れた謎の円。 それは世界中のどこからでも見ることのできる不思議な円で、この世界にはあの円を見える人間とそうでない人間がいて、見える人間はひどく少ない。 僕もまたあの円が見える数少ない一人だった。

秘密部 〜人々のひみつ〜

ベアりんぐ
ライト文芸
ただひたすらに過ぎてゆく日常の中で、ある出会いが、ある言葉が、いままで見てきた世界を、変えることがある。ある日一つのミスから生まれた出会いから、変な部活動に入ることになり?………ただ漠然と生きていた高校生、相葉真也の「普通」の日常が変わっていく!!非日常系日常物語、開幕です。 01

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

東美晴の怪奇録 第一巻 運命の出会い編

箱天天音/hakoten amane
ライト文芸
この物語は、東美晴(あずまみはる)という主人公が琥珀川天流(こはくがわてんりゅう)という陰陽師に出会い、人ならざる者が引き起こす様々な怪異を解決するという物語です。 初めての作品ですが、少しでも皆さんに「面白い」「感動した」などという声が聞こえるように頑張りますのでどうか、感想や意見などをお聞かせください。 そして、まだまだ小説を書くのは素人なので、温かい目で読んでいただければ幸いです。どうかよろしくお願いします。 あと、京都弁は正しく無いと思いますのでご注意ください。

処理中です...