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【第2章】その涙と笑顔が嬉しくて…
31話 父娘だけしか知らないあの瞬間
しおりを挟む「なんか、疲れたな」
「あんなに人数が来るのは予定外でしたか?」
「マジで。もともと二人きりの予定だったんだからさ? まぁ、商店街のみんなにああ言われちゃ来るしかなかったんだろうけど」
一度部屋に戻って、本当は街を歩こうかと思っていたけれど、緊張疲れで足が立たなくてね。お互い笑ってしまって。
だから、私から提案して二人で約束したの。
「次はお店をお休みにしてまた来ましょう」って。
「ようやく本来の姿に戻りましたね」
「みんな、桜の見た目に驚いてたよな」
体型もほとんど変わらず、まだ高校生と言っても十分通用するらしい。
そもそも私には女子大生ってイメージはなかったかもね。
それを分かっていて私に合うようにドレスを作ってくれた佐紀。これを本当にオーダーで頼んだら大変だよ。
それをデザイン料は無し、材料費はモデル料と出世払い(事実上チャラだって……)にする代わり、私の写真と一緒に課題作品として提出して、戻ってきたら渡してくれることになった。
「桜のドレスをあたしが持っていても意味ないじゃん!」だって。
思い出してみると、美術の時間によく私をモデルにデッサンしていたから、体型はバレバレだったし、最新のサイズを測ればよかったんだろうね……。
「秀一さん……。まだ私、夢を見ているみたいです」
「ん?」
「私、夢が叶いました。あんなに素敵な式をしてもらえるなんて……。お金と準備、大変だったでしょう?」
「まだそんなことを気にして。ドレスも作ってもらったし。綺麗な花嫁姿だったぞ」
「それが一番嬉しい言葉です」
茜色の空が暗くなり、主役を星たちに譲ってゆく。今日も素敵な星空が見えそう……。
メイキングルームからのお父さんの言葉がまだ頭の中に残っている。
もちろん撮ってもらった写真はあとで両方のお家には届けるつもりだったし、それまでにどう報告しようかとメイクをされながら考えていたりもした。
それを実際に、しかも私の腕を取ってバージンロードを一緒に歩くことが出来たんだ。
「立っていて大丈夫?」
「うちは一人娘だ。一生に一回しかないんだから。男親はズルいと母さんが羨ましがってた」
「そっか……」
チャペルの扉の前に私と並んでお父さんは笑っていた。
「秀一くんじゃなけりゃ、何歳になっても桜を渡すのは迷っただろうな」
「それって、私の結婚相手は小さい頃から決まっていたってこと?」
「いや、それは親同士の勝手な妄想だ。昔の許婚じゃあるまいし、最終的には本人たちの意志だ……。それでも、桜が18歳で結婚するというのは、父さんも母さんも迷ったよ。ただ、相手が秀一くんならそれもありだと。岩雄先輩も相手が桜ならと快諾してくれた」
「うん……」
「それに、桜には昔から我慢をさせてしまった。もし一度あそこを引き上げても桜が秀一くんの元に戻ると決めていると知れば、『まだ高校生だから』と無理やり引き離す時間を作る必要はないと。先輩も桜のことを任せろと言ってくれたし。それなら自分たちは見守ることにしたんだ」
もぉ、ウェディングドレスを着て、これからバージンロードを一緒に歩く娘への最後のネタばらしだなんて……。
「桜……」
「うん……?」
「一人娘を嫁がせるんだからな、あとで秀一くんには言うつもりだが……」
「秀一さんはずっと私を守ってくれた。これまで3年間のクレームは無しだよ?」
「そんなことはないさ。桜……、秀一くんと幸せになるんだぞ。これが父さんと母さんの一番の願いだ」
「バカ、もう泣かせる気だったんでしょう……」
分かっていた。そのときお父さんも目が真っ赤だったこと。
その言葉が『桜を頼む』だったんだよね。
全てが終わって改めて思うの。私の旦那様が、お隣のお兄ちゃん……。秀一さんでよかったよ。
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