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第五章

反撃の刃

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この空気はよくないと依舞稀は直感的にそう感じた。

このまま一方的に八神に語られたら、よくない事が起こりそうな予感がする。

そう思った依舞稀は、「もしかしたら八神さんが私のことを遥翔さんに伝えてくれたおかげで、今があるのかもしれないですね。ありがとうございます」と権勢を含ませるようにそう言った。

普通であればここで引くべきなのだろうが、そうもいかないのが今の八神である。

「結婚なさってからのお二人の私生活はわかりかねますが、それ以外の依舞稀さんのことに関しては、もしかすると副社長よりも私の方が詳しいかもしれません。それほどまでに私は依舞稀さんを見つめていましたから」

『見ていた』ではなく『見つめていた』という言葉を使うところが策略家の八神らしい。

空気と心情を読むことに長けている依舞稀は、この先八神が何を言わんとしているのかが瞬時にわかった。

「八神さん……。この先は言わなければいけませんか?」

できることならば言ってほしくはない。

しかし人が心の内を吐露するのを止める権利を自分は持っていない。

「言わせていただけませんか?」

「……わかりました」

八神らしくない押しに戸惑いはしたが、八神なりに何か考えがあるのかもしれないと感じた依舞稀は、真摯に八神の言葉を聞くことにした。

「その表情を見るに、僕が言いたいことがわかっているようですね」

「残念ながら……」

苦笑する八神に、依舞稀も苦笑で返してみせた。
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