上 下
126 / 232
第三章

手駒の足音

しおりを挟む
結果として上手くいかない原因の矛先は、全て依舞稀に向けられることになってしまったのだ。

今の現状は誰のせいでもないということを、彩葉一人が受け入れられない。

彩葉の頭の中にあるものは、依舞稀を陥れるということだけだ。

他のことに費やせばいいのに、その執念は依舞稀の過去を知るという実りを見せた。

両親を一度に亡くした借金まみれの女。

お金に目がくらみ、副社長夫人という座を手に入た女。

彩葉は依舞稀を打算的で卑しい女と位置付けたのだ。

とはいえ、彩葉自身も取り返しがつかないほどのバカではない。

今さら自分の力で依舞稀と遥翔を離婚させることも、遥翔の気持ちを自分に向けさせることもできないということくらいは理解している。

目的はただ一つ。

依舞稀を追い詰めることにあった。

そしてそのキーとなる手駒を、彩葉は何とか見つける事ができたのだ。

あとはその手駒が依舞稀をかく乱してくれることだろう。

大した期待をしているわけではない。

手駒が自分の思う通りに動き、結果的に自分が優越感に浸れれば、それでこの間のことはなかったことにしてやろう。

随分と上から目線の自己完結だ。

それによって自分にもたらされるものは何もないだろうか、少しは気が晴れるというものだ。

彩葉は僅かな楽しみのために、ここまで足を延ばして依舞稀の全てを探ったわけだ。

やはり、かなりの馬鹿といえるのではないだろうか。

それに気付かない彩葉は、自分なりに有意義な休日を過ごし、いつもよりにこやかにフロントに立った……。
しおりを挟む

処理中です...