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第二章

嫉妬と好奇

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依舞稀の身の回りに変化が起きたのは、正式発表した翌日からだった。

全く何事もないままで過ごせるなどと、甘い考えを持っているわけではなかったが、それでも何事もないことを願ってはいた。

しかし副社長と結婚するという特別なことをしてしまうと、やはり周りは放ってはおかないのだろう。

初めは『お客様がお待ちです』という受付からの内線を貰い、ロビーに下りても誰もいなかった、ということが起きた。

次は依舞稀が資料室で調べ物をしているときに、外側から鍵を掛けられてしまった。

そんなに長い時間ではなかったが、実質2時間ほどロスする羽目になった。

支給されている社用携帯が紛失することもあった。

幸いなことにサイレントにはなっていなかったため、コール音からリネン室で見つかったのだが。

おかげで折り返しの電話や謝罪で残業する羽目になり、遥翔を心配させてしまった。

挙句は大事な会議の時間を30分遅れて知らされるなど、嫌がらせの王道オンパレードであった。

「ほんっとに勘弁してほしい……」

毎日のハプニングに、さすがの依舞稀のメンタルもボロボロになりつつあった。

「副社長に話してみたら?」

「何とかしてくれるかもしれないよ?」

「個人の企画だと、私達も関与できないから、フォローできないこと多いですもんね」

心配した三人は依舞稀にそう言ってくれるけれど、依舞稀は遥翔に何一つ話してはいなかったし、離すつもりもなかった。

依舞稀の疲労を感じていた遥翔は依舞稀を問いただしてみるのだが、依舞稀は一貫して「大丈夫」を貫いている。

これは自分の仕事に関するプライドと、女としての意地でもあった。
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