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第二章

嫉妬と好奇

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通常の依舞稀は寝相もよく、ベッドで暴れるなんてことがなかったものだから、ベッドの下であぐらをかいて痣を確認している遥翔から証拠を見せられるまで、自分のしたことが信じられなかった。

「きっと、よっぽど寝苦しかったんだと思います。やっぱり今日からは別々に……」

「却下だ」

別々に寝た方がいいのではないか、という依舞稀の提案は、最後まで聞いてもらうことなく棄却されてしまった。

「どんなことがあっても夫婦は一緒に寝るって言っただろ。親父たちが帰ってくる頃には、堂々と恋愛結婚だと言えるように、スキンシップは必須だからな」

「度が過ぎると……」

「夫婦のスキンシップに度が過ぎるということはない。全てが愛情表現なわけだからな」

「……はぁ……」

遥翔に何を言っても無駄なのだ。

依舞稀はそれを悟ることができた。

自分達が触れ合う一つ一つが愛情表現に繋がるということが、さっきまでの憂鬱を不思議と吹き飛ばしてくれた。

感情が追い付かないまま、どんどん遥翔のペースにのまれていき、それを自然に受け入れてしまっている自分に戸惑いを覚える。

依舞稀自身も遥翔同様、この夫婦生活を受け入れ、遅ればせながら遥翔との恋愛に対して前向きになっているようだ。

「これから、公私共に俺の妻だ。ホテルでの正式発表が楽しみで仕方ないな」

遥翔は機嫌よくそう言ったが、依舞稀はホテルが近づくにつれて気が重くなっていく。

副社長と経験も浅い平社員。

このカップルが周りに認めてもらえるものだろうか。

依舞稀の心配はこの一点だけだった。
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