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episode 1
入籍は突然に
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どうしてその笑顔を吉崎様に見せてあげられないのだろう。
そんなことが頭を過ったが、余計なことは考えまいと頭を切り替えて、私は蒼空に笑顔を向けた。
「とっても良くお似合いですよ。あ、でも裾の長さが足りないようですね」
「そうなんです。足が長くて驚きました。5センチほど裾を伸ばしておきます」
スコア票に書き込みながら、縫製係の男性が蒼空の足をまじまじと眺めた。
うちの式場は基本的に長めの裾で管理している。
色斑になるのを避けるためと、折じわになるのを防ぐためだ。
大抵の新郎様は裾を詰めて差し上げるのだが、蒼空は出さなきゃいけないのか。
スタイル良すぎだろ……。
軽く引き攣った私の手を、蒼空はあろうことか自分の腕に巻きつけようとした。
「なにしてんのっ……ですか」
慌てて手を引っ込めたけれど、蒼空は不服そうに形のいい唇を尖らせた。
この表情を見るのは何度目だろうか。
「なにって、イメトレだよ。隣に由華ちゃんがいるって、どんな感じなのかなと思って」
蒼空はそっと私の隣に立つと、今度は腕を取らずに遠目に鏡を見つめて目を細めた。
「もうそろそろ新婦様も出てらっしゃいますよ?二人のお姿、スマホで撮りましょうか」
私なりに、この会話が聞こえているであろう吉崎様の心情も考えての発言だったのだが。
蒼空は私を見つめる瞳を揺らすと、「それは今度でいいや」と縫製係の所に戻っていった。
そんなことが頭を過ったが、余計なことは考えまいと頭を切り替えて、私は蒼空に笑顔を向けた。
「とっても良くお似合いですよ。あ、でも裾の長さが足りないようですね」
「そうなんです。足が長くて驚きました。5センチほど裾を伸ばしておきます」
スコア票に書き込みながら、縫製係の男性が蒼空の足をまじまじと眺めた。
うちの式場は基本的に長めの裾で管理している。
色斑になるのを避けるためと、折じわになるのを防ぐためだ。
大抵の新郎様は裾を詰めて差し上げるのだが、蒼空は出さなきゃいけないのか。
スタイル良すぎだろ……。
軽く引き攣った私の手を、蒼空はあろうことか自分の腕に巻きつけようとした。
「なにしてんのっ……ですか」
慌てて手を引っ込めたけれど、蒼空は不服そうに形のいい唇を尖らせた。
この表情を見るのは何度目だろうか。
「なにって、イメトレだよ。隣に由華ちゃんがいるって、どんな感じなのかなと思って」
蒼空はそっと私の隣に立つと、今度は腕を取らずに遠目に鏡を見つめて目を細めた。
「もうそろそろ新婦様も出てらっしゃいますよ?二人のお姿、スマホで撮りましょうか」
私なりに、この会話が聞こえているであろう吉崎様の心情も考えての発言だったのだが。
蒼空は私を見つめる瞳を揺らすと、「それは今度でいいや」と縫製係の所に戻っていった。
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