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47.乙女の嗜み②
しおりを挟む衣装部屋は3階にあるので、玄関までの道のりがやや遠い。裾はそんなに長くないドレスだけれど……履き慣れない高めのヒールだと歩きづらい。
「……遅い!出発時間の10分前だぞ」
2階に到達した時に下から怒りながらやってきたのは、修斗くんだ。自分は普段ギリギリの時間にしか行動しないのに、偉そうだ!よしっ。言い返してやるぞ。
「修斗くんだってーー」
「見てわからないの?歩きづらいのよ。そもそもレディーがドレスを着て階段を降りているのに、手も差し出さないなんて……。一条家の使用人としてどうなのかしら。紳士的じゃないわね、だからすぐ振られるのよ」
私が言葉を発するより早く、お姉ちゃんが淡々と言葉を述べ始めた。……言ってることは最もだけど、最後の一言はトドメの一撃のように感じられた。
「う、うるせぇ!」
ちょっと前、修斗くんがまた女の子に振られたと言う噂を育から聞いた。その時は嘘だと思った。使用人とは言え仕える先はこの国随一の名家、加えて顔は私が人生で出会った中で1番良い。あぁ、性格に問題ありなのか。私には良いお兄ちゃんみたいだけど、お姉ちゃんと言い争ってる姿を見ると口は悪いし態度もデカいーー彼氏にするにはちょっと……。
「おい!柚子、お前なんか失礼なこと考えてないだろうな?」
お姉ちゃんにそれ以上言い返せなくなったらしく、イライラの矛先は私に向かったらしい。
「そう言うとこがモテないんだと思うなぁ」
「なんだとっ!」
「ちょっと!柚子に当たらないでよ」
3人で玄関までの道のりを、ギャイギャイ言いながら歩く。……王家の観劇の会にこれから行くのに、こんな騒がしくていいのだろうか。
「大体、お前は可愛げがねぇんだよ!人にモテないとか言ってる場合か!いい加減相手を探せ!」
「お生憎様。私は生涯この一条家にメイドとして仕えると決めているのよ。つまり、私の相手はこの一条の屋敷そのものだわ」
お姉ちゃんと修斗くんの争いがピークに達しつつある時、玄関ホールが見えてきた。みんな普段とは違う、少し格式の高いスーツを着用している。
「柚子ちゃん。……どーぞ」
一瞬目が合ったなぁと思ったら、彼が走ってやってきた。目の前に手を差し出されて、その姿にドキッとした。
「あ、ありがとう」
柄にもなく声が上擦ってしまう。ストライプの柄が上品なスーツにボルドーのネクタイ、普段と違う姿だーー目に焼き付けたいと思いつつ直視も出来ない。
ドレスを着た時は、品よく静かに。他人を見つめている暇があるなら、己の姿勢を正し清くいること。メイド学校で習った、家を代表して行事に出席する時のメイドの心得だ。
今はそんな心得とは違う気持ちで、彼を見られていない。隣にいるだけで緊張する。
階段を降り切って、玄関前に横付けされた車に乗り込む。私と光くんは、1番後ろの席に乗せられた。
「大丈夫?キツくあらへん?」
「うん!大丈夫だよ。光くんは?」
「俺は大丈夫!」
車が王宮に向かう。似合うかな?どうかな?何度もそれを口に出そうとしてやめた。ドレスが似合うかどうか尋ねられるまで口にしてはいけない。ーーそれは、お母さんから教わった乙女の嗜み。
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