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11.心配
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6月も半ば、修行先だった五十嵐家で働く執事兼友達のつづから手紙が届いた。五十嵐家は他の大陸との貿易拠点になってることもあって、王国内外の情報が飛び交っている。
お姉ちゃんはこの件を知っているのだろうか……、一条のお屋敷でこんな話は聞いたことがない。もし誰もこの話を知らなければ、私が言い出したところで大騒ぎになるだろう。お姉ちゃんと修斗くんは心配症だし、育と門番さんは口うるさいから誰かに言うだろうし、立花さんも大雅くんとかに言いつけるだろうし、大雅くんは調査とかして大事になりそうだ。この屋敷で相談できるのは、光くんか深雪さんの2択になった。
いつも通り掃除をしつつ、光くんか深雪さんを探す。幸か不幸か、今日の掃除場所は1階の廊下だ。深雪さんの部屋は1階にあるし、会えればラッキーなんだけど……。
「キョロキョロして、何企んでるの?また何か割ったの?」
「うぎゃぁ!!……ちょっと育!びっくりするじゃん」
音もなく後ろから忍び寄ってくるのは辞めてほしい……。育かぁ、タイミング悪いなぁ。
「柚子が不審だからでしょ?」
「何も割ってないし、何も企んでないっ!」
「ふーん……。じゃあ誰か探してるの?」
これは……チャンスか?育が深雪さんの居場所を知っていれば、絶対に会える。深雪さんは何の仕事をしているのか、サボっているのか神出鬼没だ。朝帰りもするし、夜に出かけたりもする。
「……深雪さん、今日どこにいる?」
「深雪さん?……珍しいね。」
やばいっ!育に不審に思われたか、確かに私と深雪さんは普段から接点がない。ちゃんと話したことはあっただろうか。
「ほら、柚子あんまりちゃんと話したことないから!仲良くなりたいなーと思って」
半分は本心!育はこれで育を騙せたかな。少し考えている様子だ。
「……深雪さんなら、さっきご当主様の部屋に行った。あの様子ならそのうち部屋に戻るんじゃない?」
「そっか!ありがとう。お話してみるね」
これ以上は育に詮索されたくなくて掃除を再開する。深雪さん早く戻ってこないかなぁ。
深雪さんの部屋はお風呂の横だ。廊下の掃除を終えて、洗面所の掃除をしながら待ち構える。
……全然来ないじゃないか。廊下を再度キョロキョロしてみる。キッチンの方からお姉ちゃんとたぶん深雪さんの声がした。少しすると、ハーブティーと何やら美味しそうなスコーンを載せたお盆を持つ深雪さんが現れた。お姉ちゃん、柚子にはスコーンくれないのかな……って違う!今日の目的は深雪さんだ!
「みーゆーきーさーん」
「うわっ!びっくりした……。柚子ちゃんも足音立てないタイプ?」
洗面所から飛び出してきた私に驚いたのか、深雪さんは2、3歩後退りしていた。
「メイドだからね!柚子だって静かに歩けるよ」
「そっか……。立派だねぇ。俺に用事?」
立派かぁ、この屋敷でここまでストレートに褒めてくれる人は他にない。笑顔でこちらを見ている……いい人だ!
「そう!深雪さんに聞きたいことがあって」
内緒の話なのと付け加えて、私は深雪さんと洗面所に入って扉を閉めた。
「どうしたの?……俺にわざわざってことは、お姉ちゃんに話しづらいことかな?」
笑顔のまま視線をこちらに向けられる。初めて顔をよく見た気がする……引き込まれそうな真っ黒な瞳の持ち主だ。
「……あ、えっと。あの、柚子狙われてるの?」
少しの沈黙の後、なんて話したら良いのか分からずに頭が真っ白になって、脈絡のない問いかけをしてしまった。深雪さんは少し困った笑顔だったけど、王都で貴族のメイドが誘拐される事件があったと知ったことを何とか伝える。
「なるほどねぇ。……どうして俺にそれを?」
「他の人に言うと大事にされるから。あっ、もしかして深雪さんも騒ぎ立てる系?……だったらこの話は聞かなかったことにして!」
騒ぎにされると困る……と判断した私は深雪さんの出方を伺う。少し驚いていたけど、すぐにいつもの笑顔で返された。
「なるほどね、事情はわかったよ。……誰にも言わない。それとその件は柚子ちゃんが心配するようなことじゃないから、大丈夫だよ」
そう言って持っていたお盆からスコーンを1個取り出した。
「ほら、美味しいスコーン貰ったよ?1つあげる」
確かに美味しそうだ!って、え?待って、深雪さん私の質問に答えたか?あれ?……スコーンに気を取られている間に居なくなっている。
なんか適当に遇らわれた気がする。やっぱり光くんに相談だ!と彼を探す。
「柚子、ちょうど良かった。10時のおやつにスコーン焼いたから手が空いた時に食べてね」
キッチンに近づくとお姉ちゃんが出て来た。……光くんを探すのはスコーンを食べ終えたらにしよう。
お姉ちゃんはこの件を知っているのだろうか……、一条のお屋敷でこんな話は聞いたことがない。もし誰もこの話を知らなければ、私が言い出したところで大騒ぎになるだろう。お姉ちゃんと修斗くんは心配症だし、育と門番さんは口うるさいから誰かに言うだろうし、立花さんも大雅くんとかに言いつけるだろうし、大雅くんは調査とかして大事になりそうだ。この屋敷で相談できるのは、光くんか深雪さんの2択になった。
いつも通り掃除をしつつ、光くんか深雪さんを探す。幸か不幸か、今日の掃除場所は1階の廊下だ。深雪さんの部屋は1階にあるし、会えればラッキーなんだけど……。
「キョロキョロして、何企んでるの?また何か割ったの?」
「うぎゃぁ!!……ちょっと育!びっくりするじゃん」
音もなく後ろから忍び寄ってくるのは辞めてほしい……。育かぁ、タイミング悪いなぁ。
「柚子が不審だからでしょ?」
「何も割ってないし、何も企んでないっ!」
「ふーん……。じゃあ誰か探してるの?」
これは……チャンスか?育が深雪さんの居場所を知っていれば、絶対に会える。深雪さんは何の仕事をしているのか、サボっているのか神出鬼没だ。朝帰りもするし、夜に出かけたりもする。
「……深雪さん、今日どこにいる?」
「深雪さん?……珍しいね。」
やばいっ!育に不審に思われたか、確かに私と深雪さんは普段から接点がない。ちゃんと話したことはあっただろうか。
「ほら、柚子あんまりちゃんと話したことないから!仲良くなりたいなーと思って」
半分は本心!育はこれで育を騙せたかな。少し考えている様子だ。
「……深雪さんなら、さっきご当主様の部屋に行った。あの様子ならそのうち部屋に戻るんじゃない?」
「そっか!ありがとう。お話してみるね」
これ以上は育に詮索されたくなくて掃除を再開する。深雪さん早く戻ってこないかなぁ。
深雪さんの部屋はお風呂の横だ。廊下の掃除を終えて、洗面所の掃除をしながら待ち構える。
……全然来ないじゃないか。廊下を再度キョロキョロしてみる。キッチンの方からお姉ちゃんとたぶん深雪さんの声がした。少しすると、ハーブティーと何やら美味しそうなスコーンを載せたお盆を持つ深雪さんが現れた。お姉ちゃん、柚子にはスコーンくれないのかな……って違う!今日の目的は深雪さんだ!
「みーゆーきーさーん」
「うわっ!びっくりした……。柚子ちゃんも足音立てないタイプ?」
洗面所から飛び出してきた私に驚いたのか、深雪さんは2、3歩後退りしていた。
「メイドだからね!柚子だって静かに歩けるよ」
「そっか……。立派だねぇ。俺に用事?」
立派かぁ、この屋敷でここまでストレートに褒めてくれる人は他にない。笑顔でこちらを見ている……いい人だ!
「そう!深雪さんに聞きたいことがあって」
内緒の話なのと付け加えて、私は深雪さんと洗面所に入って扉を閉めた。
「どうしたの?……俺にわざわざってことは、お姉ちゃんに話しづらいことかな?」
笑顔のまま視線をこちらに向けられる。初めて顔をよく見た気がする……引き込まれそうな真っ黒な瞳の持ち主だ。
「……あ、えっと。あの、柚子狙われてるの?」
少しの沈黙の後、なんて話したら良いのか分からずに頭が真っ白になって、脈絡のない問いかけをしてしまった。深雪さんは少し困った笑顔だったけど、王都で貴族のメイドが誘拐される事件があったと知ったことを何とか伝える。
「なるほどねぇ。……どうして俺にそれを?」
「他の人に言うと大事にされるから。あっ、もしかして深雪さんも騒ぎ立てる系?……だったらこの話は聞かなかったことにして!」
騒ぎにされると困る……と判断した私は深雪さんの出方を伺う。少し驚いていたけど、すぐにいつもの笑顔で返された。
「なるほどね、事情はわかったよ。……誰にも言わない。それとその件は柚子ちゃんが心配するようなことじゃないから、大丈夫だよ」
そう言って持っていたお盆からスコーンを1個取り出した。
「ほら、美味しいスコーン貰ったよ?1つあげる」
確かに美味しそうだ!って、え?待って、深雪さん私の質問に答えたか?あれ?……スコーンに気を取られている間に居なくなっている。
なんか適当に遇らわれた気がする。やっぱり光くんに相談だ!と彼を探す。
「柚子、ちょうど良かった。10時のおやつにスコーン焼いたから手が空いた時に食べてね」
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