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「普通の日常」とは
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「そういえば、麻里、学校はどうするの?」
ある日、唐突に百合が聞いてきた。
「あー、そういえばママが退院する前に学校始まっちまうか…」
また百合と離れ離れになるのか、と少し気落ちしてしまう。
「ま、そうだな。私一人で家戻って、そっから通うさ」
「…ここからそんなに遠かったかしら、あの学校」
「んー…ちょい待ち、ググってみる」
スマホを手に取り、マップアプリでこの家からの地図を見る。
「んー、そんなに遠くないな。…あれ、百合の次の学校ってどこだっけか?」
「ええと…ちょっと貸して」
「おう」
スマホを手渡す。まだスマホに変えないのかな、とは思うが、そもそもアタシだって無理言って買ってもらったのだ。
なんにせよ、うちはうち、よそはよそって奴だ。
あんま好きじゃねえけど。この言葉。
「これで…あら、前の学校より遠くなるわね…」
「ええ?そんなことってある?」
「うーん…この大きな通りが校区の境目になってると思うんだけど…」
「えー?近い方が良くない?」
「それもそうね…水咲さんが帰ってきたら、相談してみましょっか」
もしかしたら、また百合と学校に通えるかもしれない。
それに、いままでと違って、今の百合はちゃんと笑えている。
小学一年の時からずっと一緒だったが、三年生位から百合の笑顔にどこか違和感を感じていた。
夏休みに入る前には、ほとんど笑わなくなってしまっていた。
多分、百合のママがいなくなって、親父さんと上手くいってなかったんだろう。
それをすぐ元通りの、よく笑う百合に戻したのは、水咲さんだ。
ちょっと妬いちゃうけど、水咲さんってやっぱすげー人なのかも。
「なるほど、そういう事ね…あの通り、交通量多いから、それで校区が区切られてるのね」
帰って早々、二人から校区の話をされた。
まだ転校の手続きは終わっていなかったが、まさか元の学校の方が近いとは。
「さて、これをどこに伝えれば良い物か…そうだ、あの人ならこーゆーの詳しいかも…ちょっと電話するね」
私はスマホの電話帳から、しばらくぶりに見る『シガラキ』の名を探し出して、電話を掛けた。
『はいはい、こちら咲鶴観光組合の…って、こりゃ俺のケータイか。どちらさんだい?』
「お久しぶりです、信楽さん。木村です。電話帳に私の名前入ってませんでしたか?」
信楽さんは、会社のクライアントだ。だが、アオイの仕事先にもいたことがあるとかで、なんやかんやで知り合った人だ。
『おー!水咲ちゃんかい、久しぶりだねぇ。いやさ、この前ケータイ落っことしちまってよ。中身のデータっての?全部パァよ』
「あらら…気をつけてくださいね…」
『んで?俺のケータイに直接電話してくるなんて、何用よ?デートの誘いかい?』
「もう、今どきセクハラですよ、そーゆーの。いやさ、少し聞きたいことがありまして」
苦笑しながら答えると、百合ちゃんと麻里ちゃんがこちらを睨んでいるのに気がついた。
信楽さんは声が大きいから聞こえていたのだろうか。
『聞きたいことぉ?俺にわかることなら、なんでも答えるけど…』
「ええ、小学校の校区についてなんですけど…」
事情を説明すると、信楽さんはため息をつきながら言った。
『あのねぇ水咲ちゃん、俺を何だと思ってるの?いちおう、観光組合の人間なんだけど』
「前言ってたじゃないですか。身寄りのない子の、学校の世話してあげたって…」
『…んなの、よく覚えてたねえ…まあ、俺の時は地元にツテがあったからって話なんだが…ま、とりあえずそういう時は教育委員会だな。大体の話はそこでカタが付くと思うぜ』
「そうですか、ありがとうございます!」
『にしても水咲ちゃんよお、なんだってそんな事聞いてくるんだい?子供でもできたか?』
信楽さんが懐疑的に聞いてくる。
「いや、そういう訳じゃないんですけど…ちょっと、親戚の子が引っ越しましてね」
『ほーう…アオイちゃんから聞いた話は本当だったか…』
「なっ!?アオイの奴、どこまで言いふらしてんのよ!?」
『いやいや、ウワサ程度だがな。水咲ちゃんが幼女を手籠めにしたって…』
「もー、何回やればいいのよ、このくだり…」
『ははは、冗談さ。なんか事情があんだろ?たしかそっちの教育委員会にも知り合いがいたはずだから…連絡しとくわ。俺の名前出しゃ、早く済むと思うぜ』
「ありがとうございます。では、また今度、お礼を送らせてもらいますね」
『おっ、ありがたいねえ。楽しみにしてるぜ、しばらくぶりだからなあ』
そういったところで、麻里ちゃんと百合ちゃんが乱入してきた。
「さっきから聞いてりゃ、セクハラ多すぎなんだよエロジジイ!」
「そうですよ、何かいかがわしい事しようってんじゃないでしょうね!?」
「ちょっと、二人とも…」
『あーらら。二人もいんの?にしても、エロジジイ呼ばわりされちゃった…』
「すみません、信楽さん。二人とも、信楽さんは確かに胡散臭いように聞こえるかもしれないけれど、いい人なのよ」
『水咲ちゃーん、地味にフォローになってないぜ…』
「じゃあさっきのお礼ってなんだよ。きわどい写真とかじゃねえだろうなあ」
「そういうんじゃないってば。これよ、コレ」
私は棚に置いてあった信楽焼のタヌキの置物を手に取って見せた。
「…タヌキ、ですか?」
『そーそー、集めてんのよ、それ。水咲ちゃん、なかなかいいやつめっけてくるからさあ』
そのタヌキの置物をまじまじと見た麻里ちゃんが、一言放った。
「…玉がデカい!やっぱセクハラじゃねーか!」
それを聞いた信楽さんはツボにはまってしまったのか、笑い声とともに携帯が落ちる音がした。
それと共に、通話は切れてしまった。
あとからメールで、あの後三十分ほど笑い続けていたらしいと知った。全く、信楽さんはよく分からない人だ。
一応謝っておいたが、面白かったから全然良いと返信が来た。
「…うーん、なんか腑に落ちないが…一応、悪い人じゃないってことで良いのな」
「そうだよ。信楽さんはウチのクライアントでも一番対応が良くって…」
「もう、麻里ったら、早とちりして言うもんだからついつい乗っちゃったじゃない」
百合ちゃんがやれやれと言う様子で言う。
乗っかっちゃった時点で同罪だと思うが。
「ま、なんにせよこれで百合が転校しなくても良くなるかもって事だろ?」
「たぶんね。にしても、こっちにも知り合いいるとか、どんだけ顔広いんだろう」
「なんかヤバいことやってる人じゃないですよね?」
「うーん…そういうのは、たぶんないと思うけど…」
そういえば信楽さんの昔の話をあまり聞いたことがない。
…あの人を信用していないわけでは無いが、深く突っ込むのは辞めておこう。
なんとなく、踏み込んじゃいけない気がした。
次の日、半休を取って役所へ行ってみると、あっという間に手続きは終わった。
こういう申請はなかなか通りづらいらしいのだが、信楽さんのおかげだろうか。
思っていたより早く終わってしまったため、さっさと帰ることにした。せっかく半休取ったんだし、今日金曜だし。
帰りのバスの中で、麻里ちゃんにLINEを送る。
しかし、少し経っても返信がない。
既読無視とか、未読無視とかあまり気にしない質ではあるが、いつも返信が早い麻里ちゃんとなると少し心配である。
やはり小学生だけで留守番させるのはヤバかっただろうか。
通話ボタンに手をかけるが、麻里ちゃんの事だ、昼寝しているだけという可能性もある。
それなら起こしてしまってはかわいそうだ。
悶々としながら足早にバスを降り、アパートのドアの前までたどり着く。
ドアノブに鍵を差し込もうとした瞬間、家の中から物音が聞こえた。
「っ!まさか…」
こういう時はうかつに踏み込んではいけない、と聞いたことがある。
強盗がいた場合、刺激してしまう可能性があるからだ。
そっとドアに顔を寄せ、聞き耳を立てる。
この音の距離だと…向こう側の部屋か。
ドタバタとした音、この軋むような音は…十中八九私のボロベッドだ。
声も聞こえる…犯人ではないか?
「…いいじゃん……もいないんだし…」
「ダメよ…ご飯の支度しなきゃ…」
…ん?何か起こっているわけではないのか?
ドアに耳を付けて、声を良く聞こうとした。
「きゃっ!?もう、麻里、無理やり押し倒すだなんて…」
「なー、ちょっとくらい昼寝したっていーじゃんの」
麻里ちゃんが百合ちゃんをベッドに押し倒した!?
いかん、録画…だめだ、ドア越しにどうやって撮れってんだ…ええい、この超絶尊み空間を見ることが出来ないとはっ!
「…仕方ないわね、私も朝早かったし…麻里、ヘンなとこ触るのは無しだからね?」
「よしっ!じゃ早く早く!」
少しして、物音も会話も聞こえなくなった。
二人とも寝てしまったのだろうか。
…今鍵を開けて家に入ったら、二人を起こしてしまうだろう。
「どうしたもんか…」
アパートの階段に座り込み、しばし思案する。
彼女たちは今、どんな寝顔で寝ているのだろうか。
是非見たいものだが、それは叶わない。
「んー…」
ちらりと腕時計に目をやると、ちょうど午後三時を指していた。
どこかで時間をつぶしてこようかとも思ったが、こんな暑い中、立ち上がる気も起きない。
することも無く、ぼんやりと空を見る。
そういえば昔、鍵を無くしてこんなことになった記憶がある。
あの時はひどい土砂降りだったっけな。
その時のことを思い出して少し感傷的になる。
「…何やってんだろなあ、私」
いくら中で家族が寝ているからと言って、入らないのもおかしな話だ。
手に持った鍵を使えば、問題なく入れはする。
しかし、どんなにこっそりやろうにも、このボロアパートのドアは人が入ったことを主張してくれるであろう。
調味料のオマケでついてきたドクロのキーホルダーを手の中で回しながら、またぼんやりと空を眺める。
あの時とは違って、太陽がギラギラと輝いている。
…百合ちゃんたちはどんな風に寝ているのだろうか。
こんな暑いのだ、くっついて寝ているという事はないだろう…いや、麻里ちゃんならあり得るか?
というか服とかはだけてあられもない姿になってるかもしれない。
うーん、妄想が捗る。
多分この時、私は非常に気持ち悪い笑みを浮かべていたであろう。
現に、階段を上ってこようとした上の階のおばさんがすごい表情で固まっている。
「…どうも」
「木村さん…どうしたの?鍵でもなくした?」
あんな顔してたのに心配してくれるあたり優しい。
いや、あんな顔してたからか?
「いえ、鍵はあるんです…ま、気にしないでください」
私が立ち上がって道を開けると、おばさんは怪訝な表情で階段を昇って行った。
そりゃそうだ、このクソ暑い中、家に入らず外に居るのだから。
また階段に座り込んで少しすると、今度は下の階のおじいさんがこちらを見てギョッとした。
「…姉ちゃん、鍵でも無くしたか、それともお嬢さんに追い出されたか」
「…後者の方が近いですかね、まあ自分からなんですけど」
おじいさんは少し思案した後、手に提げたビニール袋から麦茶を取り出して、私に手渡した。
「根競べも良いが、熱中症にゃ気を付けろよ」
「…ありがとうございます」
ペットボトルには水滴がたくさんついており、それが良く冷えていることを示していた。
私はたまらずキャップを開けると、勢いよくボトルを呷った。
殆ど飲み干してしまった後に、ふと思った。
下のおじいさんとこんなに親交あったっけ。
というか、ご近所付き合いは蔑ろにしてる方だったのだが…
何だか気まずいが、それにしても何故麦茶を…?
「こないだ金髪の方の嬢ちゃんがな、回覧板回してきた時にな…世話んなったんだよ。その礼みたいなもんだ」
私の思考を見透かしたかのように、おじいさんは言った。
「麻里ちゃんが?一体どういう経緯で…」
「まあ、なんだ…とにかく、あの時は助かったって、礼を言っておいてくれ」
そう言うと、おじいさんは自分の部屋に入っていった。
「うーん…後で聞いてみるか…」
その後、一時間ほど経ち、さすがに暑さに耐えられなくなってきたのと、そろそろ起きているかもしれないと思いながら、そっとドアノブに鍵を差し込んだ。
重いドアの下側に足を掛け、持ち上げながらそっと開く。
こうすれば音が立たない、はず。
少し軋んだ音は鳴ったが、そこまでではない。
同じようにしてそっとドアを閉める。
…こう出来るならさっさとやれば良かったと言うに、一体私は何をしていたのか。
「た、ただいま~…」
小声で呼びかけてみるも、返事は無い。
二人ともまだ寝ているのだろうか。
抜き足差し足忍び足で、自室のベッドまで向かう。
もしかしたら二人の無防備な姿を…いやいや、下心なんてありませんよ?
そうして開けっ放しの引き戸の向こうに踏み込んだ時、後ろから聞き慣れた声と共にジャキ、と機械音を立てる物を向けられた。
「撃つと動くっ!…間違えた、動くと撃つ!」
「…麻理ちゃん?それ、どこで…」
どこかで聞いた事のある言い間違いと共に、彼女は拳銃を構えていた。
無論本物では無い。多分私のエアガンだ。
「…なーんだ、水咲さんかよ…驚かせてくれるなあ」
そう言うと、エアガンをくるりと回して私に手渡した。
「ごめんよ、触っちゃいけないとは思ったんだけど…こんな時間にこっそり入ってこられると、びっくりしちゃって」
「いや、こっちこそ急にごめんね…」
手渡されたエアガンからマガジンを抜き、チャンバーのBB弾を取り出す。
…マガジンの弾は抜いておいた筈だし、チャンバーにだって残してはいなかった。
まさか麻理ちゃんが?
「…ねえ麻理ちゃん、何処で扱いを覚えたの?」
「んー…グアムで親父に習った…って、父親いなかったわ」
冗談めかして答える麻理ちゃん。
「ふふ、でももうダメだよ、危ないから」
「そりゃ分かってるともさ。でも緊急事態だったら仕方ないだろ?」
「こんな玩具じゃ脅しにもならないわ、そっちの木刀の方が良いわよ?」
そう言って、部屋の角に置いてある木刀を指した。
「そっちの方が玩具なんじゃねーの」
そう言いながら木刀を手に取った麻理ちゃんは、その重さに取り落としかける。
「おっと!?マジモンかよ、これ」
「ふふーん、洞爺湖の越後屋で五千円出して買ったホンモノよ」
小学生の時、修学旅行の小遣い全部突っ込んで買ったんだっけ。
「んー、でもこの狭い部屋で振り回すにゃちょいと長すぎるかなあ」
トントンと肩に担いで言う麻理ちゃんは、あまりにも様になっていた。
「狭い部屋で悪うござんしたね…でも、あんなこっそり入ってきたのに、よく気づいたね」
「こっそり入ってきたからだよ。逆に気になって起きちゃったんだ」
そうして話していると、百合ちゃんがベッドから起き上がって、悲鳴をあげた。
「二人とも!?戦争でも始める気ですか!?」
「あ、起こしちゃったか…え、戦争?」
なんせ麻理ちゃんは木刀、私の手には拳銃が握られていたのだ。勘違いされても仕方ない。
「そうでしたか、私が寝ている間にそんなことが…もう、麻理、そういう時は起こしてよね」
「いやあ、あんな寝顔じゃ起こすに起こせなかったんだよ」
「全く…水咲さんも、早くなるなら連絡くれれば良かったのに」
「一応LINEはしたんだけどね?」
「あー、スマホの充電切れてた…」
「もう…それじゃ、ちょっと早いですけど夕ご飯の用意しますね」
そう言って百合ちゃんは台所に行ってしまった。
私は少し間を置いて麻理ちゃんに話しかけた。
「…麻理ちゃん、下のおじいさん助けるようなことした?」
「ん?あー、そんなこともあったっけか…」
ある日、コンビニから帰って来ると部屋の郵便受けに回覧板が刺さっていた。
「百合~、回覧板来てるぜ~」
玄関で呼びかける。なんかこういうの、日常って感じでいいなあ…そう思っていると、エプロン姿の百合がぱたぱたと走ってきた。
「ありがと…うん、今回も内容なんて無いようなもんね」
「はは、シャレか?」
「なっ、そういうんじゃないわよ…あっ、お鍋吹いちゃう、サインして回しといてっ」
百合のエプロン姿、かわいいなあ。
そう思いながら、回覧板の『204号室』の欄に緋沢と『緋』の字まで書いて、手を止める。
「あっ、ここ水咲さん家か。じゃあ…」
二重線で文字を潰すと、私は『木村』と書き直した。
「へへ、家族みたいだな」
下の階に降りて、回覧板を郵便受けに刺そうとするが、郵便受けは多量の新聞でふさがっていた。
仕方なくインターホンを鳴らして少し待つが、反応がない。
「おいおい、これってもしかして…」
ただの留守ならいいが、中で何かあったのだとしたら…
警察か?救急か?
そう悩んでいるうちに、ガチャリとドアが空いた。
「なんだ、いるじゃねぇか…っておい、じいさん、顔真っ赤だぞ!?」
「あ~…上の嬢ちゃんか…具合が良くねぇんだ、用があるなら…」
「待て待て、完全に熱中症じゃないか、とりあえずコレ飲んどけ」
アタシはぶら下げたままだったコンビニの袋から買った麦茶を取り出すと、じいさんに手渡した。
「とりま病院だ、タクシー呼ぶぞ」
「必要ねぇ、俺は…」
「その油断が命取りになんだよ…財布、持ってるな?」
呼んだタクシーにじいさんを押し込んで、運転手に病院に行くように伝えた。
じいさんはぶつぶつと文句を言っていたが、結局そのまま連れられて行った。
「ったく、これだから老人は…おっと、回覧板」
アタシは開けっ放しのドアから回覧板を投げ込み、ドアを閉めた。
「あ、鍵…」
流石に家の中に入る訳にはいかない。
仕方なく勘で近くに置いてあった植木鉢を持ち上げる。
「…だいたいこういう所に、スペアキーが…あった!」
じいさんの家に鍵をかけると、アタシは何事も無かったかのように部屋に戻った。
「以上が事の顛末ってわけ。後は知らなかったけど、じいさん無事だったのね」
「いつの間に人助けを…麻理ちゃん、凄いね」
「凄くもないさ。当たり前のことをしただけよ…でも、やった鍵勝手に使ったのはヤバかったかな」
「泥棒に入られるよりは良いでしょうよ。でも、隠し場所、古いわね…」
そうして話し込んでいると、百合ちゃんがエプロン姿でやってきた。
「二人とも、何の話してるんです?夕ご飯、そろそろ出来ますから、手伝ってくださいな」
「おっ、早いな。今日は何かなー」
「今日はそうめんよ、適当でごめんなさいね」
「いや、今日みたいに暑い日はちょうどいいよ」
食卓を囲んで、そうめんを啜りながら、麻理ちゃんがいなかったらどうなっていたんだろうと考えていた。
もしかしたら、下のおじいさんは居なくなっていたかもしれない。
普通の日常に、そういう事は潜んでいる。
麻理ちゃんは特に、そういうのに敏感になっているんだろうか。
願わくば何事も起きないのが一番だが、そうもいかないのかもしれない。
一抹の不安を抱きつつも、平和を願う私であった。
ある日、唐突に百合が聞いてきた。
「あー、そういえばママが退院する前に学校始まっちまうか…」
また百合と離れ離れになるのか、と少し気落ちしてしまう。
「ま、そうだな。私一人で家戻って、そっから通うさ」
「…ここからそんなに遠かったかしら、あの学校」
「んー…ちょい待ち、ググってみる」
スマホを手に取り、マップアプリでこの家からの地図を見る。
「んー、そんなに遠くないな。…あれ、百合の次の学校ってどこだっけか?」
「ええと…ちょっと貸して」
「おう」
スマホを手渡す。まだスマホに変えないのかな、とは思うが、そもそもアタシだって無理言って買ってもらったのだ。
なんにせよ、うちはうち、よそはよそって奴だ。
あんま好きじゃねえけど。この言葉。
「これで…あら、前の学校より遠くなるわね…」
「ええ?そんなことってある?」
「うーん…この大きな通りが校区の境目になってると思うんだけど…」
「えー?近い方が良くない?」
「それもそうね…水咲さんが帰ってきたら、相談してみましょっか」
もしかしたら、また百合と学校に通えるかもしれない。
それに、いままでと違って、今の百合はちゃんと笑えている。
小学一年の時からずっと一緒だったが、三年生位から百合の笑顔にどこか違和感を感じていた。
夏休みに入る前には、ほとんど笑わなくなってしまっていた。
多分、百合のママがいなくなって、親父さんと上手くいってなかったんだろう。
それをすぐ元通りの、よく笑う百合に戻したのは、水咲さんだ。
ちょっと妬いちゃうけど、水咲さんってやっぱすげー人なのかも。
「なるほど、そういう事ね…あの通り、交通量多いから、それで校区が区切られてるのね」
帰って早々、二人から校区の話をされた。
まだ転校の手続きは終わっていなかったが、まさか元の学校の方が近いとは。
「さて、これをどこに伝えれば良い物か…そうだ、あの人ならこーゆーの詳しいかも…ちょっと電話するね」
私はスマホの電話帳から、しばらくぶりに見る『シガラキ』の名を探し出して、電話を掛けた。
『はいはい、こちら咲鶴観光組合の…って、こりゃ俺のケータイか。どちらさんだい?』
「お久しぶりです、信楽さん。木村です。電話帳に私の名前入ってませんでしたか?」
信楽さんは、会社のクライアントだ。だが、アオイの仕事先にもいたことがあるとかで、なんやかんやで知り合った人だ。
『おー!水咲ちゃんかい、久しぶりだねぇ。いやさ、この前ケータイ落っことしちまってよ。中身のデータっての?全部パァよ』
「あらら…気をつけてくださいね…」
『んで?俺のケータイに直接電話してくるなんて、何用よ?デートの誘いかい?』
「もう、今どきセクハラですよ、そーゆーの。いやさ、少し聞きたいことがありまして」
苦笑しながら答えると、百合ちゃんと麻里ちゃんがこちらを睨んでいるのに気がついた。
信楽さんは声が大きいから聞こえていたのだろうか。
『聞きたいことぉ?俺にわかることなら、なんでも答えるけど…』
「ええ、小学校の校区についてなんですけど…」
事情を説明すると、信楽さんはため息をつきながら言った。
『あのねぇ水咲ちゃん、俺を何だと思ってるの?いちおう、観光組合の人間なんだけど』
「前言ってたじゃないですか。身寄りのない子の、学校の世話してあげたって…」
『…んなの、よく覚えてたねえ…まあ、俺の時は地元にツテがあったからって話なんだが…ま、とりあえずそういう時は教育委員会だな。大体の話はそこでカタが付くと思うぜ』
「そうですか、ありがとうございます!」
『にしても水咲ちゃんよお、なんだってそんな事聞いてくるんだい?子供でもできたか?』
信楽さんが懐疑的に聞いてくる。
「いや、そういう訳じゃないんですけど…ちょっと、親戚の子が引っ越しましてね」
『ほーう…アオイちゃんから聞いた話は本当だったか…』
「なっ!?アオイの奴、どこまで言いふらしてんのよ!?」
『いやいや、ウワサ程度だがな。水咲ちゃんが幼女を手籠めにしたって…』
「もー、何回やればいいのよ、このくだり…」
『ははは、冗談さ。なんか事情があんだろ?たしかそっちの教育委員会にも知り合いがいたはずだから…連絡しとくわ。俺の名前出しゃ、早く済むと思うぜ』
「ありがとうございます。では、また今度、お礼を送らせてもらいますね」
『おっ、ありがたいねえ。楽しみにしてるぜ、しばらくぶりだからなあ』
そういったところで、麻里ちゃんと百合ちゃんが乱入してきた。
「さっきから聞いてりゃ、セクハラ多すぎなんだよエロジジイ!」
「そうですよ、何かいかがわしい事しようってんじゃないでしょうね!?」
「ちょっと、二人とも…」
『あーらら。二人もいんの?にしても、エロジジイ呼ばわりされちゃった…』
「すみません、信楽さん。二人とも、信楽さんは確かに胡散臭いように聞こえるかもしれないけれど、いい人なのよ」
『水咲ちゃーん、地味にフォローになってないぜ…』
「じゃあさっきのお礼ってなんだよ。きわどい写真とかじゃねえだろうなあ」
「そういうんじゃないってば。これよ、コレ」
私は棚に置いてあった信楽焼のタヌキの置物を手に取って見せた。
「…タヌキ、ですか?」
『そーそー、集めてんのよ、それ。水咲ちゃん、なかなかいいやつめっけてくるからさあ』
そのタヌキの置物をまじまじと見た麻里ちゃんが、一言放った。
「…玉がデカい!やっぱセクハラじゃねーか!」
それを聞いた信楽さんはツボにはまってしまったのか、笑い声とともに携帯が落ちる音がした。
それと共に、通話は切れてしまった。
あとからメールで、あの後三十分ほど笑い続けていたらしいと知った。全く、信楽さんはよく分からない人だ。
一応謝っておいたが、面白かったから全然良いと返信が来た。
「…うーん、なんか腑に落ちないが…一応、悪い人じゃないってことで良いのな」
「そうだよ。信楽さんはウチのクライアントでも一番対応が良くって…」
「もう、麻里ったら、早とちりして言うもんだからついつい乗っちゃったじゃない」
百合ちゃんがやれやれと言う様子で言う。
乗っかっちゃった時点で同罪だと思うが。
「ま、なんにせよこれで百合が転校しなくても良くなるかもって事だろ?」
「たぶんね。にしても、こっちにも知り合いいるとか、どんだけ顔広いんだろう」
「なんかヤバいことやってる人じゃないですよね?」
「うーん…そういうのは、たぶんないと思うけど…」
そういえば信楽さんの昔の話をあまり聞いたことがない。
…あの人を信用していないわけでは無いが、深く突っ込むのは辞めておこう。
なんとなく、踏み込んじゃいけない気がした。
次の日、半休を取って役所へ行ってみると、あっという間に手続きは終わった。
こういう申請はなかなか通りづらいらしいのだが、信楽さんのおかげだろうか。
思っていたより早く終わってしまったため、さっさと帰ることにした。せっかく半休取ったんだし、今日金曜だし。
帰りのバスの中で、麻里ちゃんにLINEを送る。
しかし、少し経っても返信がない。
既読無視とか、未読無視とかあまり気にしない質ではあるが、いつも返信が早い麻里ちゃんとなると少し心配である。
やはり小学生だけで留守番させるのはヤバかっただろうか。
通話ボタンに手をかけるが、麻里ちゃんの事だ、昼寝しているだけという可能性もある。
それなら起こしてしまってはかわいそうだ。
悶々としながら足早にバスを降り、アパートのドアの前までたどり着く。
ドアノブに鍵を差し込もうとした瞬間、家の中から物音が聞こえた。
「っ!まさか…」
こういう時はうかつに踏み込んではいけない、と聞いたことがある。
強盗がいた場合、刺激してしまう可能性があるからだ。
そっとドアに顔を寄せ、聞き耳を立てる。
この音の距離だと…向こう側の部屋か。
ドタバタとした音、この軋むような音は…十中八九私のボロベッドだ。
声も聞こえる…犯人ではないか?
「…いいじゃん……もいないんだし…」
「ダメよ…ご飯の支度しなきゃ…」
…ん?何か起こっているわけではないのか?
ドアに耳を付けて、声を良く聞こうとした。
「きゃっ!?もう、麻里、無理やり押し倒すだなんて…」
「なー、ちょっとくらい昼寝したっていーじゃんの」
麻里ちゃんが百合ちゃんをベッドに押し倒した!?
いかん、録画…だめだ、ドア越しにどうやって撮れってんだ…ええい、この超絶尊み空間を見ることが出来ないとはっ!
「…仕方ないわね、私も朝早かったし…麻里、ヘンなとこ触るのは無しだからね?」
「よしっ!じゃ早く早く!」
少しして、物音も会話も聞こえなくなった。
二人とも寝てしまったのだろうか。
…今鍵を開けて家に入ったら、二人を起こしてしまうだろう。
「どうしたもんか…」
アパートの階段に座り込み、しばし思案する。
彼女たちは今、どんな寝顔で寝ているのだろうか。
是非見たいものだが、それは叶わない。
「んー…」
ちらりと腕時計に目をやると、ちょうど午後三時を指していた。
どこかで時間をつぶしてこようかとも思ったが、こんな暑い中、立ち上がる気も起きない。
することも無く、ぼんやりと空を見る。
そういえば昔、鍵を無くしてこんなことになった記憶がある。
あの時はひどい土砂降りだったっけな。
その時のことを思い出して少し感傷的になる。
「…何やってんだろなあ、私」
いくら中で家族が寝ているからと言って、入らないのもおかしな話だ。
手に持った鍵を使えば、問題なく入れはする。
しかし、どんなにこっそりやろうにも、このボロアパートのドアは人が入ったことを主張してくれるであろう。
調味料のオマケでついてきたドクロのキーホルダーを手の中で回しながら、またぼんやりと空を眺める。
あの時とは違って、太陽がギラギラと輝いている。
…百合ちゃんたちはどんな風に寝ているのだろうか。
こんな暑いのだ、くっついて寝ているという事はないだろう…いや、麻里ちゃんならあり得るか?
というか服とかはだけてあられもない姿になってるかもしれない。
うーん、妄想が捗る。
多分この時、私は非常に気持ち悪い笑みを浮かべていたであろう。
現に、階段を上ってこようとした上の階のおばさんがすごい表情で固まっている。
「…どうも」
「木村さん…どうしたの?鍵でもなくした?」
あんな顔してたのに心配してくれるあたり優しい。
いや、あんな顔してたからか?
「いえ、鍵はあるんです…ま、気にしないでください」
私が立ち上がって道を開けると、おばさんは怪訝な表情で階段を昇って行った。
そりゃそうだ、このクソ暑い中、家に入らず外に居るのだから。
また階段に座り込んで少しすると、今度は下の階のおじいさんがこちらを見てギョッとした。
「…姉ちゃん、鍵でも無くしたか、それともお嬢さんに追い出されたか」
「…後者の方が近いですかね、まあ自分からなんですけど」
おじいさんは少し思案した後、手に提げたビニール袋から麦茶を取り出して、私に手渡した。
「根競べも良いが、熱中症にゃ気を付けろよ」
「…ありがとうございます」
ペットボトルには水滴がたくさんついており、それが良く冷えていることを示していた。
私はたまらずキャップを開けると、勢いよくボトルを呷った。
殆ど飲み干してしまった後に、ふと思った。
下のおじいさんとこんなに親交あったっけ。
というか、ご近所付き合いは蔑ろにしてる方だったのだが…
何だか気まずいが、それにしても何故麦茶を…?
「こないだ金髪の方の嬢ちゃんがな、回覧板回してきた時にな…世話んなったんだよ。その礼みたいなもんだ」
私の思考を見透かしたかのように、おじいさんは言った。
「麻里ちゃんが?一体どういう経緯で…」
「まあ、なんだ…とにかく、あの時は助かったって、礼を言っておいてくれ」
そう言うと、おじいさんは自分の部屋に入っていった。
「うーん…後で聞いてみるか…」
その後、一時間ほど経ち、さすがに暑さに耐えられなくなってきたのと、そろそろ起きているかもしれないと思いながら、そっとドアノブに鍵を差し込んだ。
重いドアの下側に足を掛け、持ち上げながらそっと開く。
こうすれば音が立たない、はず。
少し軋んだ音は鳴ったが、そこまでではない。
同じようにしてそっとドアを閉める。
…こう出来るならさっさとやれば良かったと言うに、一体私は何をしていたのか。
「た、ただいま~…」
小声で呼びかけてみるも、返事は無い。
二人ともまだ寝ているのだろうか。
抜き足差し足忍び足で、自室のベッドまで向かう。
もしかしたら二人の無防備な姿を…いやいや、下心なんてありませんよ?
そうして開けっ放しの引き戸の向こうに踏み込んだ時、後ろから聞き慣れた声と共にジャキ、と機械音を立てる物を向けられた。
「撃つと動くっ!…間違えた、動くと撃つ!」
「…麻理ちゃん?それ、どこで…」
どこかで聞いた事のある言い間違いと共に、彼女は拳銃を構えていた。
無論本物では無い。多分私のエアガンだ。
「…なーんだ、水咲さんかよ…驚かせてくれるなあ」
そう言うと、エアガンをくるりと回して私に手渡した。
「ごめんよ、触っちゃいけないとは思ったんだけど…こんな時間にこっそり入ってこられると、びっくりしちゃって」
「いや、こっちこそ急にごめんね…」
手渡されたエアガンからマガジンを抜き、チャンバーのBB弾を取り出す。
…マガジンの弾は抜いておいた筈だし、チャンバーにだって残してはいなかった。
まさか麻理ちゃんが?
「…ねえ麻理ちゃん、何処で扱いを覚えたの?」
「んー…グアムで親父に習った…って、父親いなかったわ」
冗談めかして答える麻理ちゃん。
「ふふ、でももうダメだよ、危ないから」
「そりゃ分かってるともさ。でも緊急事態だったら仕方ないだろ?」
「こんな玩具じゃ脅しにもならないわ、そっちの木刀の方が良いわよ?」
そう言って、部屋の角に置いてある木刀を指した。
「そっちの方が玩具なんじゃねーの」
そう言いながら木刀を手に取った麻理ちゃんは、その重さに取り落としかける。
「おっと!?マジモンかよ、これ」
「ふふーん、洞爺湖の越後屋で五千円出して買ったホンモノよ」
小学生の時、修学旅行の小遣い全部突っ込んで買ったんだっけ。
「んー、でもこの狭い部屋で振り回すにゃちょいと長すぎるかなあ」
トントンと肩に担いで言う麻理ちゃんは、あまりにも様になっていた。
「狭い部屋で悪うござんしたね…でも、あんなこっそり入ってきたのに、よく気づいたね」
「こっそり入ってきたからだよ。逆に気になって起きちゃったんだ」
そうして話していると、百合ちゃんがベッドから起き上がって、悲鳴をあげた。
「二人とも!?戦争でも始める気ですか!?」
「あ、起こしちゃったか…え、戦争?」
なんせ麻理ちゃんは木刀、私の手には拳銃が握られていたのだ。勘違いされても仕方ない。
「そうでしたか、私が寝ている間にそんなことが…もう、麻理、そういう時は起こしてよね」
「いやあ、あんな寝顔じゃ起こすに起こせなかったんだよ」
「全く…水咲さんも、早くなるなら連絡くれれば良かったのに」
「一応LINEはしたんだけどね?」
「あー、スマホの充電切れてた…」
「もう…それじゃ、ちょっと早いですけど夕ご飯の用意しますね」
そう言って百合ちゃんは台所に行ってしまった。
私は少し間を置いて麻理ちゃんに話しかけた。
「…麻理ちゃん、下のおじいさん助けるようなことした?」
「ん?あー、そんなこともあったっけか…」
ある日、コンビニから帰って来ると部屋の郵便受けに回覧板が刺さっていた。
「百合~、回覧板来てるぜ~」
玄関で呼びかける。なんかこういうの、日常って感じでいいなあ…そう思っていると、エプロン姿の百合がぱたぱたと走ってきた。
「ありがと…うん、今回も内容なんて無いようなもんね」
「はは、シャレか?」
「なっ、そういうんじゃないわよ…あっ、お鍋吹いちゃう、サインして回しといてっ」
百合のエプロン姿、かわいいなあ。
そう思いながら、回覧板の『204号室』の欄に緋沢と『緋』の字まで書いて、手を止める。
「あっ、ここ水咲さん家か。じゃあ…」
二重線で文字を潰すと、私は『木村』と書き直した。
「へへ、家族みたいだな」
下の階に降りて、回覧板を郵便受けに刺そうとするが、郵便受けは多量の新聞でふさがっていた。
仕方なくインターホンを鳴らして少し待つが、反応がない。
「おいおい、これってもしかして…」
ただの留守ならいいが、中で何かあったのだとしたら…
警察か?救急か?
そう悩んでいるうちに、ガチャリとドアが空いた。
「なんだ、いるじゃねぇか…っておい、じいさん、顔真っ赤だぞ!?」
「あ~…上の嬢ちゃんか…具合が良くねぇんだ、用があるなら…」
「待て待て、完全に熱中症じゃないか、とりあえずコレ飲んどけ」
アタシはぶら下げたままだったコンビニの袋から買った麦茶を取り出すと、じいさんに手渡した。
「とりま病院だ、タクシー呼ぶぞ」
「必要ねぇ、俺は…」
「その油断が命取りになんだよ…財布、持ってるな?」
呼んだタクシーにじいさんを押し込んで、運転手に病院に行くように伝えた。
じいさんはぶつぶつと文句を言っていたが、結局そのまま連れられて行った。
「ったく、これだから老人は…おっと、回覧板」
アタシは開けっ放しのドアから回覧板を投げ込み、ドアを閉めた。
「あ、鍵…」
流石に家の中に入る訳にはいかない。
仕方なく勘で近くに置いてあった植木鉢を持ち上げる。
「…だいたいこういう所に、スペアキーが…あった!」
じいさんの家に鍵をかけると、アタシは何事も無かったかのように部屋に戻った。
「以上が事の顛末ってわけ。後は知らなかったけど、じいさん無事だったのね」
「いつの間に人助けを…麻理ちゃん、凄いね」
「凄くもないさ。当たり前のことをしただけよ…でも、やった鍵勝手に使ったのはヤバかったかな」
「泥棒に入られるよりは良いでしょうよ。でも、隠し場所、古いわね…」
そうして話し込んでいると、百合ちゃんがエプロン姿でやってきた。
「二人とも、何の話してるんです?夕ご飯、そろそろ出来ますから、手伝ってくださいな」
「おっ、早いな。今日は何かなー」
「今日はそうめんよ、適当でごめんなさいね」
「いや、今日みたいに暑い日はちょうどいいよ」
食卓を囲んで、そうめんを啜りながら、麻理ちゃんがいなかったらどうなっていたんだろうと考えていた。
もしかしたら、下のおじいさんは居なくなっていたかもしれない。
普通の日常に、そういう事は潜んでいる。
麻理ちゃんは特に、そういうのに敏感になっているんだろうか。
願わくば何事も起きないのが一番だが、そうもいかないのかもしれない。
一抹の不安を抱きつつも、平和を願う私であった。
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