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36.好きな人

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 水色のリボンに、おそろいのがらのスカート。
 月渚るな似合にあっていた服は、私にもよく似合った。
 髪型かみがたも、空子さんがみ入りのポニーテールにむすんでくれた。

 空子さんに髪をってもらうなんて、初めてだ。
 なんだか親子のようだと思った。空子さんは怒るだろうから、そんなこと絶対に言えないけれど。

 ワンピースに着替きがえた月渚と空子さんと一緒に家を出る。

 家の前でお父さんとすばるくんが待っていた。二人でカメラの準備をしてくれていたみたいだ。三脚さんきゃくまで立っている。

「お待たせ―! 見て見てっ! ルナ、かわいいでしょ!」

 月渚は自分のことみたいに鼻を高くした。

「ルナ、よく似合ってるよ」

 お父さんもめてくれた。

「今日の月渚と全く同じだから、新鮮味しんせんみは無いなー」

 昴くんがうでを組みながら言う。

「でも、私と同じで、かわいいでしょ~?」

 月渚がひじの先でつんつんと昴くんをつつく。

「う、うるせーよ」

 否定しないってことは、少しは「かわいい」と思ってくれたのかな?
 そう考えたら、体の内側がくすぐったくなった。

「ほら、こっち向いて」

 お父さんがのぞくカメラの前に、私と月渚と昴くん、それから空子さんが並ぶ。
 お父さんがセルフタイマーを設定せっていして、あわてて空子さんのとなりに来る。

「ルナ。秘密ひみつだよ。私ね、好きな人がいるんだ」

 隣にいた月渚が、私だけに聞こえる声で言った。

「中学生になったら、絶対に告白するんだ」

 えっ、と聞き返す前に、カメラのシャッターの音が鳴った。

「ルナも頑張がんばって。昴とお似合いだと思うよ」

 月渚は片目をつむって笑ってみせる。

「え? 俺がなんだって?」

 昴くんが振り返った。

「なんでもなーい」

 月渚は笑う。

「ええー? 絶対悪口だろ? ルナ、教えろよ! 月渚は今、なんて言った?」

 私の顔を、昴くんがのぞきこんだ。

「え、えっと、その……」

 昴くんの顔が,
とても近にある。
 ピピピ、とアラームが鳴った。激しく。

 どうしてかわからないけれど、顔が熱くなってきた。
 胸の真ん中が痛い。


 この温かい痛みの名前を、私はまだ、知らない。






 おわり



(最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!)

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