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第3話 鬼について

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 日本人て、鬼好きですよねぇ。
 好きっていうかまぁ、身近な災厄だったんだろうと思うし、訳わからない怖いモノを総称して「鬼」と呼んでいたから身近だったんだろうと思います。
 だから大昔は疫病も「鬼」、知らない外国人も「鬼」でした。

 古代中国では病気は全部妖怪の仕業だと考えられていて、黄帝という皇帝が医学書を作っているんですが、今読むと妖怪図録です。
 あの時代に鳥山石燕や水木しげる先生が転生したら、ガチヤベェお医者さん扱いされますね。
 そういう話、書きたいな(笑)。

 日本の古代史に目を向けると、鬼も確かに多く存在してますが、妖怪も多いですね。鬼を妖怪に含めるか、別のモノとするかは、まぁ難しい所ですが、個人的にどっちでもいいかなって思います。
 だから本作では鬼と妖怪を区別する生き物と、同種とする生き物、両方出てきます。

 そんで、日本の鬼で一番有名なのは、どう考えても酒呑童子ですね。みんな大好き酒呑童子。その子分が茨木童子。大江山に住んで、頼光と四天王に討たれました。藤原保昌(保輔の兄)が共に討伐に行ったって話は後世(確か鎌倉後期~室町くらい)の後付けの説が濃くて、頼光と保昌は反目しあっていた関係だったようです。
 ちなみに藤原保昌は和泉式部の夫です。今の大河が、大体この頃のお話でしょうか。
 
 朝廷に打たれる鬼というのは、大概が人を喰ったり襲ったり悪いことをして人間を脅かすので倒しました。っていう勧善懲悪が多いです。その方が物語としては面白いしわかり易いし、江戸時代の歌舞伎のシナリオなんかでは重宝されたことでしょう。
 実際、江戸時代の大芝居で作られた話が史実のように、まことしやかに現代まで伝わっているってのは多いですね、忠臣蔵みたいに。

 古代の日本は、まだ本州が一つの国としてまとまっておらず、百済や新羅からも沢山の渡来人がやってきていました。
 勿論、縄文時代から住んでいる土着の日本人も沢山いて、色んな民族が混じりきっていない時代でした。
 土着の本州住みだったのに撃たれちゃった典型例は土蜘蛛です。妖怪として描かれていますが、もともと住んでいた人間が、土着と渡来系の交じり合った人たち(京人《みやこびと》)に打ち滅ぼされたって感じです。

 酒呑童子に関しても、同じだと考えています。彼らは純粋な土着民ではなく、土着の人々に渡来系が混ざった人たちだけど京人とは別の場所に住んでいた人たち。つまり、高い技術を持っていた故に京人に敵視された人たちだったのかな、と。
 鬼って強いですよね。強いって、戦えるだけの技術があるってことなので。
 土蜘蛛には強さや賢さが足りなかった。この時代の賢さとは言葉や文字の発達なのだろうと思います。

 土蜘蛛は見下されて潰された。
 鬼は恐れられて討ち取られた。
 そんなイメージです。

 そもそも人類大移動で人間は皆、アフリカ発なんだから、日本列島に辿り着いたのが早いか遅いかってだけの話なんですけどねぇ。
 それなりに技術と知識を持ち徒党を組むのがうまく機転が利く者が生き残るってのは、いつの時代も同じです。

 中には逆パターンもあって、高い技術を持っていたが故に大事にされた人々もいました。国産みで最初に生まれた国、オノコロ島である淡路島には渡来系の人々が多く住んでいて、高い技術を持っていました。淡路は朝廷(あの時代は大和国の大王だけど)の管轄でした。技術の献上で安全を保障されていた人々です。

 話が大幅にそれましたが、鬼さんて、山に住んでることが多いですよね。大江山、伊吹山、瑜伽山などなど、他にもたくさん。
 鍛冶系の技術を持ていたためとも言われていますが、人目を忍んで生きるには山が一番だったんだろうなって思う。
 
 さらに山って、仏教が入ってくると修験者が修行に入りますよね。その頃から天狗が現れ始めて、鬼の討伐が減っていく。
 仏教は中央の政治に深く関わっていましたから、相いれなかった鬼と人の間に入った修験者(天狗)って感じで良い緩衝材になったんじゃないかと思います。

 で、ようやく本作の「化野の鬼」ですが、化野に鬼はいません。作者の完全オリジナルです。
 化野は平安時代の死体置き場、置き場って言うとお上品な表現だなって思う。捨て場です。あの頃の埋葬って、場所を決めて放るだけで、土葬ってしなかったので、鳥や獣が食べたり(鳥葬とか言ったりするけど)時間経過で朽ちたりして土に還っただけ。
 想像してみてください、当時の化野の風景を。阿鼻叫喚ですよ。
 そりゃ「穢れ」って思っちゃうよね。普通に怖い。

 今でも化野の小倉山の麓には念仏寺という寺があり、御霊を弔っています。
 京都で「野」という漢字が付く地名は「田舎」って意味です。京から外れた場所だから死体を捨てる場所にする的な発想です。「野」が付く地名は大体が元・死体置き場です。

 芥川龍之介の羅城門なんか読むとわかると思いますが、あの時代ってその辺にいくらでも死体が転がっていて、運んでも運んでも間に合わない感じでした。疫病とか飢饉とか絶えなかったからね。 
 貴族は裕福でも一般庶民はえらく貧乏だった、貧富の差が激しいなんてもんじゃない時代でした。
 だから死体置き場、必要だったんだよね。

 あの時代の考え方として、死は「穢れ」です。高貴な方が触れてはいけない。それを管理する者は絶対に必要だけど、皆が穢れと忌み嫌い寄り付かない。
 だからこそ、墓守はどの時代、どの国でも嫌われます。そういった差別や侮辱は、悲しいかな現代日本にもいまだ根強く残っています。

 そういう考えから生まれたのが「墓守の鬼」「化野の鬼」です。
 「穢れ」を纏う「鬼」という、忌み嫌われる要素をいくつも持って生まれてしまった男、それが化野護です。
 ウチの二人目の主人公は、直日神様が「穢れに塗れながら清い眼を持つ鬼」と評する優しい人です。

 最強の惟神、清浄の代名詞ともいえる瀬田直桜の恋人が、穢れの代表ともいえる墓守の鬼・化野護って、なんか滾る。
 しかも直桜自身が護を穢れだなんて微塵も考えていないって辺りがすごく良いよねって作者としては思ってます。

 本作の神様は鬼を一括りに差別しません。鬼と呼ばれた人々が、本来どういう生き物だったかを良く知っているから、という裏設定があります。勿論、嫌う神様もいるけどね。
 日本神話とか読んでいると、神様も俗っぽいなって思う。神話は日本に限らず、どの国もどの神話も、人間より人間臭ぇ神様がたくさんいます。
 だから本作の神様も、失敗したり後悔したり躊躇ったり、時に悪戯したりしています。決して絶対的な存在ではない。そんなもんだよねって思う。


さて、次回は「熊野」について。





本作はこちら↓
『仄暗い灯が迷子の二人を包むまで』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/20419239/463890795
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