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第24話 蘇った真の名
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「ついでに、あの程度のまじないや札で動けなくなる程、弱い神様でもないのよねぇ、睦樹ちゃん」
声と共に小さな旋風がどこからともなく吹き巻く。
ふわりと香った甘い匂いと薄紫の花弁が舞って、その場に紫苑が姿を見せた。
「六!」
紫苑が抱きかかえる六の姿を見付けて、伊作が声を上げる。
「お父ちゃん」
紫苑の腕から飛び出して、六が伊作に駆け寄る。
小さな体を力いっぱい抱き寄せて、伊作は涙を流した。
「六、六、無事で良かった、本当に」
安堵したようにぴったりと父親に縋りつきながら、六は伊作の後ろの布団で横たわる松の姿に目を向けた。
「お母ちゃん、寝てるの?」
無垢な瞳が問う言葉に、伊作は顔を歪めて俯いた。
「父ちゃんのせいで母ちゃんが大怪我しちまって、すまねぇ、六」
六は父親の胸を離れ、眠る松に駆け寄る。
懐から黒い羽根を取り出した。
「あれは、僕の羽根」
六を守るため必死に手渡した羽根を、六はまだ持っていた。六は睦樹の黒い羽根を母親の手に握らせる。
「六の宝物、お母ちゃんにあげるね。早く怪我が治りますように」
小さな手と手を合わせて願う。すると羽根から光が零れ、松の体を包み込んだ。
溢れる光に目が眩んで、伊作と甚八は目を瞑る。
六は光に包まれる母親の姿を、目を開きしっかりと見詰めていた。
やがて弱くなっていく光が松の体に吸い込まれるように消え去った。
それと同時に、松が薄らと目を開いた。
「……むつ?」
顔を覗き込む六に気が付いて、松が声を発する。伊作は跳ね上がって驚いた。
「松、しゃべれるのか、松!」
医者には、気管も焼けて話すことはできないだろうと、見放されていた。
畳の上を這いながら近づき顔を覗き込むと、松は弱く笑った。
「大丈夫、みたいだよ」
松が、六に手を伸ばす。
「六、無事だったんだね、良かった、本当に。ちゃんと見つかって、良かった」
すうっと流れた涙が布団に沁みる。六は嬉しそうに母親に抱き付いた。
「睦樹の羽根って、あんな力もあるんだね」
一葉が感心したように睦樹を振り返る。
睦樹は、ふるふると首を振った。
「知らない、あんな力、使ったことがない」
一番驚いた顔をしてその光景を見ていた睦樹の元に、六がちょこちょこと近づいて、ぺこりと頭を下げた。
「助けてくれて、優しくしてくれて、ありがとう、神様」
「僕は何も……」
できなかった、と思った。
ただ傍に居て一緒に遊んでいただけだ。
むしろ六の面倒を良く見てくれたのは紫苑をはじめとする、あやし亭の面々だ。
少し情けないような、申し訳ないような気持ちになっていると、六が懐やら袖から一所懸命に何かを取り出し始めた。
「これ、神様にあげる。これも六の大事な宝物」
六の小さな手から零れそうな程いっぱいに持っていたのは、沢山の松ぼっくりやドングリだった。
「これは、あの、里山の?」
六がこくりと頷く。無意識に震えてしまう手が六から宝物を受け取る。
とても懐かしい匂いがして、心の奥に沁みこんだ。
「ありがとう、六」
気が付けば手の中いっぱいの松ぼっくりとドングリに顔を埋めて匂いを感じていた。自分たちの故郷の、森の匂いをいっぱいに吸い込む。今はもう、嗅ぐことのできない匂いを。
「神様と、もう一人の白い神様にも」
六のさりげない言葉を聞いて、睦樹は閉じていた目を開いた。
「白い、神様……」
六はやはり、こくりと頷いた。
「あの時、神様と一緒にいた、白い神様」
ぶわっと突風が睦樹の全身を吹き抜けた。
走馬灯のように湧き上がる記憶が風に乗って脳裏を駆け抜けていく。
真っ白く艶やかな長い髪、月白に輝く美しい白い羽。
優しい微笑が守るように名を呼ぶ。
『蒼羽』
それは紛れもなく、自分の名を呼ぶ声だ。
大好きで本当はずっと一緒に居たかった、友達だと思っていた、たった一人の兄。
「深影……」
ぱたりと膝を折り、睦樹はその場にへたり込んだ。
目尻に溜まった涙がすぅと頬を流れていく。
その様子を、あやし亭の面々は何も言わずに只々見守っていた。
其々が様々な思いを胸に抱いて。
声と共に小さな旋風がどこからともなく吹き巻く。
ふわりと香った甘い匂いと薄紫の花弁が舞って、その場に紫苑が姿を見せた。
「六!」
紫苑が抱きかかえる六の姿を見付けて、伊作が声を上げる。
「お父ちゃん」
紫苑の腕から飛び出して、六が伊作に駆け寄る。
小さな体を力いっぱい抱き寄せて、伊作は涙を流した。
「六、六、無事で良かった、本当に」
安堵したようにぴったりと父親に縋りつきながら、六は伊作の後ろの布団で横たわる松の姿に目を向けた。
「お母ちゃん、寝てるの?」
無垢な瞳が問う言葉に、伊作は顔を歪めて俯いた。
「父ちゃんのせいで母ちゃんが大怪我しちまって、すまねぇ、六」
六は父親の胸を離れ、眠る松に駆け寄る。
懐から黒い羽根を取り出した。
「あれは、僕の羽根」
六を守るため必死に手渡した羽根を、六はまだ持っていた。六は睦樹の黒い羽根を母親の手に握らせる。
「六の宝物、お母ちゃんにあげるね。早く怪我が治りますように」
小さな手と手を合わせて願う。すると羽根から光が零れ、松の体を包み込んだ。
溢れる光に目が眩んで、伊作と甚八は目を瞑る。
六は光に包まれる母親の姿を、目を開きしっかりと見詰めていた。
やがて弱くなっていく光が松の体に吸い込まれるように消え去った。
それと同時に、松が薄らと目を開いた。
「……むつ?」
顔を覗き込む六に気が付いて、松が声を発する。伊作は跳ね上がって驚いた。
「松、しゃべれるのか、松!」
医者には、気管も焼けて話すことはできないだろうと、見放されていた。
畳の上を這いながら近づき顔を覗き込むと、松は弱く笑った。
「大丈夫、みたいだよ」
松が、六に手を伸ばす。
「六、無事だったんだね、良かった、本当に。ちゃんと見つかって、良かった」
すうっと流れた涙が布団に沁みる。六は嬉しそうに母親に抱き付いた。
「睦樹の羽根って、あんな力もあるんだね」
一葉が感心したように睦樹を振り返る。
睦樹は、ふるふると首を振った。
「知らない、あんな力、使ったことがない」
一番驚いた顔をしてその光景を見ていた睦樹の元に、六がちょこちょこと近づいて、ぺこりと頭を下げた。
「助けてくれて、優しくしてくれて、ありがとう、神様」
「僕は何も……」
できなかった、と思った。
ただ傍に居て一緒に遊んでいただけだ。
むしろ六の面倒を良く見てくれたのは紫苑をはじめとする、あやし亭の面々だ。
少し情けないような、申し訳ないような気持ちになっていると、六が懐やら袖から一所懸命に何かを取り出し始めた。
「これ、神様にあげる。これも六の大事な宝物」
六の小さな手から零れそうな程いっぱいに持っていたのは、沢山の松ぼっくりやドングリだった。
「これは、あの、里山の?」
六がこくりと頷く。無意識に震えてしまう手が六から宝物を受け取る。
とても懐かしい匂いがして、心の奥に沁みこんだ。
「ありがとう、六」
気が付けば手の中いっぱいの松ぼっくりとドングリに顔を埋めて匂いを感じていた。自分たちの故郷の、森の匂いをいっぱいに吸い込む。今はもう、嗅ぐことのできない匂いを。
「神様と、もう一人の白い神様にも」
六のさりげない言葉を聞いて、睦樹は閉じていた目を開いた。
「白い、神様……」
六はやはり、こくりと頷いた。
「あの時、神様と一緒にいた、白い神様」
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走馬灯のように湧き上がる記憶が風に乗って脳裏を駆け抜けていく。
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優しい微笑が守るように名を呼ぶ。
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それは紛れもなく、自分の名を呼ぶ声だ。
大好きで本当はずっと一緒に居たかった、友達だと思っていた、たった一人の兄。
「深影……」
ぱたりと膝を折り、睦樹はその場にへたり込んだ。
目尻に溜まった涙がすぅと頬を流れていく。
その様子を、あやし亭の面々は何も言わずに只々見守っていた。
其々が様々な思いを胸に抱いて。
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