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第一章 ガラクタの命

20.番になる準備

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 夕餉の時も紅はいつも通り一緒にいてくれた。
 お風呂にも一緒に入った。最初の一回だけと言っていたのに、体をきれいに洗ってくれた。
 前より入念に、尻の中まで洗われて、ドキドキした。
 一緒の布団に入ると、紅が蒼の頬をじっくりと撫でた。

「蒼のお願いに応えて、毎晩ぎゅってして寝ようね。独り占め、していいよ」

 大きな胸に抱かれて、ドキドキする。
 
(おかしいな。今までもこんな風にして寝てたのに。前よりドキドキする)

 触れる胸も包んでくれる腕も温かくて安心するのに、鼓動がうるさい。
 
「そうそう、屋敷周囲の結界は強化したけど、蒼も少しずつ霊能を鍛えようね。この国では自衛は大事だから」

 何とも物騒だなと思うが、紅の言う通りだと思った。

「はい、頑張ります」

 気合を入れる蒼に、紅が眉間にしわを寄せて溜息を吐いた。

「俺も本気で対策を打つよ。今の状態で蒼を喰われたりしたら、本気で蛇々を殺しちゃいそうだし、国も壊しちゃいそうだから」
「え? 国?」

 スケールが違い過ぎる単語が飛び出して、呆けてしまった。
 呆けている蒼の顔を眺めて、紅が思い出した顔になった。

「ん? あぁ……。そういえば話してなかったね。俺には、この国の均衡を保つ役割があってね、俺が暴走すると瑞穂国が消滅しちゃうかもしれないんだ」

 あんぐりと口を開いて、蒼は言葉を失くした。
 王様やってる友人の手伝い、と芯は教えてくれたが、均衡を保つのが手伝いなんだろうか。

「均衡を保つと言っても、国を支える神様の茶飲み友達してるだけなんだけどね。その為に、月に一回は出掛けてるの」
「神様とお話しするために、ですか?」
「そう。仲良しの友人が国の統治者でさ。お願いされてるんだ」

 紅は普段から話し口が軽いので、重い話も何でもないように聞こえる。
 けれど、今日の話は流石に軽くは聞こえなかった。

「紅様は、この国の偉い妖怪だって芯が教えてくれたけど、凄い妖怪だったんですね」
「別に凄くないよ。この国に住んでいる妖怪には、それぞれに役割がある。俺はたまたま、均衡を保つ役割だっただけ」

 紅の腕が蒼を引き寄せて胸に抱きしめた。

(つまり、紅様がご機嫌を悪くしたら均衡が崩れて国が滅ぶ、のかな?)

 そう考えたら怖くて身震いした。
 紅の腕の中でプルプル震える蒼を、紅が心配そうに見下ろす。

「もう、あんな風に怖い思いを蒼にさせたりしないよ。友人に相談して、根本から解決するから」

 正直、蛇々より紅の方が怖い気がして震えたのだが、黙っておいた。

「友人て、王様されてる友人の妖怪に、ですか?」
「王様か……。まぁ、そのようなものだけど。それっぽい名称がないから、表現が難しいね。黒曜こくようって名前だから、会ったら、そう呼んであげてね」

 何ともハードルが高い話だと思った。
 王様を名前で呼んで良いのだろうか。
 蒼の表情を眺めていた紅が、吹き出した。

「瑞穂国ではさ、名前が総てなんだ。黒曜って名前を聞けば、統治者だと皆が理解できる。現世みたいな肩書がないのは、人間には不便な感覚かもしれないけど。もう千年以上、統治者が変わってないから、名前で問題ないんだよね」
「紅様もずっと、均衡を保つお仕事をされているんですか?」
「そうだよ。役割は、そう変わらないからね」

 なんだか、納得できた。
 永遠にも似た時間を同じ仕事をして生きるのならば、名称なんか一つで良い。
 むしろ、色んな肩書を作る方がわかり難くて煩わしい気がした。

「その代わり、名前はとても大切でね。それについては後で、ちゃんと説明してあげるね。蒼にも関わりがある話だから、ちゃんとね」
「僕にも?」
「うん。番になるために必要な話だよ。だから、後でね」
「わかりました……」

 紅が「ちゃんと」と念を押すのだから、きっととても大切な話なんだろう。
 布団で添い寝しながら聞いていい話ではないのだ。

「先に黒曜に蒼を紹介しようと思うんだ。番になるためにも必要だけど、蒼の身の安全のためにもね」
「え? 王様に?」

 驚いて顔を上げる。
 紅が眉を下げて笑っていた。

「餌として買ってる人間をどれだけ盗まれようと喰われようと、この国では誰も大事おおごとだなんて思わない。けど、番候補の相手を盗まれた、襲われたとなると、まるで話が変わるからね。黒曜も動いてくれる」
「そうなんですね……」

 この国では餌の人間をどう扱おうと、咎めは受けない。
 しかし、番になれば半妖になると紅が話していた。
 その時点で扱いが変わるのだろう。
 番という存在が、この国の妖怪にとってどれだけ重要か、わかった気がした。

「本当に僕で、良いんでしょうか。紅様の番が、僕なんかで、いいんですか?」

 途端に不安になって、紅を見上げる。
 自分からかなり押してしまったが、分不相応だったかもしれない。だから紅は躊躇したんだろうか。
 唇に、温かい柔らかさが降ってきた。
 下唇を吸い上げて、チュッと離れた。

「蒼じゃなきゃ嫌だよ」

 紅の唇が首筋の肌を吸い上げる。

「んっ……」

 くすぐったくて声が漏れた。
 やんわりと両手を押さえつけられて、開けた着物から覗く胸に唇が降りる。
 
「ぁっ……」

 柔らかい舌が胸を舐め上げて、腰が浮いた。
 乳首の周りと舌が張って、くすぐったいのに気持ちがいい。
 舌先で胸の尖りを押されて、体がビクビクした。
 もう片方の乳首を着物の上から擦られる。布が擦れる感覚が余計に気持ち良くて、腹の奥に快感が疼く。

「ぁ、や、んっ……」

 舌で舐め回されてすっかり尖った先を、強く吸われた。
 やんわりと男根に指が這う。 
 大袈裟なくらいに、体が飛び跳ねた。

「可愛いね、蒼。もう涙目になって、蕩けた顔をして」
「は……ぁん」

 唇を塞がれて、言葉が紡げない。
 紅の手が男根を優しく扱く。もう片方の手が、尻に伸びた。

「んっ」

 塞がれたままの口から声が漏れた。
 尻の穴をくいくい押していた紅の指が、つぷりと中に入ってくる。
 思わず、紅にしがみ付いた。

「蒼、力を抜いて。じゃないと、痛いよ」
「ちから、抜くって、どうしたら……」

 蒼の顔を眺めた紅が、股間に顔を埋めた。
 蒼の男根を咥え込んで、舌を這わせて吸い上げる。

「ぁっ! 急には、ダメ、ですっ、ぁぁっ」

 舌が這う感触も、先を吸い上げられる快感も、総てが腹に溜まっていく。

「ぁ、も、きもちぃ、ぁ、ぁっ!」

 男根を咥えて舐めている間も、紅の指は蒼の後ろに口に入ったままだ。
 中を擦る指が、最初はきつかったのに、段々と気持ち良く感じられる。

「くれない、さま、も、でちゃぅぅっ」

 ビクビク震える腰を押さえつけられて、更に深く咥え込まれた。
 引きながら、先まで強く吸われる。

「ぁぁっ、ん……」

 腹の中に疼いていた快楽が、先から溢れて紅の口の中を汚した。
 脱力して果てる蒼を嬉しそうに眺めながら、紅が口の中の蒼の白濁を飲み込んだ。

「ぁぁ、美味しい……、前よりずっと美味しいよ。霊元が開いて、霊力が更に濃くなった。まるで蜂蜜を舐めてるみたいだ」

 うっとりと顔を蕩けさせた紅の顔が迫って、唇を食んだ。

「良い感じに体の力が抜けたね。もっと俺の指を感じて、蒼」

 後ろの口に入ったままの紅の指が、中を擦り上げる。
 ビリビリと電気が走って背筋から頭に抜けた。

「ぁっ! ぁ、ぁんっ」

 背中を逸らせて快楽に耐える蒼を、紅が嬉しそうに眺める。

「蒼の悦いトコ、見付けた」
「ぁ、んっ、やっ」

 口からは喘ぎ声しか発せない。

(何、これ。こんなの、知らない。フェラされるのと、全然違う)

 気持ち良すぎて怖くて、蒼は紅に手を伸ばした。

「紅様、くれない、さまぁ……」

 蒼の腕を掴んで引き寄せると、その腕を紅が自分の首に回した。

「俺にしがみ付いてて、いいよ。今宵は中で気持ち悦くなるの、覚えようね」

 ろくに返事も出来ないくらい、紅の指に意識が集中する。
 紅の唇が重なって、強い妖力が流れ込んできた。

「ぁ……、ん……」

 体中が熱くなって力が抜けた瞬間、一際強い快楽が、体から吹き出した。

「んんっ」

 自分の腹の辺りが熱くなって、絶頂したんだとわかった。
 体に力が入らなくて、紅に凭れ掛かる。
 蒼の体を腕に抱いて、紅が横たわった。

「紅様の、寝間着、汚しちゃいました、ごめん、なさい」

 体を密着させて射精してしまったから、紅の腹もべとべとだ。

「もっと汚してくれていいよ。蒼の精液なら俺には御馳走だから。蒼がもっと気持ち悦くなって、俺を好きになってくれたら、もっと美味しくなるからね」

 紅が蒼に口付ける。 
 その唇を食み返した。

「紅様の、妖力も、美味しい……、です。もっと、欲しい」

 チュクチュクと紅の唇に吸い付く。
 また妖力が流れこんできて、体が熱くなった。

「いっぱい食べて、いっぱい感じて。こんな風に霊力と妖力を交換して、交わらせて、繋がりながら循環させるんだ。そうやって一つになっていくんだよ。番になる準備だよ」

 紅が語る言葉が嬉しくて、胸が熱くなる。

「早く、番になりたい。紅様の僕になりたい。好きです、紅様……」

 自分から唇を寄せたら、抱き締められた。

「可愛い、俺の蒼。可愛すぎて、抱き潰しそう。蒼はもう、俺のだよ」

 紅の体がいつもより熱くて、その熱が気持ち良くて、蒼は幸せな気持ちのまま抗えない眠気に落ちた。
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