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 二人とも夜着のまま蝶の羽根のような光沢のある天蓋を見上げて、ずっと聞こえていた砂嵐すら届かぬ部屋の中、お互いの体温だけを感じる。兄もぐっと熱くなった掌でオリヴィエの頬を撫ぜてきたので身震いをして「あんっ」と甘いため息をついてでてしまう。

「兄様……」

抱いて。

    オリヴィエは真っ直ぐにそう懇願してしまいかけたが、兄は何かをこらえるような雄の色気漂う顔をして、しがみ付いていたオリヴィエの身体を自分の胸からゆっくりと離した。その僅かな距離も、オリヴィエには絶望的に思えるほど哀しい。

「ハーゲンティ。聞き覚えがある名前だな。多分先祖にいたはずだ」
「僕は調べたよ。ハーゲンティ様」
「どんな人だったんだ? 俺たちがあったあの人はもう、この部屋に残るあの人の記憶か魂の断片だけだろう?」
「そうだね。だけど今は」

 オリヴィエは絹連れの音をさせて起き上がると、すんなりと長い脚で厚みがある兄の身体の上に逃がさんとばかりに跨った。その拍子に虹真珠が胸から飛び出してきて、兄の鼻先に当たる。
 兄はそれを複雑そうな顔で見つめてからオリヴィエを見上げた。

「僕は、好きでもない相手の花嫁になるのは絶対に嫌」
「俺だって、お前を大叔父上の元にやるのは絶対に嫌だ」

 兄の鋼鉄のような爪にひっかかり、金色の鎖がほろりと解けるように千切れて落ちる。

「虹真珠か。お前のことを一番愛してくれるやつと結ばれるようと探したんだけどな」

 指先で虹真珠を摘まみ上げた兄は、牙は鋭いし、爪は恐ろしいし、瞳なんていつでも火が周りを焦がしながら舐めるようなちらちらと怖ろしい光を放っている癖に。

(なんでこんなに優しいんだろう)
 オリヴィエは兄のことが愛おしすぎて、切なくなって涙が止まらない。虹真珠を日に透かすように見つめていた兄の頬にも、虹真珠にも透明な雫がぽとぽとと落ちる。

「違うんだよ」
「え……」
「僕がその真珠が欲しかったのは、結ばれることが難しい相手とでも結ばれるって伝説があったから」
「リヴィ」

  赤と青。情欲に濡れた互いの視線が切なげに交わり、たっぷりと見つめ合う。
  先に口を開いたのはオリヴィエの方だった。

「兄さまが好き。お願い、僕に貴方の紋を刻んでください」

 そういうとオリヴィエは兄の答えを聞くのが怖くて、強引に口付けをした。
 体格の差が大きいから、普段は抱き上げられるかレヴィアタンからしか施されぬ口づけを、今はオリヴィエが思いのたけを込めて兄の唇に押し当てる。
 自分の涙が口に入りしょっぱかったが、兄の指がオリヴィエの頭の裏に回った時、爪が隠されたと分かると、オリヴィエは兄に拒まれてはいないと悟り嬉しくなった。
 一度唇を離されると、ぐるんと天地が逆になる。驚いて兄を見上げたら角もしまわれていて、胸がとくんっと高鳴った。そのまますぐに兄の方から貪るような口づけを返される。

「オリヴィエ、幼い頃からずっと俺のものにしたかった」

 口づけの合間に熱っぽく囁かれる兄の本心に、オリヴィエはたまらなく感じてしまう。

「生涯かけて、お前のことを愛しぬくと誓うよ」
「うん。沢山愛して」

 求めあう心が急いてしまい、衣服を息の合った調子で脱がせ合うから、腕がぶつかってしてしまってその余裕のなさにお互いに苦笑する。互いの身体はすでに欲望の印がはっきりと分かるほどに興奮しきっていたし、オリヴィエだけでなく、兄もこんな風に他人と抱きしめ合うのは初めてなのだ。

(兄さまもう、牙が出てきてしまってる)
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