香りの献身 Ωの香水

天埜鳩愛

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溺愛編

家族1

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 兄弟の対面が一段落ついたのを見計らったかのように動物園の飼育員として働いているサンダの妻フレイが、なんとなく煤けてた深い緑色の作業着を着たまま夜勤途中で顔を見せにきてくれた。

「はじめまして~ 私がお兄さんの奥さんのフレイよ~」

 フレイは色白で髪の毛は明るい茶色、目もブルーで明らかにフェル族よりでない容姿をしていたが、四分の三、ソート派の血が流れているのだそうだ。

 ひょろっと背が高く痩せていて、もみあげのあたりを短く刈り込んだ独特の髪型といい、まん丸の眼鏡と言い、まるで少年のような容貌だ。とてもあのアダンの母親という雰囲気ではなくて、いいところ姉といったところだろう。

(兄さんが愛した人。この人の為にこの場所で生きることを決意した人)

「ヴィオ君、仲良くしましょうね~」

 セラフィンのくっついていたヴィオを引き倒す勢いでフレイが後ろから飛びついてきたので驚いたが、ほっそりした彼女を抱き止めてなんだか嬉しかった。

「沢山、家族が増えて。嬉しいな」

 にっこり笑って彼女を抱きしめ返したヴィオに、フレイもそばかすの多い頬を真っ赤にして大声を上げた。

「か、可愛すぎる~ うちのアダンと大違い!」
「ちょっと、フレイ! 貴女作業着のまんまでしょ! ヴィオ君が汚れちゃうじゃない」
「ごめんごめん!」

 サンダは賑やかな女性たちの登場で逆に静かになったが、穏やかな眼差しで二人を見守っている。まるで姉と妹のようなやり取りをする二人の女性の息のあった雰囲気と、明るいやり取りは兄が確かにこの地に根付き、守ってきた気取らない和やかな家族の姿を見せつけてきた。

(いいなあ。僕もいつか先生と……)

 そんな風に想いながらセラフィンを見上げると、慈しむように優しく微笑む麗しい顔と目があってヴィオは思わず気が抜ける程ほっとした。

 その後やはり思春期、年頃のせいか部屋に閉じこもって出てこないアダンをは放っておくことになり、長老であるクインをはじめ、駆け付けてくれた母方の叔父のルミナやディゴを交えて食事の席が設けられた。
 クインはセラフィンを何度か家に招いていたのだがセラフィンの都合がつかず、今回思いがけない形で彼が応じてきてくれたように終始上機嫌だった。
 真っ黒に日に焼けた皺よりも艶っとした額が目立つ顔は湖に集うフェル族をけん引してきた猛者というよりも、優しい好々爺といった印象でヴィオは一目で彼を好きになった。

「この子は顔を見たらすぐにルピナの子だってわかるな」

 クインはまるで小さな子にするようにヴィオの頭をわしわしとなでつける。

「俺がちっさいころに見た、姉さんにそっくりだな……」

 酒が入ると涙もろくなるというルミナはそう言って、ヴィオとよく似た形の大きな目からぼろぼろと涙を零しながらヴィオにどんどんと酒を注いできた。

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