13 / 222
邂逅編
紋入りコイン1
しおりを挟む
涙が滲みそうな顔でセラフィンをじっと見上げるヴィオの方に手をやり、再び目を合わせ力づけるように大きく頷く。夜目の利くヴィオにはセラフィンが優美に微笑んで、勇気づけてくれたのがわかった。
姉のリアは弟がこれほどに見知らぬ青年に懐いていることに驚くが、自分もセラフィンから離されたヴィオの腕を掴み返して弟を家に連れ帰る気満々だ。
「ヴィオ、叔母さんのことは俺らに任しときな」
ジルがセラフィンの言葉を代弁するように暗闇の中でも明るく威勢の良い声をかけたので、ヴィオはしっかり背筋を伸ばすと二人に向かってしっかりと頭を下げた。
「叔母さんを、よろしくお願いします」
姉に引っ張られるようにしてヴィオは二人を時折振り返りながら、家への細い畔道を上がっていった。
我が子が家に入るまでを見届けた父は、セラフィンたちを振り返ると二人をまっすぐにとらえる。
「息子が世話になったようだ。礼を言う」
礼は言われたものの、自分たち二人を明らかに訝しむ空気感を感じてジルは中央の街で勤務中に暴漢に対応するときよりさらに強く、緊張を漲らせた。
「いいえ。それには及びません。私も丁度この里に用があって参った次第です。私は以前からフェル族の研究をしております。もちろん軍は関係ありません。私個人のライフワークとしてです。私の話はまた後程。それよりヴィオくんの叔母さまの容態が芳しくないと伺いました。先に診ましょう」
再びヴィオとよく似た金色の環を持つ虹彩に強い光を宿らせたヴィオの父に、セラフィンは美しい目を見開いて臆せず対峙する。
元より自分を値踏みするような眼差しには慣れっこだ。ジルがセラフィンの意図を正確に察して、助手席から下ろした大きな黒革鞄を取り出すとセラフィンに手渡した。
そしてヴィオの父からもよく見えるように地面に置いて肩と頭とで懐中電灯を抑えて中身を照らしながら、すぐ取り出せるところに入れておいた身分証明書を取り出して見せる。
ヴィオから車の中で聞いていた父親は、里の長であり、厳しくそして用心深い人物であるとのことだった。礼を尽くして誠実な態度で接しなければ話も聞いてはもらえないかもしれないと。だからヴィオはとりあえず父と話をする前に叔母を見てもらおうと先走ったのだ。
セラフィンは彼なりに考えた結果、自分の身分をしっかり晒すことで信頼を得ようとした。
「これが私の軍の身分証明書。ジル、お前のも出して」
ジルは聞かれることをわかっていたように肩掛けしていたリュックから警察官として身分証を速やかに取り出して、それも明かりの下にかざす。
特に感慨を覚えた様子ではないが、ヴィオの父はそれらに目を通していた。
姉のリアは弟がこれほどに見知らぬ青年に懐いていることに驚くが、自分もセラフィンから離されたヴィオの腕を掴み返して弟を家に連れ帰る気満々だ。
「ヴィオ、叔母さんのことは俺らに任しときな」
ジルがセラフィンの言葉を代弁するように暗闇の中でも明るく威勢の良い声をかけたので、ヴィオはしっかり背筋を伸ばすと二人に向かってしっかりと頭を下げた。
「叔母さんを、よろしくお願いします」
姉に引っ張られるようにしてヴィオは二人を時折振り返りながら、家への細い畔道を上がっていった。
我が子が家に入るまでを見届けた父は、セラフィンたちを振り返ると二人をまっすぐにとらえる。
「息子が世話になったようだ。礼を言う」
礼は言われたものの、自分たち二人を明らかに訝しむ空気感を感じてジルは中央の街で勤務中に暴漢に対応するときよりさらに強く、緊張を漲らせた。
「いいえ。それには及びません。私も丁度この里に用があって参った次第です。私は以前からフェル族の研究をしております。もちろん軍は関係ありません。私個人のライフワークとしてです。私の話はまた後程。それよりヴィオくんの叔母さまの容態が芳しくないと伺いました。先に診ましょう」
再びヴィオとよく似た金色の環を持つ虹彩に強い光を宿らせたヴィオの父に、セラフィンは美しい目を見開いて臆せず対峙する。
元より自分を値踏みするような眼差しには慣れっこだ。ジルがセラフィンの意図を正確に察して、助手席から下ろした大きな黒革鞄を取り出すとセラフィンに手渡した。
そしてヴィオの父からもよく見えるように地面に置いて肩と頭とで懐中電灯を抑えて中身を照らしながら、すぐ取り出せるところに入れておいた身分証明書を取り出して見せる。
ヴィオから車の中で聞いていた父親は、里の長であり、厳しくそして用心深い人物であるとのことだった。礼を尽くして誠実な態度で接しなければ話も聞いてはもらえないかもしれないと。だからヴィオはとりあえず父と話をする前に叔母を見てもらおうと先走ったのだ。
セラフィンは彼なりに考えた結果、自分の身分をしっかり晒すことで信頼を得ようとした。
「これが私の軍の身分証明書。ジル、お前のも出して」
ジルは聞かれることをわかっていたように肩掛けしていたリュックから警察官として身分証を速やかに取り出して、それも明かりの下にかざす。
特に感慨を覚えた様子ではないが、ヴィオの父はそれらに目を通していた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
────妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる