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「同等に扱ってもらいたいなら、正々堂々と俺たちと勝負するんだ」

 日頃あまり冗談を言う方ではない碧だ。キャプテンとしてチームに重要な発言をする時に使うような声色できっぱりと言い切った。驚いて目を向けると、麗紋の手を持ち上げ、恭しく白い甲に口付けを落とす。気障な仕草だが、翠より僅かに太く吊り上がった並行眉をもつ碧が真面目な顔をしてすると、真に迫って妙に色っぽい。麗紋はかあっと頬を染めてしまった。

「約束だ」
「碧兄……」
「いいね。俺もやる気になってきた! それに碧にだけ可愛い顔してみせるの禁止。俺にもきゅんっとしてくれないとね」

 今度は翠が誓いの口付けと称して、軽く音を立てて麗紋の柔い頬にキスをした。

「覚悟しといてね? れーちゃん。約束だよ。どんないうことでも、聞いてもらうんだからね」

 悪戯が成功したような翠の微笑みは青空の下の向日葵みたいに底抜けに明るい。しかし瞳には普段は見ないどきりとするような熱情が見え隠れして麗紋は息を詰める。

 二人の芝居がかった仕草が続いたから、麗紋は自分がなにか重大な約束を取り付けてしまったのではないかと思い、内心胸の鼓動が高鳴るのを止めることができなかった。

「「俺たちからの約束はね……」」

※※※

 コートの上であの時の二人のこの上なく妖しく魅惑的だった表情を思い出し、麗紋は捕食される寸前のねずみのようにぶるぶると震えた。

(絶対無理、絶対あの約束だけは無理無理無理)

 三年生チームは五人中、バスケ部員は二人。片や麗紋率いる一年生チームはバスケ部員五人。
 絶対に負けられないこの試合。現役部員で固めるという禁じ手まで使って従兄弟たちのチームを九対十まで追い込んだ。

「やった、やった! 加賀谷、ナイスシュート」

 たった今逆転ゴールを決めた一年生のエースに向かって麗紋は飛びつくと、加賀谷がしっかり抱き止めて二人してコートの中でくるくるっと回った。
 今度は女生徒から金切り声のような悲鳴と「カガれもん! 爽やかすぎ!」という掛け声がかかった。
 勝利を確信した麗紋は色白の頬を上気させ、たいそう愛らしい顔で加賀谷に向かってにへらと微笑んだ。加賀谷も思わず相好を崩しかけたが、ものすごい圧を双子方面から感じて慌てて気合を入れなおした。

「おい、レモン。まだ試合は終わってないぞ」

 加賀谷が焦り声で促したから、麗紋はあわてて他のチームメイトに檄を飛ばした。

「戻って! 守れ、守れ!」

 試合時間は残り一分を切った。防戦一方になった一年生チームに、三年生チームのバスケ部員が最後の攻撃を仕掛けてきた。

「翠!」

 元バスケ部部長である碧はボールを奪いに来た一年生をフェイントで躱すと何故か自陣に向かって強く長いパスを回す。もはややけになったのかと思うような荒さだったが、そこにすでに引退するまで主力選手だった翠が堂々と待ち受けていた。
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