7 / 22
7
しおりを挟む
「同等に扱ってもらいたいなら、正々堂々と俺たちと勝負するんだ」
日頃あまり冗談を言う方ではない碧だ。キャプテンとしてチームに重要な発言をする時に使うような声色できっぱりと言い切った。驚いて目を向けると、麗紋の手を持ち上げ、恭しく白い甲に口付けを落とす。気障な仕草だが、翠より僅かに太く吊り上がった並行眉をもつ碧が真面目な顔をしてすると、真に迫って妙に色っぽい。麗紋はかあっと頬を染めてしまった。
「約束だ」
「碧兄……」
「いいね。俺もやる気になってきた! それに碧にだけ可愛い顔してみせるの禁止。俺にもきゅんっとしてくれないとね」
今度は翠が誓いの口付けと称して、軽く音を立てて麗紋の柔い頬にキスをした。
「覚悟しといてね? れーちゃん。約束だよ。どんないうことでも、聞いてもらうんだからね」
悪戯が成功したような翠の微笑みは青空の下の向日葵みたいに底抜けに明るい。しかし瞳には普段は見ないどきりとするような熱情が見え隠れして麗紋は息を詰める。
二人の芝居がかった仕草が続いたから、麗紋は自分がなにか重大な約束を取り付けてしまったのではないかと思い、内心胸の鼓動が高鳴るのを止めることができなかった。
「「俺たちからの約束はね……」」
※※※
コートの上であの時の二人のこの上なく妖しく魅惑的だった表情を思い出し、麗紋は捕食される寸前のねずみのようにぶるぶると震えた。
(絶対無理、絶対あの約束だけは無理無理無理)
三年生チームは五人中、バスケ部員は二人。片や麗紋率いる一年生チームはバスケ部員五人。
絶対に負けられないこの試合。現役部員で固めるという禁じ手まで使って従兄弟たちのチームを九対十まで追い込んだ。
「やった、やった! 加賀谷、ナイスシュート」
たった今逆転ゴールを決めた一年生のエースに向かって麗紋は飛びつくと、加賀谷がしっかり抱き止めて二人してコートの中でくるくるっと回った。
今度は女生徒から金切り声のような悲鳴と「カガれもん! 爽やかすぎ!」という掛け声がかかった。
勝利を確信した麗紋は色白の頬を上気させ、たいそう愛らしい顔で加賀谷に向かってにへらと微笑んだ。加賀谷も思わず相好を崩しかけたが、ものすごい圧を双子方面から感じて慌てて気合を入れなおした。
「おい、レモン。まだ試合は終わってないぞ」
加賀谷が焦り声で促したから、麗紋はあわてて他のチームメイトに檄を飛ばした。
「戻って! 守れ、守れ!」
試合時間は残り一分を切った。防戦一方になった一年生チームに、三年生チームのバスケ部員が最後の攻撃を仕掛けてきた。
「翠!」
元バスケ部部長である碧はボールを奪いに来た一年生をフェイントで躱すと何故か自陣に向かって強く長いパスを回す。もはややけになったのかと思うような荒さだったが、そこにすでに引退するまで主力選手だった翠が堂々と待ち受けていた。
日頃あまり冗談を言う方ではない碧だ。キャプテンとしてチームに重要な発言をする時に使うような声色できっぱりと言い切った。驚いて目を向けると、麗紋の手を持ち上げ、恭しく白い甲に口付けを落とす。気障な仕草だが、翠より僅かに太く吊り上がった並行眉をもつ碧が真面目な顔をしてすると、真に迫って妙に色っぽい。麗紋はかあっと頬を染めてしまった。
「約束だ」
「碧兄……」
「いいね。俺もやる気になってきた! それに碧にだけ可愛い顔してみせるの禁止。俺にもきゅんっとしてくれないとね」
今度は翠が誓いの口付けと称して、軽く音を立てて麗紋の柔い頬にキスをした。
「覚悟しといてね? れーちゃん。約束だよ。どんないうことでも、聞いてもらうんだからね」
悪戯が成功したような翠の微笑みは青空の下の向日葵みたいに底抜けに明るい。しかし瞳には普段は見ないどきりとするような熱情が見え隠れして麗紋は息を詰める。
二人の芝居がかった仕草が続いたから、麗紋は自分がなにか重大な約束を取り付けてしまったのではないかと思い、内心胸の鼓動が高鳴るのを止めることができなかった。
「「俺たちからの約束はね……」」
※※※
コートの上であの時の二人のこの上なく妖しく魅惑的だった表情を思い出し、麗紋は捕食される寸前のねずみのようにぶるぶると震えた。
(絶対無理、絶対あの約束だけは無理無理無理)
三年生チームは五人中、バスケ部員は二人。片や麗紋率いる一年生チームはバスケ部員五人。
絶対に負けられないこの試合。現役部員で固めるという禁じ手まで使って従兄弟たちのチームを九対十まで追い込んだ。
「やった、やった! 加賀谷、ナイスシュート」
たった今逆転ゴールを決めた一年生のエースに向かって麗紋は飛びつくと、加賀谷がしっかり抱き止めて二人してコートの中でくるくるっと回った。
今度は女生徒から金切り声のような悲鳴と「カガれもん! 爽やかすぎ!」という掛け声がかかった。
勝利を確信した麗紋は色白の頬を上気させ、たいそう愛らしい顔で加賀谷に向かってにへらと微笑んだ。加賀谷も思わず相好を崩しかけたが、ものすごい圧を双子方面から感じて慌てて気合を入れなおした。
「おい、レモン。まだ試合は終わってないぞ」
加賀谷が焦り声で促したから、麗紋はあわてて他のチームメイトに檄を飛ばした。
「戻って! 守れ、守れ!」
試合時間は残り一分を切った。防戦一方になった一年生チームに、三年生チームのバスケ部員が最後の攻撃を仕掛けてきた。
「翠!」
元バスケ部部長である碧はボールを奪いに来た一年生をフェイントで躱すと何故か自陣に向かって強く長いパスを回す。もはややけになったのかと思うような荒さだったが、そこにすでに引退するまで主力選手だった翠が堂々と待ち受けていた。
10
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
【BL】はるおみ先輩はトコトン押しに弱い!
三崎こはく
BL
サラリーマンの赤根春臣(あかね はるおみ)は、決断力がなく人生流されがち。仕事はへっぽこ、飲み会では酔い潰れてばかり、
果ては29歳の誕生日に彼女にフラれてしまうというダメっぷり。
ある飲み会の夜。酔っ払った春臣はイケメンの後輩・白浜律希(しらはま りつき)と身体の関係を持ってしまう。
大変なことをしてしまったと焦る春臣。
しかしその夜以降、律希はやたらグイグイ来るように――?
イケメンワンコ後輩×押しに弱いダメリーマン★☆軽快オフィスラブ♪
※別サイトにも投稿しています
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる