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第二部 

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 見た目頑強な美丈夫である深森だが、都に来た夏には体調を崩してしまったことがあった。それが卯乃との出会いを導いてくれたわけだ。心配していた体調も今はすっかりこちらの生活にも慣れて大事な試合を前に気合十分といった感じに見えて卯乃はほっと胸を撫ぜおろした。

「大丈夫だ。俺はここよりずっと寒い地域で育ったからむしろ調子がいい。それに卯乃が必勝スープ作ってきてくれたし。ありがとうな」

 必勝スープというのは深森のお母さんが試合前にいつも深森に作っていたというミルクスープだ。以前卯乃の家に遊びに来た時に深森が作ってくれて、卯乃も作り方を教わった。料理はそこそこできるのに寮生活で卯乃の家に来た時しか自炊をする機会がない深森の為、大事な試合の前に卯乃が飲ませてあげたいと作ってきたのだ。根菜中心の沢山のお野菜に鶏肉、ちょっとだけお味噌と豆乳も加えていて栄養満点でとても美味しい。

「絶対に勝つから応援に来てくれよな?」

 練習に戻るために立ちあがった深森の顔は自信に満ち溢れている。コンディションが良いのは見た目でも分かる。耳もピンと雄々しく張っているし、ベンチコートのスリットから出たふっさりした尻尾も毛並みが良い。彼が守護神としてゴール前で躍動する姿を見るのが楽しみだ。楽しみなのだが……。

「うん、もちろん! 明日沢山応援するよ」
「じゃあ、俺。練習に戻る。卯乃、明日もあったかくして来いよ」
「うん」

 ちゅっと卯乃の額にキスをして、深森は立ちあがって駆け出す。だが少し先に行った後、ふっさりとした尻尾を優雅に一振りしてから一度振り返る。

「明日な!」

 深森があんな風に花が咲くようにほわっと無邪気な笑顔を見せてくれるのは自分だけなのだ。そう思うと胸がきゅんっとなる。卯乃が精一杯大きく腕を振ると、深森は安心したようにグランドの方へ向き直って走り去っていった。

 卯乃は振っていたその手を下ろして甘い口づけを受けた額にそっと当てながら、もう一度深いため息をついていた。

(言えないなあ……。深森に。オレもしかしたら試合見にいけないかもしれないなんて)
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