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番外編 未明の深森 昼下がりの卯乃
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(この家……。ちょっと昔の映画に出てくるような雰囲気で、俺には非日常的に感じる)
卯乃には日常的な風景なのだろうが、深森は自分が真夏の夜の狂おしい物語の中に入り込み、飲まれたように感じた。
だが一階にある洗面所と風呂場はリフォームがされた後なのか、そこだけ今風の眩しい照明になっている。鏡に映った自分の顔は満ち足りているようなまだ飢えているような不思議な表情に見えた。
蛇口をひねり、頭のてっぺんからジャージャー水を浴びたら大分頭が冷えてきた。
ふーっと大きく息をついてからすぐお湯をひねり、温かいタオルを作って卯乃の身体を清めに行った。
そのままにしてきてしまった卯乃は、まるで凌辱を受けたような姿でしどけなく眠っていた。
朝日が昇ってきた部屋は青白く清い光で卯乃の華奢な身体を照らしている。
長い睫毛の周りには涙の痕があって、猛烈にすまない気持ちになって、深森は腹部や太ももがもっちりとした脚をもちあげ汚れを拭う。
白い手を持ち上げてその甲に口づけると、今度は恋人同士がするように指を絡めて手を繋いだ。何度か指先にも口づけて、深森は色気が漂う微笑みを浮かべて愛おし気に眠る卯乃を見下ろした。
「勝手なことして、ごめんな。お前が起きたら、なんでもいうこと聞く。沢山甘やかすから」
腕枕をして再び添い寝の体勢になった。そのままスマホをかざし、インカメラに切り替える。画面に映る卯乃と自分の姿を調整しながら、口元が緩む自分をなんとか律した。
今までもこうして二人で写真を撮ったことはあったが、ここまで親密な姿で撮ったことは流石にない。
シャッター音の後、卯乃の頬に口づけをしてから映した写真を確認したら、卯乃があまりに気だるげな美しさを放っていてとても人には見せられそうにない。いや、決して見せたくないと思った。
だけど、この子の全ては自分のものだと、愚かな男の様に世界に知らしめたい。
深森は少しだけ思案した後、夏掛けで顔のあたりまで卯乃を覆った。オレンジ色の滑らかな被毛のふわふわ可愛い耳だけを出して再びシャッターを切る。
「よし、いいだろう」
世界に見せつけてやるんだ。
俺の番は、すごく可愛くて、素直ないい子だ。
だけど、俺を虜にする、ちょっとだけ悪い子だ。
「お前のこと手に負えるのは、俺だけだぞ、なあ。卯乃」
すぐに夏掛けを引っ張って下ろし、卯乃の額に音がするほど口づけた。
「んっ……んん」
今度こそ目覚めそうだ。卯乃が最初に見るのも最後に見るのも、毎日自分の顔でありますように。
深森はそう願いながら、美しい瞳が綻ぶ蕾の様に開くさまをじっと見つめていた。
卯乃には日常的な風景なのだろうが、深森は自分が真夏の夜の狂おしい物語の中に入り込み、飲まれたように感じた。
だが一階にある洗面所と風呂場はリフォームがされた後なのか、そこだけ今風の眩しい照明になっている。鏡に映った自分の顔は満ち足りているようなまだ飢えているような不思議な表情に見えた。
蛇口をひねり、頭のてっぺんからジャージャー水を浴びたら大分頭が冷えてきた。
ふーっと大きく息をついてからすぐお湯をひねり、温かいタオルを作って卯乃の身体を清めに行った。
そのままにしてきてしまった卯乃は、まるで凌辱を受けたような姿でしどけなく眠っていた。
朝日が昇ってきた部屋は青白く清い光で卯乃の華奢な身体を照らしている。
長い睫毛の周りには涙の痕があって、猛烈にすまない気持ちになって、深森は腹部や太ももがもっちりとした脚をもちあげ汚れを拭う。
白い手を持ち上げてその甲に口づけると、今度は恋人同士がするように指を絡めて手を繋いだ。何度か指先にも口づけて、深森は色気が漂う微笑みを浮かべて愛おし気に眠る卯乃を見下ろした。
「勝手なことして、ごめんな。お前が起きたら、なんでもいうこと聞く。沢山甘やかすから」
腕枕をして再び添い寝の体勢になった。そのままスマホをかざし、インカメラに切り替える。画面に映る卯乃と自分の姿を調整しながら、口元が緩む自分をなんとか律した。
今までもこうして二人で写真を撮ったことはあったが、ここまで親密な姿で撮ったことは流石にない。
シャッター音の後、卯乃の頬に口づけをしてから映した写真を確認したら、卯乃があまりに気だるげな美しさを放っていてとても人には見せられそうにない。いや、決して見せたくないと思った。
だけど、この子の全ては自分のものだと、愚かな男の様に世界に知らしめたい。
深森は少しだけ思案した後、夏掛けで顔のあたりまで卯乃を覆った。オレンジ色の滑らかな被毛のふわふわ可愛い耳だけを出して再びシャッターを切る。
「よし、いいだろう」
世界に見せつけてやるんだ。
俺の番は、すごく可愛くて、素直ないい子だ。
だけど、俺を虜にする、ちょっとだけ悪い子だ。
「お前のこと手に負えるのは、俺だけだぞ、なあ。卯乃」
すぐに夏掛けを引っ張って下ろし、卯乃の額に音がするほど口づけた。
「んっ……んん」
今度こそ目覚めそうだ。卯乃が最初に見るのも最後に見るのも、毎日自分の顔でありますように。
深森はそう願いながら、美しい瞳が綻ぶ蕾の様に開くさまをじっと見つめていた。
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