上 下
65 / 99
番外編 未明の深森 昼下がりの卯乃

6

しおりを挟む
(この家……。ちょっと昔の映画に出てくるような雰囲気で、俺には非日常的に感じる)
 
 卯乃には日常的な風景なのだろうが、深森は自分が真夏の夜の狂おしい物語の中に入り込み、飲まれたように感じた。

 だが一階にある洗面所と風呂場はリフォームがされた後なのか、そこだけ今風の眩しい照明になっている。鏡に映った自分の顔は満ち足りているようなまだ飢えているような不思議な表情に見えた。 
 蛇口をひねり、頭のてっぺんからジャージャー水を浴びたら大分頭が冷えてきた。
 ふーっと大きく息をついてからすぐお湯をひねり、温かいタオルを作って卯乃の身体を清めに行った。
 そのままにしてきてしまった卯乃は、まるで凌辱を受けたような姿でしどけなく眠っていた。
 朝日が昇ってきた部屋は青白く清い光で卯乃の華奢な身体を照らしている。
長い睫毛の周りには涙の痕があって、猛烈にすまない気持ちになって、深森は腹部や太ももがもっちりとした脚をもちあげ汚れを拭う。
 
 白い手を持ち上げてその甲に口づけると、今度は恋人同士がするように指を絡めて手を繋いだ。何度か指先にも口づけて、深森は色気が漂う微笑みを浮かべて愛おし気に眠る卯乃を見下ろした。

「勝手なことして、ごめんな。お前が起きたら、なんでもいうこと聞く。沢山甘やかすから」

 腕枕をして再び添い寝の体勢になった。そのままスマホをかざし、インカメラに切り替える。画面に映る卯乃と自分の姿を調整しながら、口元が緩む自分をなんとか律した。
 今までもこうして二人で写真を撮ったことはあったが、ここまで親密な姿で撮ったことは流石にない。
 シャッター音の後、卯乃の頬に口づけをしてから映した写真を確認したら、卯乃があまりに気だるげな美しさを放っていてとても人には見せられそうにない。いや、決して見せたくないと思った。

 だけど、この子の全ては自分のものだと、愚かな男の様に世界に知らしめたい。

 深森は少しだけ思案した後、夏掛けで顔のあたりまで卯乃を覆った。オレンジ色の滑らかな被毛のふわふわ可愛い耳だけを出して再びシャッターを切る。

「よし、いいだろう」
 
 世界に見せつけてやるんだ。
 俺の番は、すごく可愛くて、素直ないい子だ。
 だけど、俺を虜にする、ちょっとだけ悪い子だ。

「お前のこと手に負えるのは、俺だけだぞ、なあ。卯乃」

 すぐに夏掛けを引っ張って下ろし、卯乃の額に音がするほど口づけた。

「んっ……んん」

 今度こそ目覚めそうだ。卯乃が最初に見るのも最後に見るのも、毎日自分の顔でありますように。

 深森はそう願いながら、美しい瞳が綻ぶ蕾の様に開くさまをじっと見つめていた。

しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

処理中です...