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番外編 未明の深森 昼下がりの卯乃
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「無理させた、ごめんな」
覗き込んで、乱れた前髪を優しくかき上げると、むず痒そうに細い眉が寄った。だがまたすぐ穏やかな表情に戻って、すよすよと眠る。
卯乃曰く夏になって日に焼けたというが、深森と比べたらまだ真っ白に近い。いつも濡れているようにみえる大きな瞳以外、何もかも小さな顔は、起きている時よりさらにあどけなく見える。
(……練習、行きたくないな)
そんな風に無意識に思った自分に驚いてしまう。子供の頃から生活の一部だったサッカーの練習。身体を動かし、グランドを駆け回るのが大好きで、より高みを目指すため、遠く故郷を後にして都までやってきた。
今まで練習をきついと思ったことはあれど、行きたくないと思ったことは記憶にある限りなかったはずだ。
(まいったな……。卯乃のいると色んな自分に気づける)
好きな子と結ばれた朝は、満たされているはずなのにもっと触れたくて、もっと傍に居たくて堪らないという飢えばかりが増してしまう。
自分はサッカー以外には淡泊な方だと思っていたのだが、こんな気持ちになってしまうとは、卯乃に恋するまで知らなかったことばかりだ。
一度味わってしまった卯乃の柔い肌の味、甘い声、貫いていく快感は忘れ難い。
当分夢にまで見てしまいそうだ。夏合宿だって迫っているのに、しっかりしているようで頼りなくて、甘えんぼの卯乃の傍に居られないなんて、胸がきしむように苦しい。
翌日も練習があるというのに、卯乃の連絡一つで熱帯夜に自転車を走らせてしまうほど、自分ではどうしようもない程、彼を深く愛している自信があったが、これまで以上に卯乃にのめり込んでしまったらこの先どうなってしまうのだろうか。
卯乃が部のマネージャーにでもなってくれたら、いつでも近くに居られるかもしれない。卯乃の声援があればなんだって頑張れる気がする。
(いや、いや、駄目だろ。飢えたケダモノばかりの部の奴らの前にみすみす美味しいウサギを連れて行くなんて、ありえん)
深森のチームメイトにとっても卯乃は気になる存在なのだ。何度か部に連れて行ったことがあるが、りょっと目を離したすきに他の選手たちがこぞって卯乃に話かけてきていた。
可愛い卯乃をエロい目で見られるのが耐えられない。ピッチ横に置いていても、観客席にいたとしたって、卯乃を一人にするのが心配でたまらなくて試合に集中出来なくなってしまうかもしれない。馬鹿みたいな心配をして、これが冗談でなくなったら大ごとだなとも思った。
「お前の事、バッグに詰め込んで、いつでも連れまわせたらいいのにな。そしたら合宿先にも、寮にもいつでもどこにでも連れていけるのに」
またせんのないことを思わず呟いていた。
誰の目にも触れさせずに、自分だけの卯乃として傍に置きたい。
誰にもとられまいとでもいうように、一度強くぎゅっと細い身体を抱きしめる。
(なんでこんなにいい匂いがするんだろ。俺の腕の中にすっぽり収まる。……落ち着く)
柔らかな耳に鼻先を押し付ける。ふわふわの感触とそれに似合いのミルクの様に、甘くて心をくすぐられる香りがする。すんっと吸い込むと胸いっぱいにまた熱いものが溢れてくるようだ。ただ、それは綺麗な感情ばかりではない。
覗き込んで、乱れた前髪を優しくかき上げると、むず痒そうに細い眉が寄った。だがまたすぐ穏やかな表情に戻って、すよすよと眠る。
卯乃曰く夏になって日に焼けたというが、深森と比べたらまだ真っ白に近い。いつも濡れているようにみえる大きな瞳以外、何もかも小さな顔は、起きている時よりさらにあどけなく見える。
(……練習、行きたくないな)
そんな風に無意識に思った自分に驚いてしまう。子供の頃から生活の一部だったサッカーの練習。身体を動かし、グランドを駆け回るのが大好きで、より高みを目指すため、遠く故郷を後にして都までやってきた。
今まで練習をきついと思ったことはあれど、行きたくないと思ったことは記憶にある限りなかったはずだ。
(まいったな……。卯乃のいると色んな自分に気づける)
好きな子と結ばれた朝は、満たされているはずなのにもっと触れたくて、もっと傍に居たくて堪らないという飢えばかりが増してしまう。
自分はサッカー以外には淡泊な方だと思っていたのだが、こんな気持ちになってしまうとは、卯乃に恋するまで知らなかったことばかりだ。
一度味わってしまった卯乃の柔い肌の味、甘い声、貫いていく快感は忘れ難い。
当分夢にまで見てしまいそうだ。夏合宿だって迫っているのに、しっかりしているようで頼りなくて、甘えんぼの卯乃の傍に居られないなんて、胸がきしむように苦しい。
翌日も練習があるというのに、卯乃の連絡一つで熱帯夜に自転車を走らせてしまうほど、自分ではどうしようもない程、彼を深く愛している自信があったが、これまで以上に卯乃にのめり込んでしまったらこの先どうなってしまうのだろうか。
卯乃が部のマネージャーにでもなってくれたら、いつでも近くに居られるかもしれない。卯乃の声援があればなんだって頑張れる気がする。
(いや、いや、駄目だろ。飢えたケダモノばかりの部の奴らの前にみすみす美味しいウサギを連れて行くなんて、ありえん)
深森のチームメイトにとっても卯乃は気になる存在なのだ。何度か部に連れて行ったことがあるが、りょっと目を離したすきに他の選手たちがこぞって卯乃に話かけてきていた。
可愛い卯乃をエロい目で見られるのが耐えられない。ピッチ横に置いていても、観客席にいたとしたって、卯乃を一人にするのが心配でたまらなくて試合に集中出来なくなってしまうかもしれない。馬鹿みたいな心配をして、これが冗談でなくなったら大ごとだなとも思った。
「お前の事、バッグに詰め込んで、いつでも連れまわせたらいいのにな。そしたら合宿先にも、寮にもいつでもどこにでも連れていけるのに」
またせんのないことを思わず呟いていた。
誰の目にも触れさせずに、自分だけの卯乃として傍に置きたい。
誰にもとられまいとでもいうように、一度強くぎゅっと細い身体を抱きしめる。
(なんでこんなにいい匂いがするんだろ。俺の腕の中にすっぽり収まる。……落ち着く)
柔らかな耳に鼻先を押し付ける。ふわふわの感触とそれに似合いのミルクの様に、甘くて心をくすぐられる香りがする。すんっと吸い込むと胸いっぱいにまた熱いものが溢れてくるようだ。ただ、それは綺麗な感情ばかりではない。
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