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夏祭りの思い出

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「じゃ、挟み撃ちしよ。母さんと敦哉さんも多分近くで探してくれてる」
『わかったよ』

 とはいえ柚希とて息子たちが心配でならない気持ちは同じだ。
 親のひいき目で行ってもクラス中の男女から王子様みたいに綺麗で優しくて賢い!と大人気の兄の咲哉もまだ幼いので勿論心配だ。だが、見た目はまるで天使のように愛くるしいと誰もが目を細めて微笑みを浮かべてしまうが、中身は喧嘩っ早くて爪を立ててくる子猫のようにやんちゃな下の息子蜜希がいつでも柚希の悩みの種だ。
 夫の和哉も穏やかで誰かと喧嘩したりするような性格でもなかったし、自分も人と喧嘩をするなどということはまるでせず、友人といつでも仲良くやってきた輪を大切にする社交的な性格だった。
 だというのに息子の蜜希は「欲しい物は欲しい、嫌なものは嫌」と好き嫌いがはっきりした性格で、見た目の可愛らしさから自分を相手が侮ってこようものなら容赦なく噛みついて喧嘩を起こす。まるでお腹の中に火の玉を抱えているような少年なのだ。保育園で何度先生から指摘されたかも分からない。
『お兄ちゃんの咲哉君は誰にでも優しくて親切だったのに、蜜希君はねえ』

 会場はまた新しい音楽がかかって違う〇〇音頭で人々が踊り出した。こんな光景は昔から変わらない。出口に向かう人と入ってくる人の間のような流れに嵌まった柚希が一瞬足を止めてもう一度会場の入り口を見通そうとしたら、周りよりひときわ背の高い和哉がさらに高々と腕を掲げてこちらに手を振ってくるのが見えた。

「和哉!」
 
 安堵から番の名を呼び駆けだすと、和哉の足元に半べそをかいた蜜希を背負った咲哉が小さな白い花のように柔らかな微笑みを少し誇らしげに浮かべていた。
蜜希の白い膝小僧がすりむいて血が滲んでいるから大体の様子を悟って、柚希は目元で『めっ!』と蜜希をねめつけると、勝ち気な蜜希は柚希を涙の滲んだ目で睨み返してつんっとそっぽを向いた。

「僕ちゃんと、みっちゃん見つけたよ。途中で転んで怪我しちゃったんだ」
「咲、俺のとこ戻ってくればよかったのに!」
「戻って柚パパとすれ違って会えないと困るから、お店の前で待ってたんだよ? そしたら和パパ来てくれたんだよ?」

 一枚上手な咲哉の落ち着き払った様子に、柚希はへなへなと足元から力が抜けてまだ昼の熱が抜けきらぬコンクリートの地面に頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
 
「こら、咲ちゃん。みっちゃんを探しに来たかったのは分かるけど、先に柚パパに勝手に離れてごめんなさいでしょ?」
「ごめんね。柚パパ。泣かないで」
「泣いてないから!!」
 
 そんな風に家族でやや揉めている間に敦哉と桃乃が駆けつけてきて、一ノ瀬一家がようやく勢ぞろいとなったのだ。

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