210 / 296
第二部 ありがとう、おめでとう よろしくね
39
しおりを挟む
普段柚希が何気なくやりがちなことを今日は和哉が先回りしてくる。小さい頃から料理をしている最中に和哉に頻繁に味見をさせているうちに、食事の最中も口元の運んでしまうのが癖になったのだが、こうも堂々と甘い雰囲気を醸し出されながら逆にされると中々恥ずかしい。
「ほら、食べなよ? トマト好きでしょ?」
和哉がちょっと意地悪く片眉を上げながらくいくいっと差し出してくるから、これはきっと柚希の反応を楽しんでいるのだと分かった。しかしまあ、抵抗しても仕方がないと。素直に口に含んだ。
「んっまい」
「一気に食べたら危ないよ。ピンの先、気を付けて」
和哉も彼の好物であるバケットに生ハムがついたものを二口ほどで食べきっている。柚希はもしゃもしゃとハムスターよろしく口いっぱいに頬張り暫し無言になった。
身を乗り出して皿から次のものも柚希がとろうとする前に和哉が幼子にでもするように、母の差し入れであるチーズを差し出すから、2、3回同じようなやりとりを繰り返した。ピンチョスはどれもこれもとても小さいながら素材の旨味を凝縮したような作りなので、口にするたび夢中で舌の上で味を追ってしまうのは柚希の癖だ。
ふむふむ、とでも顔に書いてありそうな兄を覗きこんで和哉は甲斐甲斐しく声をかけてきた。
「スープも飲む?」
「飲むよ」
ミネストローネはお気に入りの底が平たい青磁色のカップに注がれていて、まだ少しだけ湯気が立っている。じんわり手先から伝わる熱が心地よい。猫舌の柚希にはちょうど良い温度と言えた。
口にする前に和哉が粉チーズをたっぷり振りかけてくれたから、目配せしあって微笑みあった。リボンパスタを口当たりのいい木のスプーンですくい上げては、はふはふ言いながら口に運べば、懐かしい母の手料理がきっちり再現されていて柚希が目を丸くした後思わず頬が緩んだ。和哉も嬉しそうに柚希の胴を腕を回して抱きしめてきた。
「和哉、これ母さんのやつと同じ味だ! 」
「それはそうだよ。母さんに習ってきたからね」
「美味しいよ。これさスープジャーに入れて明日仕事場に持ってって昼に飲むんでもいいかも。少しあまりそう?」
「沢山作ったから大丈夫。これ簡単だから、夜作っておいて、朝食に飲むのいいかもね。また作ってあげる」
「ありがとうな。ん?」
すっかり食べ物を運んでもらうことに慣れて再び唇を鳥のヒナよろしく大きく開けたら、和哉が僅かに目を見張ってから穏やかに微笑み今度はハーブがかかった香ばしいチキンを持たせてくれた。
それを繊維に沿って齧りとる口元を和哉がじっと覗き込んでくるので柚希もドキドキさせられてばかでなるものかとわざと上目遣いで、赤い舌で口の端を挑発的に舐めまわした。
「なあ? これ、なんかのプレイ? 俺を赤ちゃんみたいに扱いたいの?」
「ほら、食べなよ? トマト好きでしょ?」
和哉がちょっと意地悪く片眉を上げながらくいくいっと差し出してくるから、これはきっと柚希の反応を楽しんでいるのだと分かった。しかしまあ、抵抗しても仕方がないと。素直に口に含んだ。
「んっまい」
「一気に食べたら危ないよ。ピンの先、気を付けて」
和哉も彼の好物であるバケットに生ハムがついたものを二口ほどで食べきっている。柚希はもしゃもしゃとハムスターよろしく口いっぱいに頬張り暫し無言になった。
身を乗り出して皿から次のものも柚希がとろうとする前に和哉が幼子にでもするように、母の差し入れであるチーズを差し出すから、2、3回同じようなやりとりを繰り返した。ピンチョスはどれもこれもとても小さいながら素材の旨味を凝縮したような作りなので、口にするたび夢中で舌の上で味を追ってしまうのは柚希の癖だ。
ふむふむ、とでも顔に書いてありそうな兄を覗きこんで和哉は甲斐甲斐しく声をかけてきた。
「スープも飲む?」
「飲むよ」
ミネストローネはお気に入りの底が平たい青磁色のカップに注がれていて、まだ少しだけ湯気が立っている。じんわり手先から伝わる熱が心地よい。猫舌の柚希にはちょうど良い温度と言えた。
口にする前に和哉が粉チーズをたっぷり振りかけてくれたから、目配せしあって微笑みあった。リボンパスタを口当たりのいい木のスプーンですくい上げては、はふはふ言いながら口に運べば、懐かしい母の手料理がきっちり再現されていて柚希が目を丸くした後思わず頬が緩んだ。和哉も嬉しそうに柚希の胴を腕を回して抱きしめてきた。
「和哉、これ母さんのやつと同じ味だ! 」
「それはそうだよ。母さんに習ってきたからね」
「美味しいよ。これさスープジャーに入れて明日仕事場に持ってって昼に飲むんでもいいかも。少しあまりそう?」
「沢山作ったから大丈夫。これ簡単だから、夜作っておいて、朝食に飲むのいいかもね。また作ってあげる」
「ありがとうな。ん?」
すっかり食べ物を運んでもらうことに慣れて再び唇を鳥のヒナよろしく大きく開けたら、和哉が僅かに目を見張ってから穏やかに微笑み今度はハーブがかかった香ばしいチキンを持たせてくれた。
それを繊維に沿って齧りとる口元を和哉がじっと覗き込んでくるので柚希もドキドキさせられてばかでなるものかとわざと上目遣いで、赤い舌で口の端を挑発的に舐めまわした。
「なあ? これ、なんかのプレイ? 俺を赤ちゃんみたいに扱いたいの?」
0
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる