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HAPPY START7

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 思わず横を向いてむせるが中々咳が止まらぬ柚希に和哉が大笑いしながらピッチャーから注いだ水を差しだしてくれた。
 差し向って食事を端から平らげていく。甘いケーキを食べて、しょっぱい生ハムとライスコロッケのピンチョスを摘まみ、またケーキにワインと久々の食事に胃袋が驚いてひっくり返るのではないかと思うほどだが柚希は相変わらずの食べっぷりだ。食べても太らず、食べなければどんどん痩せてしまう体質だと桃乃がいうだけあって、このホテルに来てからの三日間ですっかり身体が細くなってしまった。

(まあ、何をするにも体力一番。腹が減っては気力がそがれるからな)
 
 そんな風に考えて一度ぴしゃりと両手で自分の顔を張ると、両手を合わて「いただきます」と兄弟仲良く声をそろえた。そしてやはり思った通り。一通り食べたら腹の辺りがぽかぽかとしてすっかり身体に力が漲ってきた。

「美味かった。ご馳走様。なあ、和哉。今日ってホテルに来て何日目?」
「三日目だよ。一日目の昼にここにきて、二日目の、昨日の朝に番になって、そこからずっとその、ヒートが一日と半分続いてたから」
「そうか。俺の体感的には5日目が終わった後ぐらいの雰囲気だったけど、まだ三日か……。でも普段のヒートの終わった直後より、もっとずっと身体が軽い。……番がいるってこうも違うんだな。聞いてはいたけど、相性もあるし体質もあるからこんな極端に違うと思わなかった。これならすぐ仕事に復帰できそうだな」

 うーんと伸びをして、普段通りの男っぽい怜悧な光を宿した兄の瞳をみて、和哉がゆるゆると目を眇める。
 兄が普段通りの彼の風情を取り戻しかけているのが、和哉には寂しく映ったようだ。立ちあがろうとテーブルの上についた手を押しとどめられるように握られる。目が合うと和哉がまた妖し気な光を瞳に宿していた。琥珀色のその目に射すくめられると背中がぞくぞくっとして、不思議と後ろがじわっと濡れる感覚すら起こる。

「かず?」

 出した自分の声が掠れつつも甘く重たいものを孕んでいて自分でも口元に手をやって驚く。それと同時に和哉が立ちあがってすぐ小さなテーブルを回り傍にたどり着いてしまう。

「柚希……。休暇はたっぷり、あと二日は取れるんだよ? そんなに簡単に外に出ていこうとしないで」
「でも……」

 柚希の膝の上に載せていた方の手もとり、指を絡めるようにして両手をつなぐと兄をゆっくりと立ちあがらせる。
 後頭部に手を置きゆっくりと顔を近づけながら、ぺりぺりっとガーゼをはがしていくから腰が引けると、尻を掴み上げるように乱暴に引き寄せられてすんっと首筋の匂いを嗅がれた。

「まだ、甘い香りでてるんだよ? 終わってないよ」
「でも、……もうお前にしかさ、もうこの香り効かな……」

 この香りは効かないんだろう? そう言いかけて見上げた和哉の顔はまた表情を亡くし、ぞくりとするほど瞳は澄み渡り、冷たい程だ。

「か……かず、なんかお前……、怖いよ」

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