上 下
11 / 18

よるは、そんな算数みたいな名前じゃないもんっ!

しおりを挟む
 がうう。



 寝そべったままでよるを見てるちっさい銀のモフモフわんちゃんは怒ってるみたい。

 でも。
 でも、ですね。

 きっと痛くてくるしくって、はやくなおしてって言ってるのかもしれないの。なら、よるががんばらないと!

「だ、だいじょうぶ? よる、おくすりとホータイ持ってるよ! お母さんがリュックにいれてくれたの!」



 ぐ、るる……。



 立ち上がろうとしてるけど、さっきより元気がない!
 たいへんだ、はやくしないと!

 お母さん、よるがころんだときに、どうしてたっけ……。たしかキズをしょーどくして、バンソウコウはってくれて、そのあとでヒリヒリして痛くって泣いてたよるに……。

 そうだ!
 お歌を歌って、せなかをポンポンってしながらお歌を歌ってくれたんだ!

 それでどんどん痛くなくなって、気がついたら寝ちゃってたんだ。どんなお歌だったっけ?
 でも、さきに痛いところを見つけないと!

「ねえねえ、どこが痛いの? ケガしてるならわたしがしょーどくしてホータイ巻いてあげる! ポンポンしてなでなでしてあげる!」

 たぶん、声の女のひとが探してたのはこの子だとおもう。助けて、だもんね。この子、ケガしてるもんね。きっとそうだよ、うん。


「……む? 魔人まじんのエリアとなった『エルフのにわに来てみたら、女神のしもべの狼の子と、人間のむすめ、だと?』
「きゃあああああああ?!」

 だ、だれ?!
  
「女神のしもべの子は、魔人にねらわれたか。おい、むすめ…………何だと?! ひ、ひめ様?!」

 声がひくい、大人の男のひとがおどろいてる。
 ……あたまに、ツノぉ?!
 
「ミリ姫様ではないですか! な、なぜ魔人のエリアに……いや、そんなはずはない。ミリ姫様は今も魔人ののろいで、ずっと眠りつづけている。それにわれ魔族まぞくとは髪の毛も、はだの色もちがう。ミリ姫様はむらさき色の髪、黒髪ではない。お前……いや、ごっほん。あなたの名は何という? わたしはゴート。魔族の『四天王してんのう』のひとり」

 何かひとりでいっぱいしゃべってる。
 だれかとかんちがいしてるみたい。

 つのがふたつ、頭でつんつんしてる。
 変装パーティー、やってるのかなあ。

 あ、名前!

「わたしの名前は『たかなしよる』! よるは、そんな算数みたいな名前じゃないもん!」
「算数、とは?」
「それに、今いそがしいんです! このわんちゃんを助けてあげるところなんだから、お姫様って言われたってよろこんだりしないんだから! でも、十回くらい言ってくれたらよる、うふふってなっちゃうかも! あ、ツノのおじさんはこの子が元気になるおくすり、持ってませんかぁ!」
「む。よくわからないことを次から次へというところは、まさにミリ姫様……」
 
 ミリとかセンチとか、いくら『姫』って言われても、お返事しないんだから!

『よる、いたあっ! きさま、魔族の四天王のゴートか!』
「ぬ? 何だこの黒い猫は」
「あー! ひぐれ!」

 ひぐれだあ!
 よかった!
 夢の中に来てくれたんだ!

『よるにケガをさせたらゆるさないぞ! しゃあああ!』
「おっと、何をする」
『あっ……』

 あ!
 そんなところつかんじゃダメえ!

「ツノのおじさん! 猫はくびのうしろを掴んじゃダメなのお! うにー、ってかわいくってポヤポヤな顔してるけど、目がくりくりしてるけど! 『そこはダメ! はなしてえ!』ってきっとたいへんなんだから!」
『おい、ゴート! ひきょうだぞ! 猫つかみされたらうごけないじゃないか!』
「わたしは飛びかかられたから、つかまえただけなんだが……」



 ぶらーん、しちゃダメえー!
 

 

 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【NL】花姫様を司る。※R-15

コウサカチヅル
キャラ文芸
 神社の跡取りとして生まれた美しい青年と、その地を護る愛らしい女神の、許されざる物語。 ✿✿✿✿✿  シリアスときどきギャグの現代ファンタジー短編作品です。基本的に愛が重すぎる男性主人公の視点でお話は展開してゆきます。少しでもお楽しみいただけましたら幸いです(*´ω`)💖 ✿✿✿✿✿ ※こちらの作品は『カクヨム』様にも投稿させていただいております。

骨董品鑑定士ハリエットと「呪い」の指環

雲井咲穂(くもいさほ)
キャラ文芸
家族と共に小さな骨董品店を営むハリエット・マルグレーンの元に、「霊媒師」を自称する青年アルフレッドが訪れる。彼はハリエットの「とある能力」を見込んで一つの依頼を持ち掛けた。伯爵家の「ガーネットの指環」にかけられた「呪い」の正体を暴き出し、隠された真実を見つけ出して欲しいということなのだが…。 胡散臭い厄介ごとに関わりたくないと一度は断るものの、差し迫った事情――トラブルメーカーな兄が作った多額の「賠償金」の肩代わりを条件に、ハリエットはしぶしぶアルフレッドに協力することになるのだが…。次から次に押し寄せる、「不可解な現象」から逃げ出さず、依頼を完遂することはできるのだろうか――?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

処理中です...