59 / 61
祭り、始まるよー!
59 祭りの準備とエルの笑顔 ~ダノン花火大会に向けて~
しおりを挟む
風が、熱気をその身に含ませて。
夜の町を撫でていく。
グレブ帝国戦から一月ほどたった、とある日の夕方。
今日もダノンの町の領主の館は、主のゼペスを始め使用人から何から総出で大忙しであった。
そう。
祭りの準備に向けて、冒険者パーティー『白夜』を始めとする冒険者ギルドの面々、ヨハンを中心とする商業ギルドの人間や町の主だった者達が連日、入れ替わり立ち代わり訪れていたのだ。
応接室では、奏が催し物や食べ物を出す店の並びをゼペスや商業ギルドの人間達と話し合っていた。
●
「ゼペスさん、こんな感じでどうですか? ダノンや近隣の町でもともと営業しているお店を、人が集まりそうな場所に集めました。でも、このお屋敷を解放して本当にいいんですか? ありがたいお話なんですが」
首を傾げる奏に、ゼペスが笑った。
「おお! いいですね。これで行きましょう。敷地解放は王都のお祭りの真似ですけどね。参加する人間達が身分関係なく笑いあって、肩を寄せて楽しんで……あの光景を見たら、やらずにはいられませんよ」
ゼペスの横にいた冒険者と商業の両ギルド長が、頷いて言葉を重ねる。
「祭りに使う食材や素材を補う為の臨時依頼で、ダノンの冒険者ギルドは過去見ない程に活気づいております。エル様が『白夜』のアスト達とはぐれ赤竜を狩ってこられた時には腰を抜かしましたが、こちらも、ギルド最大の収入源とさせていただいております」
(ああ、その時は確か……まだ京がじれじれと告白引き延ばしてたから。京もエルの気持ち知りながら腰引けてたもんね。エル怖かったあ)
笑顔で青筋を立てるエルを思い出して冷や汗を掻く奏。
「かかった費用は奏様達、王家や領主様の負担にするだけでなく、我が町の商売人や職人にも十分に利が行きわたる様にして下さった御配慮、深く感謝します。出店は参加者に事前に配られた『コイン』の枚数に応じて精算ですね」
「そうです。エルの魔法で偽造や誤魔化しができないようにしてありますので安心ですよ。多分誤魔化したら……キレたエルが来るかと」
顔を真っ青にしたギルド長達に奏が頭を下げた時、職人達と一緒に看板を抱えたヨハン、アスト、ゼガンがやってきた。
「奏! 看板持ってきたぞ、どうだ!」
「くそう、こき使いやがって! 美味い酒の為、美味い酒ぇ!」
「ゼガン、うるさいぞ。奏、こんな感じでいいのか?」
三人は自信ありげに笑っている。
「うわあ、すっごい! これいいよ!」
豪奢な木彫り看板を見て飛び跳ねる奏に、三人は満足げに頷いた。
『第一回 ダノン花火大会 ~ぜーんぶ無料だよ!~』
●
中庭では、蓮次が持たせてくれた串焼きや菓子をむぐむぐと頬張る少女姿の玉藻前やエルデ、そしてその配下達を観衆に、蓮次と京にエル、アールズゲート、ラステラとケルンが打ち上げる花火について話し合っていた。
「なるほど。王都で見た美しい『花火』の数々は奏さんとエルさんの魔法なんですね」
「だな。奏とエルには苦労の掛けどうしだが、こればっかりはなあ。すまねえな、エル」
頭を下げる蓮次に、エルは微笑んだ。
「いいのよ、蓮さん。私達もみんなの喜ぶ顔が嬉しいし、もう慣れちゃったしね。そのうち、京を猛特訓して手伝わせるから」
「ぼ、僕が?!」
「何よ」
「あ、はい。頑張ります」
思わず声を上げた京が、ジト目で頬を膨らますエルに姿勢を正す。
「京は尻に敷かれてんのか。ま、『姉女房は身代の薬』ってな」
「僕、エルより四つ年上なのに?!」
「何よ」
「あ、はい。蓮さんのおっしゃる通りです。エルを大切にします」
「うむ!」
やり取りを見て笑う蓮次と、頬を赤く染めながら満足げに反り返るエルの姿に京はひたすら冷や汗を掻いたのだった。
夜の町を撫でていく。
グレブ帝国戦から一月ほどたった、とある日の夕方。
今日もダノンの町の領主の館は、主のゼペスを始め使用人から何から総出で大忙しであった。
そう。
祭りの準備に向けて、冒険者パーティー『白夜』を始めとする冒険者ギルドの面々、ヨハンを中心とする商業ギルドの人間や町の主だった者達が連日、入れ替わり立ち代わり訪れていたのだ。
応接室では、奏が催し物や食べ物を出す店の並びをゼペスや商業ギルドの人間達と話し合っていた。
●
「ゼペスさん、こんな感じでどうですか? ダノンや近隣の町でもともと営業しているお店を、人が集まりそうな場所に集めました。でも、このお屋敷を解放して本当にいいんですか? ありがたいお話なんですが」
首を傾げる奏に、ゼペスが笑った。
「おお! いいですね。これで行きましょう。敷地解放は王都のお祭りの真似ですけどね。参加する人間達が身分関係なく笑いあって、肩を寄せて楽しんで……あの光景を見たら、やらずにはいられませんよ」
ゼペスの横にいた冒険者と商業の両ギルド長が、頷いて言葉を重ねる。
「祭りに使う食材や素材を補う為の臨時依頼で、ダノンの冒険者ギルドは過去見ない程に活気づいております。エル様が『白夜』のアスト達とはぐれ赤竜を狩ってこられた時には腰を抜かしましたが、こちらも、ギルド最大の収入源とさせていただいております」
(ああ、その時は確か……まだ京がじれじれと告白引き延ばしてたから。京もエルの気持ち知りながら腰引けてたもんね。エル怖かったあ)
笑顔で青筋を立てるエルを思い出して冷や汗を掻く奏。
「かかった費用は奏様達、王家や領主様の負担にするだけでなく、我が町の商売人や職人にも十分に利が行きわたる様にして下さった御配慮、深く感謝します。出店は参加者に事前に配られた『コイン』の枚数に応じて精算ですね」
「そうです。エルの魔法で偽造や誤魔化しができないようにしてありますので安心ですよ。多分誤魔化したら……キレたエルが来るかと」
顔を真っ青にしたギルド長達に奏が頭を下げた時、職人達と一緒に看板を抱えたヨハン、アスト、ゼガンがやってきた。
「奏! 看板持ってきたぞ、どうだ!」
「くそう、こき使いやがって! 美味い酒の為、美味い酒ぇ!」
「ゼガン、うるさいぞ。奏、こんな感じでいいのか?」
三人は自信ありげに笑っている。
「うわあ、すっごい! これいいよ!」
豪奢な木彫り看板を見て飛び跳ねる奏に、三人は満足げに頷いた。
『第一回 ダノン花火大会 ~ぜーんぶ無料だよ!~』
●
中庭では、蓮次が持たせてくれた串焼きや菓子をむぐむぐと頬張る少女姿の玉藻前やエルデ、そしてその配下達を観衆に、蓮次と京にエル、アールズゲート、ラステラとケルンが打ち上げる花火について話し合っていた。
「なるほど。王都で見た美しい『花火』の数々は奏さんとエルさんの魔法なんですね」
「だな。奏とエルには苦労の掛けどうしだが、こればっかりはなあ。すまねえな、エル」
頭を下げる蓮次に、エルは微笑んだ。
「いいのよ、蓮さん。私達もみんなの喜ぶ顔が嬉しいし、もう慣れちゃったしね。そのうち、京を猛特訓して手伝わせるから」
「ぼ、僕が?!」
「何よ」
「あ、はい。頑張ります」
思わず声を上げた京が、ジト目で頬を膨らますエルに姿勢を正す。
「京は尻に敷かれてんのか。ま、『姉女房は身代の薬』ってな」
「僕、エルより四つ年上なのに?!」
「何よ」
「あ、はい。蓮さんのおっしゃる通りです。エルを大切にします」
「うむ!」
やり取りを見て笑う蓮次と、頬を赤く染めながら満足げに反り返るエルの姿に京はひたすら冷や汗を掻いたのだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる