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祭り、始まるよー!

59 祭りの準備とエルの笑顔 ~ダノン花火大会に向けて~

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 風が、熱気をその身に含ませて。
 夜の町を撫でていく。

 グレブ帝国戦から一月ほどたった、とある日の夕方。

 今日もダノンの町の領主の館は、主のゼペスを始め使用人から何から総出で大忙しであった。

 そう。

 祭りの準備に向けて、冒険者パーティー『白夜』を始めとする冒険者ギルドの面々、ヨハンを中心とする商業ギルドの人間や町の主だった者達が連日、入れ替わり立ち代わり訪れていたのだ。

 応接室では、奏が催し物や食べ物を出す店の並びをゼペスや商業ギルドの人間達と話し合っていた。



「ゼペスさん、こんな感じでどうですか? ダノンや近隣の町でもともと営業しているお店を、人が集まりそうな場所に集めました。でも、このお屋敷を解放して本当にいいんですか? ありがたいお話なんですが」

 首を傾げる奏に、ゼペスが笑った。

「おお! いいですね。これで行きましょう。敷地解放は王都のお祭りの真似ですけどね。参加する人間達が身分関係なく笑いあって、肩を寄せて楽しんで……あの光景を見たら、やらずにはいられませんよ」

 ゼペスの横にいた冒険者と商業の両ギルド長が、頷いて言葉を重ねる。

「祭りに使う食材や素材を補う為の臨時依頼で、ダノンの冒険者ギルドは過去見ない程に活気づいております。エル様が『白夜』のアスト達と赤竜を狩ってこられた時には腰を抜かしましたが、こちらも、ギルド最大の収入源とさせていただいております」

(ああ、その時は確か……まだ京がじれじれと告白引き延ばしてたから。京もエルの気持ち知りながら腰引けてたもんね。エル怖かったあ)
 
 笑顔で青筋を立てるエルを思い出して冷や汗を掻く奏。

「かかった費用は奏様達、王家や領主様の負担にするだけでなく、我が町の商売人や職人にも十分に利が行きわたる様にして下さった御配慮、深く感謝します。出店は参加者に事前に配られた『コイン』の枚数に応じて精算ですね」
「そうです。エルの魔法で偽造や誤魔化しができないようにしてありますので安心ですよ。多分誤魔化したら……キレたエルが来るかと」

 顔を真っ青にしたギルド長達に奏が頭を下げた時、職人達と一緒に看板を抱えたヨハン、アスト、ゼガンがやってきた。

「奏! 看板持ってきたぞ、どうだ!」
「くそう、こき使いやがって! 美味い酒の為、美味い酒ぇ!」
「ゼガン、うるさいぞ。奏、こんな感じでいいのか?」

 三人は自信ありげに笑っている。

「うわあ、すっごい! これいいよ!」

 豪奢な木彫り看板を見て飛び跳ねる奏に、三人は満足げに頷いた。
 
『第一回 ダノン花火大会 ~ぜーんぶ無料だよ!~』





 中庭では、蓮次が持たせてくれた串焼きや菓子をと頬張る少女姿の玉藻前たまものまえやエルデ、そしてその配下達を観衆に、蓮次と京にエル、アールズゲート、ラステラとケルンが打ち上げる花火について話し合っていた。

「なるほど。王都で見た美しい『花火』の数々は奏さんとエルさんの魔法なんですね」
「だな。奏とエルには苦労の掛けどうしだが、こればっかりはなあ。すまねえな、エル」

 頭を下げる蓮次に、エルは微笑んだ。

「いいのよ、蓮さん。私達もみんなの喜ぶ顔が嬉しいし、もう慣れちゃったしね。そのうち、京を猛特訓して手伝わせるから」
「ぼ、僕が?!」
「何よ」
「あ、はい。頑張ります」

 思わず声を上げた京が、ジト目で頬を膨らますエルに姿勢を正す。

「京は尻に敷かれてんのか。ま、『姉女房は身代しんだいの薬』ってな」
「僕、エルより四つ年上なのに?!」
「何よ」
「あ、はい。蓮さんのおっしゃる通りです。エルを大切にします」
「うむ!」

 やり取りを見て笑う蓮次と、頬を赤く染めながら満足げに反り返るエルの姿に京はひたすら冷や汗を掻いたのだった。
 

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