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ダノンの街へ

36 猫の子一匹通しやしねえよ

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「それで、ゼペスさんとガルディさんは……グレブ帝国はいつ頃攻めてくると予想してますか?」

 テーブルに突っ伏してエルに頭を撫でられているかなでを横目に見ながら、ゼペス達に問いかける京。

「ガルディ、地図を」
「はっ」
 
 先ほどまでとは打って変わって、表情を引き締めたゼペスとガルディに、居住まいを正した京、エル、そして奏も顔を上げる。

 蓮次だけはお茶をごくり、と飲んではリラックスした表情で五人を見つめている。

 卓の上で広げた地図を指さしながら、ゼペスが蓮次達に説明をし始めた。

「グレブは毎回、船団で海を渡って来ては陸路を選んで北方や東方から攻め寄ってきました。南方はザンザムールがおり、海路を真っ直ぐに来るのならば我らにも十分な備えがある為です。通常ですと海路で4~5昼夜、こちらの大陸に着いてから数日……我が方の砦や拠点突破を考えねば、7~10昼夜ですね」

 それを聞いた京が首を傾げる。

「随分と分の悪い賭けじゃないですか?徴収や略奪を当てにして攻めてくる所から行き当たりばったりな気がするし、船を出して大陸を渡ってこっちに着いたら突き進んでくるって、見つからずに上手くいくと思ってるんでしょうか。あちらには軍を指図する人間はいないんですか?」

 肩を竦めた京に、ゼペスがため息を付く。

「昔グレブに力が残っていた頃は、マルイエ、という軍師がおりまして、我が国の先王と父の代は苦戦を強いられたようです。が、ここ数回の戦では姿を現していません。皇帝ファルナスの不興を買ったか、倒れ伏したのかもしれないとは考えていますが……油断はしておりません」

 そこで、発言ができるまで回復した奏が真っ赤な顔で蓮次をちら!ちら!と見ながらゼペスに質問する。

「結局、私達はどうしたらいいの?」
「……ザンザムールに出現した、という竜が気がかりではありますが、既に王都には伝令を走らせております。騎士団も動き出すと思われますので、『マツリバヤシ』の皆様は最後の砦として……」
「待った」

 蓮次がゼペスの発言を遮る。

「様子がいつもと違えんだろ?ま、四人いるからよ、東西南北は任せてくんな。強え化身様も敵さんにいるとなりゃあ、尚更だ。祭りの前座に使ってくんな。ちぃと思うところもあるんでな、そんでいいだろ?」

 蓮次が奏、京、エルに視線をやった。

「あったりまえじゃない!いい気になって攻め込んできて、略奪だ徴収だ、なんてふざけんじゃないわよ!とんでもなく後悔させてやるんだから!」
「同感だね。この世界の竜がどれだけ強いか知らないけれど……僕らだってとは何度も手合わせしたことがある。お手並み拝見と行こうよ」
「まあ、私達の事を見逃しているんだか、高をくくっているんだかわからないけれど、竜が出ようが魔王が出ようが皇帝とやらは逃がさないわよ~?」

 自信満々に言い切る面々に、ニヤリと笑った蓮次。

「ま、そういうこった。作戦の大筋は京、頼んだぜ?」
「はいはい、聞いておくよ」

 ゼペスとガルディは絶句し、すぐに深々と頭を下げた。

「なあに、猫の子一匹通しやしねえよ。聞き分けのねえ半竹どものケツっぺた、存分に引っぱたいてたたっ返して、皆で祭りの準備といこうかい」

「「「「「おう!!!」」」」」

 豪奢な応接室にそぐわない、気合の入った声がこだまする。

「てなわけだ。いなせな兄さん、粋な姐さん方も、頼んだぜ?」

 オオオオオオオオオオッ!!!

 蓮次の側で揺らめいた空間から、様々な勇ましい咆哮が響き渡ったのだった。
 
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