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辺奈都高校編
円卓会議
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円卓会議
それは、対魔公安局の中でも特に重要な意味を持つ会議だ。
対魔公安局の中でも最高とされている『課』その長達が揃って会議にかけられている者を査問する。
そのため、そこら一般の局員では円卓会議の申請すら行えない。毒島はやり方こそ汚いが、キャリアとしては壬生一文と同じだけの積み重ねがある。
そんなこんなで、毒島は「現地での上官命令違反」をした壬生麻斬を円卓会議にかけたのだ。
「………ふぅ…」
麻斬は軽く息をつく。以前ここに来た時、この銀行の金庫のような扉は憧れと尊敬の対象だった。
だが、今はその雰囲気が重々しく、裁判所のような空気を感じる。
……事と次第によっては、それ以上に過酷な状況になるのだろうが。
金庫のような扉の前に立ち、門番のような役の局員にカードを見せる。
「壬生麻斬です。『円卓会議』です」
「………そうですか」
『円卓会議』と聞いた瞬間、門番の局員は同情にも似た表情を浮かべて、扉を開く。
中に入ると、以前も見た円卓に各課の長達が変わらぬ調子でそれぞれの椅子に鎮座していた。
その最奥に座る女性、白夜 創奈は銀の長髪をなびかせながら、以前とは違う雰囲気でそこに座っていた。
「……さて、来たか壬生麻斬。そこに立て」
以前お嬢さんと呼ばれた時のような親しみさは全く無く、真剣な顔付きとトーンで話す。麻斬はごくりと喉を鳴らし、いつもの仏頂面で指定された場に立った。
「では円卓会議を開始する。各課、意思表示を」
白夜がそう言うと、円卓に座る各課の長が順に口を開く。
「第1課、いつでも?行けるぜぇ?」
第一課課長、炎獅はいつも通り円卓に組んだ足を乗っけながら話した。
「第2課、問題ありません」
第二課課長、繰糸は上品に言葉を紡ぐ。
「………第3課………異存は無い」
第三課課長、壬生 一文は仏頂面の中にどこか寂しさのような物を浮かべながら話す。
「第4課、問題無い」
第4課課長、夜々霧は興味なさそうに呟く。
「第5課、いつでもいけまっすっよー」
第5課課長、取栗は軽い調子で答える。
そこまで行くと、白夜が続ける。
「特務課は……まぁ、また欠席か。では以上の人数で会議を開始する。毒島局員、議題を」
白夜に言われ、麻斬の横に立っていた毒島はコホンとわざとらしく咳込むと、話し始める。
「はい、この度『タナトスの右腕』の捕獲任務に置いて、局面で上官にあたる私の命令を無視。私的感情により、任務を放棄した。以上の理由から、壬生麻斬局員の『追放』を求めます」
『追放』、対魔公安局員のあらゆる権限を剥奪し、局から追い出される。文字通りの意味だが、1度追放されると、二度と対魔公安局には戻れず、その上霊的存在に干渉する能力があれど局と仲の悪い陰陽院に入る事はほぼ不可能。
対魔公安局は人外達から少なからず恨まれている節もあるので、戦う力を取り上げられた局員がどのような結末を迎えるのか、想像するまでも無い。
『追放』は対魔公安局の中でもかなり重い刑罰になる。
「と、言う訳だそうだが、壬生局員何か言いたいことはあるか?」
白夜に言われ、麻斬は口を開く。
「いいえ、特にありません。私的感情から命令違反をした事は事実です」
そういった麻斬に「そうか」と返すと、白夜は続ける。
「では、『追放』の審議を行う。知っての通り、『追放』は局の中でもかなり重い刑罰になる。よって、賛成票の数では無く、反対票を重視する。反対票が2つ以上で『追放』処分は却下、他の処分の検討になる」
円卓会議でそれなりに重い刑罰の申請が入ると、賛成票の数では無く、反対票が重視される。反対票が2つ以上でその申請は却下され、他の処分の検討になる。この投票に局長である白夜は関与しないため、第1課から第5課、そして特務課を含めた6人の票で決まる。つまり3分の1以上の反対票が出れば良い訳だが………
「俺は『賛成』だ。上官の命令違反?論外だろ?」
「まぁ、私達第5課は研究員ですからね。前線で戦ってくれてる人に対してどうこう言うのは抵抗がありますが……それでも命令違反は困ってしまう訳で、どちらかと言えば『賛成』ですね」
「なら俺にどうこういうんじゃねえよ。この根暗野郎が」
「煩いですねあなたみたいな脳筋野郎に払う敬意なんて1ナノミクロンもないんですよ毎回毎回無茶な注文ばっかりして来るくせしてすぐ壊してくるしこっちは予算や時間も割いてやってやっていると言うのに感謝もお礼も言わないそんな傲慢野郎に払う敬意なんて持っている訳ないでしょうに(超早口)」
「第1課に賛成する訳ではありませんが、命令違反を1度許すと、同じ事象が起きないとも限りません。規律を守るため、第2課も『賛成』です」
「……そうだな。第4課も同意見だ」
「もう、ダメよ夜々ちゃん。私の意見に賛同するばかりじゃ。しっかり自分の意見を言わないと」
「やかましいぞ、紬。前者に賛同する。それも自分の意見だろ」
「こんな時でも夫婦漫才か、夜々霧、繰糸。円卓会議ですらその調子とは呆れを通り越して尊敬までしてしまうな」
「ふふ、それはともかく、あとは貴方だけよ?壬生さん」
「……………」
賛成4票、そんな空気の中、仏頂面をさらにしかめて、壬生は言い張った。
「『反対』だ」
その堂々とした物言いに白夜は思わず笑ってしまった。
「そうか、では一応理由も聞いてみようか」
「報告によれば、対象はイレギュラーな自体を発生させ、無差別的な破壊行動を行ったと言う。そんな中、壬生局員はたった1人戦い、被害を抑えた。命令違反は褒められたものでは無いが、そのような戦力を手放してしまうのは局として損失だ」
「なるほどな、君の意見はわかったが、賛成4票、反対1票。これはどうにもならん」
白夜の言葉に毒島はほくそ笑む。
「では、賛成票4、反対票1という結果になった。反対票は2以下となった。よって、壬生麻斬局員は『追放』処分と……」
っと、そこまで白夜が言いかけたその瞬間。
円卓の部屋の扉、あの銀行の金庫のように厳重で分厚い扉が。
吹っ飛んできた。
それは麻斬の立つ場所と円卓のちょうど間に落下する。
「はーい、ちょっと待ったー」
円卓のメンバーの視線が一斉にその声の方へと向く。
そこには、1人の男がたっていた。
煙が晴れると共に、男の特徴が段々と明らかになって来る。灰をかぶったような色の髪。どこか品を感じる足元まで丈のある直線的なデザインの服。そして眼帯。
色々と特徴の多い男だが、何よりも目を引くのは、肩に乗せている3メートル程の大剣だろう。
もはや「剣」と表現するより、「処刑台のギロチンに取っ手をつけた何か」と表現した方が妥当なほどだ。刀身は不気味な曲線を描いている場所もあれば、鋭利的な角がある場所もある。
その姿をみて。
「あ!」
第5課課長、取栗はどこか嬉しそうに。
「アッ!?」
第1課課長、炎獅はどこか恨めしそうに。
「はぁ~……」
局長、白夜 創奈は頭を抱えながら。
各々反応を示す。
「君が円卓に出てくるとは……何事だ」
白夜は片手で頭を抱えながら、さも面倒そうに言葉を発する。
「いや何、俺抜きで面白そうな事をやってらっしゃる。途中で入ろうとしたんだけど、扉前に居た門番が中々入れてくれなくて。面倒だから吹っ飛ばして入ってきたってのさ」
片手で巨大な刀剣を軽々しく持ち上げながら、トコトコと円卓に近づく。空席だった椅子に近づくと、ふわっとした動作で大剣をそばに放り投げるように浮かせる。次の瞬間、大剣はズガンッ!!っと言う音を立てて、地面に突き刺さる。
自重で地面に突き刺さるあたり、相当重量があるのだろう。
「それで、君が円卓会議にかけられるって事かな?やぁやぁ初めまして」
厳かな雰囲気とは裏腹に、穏やかな声色、穏やか声色とは裏腹に軽い口調、軽く感じる口調とは裏腹に、そばに刺さった大剣はおどろおどろしい。
そんな噛み合ってないはずの要素が、違和感なく組み合わさっているような男だった。
「俺は特務課課長、戒原 壱進。よろしくーってのさ」
ケラケラとした雰囲気で麻斬に話しかける。
男の正体は、対魔公安局が保有する最強の個人戦力と名高い特務課課長、戒原 壱進その人だった。
「それで、円卓会議だね。なに何、『追放』ねぇー。また随分と重い刑罰だってのさ。それで賛成が4票に反対が1票……ふーん」
今までの状況を確認するように、口にすると
、次は麻斬を見る。
「壬生麻斬……『壬生』…ねぇ?…ふーん…」
何やら口元を緩ませると、パッと円卓の方へ向く。
「じゃあ俺も『反対』かなー。これで反対票は2。麻斬ちゃんは『追放』にならないってのさ。それで別の処罰は、そうだねー」
戒原はわざとらしく考える素振りを見けると、すぐさま口を開く。
「そうだねー。第3課への編入を中止。代わりに俺の『特務課』への編入かな」
「おい!何勝手に決めてんだ!戒原ァッ!!」
突如現れた戒原に向かって、とうとう炎獅が噛み付く。
「へぇー。なに何、俺の決めた事になんか文句でもあるってのさ?」
穏やか声色、軽い口調に加え、どこか凄みのある空気を纏った一言だった。
「ッッッ……!?」
それだけで炎獅は押し黙ってしまった。
「さてと、他に何か…い・い・た・い・ひ・と・は………いなそうだねー。じゃあ決定かなー」
そうやって言うだけ言うと、突き刺さった大剣を片手で軽々と引き抜き、再び肩に乗せると自らが蹴破った扉の方へと向かう。
「じゃあ麻斬ちゃん。行こっかー」
「え、あの…えっと…」
仏頂面のままオドオドする麻斬。その様子を見た戒原が楽しそうに続ける。
「大丈夫ってのさ。皆なーんの反対もしないから」
そう言うと麻斬の肩にトンッと手を乗せ、そのまま扉へ向かう。
「待て。特務課」
誰も戒原に反対出来ない中、ただ1人白夜が待ったをかける。
「何でしょう局長?」
にこやかに振り返る戒原。
「………その態度をいつまでも続けられるとは思わない事だぞ」
「へぇー。対魔公安局は実力主義でしたよね?局長、俺とサシでやってみますー?」
近くに居た麻斬は感じた。軽い口調のこの男から、蛇のような殺気が溢れている事に。
「……あまり、局長をなめない方が身のためだ」
対する白夜は、それまで黒かった目を、蒼く輝かせていた。
「ふーん……試してみます?」
一触即発な空気の中、白夜は深くため息を吐いて、言葉を続ける。
「……次からは扉を蹴破らないで入って来い」
「善処しましょー♪」
戒原が麻斬を連れて円卓の間を出た後、円卓にはなんとも言えない雰囲気が漂っていた。
「え、えっと…どうしましょうか?局長」
「……はぁ~~~~……毎回毎回、アイツが円卓に来るとロクなことにならん…」
「局長!あれだけ好き勝手させて黙ったままってんですかァ!?」
「第1課……いや、君らと第2課、第3課、そして第4課。それだけの戦力を集めてもあの男1人に敵わないぞ。これは君たちを過小評価してる訳では無い。事実だ」
白夜の言葉に続くように夜々霧が続ける。
「……しかも、私達第4課は対個人用の課。頭数連れたところで第4課1人1人はそこまで強い訳じゃない」
「ぐぬぬ………」
「……ふふっ……脳筋野郎ザマー…」
「あぁぁぁんっ!?!?」
相変わらずな炎獅と取栗をほっぽいて、壬生一文は白夜に問う。
「それで、どうするのです局長」
白夜は片手で頭を抑えたまま、答える。
「放って置くしかあるまい。皆聞いていたな。処分は特務課の言っていた通りだ。円卓会議は以上とする……」
疲労気味な顔で頭を抱える局長様だった。
会議後、連絡用通路でいつも通り壬生一文は缶コーヒーを飲んでいた。
そこへまた、長い銀髪を揺らしながら白夜創奈が歩いてくる。
「………何だ」
「お嬢さんの件、皆の手前あぁは言ったが、私は反対だったよ」
白夜は自販機の近くに寄りかかりながら、続ける。
「『特務課への編入』か……運命なのかね。『あの人』が設立した特務課に、お嬢さんが入るとはな」
白夜は珍しくしみじみと話す。
「……さぁな。アイツがそこで何を聞き、何を学ぶかは、アイツ次第だ」
「………お嬢さんは、『あの人』のようになるのだろうか?」
その問に壬生一文は堂々と答える。
「俺とあいつの子だ。俺たち何か易々と超えていくさ」
どことなく嬉しそうな声で話す一文。
「………『あの人』と『剣狼』を超える人材…か。ハハッ随分とお嬢さんに期待をしているな?」
白夜にそう言われ、一文はまたもや堂々と答える。
「当たり前だ。自分の娘に期待しない親が何処にいる」
それを聞いて局長様は一言。
「やっぱり君は親バカだな」
それは、対魔公安局の中でも特に重要な意味を持つ会議だ。
対魔公安局の中でも最高とされている『課』その長達が揃って会議にかけられている者を査問する。
そのため、そこら一般の局員では円卓会議の申請すら行えない。毒島はやり方こそ汚いが、キャリアとしては壬生一文と同じだけの積み重ねがある。
そんなこんなで、毒島は「現地での上官命令違反」をした壬生麻斬を円卓会議にかけたのだ。
「………ふぅ…」
麻斬は軽く息をつく。以前ここに来た時、この銀行の金庫のような扉は憧れと尊敬の対象だった。
だが、今はその雰囲気が重々しく、裁判所のような空気を感じる。
……事と次第によっては、それ以上に過酷な状況になるのだろうが。
金庫のような扉の前に立ち、門番のような役の局員にカードを見せる。
「壬生麻斬です。『円卓会議』です」
「………そうですか」
『円卓会議』と聞いた瞬間、門番の局員は同情にも似た表情を浮かべて、扉を開く。
中に入ると、以前も見た円卓に各課の長達が変わらぬ調子でそれぞれの椅子に鎮座していた。
その最奥に座る女性、白夜 創奈は銀の長髪をなびかせながら、以前とは違う雰囲気でそこに座っていた。
「……さて、来たか壬生麻斬。そこに立て」
以前お嬢さんと呼ばれた時のような親しみさは全く無く、真剣な顔付きとトーンで話す。麻斬はごくりと喉を鳴らし、いつもの仏頂面で指定された場に立った。
「では円卓会議を開始する。各課、意思表示を」
白夜がそう言うと、円卓に座る各課の長が順に口を開く。
「第1課、いつでも?行けるぜぇ?」
第一課課長、炎獅はいつも通り円卓に組んだ足を乗っけながら話した。
「第2課、問題ありません」
第二課課長、繰糸は上品に言葉を紡ぐ。
「………第3課………異存は無い」
第三課課長、壬生 一文は仏頂面の中にどこか寂しさのような物を浮かべながら話す。
「第4課、問題無い」
第4課課長、夜々霧は興味なさそうに呟く。
「第5課、いつでもいけまっすっよー」
第5課課長、取栗は軽い調子で答える。
そこまで行くと、白夜が続ける。
「特務課は……まぁ、また欠席か。では以上の人数で会議を開始する。毒島局員、議題を」
白夜に言われ、麻斬の横に立っていた毒島はコホンとわざとらしく咳込むと、話し始める。
「はい、この度『タナトスの右腕』の捕獲任務に置いて、局面で上官にあたる私の命令を無視。私的感情により、任務を放棄した。以上の理由から、壬生麻斬局員の『追放』を求めます」
『追放』、対魔公安局員のあらゆる権限を剥奪し、局から追い出される。文字通りの意味だが、1度追放されると、二度と対魔公安局には戻れず、その上霊的存在に干渉する能力があれど局と仲の悪い陰陽院に入る事はほぼ不可能。
対魔公安局は人外達から少なからず恨まれている節もあるので、戦う力を取り上げられた局員がどのような結末を迎えるのか、想像するまでも無い。
『追放』は対魔公安局の中でもかなり重い刑罰になる。
「と、言う訳だそうだが、壬生局員何か言いたいことはあるか?」
白夜に言われ、麻斬は口を開く。
「いいえ、特にありません。私的感情から命令違反をした事は事実です」
そういった麻斬に「そうか」と返すと、白夜は続ける。
「では、『追放』の審議を行う。知っての通り、『追放』は局の中でもかなり重い刑罰になる。よって、賛成票の数では無く、反対票を重視する。反対票が2つ以上で『追放』処分は却下、他の処分の検討になる」
円卓会議でそれなりに重い刑罰の申請が入ると、賛成票の数では無く、反対票が重視される。反対票が2つ以上でその申請は却下され、他の処分の検討になる。この投票に局長である白夜は関与しないため、第1課から第5課、そして特務課を含めた6人の票で決まる。つまり3分の1以上の反対票が出れば良い訳だが………
「俺は『賛成』だ。上官の命令違反?論外だろ?」
「まぁ、私達第5課は研究員ですからね。前線で戦ってくれてる人に対してどうこう言うのは抵抗がありますが……それでも命令違反は困ってしまう訳で、どちらかと言えば『賛成』ですね」
「なら俺にどうこういうんじゃねえよ。この根暗野郎が」
「煩いですねあなたみたいな脳筋野郎に払う敬意なんて1ナノミクロンもないんですよ毎回毎回無茶な注文ばっかりして来るくせしてすぐ壊してくるしこっちは予算や時間も割いてやってやっていると言うのに感謝もお礼も言わないそんな傲慢野郎に払う敬意なんて持っている訳ないでしょうに(超早口)」
「第1課に賛成する訳ではありませんが、命令違反を1度許すと、同じ事象が起きないとも限りません。規律を守るため、第2課も『賛成』です」
「……そうだな。第4課も同意見だ」
「もう、ダメよ夜々ちゃん。私の意見に賛同するばかりじゃ。しっかり自分の意見を言わないと」
「やかましいぞ、紬。前者に賛同する。それも自分の意見だろ」
「こんな時でも夫婦漫才か、夜々霧、繰糸。円卓会議ですらその調子とは呆れを通り越して尊敬までしてしまうな」
「ふふ、それはともかく、あとは貴方だけよ?壬生さん」
「……………」
賛成4票、そんな空気の中、仏頂面をさらにしかめて、壬生は言い張った。
「『反対』だ」
その堂々とした物言いに白夜は思わず笑ってしまった。
「そうか、では一応理由も聞いてみようか」
「報告によれば、対象はイレギュラーな自体を発生させ、無差別的な破壊行動を行ったと言う。そんな中、壬生局員はたった1人戦い、被害を抑えた。命令違反は褒められたものでは無いが、そのような戦力を手放してしまうのは局として損失だ」
「なるほどな、君の意見はわかったが、賛成4票、反対1票。これはどうにもならん」
白夜の言葉に毒島はほくそ笑む。
「では、賛成票4、反対票1という結果になった。反対票は2以下となった。よって、壬生麻斬局員は『追放』処分と……」
っと、そこまで白夜が言いかけたその瞬間。
円卓の部屋の扉、あの銀行の金庫のように厳重で分厚い扉が。
吹っ飛んできた。
それは麻斬の立つ場所と円卓のちょうど間に落下する。
「はーい、ちょっと待ったー」
円卓のメンバーの視線が一斉にその声の方へと向く。
そこには、1人の男がたっていた。
煙が晴れると共に、男の特徴が段々と明らかになって来る。灰をかぶったような色の髪。どこか品を感じる足元まで丈のある直線的なデザインの服。そして眼帯。
色々と特徴の多い男だが、何よりも目を引くのは、肩に乗せている3メートル程の大剣だろう。
もはや「剣」と表現するより、「処刑台のギロチンに取っ手をつけた何か」と表現した方が妥当なほどだ。刀身は不気味な曲線を描いている場所もあれば、鋭利的な角がある場所もある。
その姿をみて。
「あ!」
第5課課長、取栗はどこか嬉しそうに。
「アッ!?」
第1課課長、炎獅はどこか恨めしそうに。
「はぁ~……」
局長、白夜 創奈は頭を抱えながら。
各々反応を示す。
「君が円卓に出てくるとは……何事だ」
白夜は片手で頭を抱えながら、さも面倒そうに言葉を発する。
「いや何、俺抜きで面白そうな事をやってらっしゃる。途中で入ろうとしたんだけど、扉前に居た門番が中々入れてくれなくて。面倒だから吹っ飛ばして入ってきたってのさ」
片手で巨大な刀剣を軽々しく持ち上げながら、トコトコと円卓に近づく。空席だった椅子に近づくと、ふわっとした動作で大剣をそばに放り投げるように浮かせる。次の瞬間、大剣はズガンッ!!っと言う音を立てて、地面に突き刺さる。
自重で地面に突き刺さるあたり、相当重量があるのだろう。
「それで、君が円卓会議にかけられるって事かな?やぁやぁ初めまして」
厳かな雰囲気とは裏腹に、穏やかな声色、穏やか声色とは裏腹に軽い口調、軽く感じる口調とは裏腹に、そばに刺さった大剣はおどろおどろしい。
そんな噛み合ってないはずの要素が、違和感なく組み合わさっているような男だった。
「俺は特務課課長、戒原 壱進。よろしくーってのさ」
ケラケラとした雰囲気で麻斬に話しかける。
男の正体は、対魔公安局が保有する最強の個人戦力と名高い特務課課長、戒原 壱進その人だった。
「それで、円卓会議だね。なに何、『追放』ねぇー。また随分と重い刑罰だってのさ。それで賛成が4票に反対が1票……ふーん」
今までの状況を確認するように、口にすると
、次は麻斬を見る。
「壬生麻斬……『壬生』…ねぇ?…ふーん…」
何やら口元を緩ませると、パッと円卓の方へ向く。
「じゃあ俺も『反対』かなー。これで反対票は2。麻斬ちゃんは『追放』にならないってのさ。それで別の処罰は、そうだねー」
戒原はわざとらしく考える素振りを見けると、すぐさま口を開く。
「そうだねー。第3課への編入を中止。代わりに俺の『特務課』への編入かな」
「おい!何勝手に決めてんだ!戒原ァッ!!」
突如現れた戒原に向かって、とうとう炎獅が噛み付く。
「へぇー。なに何、俺の決めた事になんか文句でもあるってのさ?」
穏やか声色、軽い口調に加え、どこか凄みのある空気を纏った一言だった。
「ッッッ……!?」
それだけで炎獅は押し黙ってしまった。
「さてと、他に何か…い・い・た・い・ひ・と・は………いなそうだねー。じゃあ決定かなー」
そうやって言うだけ言うと、突き刺さった大剣を片手で軽々と引き抜き、再び肩に乗せると自らが蹴破った扉の方へと向かう。
「じゃあ麻斬ちゃん。行こっかー」
「え、あの…えっと…」
仏頂面のままオドオドする麻斬。その様子を見た戒原が楽しそうに続ける。
「大丈夫ってのさ。皆なーんの反対もしないから」
そう言うと麻斬の肩にトンッと手を乗せ、そのまま扉へ向かう。
「待て。特務課」
誰も戒原に反対出来ない中、ただ1人白夜が待ったをかける。
「何でしょう局長?」
にこやかに振り返る戒原。
「………その態度をいつまでも続けられるとは思わない事だぞ」
「へぇー。対魔公安局は実力主義でしたよね?局長、俺とサシでやってみますー?」
近くに居た麻斬は感じた。軽い口調のこの男から、蛇のような殺気が溢れている事に。
「……あまり、局長をなめない方が身のためだ」
対する白夜は、それまで黒かった目を、蒼く輝かせていた。
「ふーん……試してみます?」
一触即発な空気の中、白夜は深くため息を吐いて、言葉を続ける。
「……次からは扉を蹴破らないで入って来い」
「善処しましょー♪」
戒原が麻斬を連れて円卓の間を出た後、円卓にはなんとも言えない雰囲気が漂っていた。
「え、えっと…どうしましょうか?局長」
「……はぁ~~~~……毎回毎回、アイツが円卓に来るとロクなことにならん…」
「局長!あれだけ好き勝手させて黙ったままってんですかァ!?」
「第1課……いや、君らと第2課、第3課、そして第4課。それだけの戦力を集めてもあの男1人に敵わないぞ。これは君たちを過小評価してる訳では無い。事実だ」
白夜の言葉に続くように夜々霧が続ける。
「……しかも、私達第4課は対個人用の課。頭数連れたところで第4課1人1人はそこまで強い訳じゃない」
「ぐぬぬ………」
「……ふふっ……脳筋野郎ザマー…」
「あぁぁぁんっ!?!?」
相変わらずな炎獅と取栗をほっぽいて、壬生一文は白夜に問う。
「それで、どうするのです局長」
白夜は片手で頭を抑えたまま、答える。
「放って置くしかあるまい。皆聞いていたな。処分は特務課の言っていた通りだ。円卓会議は以上とする……」
疲労気味な顔で頭を抱える局長様だった。
会議後、連絡用通路でいつも通り壬生一文は缶コーヒーを飲んでいた。
そこへまた、長い銀髪を揺らしながら白夜創奈が歩いてくる。
「………何だ」
「お嬢さんの件、皆の手前あぁは言ったが、私は反対だったよ」
白夜は自販機の近くに寄りかかりながら、続ける。
「『特務課への編入』か……運命なのかね。『あの人』が設立した特務課に、お嬢さんが入るとはな」
白夜は珍しくしみじみと話す。
「……さぁな。アイツがそこで何を聞き、何を学ぶかは、アイツ次第だ」
「………お嬢さんは、『あの人』のようになるのだろうか?」
その問に壬生一文は堂々と答える。
「俺とあいつの子だ。俺たち何か易々と超えていくさ」
どことなく嬉しそうな声で話す一文。
「………『あの人』と『剣狼』を超える人材…か。ハハッ随分とお嬢さんに期待をしているな?」
白夜にそう言われ、一文はまたもや堂々と答える。
「当たり前だ。自分の娘に期待しない親が何処にいる」
それを聞いて局長様は一言。
「やっぱり君は親バカだな」
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