人外の多いコンビニ

幽零

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辺奈都高校編

唯我祭!別サイド!

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歪咲がちょうど生徒抑制部の部屋からアリーナを見下ろしていた頃、アリーナでは激闘が繰り広げられていた。


武闘大会である唯我祭は最初に『Aグループ』『Bグループ』のように5~6人のグループに分けられ、最初にそのグループの中から決勝トーナメントに出場できる選手を一人決める。5~6人の中から一人を決めていては決勝トーナメントに出場する選手が少なくなるのでは?といった懸念があると思うが、それに関しては特に問題ないだろう。なぜならこの『グループ』は相当な数存在するのだ。決勝トーナメントの見応えがなくなるという心配は全くない。

『グループ戦』はアリーナで全てのグループが一斉に開始される。石畳のようなリングの上にグループの選手が上がり、場外・降参・戦闘不能でリタイアとなる。

数多くのグループが一斉に試合を開始し白熱する。試合も白熱していれば当然観客席の生徒も盛り上がる。だが、一部の観客はどうにも盛り上がり切れていないようだった。


「いや~、今年もすげぇなぁ~…結構な額払って見る甲斐があるよな…」

「……本当は?」

「『竜人・九龍』がいなくて物足りん……」

「だよな……」

「まぁしゃあねぇよ…アイツ前回『グループ戦』の時、自分以外のグループ含めて全滅させてるんだぜ?出禁も食らうわ」

「まぁまぁ、去年は去年、今年は今年だろ。せっかく結構な額出して見てるんだからさ、楽しもうぜ?ほらあそこのグループの軍服着てる包帯のやつ、アイツさっきから中々強いぞ?」



いまいち盛り上がりきれていない観客達は、去年の『九龍伝説』を目撃した生徒達だった。九龍が出禁を食らったのは、グループ戦が始まってから場外に出ることなく他のグループの選手も全滅させ、決勝トーナメントを行うことなく勝ってしまったからである。





場所は観客席から変わって、『Mグループ』の試合会場。トンファーを持った男やら、腕にワイヤー巻きつけた女などがいる中、特に何も持っていない忍者の格好の娘、虫鹿はいた。

本来グループ戦は5~6人がしのぎを削る形式なのだが、ここの会場は選手が虫鹿一人を囲むように位置取っている。おそらく、なんの武器も持っていない虫鹿を先にリタイアさせて、残った連中で削り合おうという魂胆だろう。こういう時に謎の一体感が生まれるのは人間だけでなく、人外達も同様のようだった。


ちなみに先程から囲まれている虫鹿はというと……


「あー……大将見に来てねーんだよなぁ~…アタイの勇姿を目に焼き付けて欲しかったのに……あ~、大将~……」


緊張感など毛ほどもない態度だった。

どうやら他の選手が虫鹿を囲むだけ囲って、何もしてこないのはこれが原因らしい。『唯我祭』に出ている以上、それなりの腕はあるだろう。しかし先程から囲まれているのに緊張どころか、彼女は彼らを見向きもしない。それが強者の余裕なのか、はたまたただの馬鹿なのか。それを測り損ねているのだ。

その上、自分はリタイアしたくないがために、自分以外の選手が先に仕掛けることを待っている。チキンレースのような状況になっていた。



「ま、ここでリタイアしてもいいけど、あの年増にゃ負けたくねーからなぁー………ま、しゃーない」

虫鹿はその場でグーっと伸びをすると、カクンッと肩を落とす。すると身の毛もよだつような虫の羽音が彼女の服の下から響いてきた。

「タラタラやんの、好きじゃないんだよアタイ」

忍者服がめくれるほどの羽音が響き、彼女の服の下からおぞましい羽虫の大群が現れ始めた。その多さに観客席の生徒達もゾワっとしている。

「ほ~ら、早く逃げな~?アタイはともかく、こいつら待っちゃあくれないよ?」

虫鹿がニヤっと笑うと、それに応呼するように羽虫の大群がそれぞれの選手へと襲いかかる。必死に抵抗しようとする者、生理的悪寒に襲われ自ら場外へ逃げ出す者、羽虫の大群にたかられ失神する者もいた。

一方の虫鹿はと言うと、羽虫が群れをなして形成した椅子の上にあぐらをかいて座り、テレビでも見るように楽しそうな顔をしていた。


「おーおー、愉快だねぇ~」


頬杖をつきながら欠伸をすると、遠くの試合場の方を眺める。


「年増の方は負けてくれてるといいんだけどねぇ~……ま、アイツに限ってそれはないか」

非常に面倒なものを押し付けられたような顔をしながら、でもどこか信頼のある言葉を彼女は呟いた。




場所は変わって『Gグループ』の会場。サトリは相変わらず微笑みを浮かべながらそこにいた。その周りには、宙を見上げながらボゥっとしている選手の人外が数名ほど。

やはり女性という事が災いしたのか、サトリは序盤に力自慢たちに襲われていた。しかし、その力自慢はサトリの目を見るや棒立ちになっている。その様子を見て恐怖に駆られたのか焦ったのか、もう一人が襲い掛かろうとするが同じ結末を辿った。そんなこんなでこのグループにはもう一人ぐらいしかまともに動けるヤツがいなかった。

そいつは剣を片手に慎重に思考を巡らせていた。当のサトリは片手を口元に添えて微笑んでいる。


(し、慎重に考えるんだ……さっきからあの人に向かっていった人は全員なぜだか棒立ちしている)

緑のバンダナを巻いた半森人ハーフエルフの少年は汗を滲ませていた。

目の前の人からはまるで殺気を感じない。それどころか人を害するような気配も感じない。こちらを見ながらずっと笑っているが、それは余裕なのか油断なのか……果たしてわからないが、ともかく危険な事はわかった。

(考えろ……恐らく拘束系の術か何かな筈だ……ともすれば接触による拘束術式が一般的だが、目の前の脳筋は触れられた素振りがない……ま、まさか遠距離からの拘束術式!?……聞いた事がないけど……しかしそれしか…)

半森人の少年は剣を握る手に力を込める。

対するサトリは微笑みを崩さない。まるでお母さんが息子の宿題の様子を見ているような表情だ。


半森人の少年はサトリをみる。同族のような気がするが、どうにも不気味なのだ。自分と同じ森人の出の女性なら少なくとも弓矢ぐらいは携帯しているはず。しかし、目の前のその人は何も持っていない。。何も持っていないからこそ、何をしてくるのかもわからない。

(で、でも、いつまでもこうしている訳にはいかない……賞金が出れば妹達もこの学校へ来れる、母さんへの仕送りだって…)


少年は覚悟を決める。

「う、うォォォォッッ!!」

剣を振りかぶり、サトリに向かっていく。しかし、サトリはやっぱり笑顔だった。

「あらあらまぁまぁ、勇敢なのですねー。よしよし」

「ブフッ!?!?」

なぜか、半森人の少年はサトリに抱かれていた。振りかぶっていた筈の剣は床に転がっている。

サトリのふくよかな胸が、少年の顔を圧迫する。サトリは慈愛に満ちた声で言葉を発する。

「お~、よしよし……そっか、家族がいるのですね~?…まぁ!妹たちのために?偉いですね~?私がヨシヨシしてあげるのですよー?」

「ぐぐッ……な、なんでそんな事ッ!?……てか、や、やめ……」

半森人の少年は顔を真っ赤にして抜け出そうとするが、意外にもサトリの力が強くて抜け出せそうにない。そんな少年の頬をペタッと触り、自分の目と合わせる。瞬間、少年の目から正気が消え失せ、両腕がだらんとする。


「でもね?頑張りすぎは良くないのですよ?少しお休みなさいしててね?だってほら、体がこんなに疲れていますよ?」

抱きしめていた腕を解くと、半森人の額をツンッと触る。少年はとてもゆっくりその場に倒れ込んだ。


サトリは特に特殊な事をしていない。いつも通り心を支配しただけ。確かにあの少年は頑張っていた。しかし、彼の心の中に入った彼女は彼が日頃からどれほど無理をしているのかを知り、無理矢理にでも体を休ませるように心に命令したのだ。

「さてと、じゃあ

サトリがポンっと両手の掌を胸の前で合わせると、先ほどまで呆然と立ち尽くしていた力自慢たちが自ら場外まで歩いていった。


「さてと、私はこれで終わりですねー。あ、あの小娘は残っているのでしょうか?途中で倒されて下されば良いのですけどもねー」

サトリは右手を頬に添え、笑顔を浮かべた。





会場から少し離れた位置、人目につかないような場所に彼女はいた。病的なまでに白い肌に、真っ白なボブの髪型をしている。頭にはお札やら何やらが大量にくっついており、中華服のようなものを着ていた。その服は中華というよりは、現代のハロウィンを意識したような派手さがあり、中華服というよりかは、チャイナドレスと表現する方が妥当かもしれない。双眸は赤く暗く光っていた。

ブカブカな袖を持て余しながら、その場に立っている。周りには暴行を受けたと思われる生徒が複数人転がっており、地面にヒビが入っていたり、体が壁にめり込んでいたりと、かなり凄惨だった。

その側には中華服をきた男がニヤついた顔で立っている。


「全く、人外学校なんて言うから少しは期待してたんだけどな。おい、殺してねぇだろうな魅音?」

「自分で確かめればいいダロ……」

魅音と呼ばれた女性が男に反抗的な態度を取ると、そばに居た男は振り向き様に何かをつぶやくと、魅音の頭に貼ってある札がバチバチっと音を立てる。

「ッッ……ぐぅうぅ……」

魅音は全身に電流が流れるような苦痛を感じる。

「おいおい、テメェの主は誰だ?そんな態度とっていいのか?あん?」

両腕を抱きながら苦しむ魅音の姿を見て、獰猛な笑みを浮かべる中華服の男。

「ぐぅぅ……っ…こ、殺してないヨ……主人マスター

魅音が苦痛に耐えながら、途切れ途切れに答えると、男は下衆な笑みをこぼした。

「そーそー、最初からそうしてりゃいんだよ。さてと、俺もやることやるかねっとぉ」


男は負傷して地面に転がっている生徒たちに札を貼り付けていく。



「さぁてと…まだ増やせそうだなぁ?」


男は舌なめずりするように笑った。














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