人外の多いコンビニ

幽零

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収穫祭編

店長!?今更ですかッ!?

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「さて……どうするんでしょうか?」

氷四郎が困った顔でいう。

「おー、何がだ?」

奈血はなんの事かいまいちピンときていないようだが、御血の方は分かったらしい。

「人狼帝は死にましたが、手下はまだ少し残っているでしょう?それに、まだ結界は解けていない。親分が死んだと知った人狼たちが自暴自棄になると、一般の人まで巻き込まれます」

「おー、なるほど。……あれ?でも私は道中『結界師』っぽいヤツ倒したぞ?」

「……ですが『結界』は未だに解除されていませんね…」

「あー、……管理権の譲渡……ですかね」


一般的に、『霊力』による『霊術』は基本本人にしか操れないが、今回の『結界』のように持続的、もしくは永続的に効果を発動する『霊術』は、その術者が死んだ後も発動し続けれるように霊術の管理権を他人に譲渡できる場合もある。


「その通りです吸血鬼のお方。お前中々鋭いな」

声の方へ振り返ると、鏡間、狐黒、名唯の三人がいた。

「私はこの『隔離結界』の管理権を人狼帝に譲渡しました。しかし……その人狼帝はどこだよ?」

「おー、あれ」

奈血が人差し指で指す先には、どー見ても燃えカスのような炭しかなかった。

「……え……あれ?」

「そう、アレ」

「誰がやったんですか?」

「あー、……鏡間さん、途中絶大な霊力を感じませんでした……?まぁ、アレは霊力なのかすら怪しいですけど…」

御血に言われた鏡間は、そういえばと思い出したような表情になる。

「狐黒ちゃんがソレに当てられて吐いてたね」

「いうなキョウマッ!!」

「で、それとこれと関係があるのかい?」

「無視かッ!!」

「えぇ、驚かないで聞いてください。『空亡』です……」

その単語を聞いた途端、やはり真っ青になる鏡間、狐黒、名唯。

「『空亡』……伝説じゃなかったのか……」

「前から知っていたんですか?……博識じゃねぇか」

「いや、僕のが、一度だけぼやいたことがあって…「『空亡』だけはどぉしようもなかった」って……」

「……待てよキョウマ、お前の育ての親…まるで『空亡』意外ならなんとかなるような口ぶりじゃねぇか」

「……僕はもう思い出せないんだけど……多分、本当になんとかなるんじゃないかな……」

「まぁ、皆さん!!」

っと、ここで氷四郎がパァンっと心地よい音を立てて手を叩いた。


「『空亡』にあったとしても、今こうして立っていられているじゃないですか。あまり益体の無い事ばかり考えていると、暗い気持ちになってしまいますから」

「……そう、だね、まずは生き残れた事に感謝かな」

「そーだぜキョウマ!あの人狼の大群相手に勝ったんだ!」

「あの、ところで……お前誰だよ?」


名唯は氷四郎を指差す。


「人でも無いみたいですし……幽霊…ってわけでもなさそうだな?何者?」

「あぁ、僕も気になっていたかな?」


「あぁ、これは申し遅れました。私は氷四郎といいます。『刀の付喪神』で、ユキの夫です」

「わぁ!雪さんの旦那さんか!それはそれは!」

(……?『氷四郎』?……陰陽院の伝記に同じような名前があったような……?気のせいだろぉが……)

「『つくモーがみ』?なんだそれ?」

「大切にされてきた道具に霊力が宿り、神にまで昇華したものですね。……ま、神器たぁまた違うんだがな」

「へーん」



一行が口々に話、ある程度落ち着くと、再び氷四郎が手を叩いて皆の注目を集める。


「で、これだけ収穫祭が荒れてるし、残念だけど、人も多く死んでしまった……それに人狼帝はこの結界を解く前に死んでしまった……さて、どうしようか?」

氷四郎がいうと、奈血が答える。

「アタシならこの『結界』素手でぶち破れそうだけどー?」

「あのですね、この結界は私自身にしていた結界とは比べものにならないほど頑丈です。……『結界師』をなめすぎだぞ女」

「いや~んこわ~い。ミィチィ~、この女こわ~い♡」

「先生近づかないでください。殺しますよ」

「……ひどくね?」

「なぁキョウマ…お前の「自動操縦みたいな分身」なら抜け出せんじゃねぇの?」

「どうだろう…その分身は僕の支配下ではなくなるからね、しっかり結界外に出てくれるかどうか……あれは結局悪あがき程度でしか無いからさ」

「随分困っているみたいだけど…どうしたの?」

「あー、店長、実はですね………」






………ん???







御血を含む、その場全員の視線が一箇所に集中する。


若い顔に似合わぬ厳かな仕草。そう、この場に人物。


店長である。

「やぁ、皆さんこんばんわ」

店長はいつもと変わらないようにあいさつをする。

「しかし、空間を断絶する『結界』とはね~……まだ『結界師』がいたことに驚きだよ」

「店長、?」

御血は珍しく真剣な眼差しで店長に言う。店長は顎に指を当て、うーんと悩んだあと、答えた。


「まぁ、人も死んでしまっているみたいだし、いいかな?もう放棄した力なんだけどねぇ~……」

そういうと店長は指を鳴らす。店長の手の平の上に、羅針盤のようなものが現れる。

「まぁ、なんとかいけそうかな?」

「あのー、テンチョウ…さん?今から何をするおつもりで?」


「ん~?『』だよ~?あ、安心してね、僕たち人外の記憶は戻らないからさ」


「……はぁッ!?『時間を戻す』!?!?おい、キョウマ!!お前のとこの店長どうなってんだよ!」

「あ、あ~…実はうちの店長はね……」





ある一つの伝説がある。その神は時間と空間の狭間に生まれ、彼の手によって全ての物語は紡がれ、彼の手によって全ての物語は終わる。『因果律』の操作。人の命も気分次第。


そんな時間と空間の融合体、『逢魔ヶ時オウマガドキ』を司る神がかつて存在した。

しかし、その神はその力を放棄し、『限りなく神に近い人』として生きる事を選んだ。


名を、逢魔神オウマガミという。




「えっと?つまり……?」

「あー、店長はその『逢魔神』の力のほとんどを放棄した人間って事。まぁ、その力のほとんど失っても『時間操作』ができるんだから、相当なものだけどね」





あのコンビニの店長は、『因果律』を司る神『逢魔神』の成れの果てだった。





「あのさーなんでキョウマんとこのコンビニにはそんなチートスペックばっか揃ってる訳?」

「さぁね?」

鏡間はふふッと笑う。

「おーい、皆さ~んそろそろ戻しますよ~」

「はーい」

「なぁ、御血私数百年生きてて時間移動初めてだわ」

「あー、あたりまえでしょう先生」

「私は…あぁ、そういえば付喪神でした。なら記憶は大丈夫そうですね」



店長は手のひらに現れた時計に呪文を唱え始めた。


「我ガ命、即チ時ノ刻ミ也。我ガ過去ハ即チ時ノ過去也。我ガ未来ハ即チ時ノ未来也。今此処ニ、逢魔ヶ時ハ現レタリ。ソノ刻ム時を巻キ戻シ給へ。我ガ愚行、許シ給へ」


店長が呪文を唱えると、辺りが段々と夕暮れ時のような色に代わり、周囲がまるでビデオを逆再生しているように巻き戻っていく。



「うわっ…おいミチィ~すげぇなこれ!触ってもいいんか?」

「時を巻き戻っている物体に触ると、先生まで巻き戻されますよ」

「えー、つまんねー」

「………」



あたりは収穫祭が始まる少し前に戻ったようだった。



「んさて、こんなもんかな」

あたりは人狼たちによる悲劇など、最初から無かったかのように平和的な風景が広がっていた。


「さてと、とりあえず皆。収穫祭楽しんで来ていいよー」

「え?……あの、死んだやつも生き返っているなら、人狼たちも生き返っているんじゃ……」

御血が店長に聞くと、店長は特に問題なさそうに言う。


「あぁ、大丈夫大丈夫。そこの氷四郎さんに退治してもらうから」

「?何故私が?」

「えーっとね、君のに手伝って貰うように頼んでおいたんだ?久々に再会したらどうかなーって」

「はぁ…恐くでしょうね。まぁ、死んだ人外はともかく、生きていた人外の記憶は巻き戻っていないようですし、天海くんにも手伝って貰おうかな」


氷四郎は「ユキに会うのがまた遅くなるなぁ…」と珍しくボソリとつぶやく。


「あの…店長。時間をもどしたなら、壊れた店も元通りなんじゃ……」

鏡間が店長に耳打ちすると、店長は今更気が付いたようにガックシとうなだれる。

「ま、まぁ…人の命には代えられないよね……」

笑顔でいるが、顔は青くなっている。

「結界も無くなりましたし、『僕』を数人そちらに向かわせますから」

「あぁ……助かるよ鏡間くん……」





そんなこんなで、また一から収穫祭を楽しめるようになった一行。

「ミィチィ~~♡」

「殺しますよ先生」

御血にスリスリする奈血。それを冷ややかな視線で見る千雨、苦笑いの鬼道。

千雨はテチテチと近ずいて御血に抱きつく。

「あー…っと?」

「……抱っこ」

「あー、はい」

御血は千雨を抱き抱えると、奈血が再びだる絡みを執行する。

奈血は御血の腕に、まるで恋人のように抱きつく。


傍目から見れば、片腕の無いセクシーお姉さんに抱きつかれながら、純粋無垢ロリを抱き上げている図が完成している。

周囲の男性から凄い眼差しを向けられている御血だが、んな事全くお構い無しの御血であった。




「なんか…解決した?」

「時が戻ったと思うのだが……何故だ?」

「あ~たぶん、ウチのてんちょ~がジカンをもどしたんだろ~なぁ~」

「「ハァッ!?」」





「………時間が戻った…か………御血、そして、鬼道…久々に強者と渡り合った……己も又、未熟であったな」


木の上に片足で立っていた刻常はその場で真上に飛ぶと、どことも知れぬ場所へと行った。





「あれ……時間が……戻った……?」

「敷ノ間さん……」

「……何が起きたの?」

「え、えーっとね……」

敷ノ間は周囲を見渡す。悲劇が始まる前に戻っている。彼には何が起きたか未だにわかっていなかった。

「わ、分からないけど……なんか解決したみたいだね。もう1回楽しもうか!」

「そうですね!そうしましょう!」

「……うん……」


細かい事は後で考える事にした敷ノ間だった。






「あらァ?時間が戻ったわねぇ?」

「雲霧さん……あの、どういう事なんでしょう?」

雲霧はキセルを吸った後、煙を吐き出しながら答える。

「さぁねぇ?ただ、氷四郎さんは無事なんじゃないかしらねぇ?」

「本当ですかっ!?」

「えぇ、安心していいと思うわ」







事情を聞かされた天海と氷四郎は収穫祭の各所に散らばっていた人狼達を、周囲にバレないように殺して回っていた。


「いやぁ、旦那のお仲間さんはとんでもない能力持ちですねってなもんで」

「まぁね、それに多分もいるし……」

「あの人……ですかい?」


と、呆けていたすきに人狼が一匹逃げ出してしまった。


「あ、やっべ」

天海が追いかけようとした時、人狼の頭を鷲掴みにする人影がゆらりと現れる。


「おうおう、全くよォ。俺ァ人生を楽しむって目的があって暇じゃねぇんだぞ。……ったく」


黒い袈裟を羽織り、編笠を被り、僧侶なのにも関わらず、口元には煙草をゆらゆら揺らしている。

その僧侶は鷲掴みにした人狼の頭を『ブチブチブチッ』っと引きちぎった。

人狼の頭をポイ捨てすると、氷四郎に視線を向けて話す。


「よォ百数年ぶりじゃねぇの?『幽鬼・氷四郎』よぉ?」

「あなたも相変わらずの堕落っぷりですね……本当に僧侶なんだか……」

「まぁ、俺ァ破戒僧だからねー。人生楽しんだもん勝ちよ」

「自分で言うんですか……」

「まぁホラ、積もる話はこいつら全滅させてからだろう?手前んとこの店長から結構な額貰ってんだ。さっさと終わらせようぜ?お前だって愛しのユキちゃんに早く会いてぇだろ?」

「えぇ、そろそろ発作が起きそうです」

氷四郎は本気とも冗談とも取れないトーンで返す。

「さて、天海くん。待たせたね、さっさと全滅させようか」

「へい旦那。この天海、どこまでもついて行きますってなもんで」


氷四郎は天海と古い友人と共に、人狼達を殲滅しに向かった。
















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