人外の多いコンビニ

幽零

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収穫祭編

お祭り〜

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夕方、この地域ではこの時期にかなり大きい収穫祭のようなお祭りが開かれる。まぁ、なんで今の時期なのかは今となっては誰も知らないようなのだが……(ちなみにこの地域の人がただ騒ぎたかったという理由だった)

「ミチ、見て、人がゴミみたい」

「あー、『人ごみ』ね、その言い方色々と危険だからやめようか」

「うん、わかった」

コクコクと頷く千雨、少女の掴んでいる裾の主は着物に着替えた御血である。いつものレインコートではなく、黒く、暗い色の着物だ。真っ黒すぎて逆に目立つ説が立ちそうな感じである。


収穫際と大々的に掲げてはいるが、結局は娯楽のない時期に馬鹿騒ぎしようという風習が受け継がれ、現代でもこのように大掛かりなものになっている。そのため、屋台の春夏秋冬がごちゃ混ぜになっているのだ。まぁ、変な時期にやるお祭りということもあって、それぞれが自由に屋台を出し始めてここまで大きくなったわけだが。

「ミチ、あれ見て。何あれ」

千雨が指差した先は、『りんご飴』と書かれた屋台があった。

「あー、りんご飴ですね」

「何それ」

「あー、俺も良くはわからないけど、甘いらしい」

「へー、買う。ミチ、買って」

「あー、はい」

と、思っていたが実は御血、財布は持たない人なのだ。

「あー、財布……」

と困っていたら、あらびっくり上から万札が手のひらの上に落っこちてきたではありませんか。

御血が物陰に目線をやると、鬼道さんが『いいね』ポーズをしていたので、おそらく鬼道が落としていったものだろう。

「あー、お姉さんこれで」

屋台のバンダナをつけたお姉さんに御血が話しかける。

「あ、はい!(やだ……イケメン……)」



「あー、なんか多くない?」

「あ、サービスですよサービス!」

「あー……そうですか」



「あー、買ってきましたよー」

「…なんかおっきい」

「あー、サービスだそうです」

「『らっきぃ』ってやつ?」

「あー、多分」

千雨はシャクシャクと美味しそうに(無表情)りんご飴を食べ始めた。

その様子を見て、御血はある人物を思い出した。





『おー、見てみろ御血!これが人間の供物『リンゴーアメー』だそうだ!』

『……先生は随分と人間のものをよく食いますね』

『おー?いやいや、人間の血を吸う…なんて古いぜもう。あとなぁ、私は人間が好きだ』

ニカリと笑う艶かしいシルエット。舌をりんご飴に伝わらせて行く。

『淫魔と吸血鬼の間に生まれ……どっちからも半端者扱いだった私は、人間に育てられた』

『…………』

その影は、りんご飴を舐めながら、くるりと振り返る。

『おー、腕が疲れちまったい。御血、食べさせてくれ』

『……自分で食べてくださいよ』

っと言いつつ、吸血鬼は『先生』にちかずくと、代わりにりんご飴をに持つ。

『ありがとよ~ミチぃ~。後で『お礼』してあげよっか?』

『先生』は、ペロンと出した下に人差し指を当てる。

『……いらない。早く食べてください』

『面白くない弟子だねぇ~』

影はニヤニヤしながらりんご飴を舐めていた。





「ミチ、ミチってば」

「……ん?あ、はい」

「さっきから呼んでたのに反応なかった」

「あー、すいません少し昔のことを思い出してました」

「へー……あ、ミチあれなに?」

千雨が再び指差したのは、射的だった。さまざまな商品が棚に並んでいる中、一際目立っていたのが、棚の一番上にある白いウサギのぬいぐるみだった。随分でっかい。

「あれ欲しい。ミチあれやろ」

「あー……」

っと御血が何かいう前に千雨は走り出してしまった。

「あー、待ってください」

とててと走っていった矢先、ドンっといかにも柄の悪そうなヤンキーに激突してしまった。

「いった、あぁ!?なんだこのクソガキ!!」

ヤンキーは千雨に掴みかかろうとする……が、先に掴まれたのはヤンキーの肩だった。

「あぁん?誰だ……」

そこまで言ってヤンキーは沈黙した。そう、スキンヘッドにグラサン、いかにも『組員』っぽい人が。

……忘れるなかれ、千雨は『お嬢』なのだ。

「おい、うちのお嬢になにしようとしてんだクソガキ」

「え……いや、あのぉ~……」

っと、ヤンキーはおそらく組員であろう方々に囲まれ始める。そう、直接的な護衛が鬼道さんなのであって、周囲に組の人がいない訳ではないのである。

「おぅおぅ、お嬢になにしようとしたんじゃワレ」

「指詰める覚悟できてんだろぉな?」

「こいガキ、目に物を見せてやる」


囲まれたヤンキー、連れていかれるの巻。


「ミチ、なんか人集まってる」

「あー、あれは見てはいけないやつですねー」

千雨の視界を塞ぎながら、射的の屋台にそそくさと移動した。







収穫祭でワイワイと賑わう中、光の届かない場所に、とある人外たちが立っていた。

「ふん、浮かれておるわ人間ども。これから供物になるというのに」

「グルルルルル」

「我が同志への手向よ、一人残さず食い殺してしまえ」

「………」

「一人乗り気じゃないみたいだね~?」

「おい、我ら『人狼』がこの収穫祭を襲い。人狼の権威を、「夜の支配者」の畏怖を取り戻す、そのためにふらふらしているお前も呼んだのだ。働けよ」

「………(愚物が……)」

「まったくさー、面白い話があるーとか言われたから来たけど~人間襲うって?センスねーなー」

「……やかましいぞ『隻腕セキワンの吸血鬼』。現にここに居るではないか」

「私はただ一人の男に会いにきただけだよ~っと」

女性のシルエットをした人影が動く。

はなにもしないけど、終わった後は、人間襲ったやつ皆殺しね」

人影の雰囲気が一瞬にして変わる。

「……フン、勝手にしろ」

尊大な態度の人狼に、小柄な男がひょいひょい近寄る。男はまるでRPGに出てくる盗賊のような格好をしていた。

(いいんですかい?吸血鬼なんて身内に引き入れて。アンタら人狼の敵みたいなもんですぜぃ?)

(こいつは吸血鬼のどの派閥にも入っていない、いわば『はぐれ』だ。そんなやつが一人でなにをしようと、どうにもならん)

(んなるほど。でも稀に自分から派閥を抜ける猛者もいるみたいですぜぃ?)

(フン、妄想に囚われるな。こいつは片腕がない。どう足掻こうとも、我には勝てんだろう)

(そいつは大した自信ってもんで。んまぁ、アタシは面白くできりゃそれでいいですがね?)

(貴様、余計なことを考えるなよ『天邪鬼アマノジャク』。貴様一人どうとでもできるのだぞ)

(おー怖い怖い。アタシは楽しみたいでけでさァ。んま、勝手に動かせていただきますってもんで)

(勝手にしろ)

(へいへい)

男は尊大な態度の人狼のそばを離れると、ニヤリと無邪気に笑った。



(んじゃ、楽しませてもらおうじゃないの。んま、裏切り・寝返りは戦場の常ってねぇ~?)






(ゼェ~んぶ聞こえてるんだけどね~?)

『隻腕の吸血鬼』と呼ばれた人影はため息をついた後、顔を赤らめ、艶かしく舌を出して、人差し指を当てる。




「待っててねぇ~?愛しい愛しい我が弟子よぉ~?」



収穫際には、不穏な影が迫っていた。










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