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日常編
雪女の追憶
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めちゃめちゃのどかな田舎、見渡す限り田んぼしかない……
……逆に「のどか」という事以外、いいところが無いと言われればそれまでなのだが。
やたらデカい家の中、雪さんは浴衣の裾をあげて、洗濯やら、皿洗いやら家事をテキパキと行っていた。
「お日様も今日はよく出ていますし、よく乾きますね」
雪さんはニコニコしながら、布団を干す。
一昔前は雪のよく降るところに住んでいたのでこうして、毎日のように晴れが続く地方はありがたい。まぁ、時々お天気が崩れる時もあるが、それはそれ。その時には縁側で虫の鳴き声を聞いたりと、楽しみがあるものだ。
家事を一通り終わらせてから、雪さんはご飯を用意する。お米を炊いているのだが、電子ジャーでは無く、釜である。雪さんは人工的な熱さは苦手だが、マッチや、蒸気などの暑さは平気なのだ。
昔ながらの方法……というかもはや時代遅れなやり方でご飯を炊く。
竹筒で息を吹きかけ、かまどの中の火をおこす。
しばらくすると、白米の良い香りがデカい家に広がる。
雪さんはお茶碗にご飯を上品な仕草で盛り付けていく。
2つのお茶碗にご飯を盛り終わると、ひとつは檜で出来た机に置き、もうひとつを仏壇にお供えした。
ご飯をお供えした後、雪さんは手を合わせる。
仏壇には色褪せた写真が飾られていた。
田んぼからカエルの鳴き声が聞こえてきた。
「ふふ、今日もこちらは平和です」
人外が故、人と共に生きるには、人の寿命は短すぎる。
それでも、彼女は共に生きると決めた。いずれ失うとわかっていても、それでも彼と共に生きたのだ。
「あらあら、物思いにふけっていては、ご飯が冷めてしまいますね、いけないいけない」
パタパタと小走りで居間まで移動すると、そこにはいつの間にか、見知った顔がいた。
着物をわざと乱して着ているよな、妖艶な女性、『雲外鏡』の雲霧である。
「あらあら、雲霧さん。いらしてたんですか。お昼でもご一緒しますか?」
「あらァそんなつもりは無かったのよォ。暇で話し相手が欲しくてねぇ~?ま、でもせっかくのお誘いなら、袖にはできないわねぇ~」
雲霧と雪はもう随分長い仲になる。それこそ途方もない時間を過ごしていた。
知り合ったきっかけは確かにあったはずだが、それすら忘れてしまった。しかし、そんな事はどうでも良くなるぐらい、2人の仲はとても良かった。
ご飯を食べ終わったあと、2人はくつろいでいた。他愛もない話をしていると、雲霧が部屋の端に飾られている神棚に、ふと目を止める。
「あら、あの刀そこに飾ってたのね」
「えぇ、彼の最後の頼みですから」
「ふふ、律儀、ねぇ?」
「彼も律儀でしたよ?」
「そうね」
お互いに笑い合う。
どの教科書にも載っていない名も無き侍、しかし、その人は確かに彼女にとって英雄だった。
雪女は思い出す。もう大変昔の話だが、確かに存在した、彼の事を……
……逆に「のどか」という事以外、いいところが無いと言われればそれまでなのだが。
やたらデカい家の中、雪さんは浴衣の裾をあげて、洗濯やら、皿洗いやら家事をテキパキと行っていた。
「お日様も今日はよく出ていますし、よく乾きますね」
雪さんはニコニコしながら、布団を干す。
一昔前は雪のよく降るところに住んでいたのでこうして、毎日のように晴れが続く地方はありがたい。まぁ、時々お天気が崩れる時もあるが、それはそれ。その時には縁側で虫の鳴き声を聞いたりと、楽しみがあるものだ。
家事を一通り終わらせてから、雪さんはご飯を用意する。お米を炊いているのだが、電子ジャーでは無く、釜である。雪さんは人工的な熱さは苦手だが、マッチや、蒸気などの暑さは平気なのだ。
昔ながらの方法……というかもはや時代遅れなやり方でご飯を炊く。
竹筒で息を吹きかけ、かまどの中の火をおこす。
しばらくすると、白米の良い香りがデカい家に広がる。
雪さんはお茶碗にご飯を上品な仕草で盛り付けていく。
2つのお茶碗にご飯を盛り終わると、ひとつは檜で出来た机に置き、もうひとつを仏壇にお供えした。
ご飯をお供えした後、雪さんは手を合わせる。
仏壇には色褪せた写真が飾られていた。
田んぼからカエルの鳴き声が聞こえてきた。
「ふふ、今日もこちらは平和です」
人外が故、人と共に生きるには、人の寿命は短すぎる。
それでも、彼女は共に生きると決めた。いずれ失うとわかっていても、それでも彼と共に生きたのだ。
「あらあら、物思いにふけっていては、ご飯が冷めてしまいますね、いけないいけない」
パタパタと小走りで居間まで移動すると、そこにはいつの間にか、見知った顔がいた。
着物をわざと乱して着ているよな、妖艶な女性、『雲外鏡』の雲霧である。
「あらあら、雲霧さん。いらしてたんですか。お昼でもご一緒しますか?」
「あらァそんなつもりは無かったのよォ。暇で話し相手が欲しくてねぇ~?ま、でもせっかくのお誘いなら、袖にはできないわねぇ~」
雲霧と雪はもう随分長い仲になる。それこそ途方もない時間を過ごしていた。
知り合ったきっかけは確かにあったはずだが、それすら忘れてしまった。しかし、そんな事はどうでも良くなるぐらい、2人の仲はとても良かった。
ご飯を食べ終わったあと、2人はくつろいでいた。他愛もない話をしていると、雲霧が部屋の端に飾られている神棚に、ふと目を止める。
「あら、あの刀そこに飾ってたのね」
「えぇ、彼の最後の頼みですから」
「ふふ、律儀、ねぇ?」
「彼も律儀でしたよ?」
「そうね」
お互いに笑い合う。
どの教科書にも載っていない名も無き侍、しかし、その人は確かに彼女にとって英雄だった。
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