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一章「ラビリンスゲーム」
プツリ
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灰城本社処理課所属の新人、銅元孝之介はまた紺道博士の研究所(外見はボロ小屋)に立ち寄っていた。強化人間の最高傑作であり、失敗作でもある『彼』の話を聞きに来たのだ。
「まぁ、それでな機械的にストレスを与えてもダメだった。まぁ今の『彼』にその時の記憶は無いだろうがね?」
「はぁ、では博士はどのような状況になれば『彼』は覚醒するとお考えで?」
銅元が聞くと、紺道はうぅむ…と多少考えた後、こう発言した。
「まぁ、例えばだが長い事一緒にいた異性が撃たれるとかね」
「えーっと?」
「つまりはだね」
紺道博士はメガネを上げると続ける。
「特定の状況下で親密になった人物が、致命傷を負った……それぐらいのストレスが必要なのだよ」
「ははぁ……」
豪華なホテルを模した一室、もはや室内は大乱戦の末ボロボロになっていたが。
「んじゃあ、戻るか」
「そッスねぇ~」
「黄島さんも復活☆」
「死にそうな顔してたのに何言ってんのよ」
「久呼ちゃんもさっきまで死にそうな顔してたよね~」
「……殺すぞ」
「ふむ、螺旋階段が壊れちまったか。ま、飛び降りりゃいいかね」
各々フロアに集まる。銀咲に至っては、縛った瑠璃垣を肩に背負いながら螺旋階段の上から飛び降りた。
「なぁ、翡翠さん…あの人ほんとに人間なん?」
「それは私にも分からないのである。紅谷殿……」
それぞれが一段落と考え、安堵した瞬間……その音は鮮明に響き、それぞれは言葉を失った。
パァン!と乾いた音。普通ならまず聞くことのない音。一同がいっせいに音の方へ振り返ると、巨体の男が膝をカクカクさせながら拳銃を握っていた。
「や、やった…やったでごザル!!一人倒したでござるー!!」
音を鳴り響かせた犯人は、金田だった。
「……一人…倒した……?」
紅谷や土田、夜透は振り返る、そこには腹部から血を流し、その白い服を赤く染めて、白石がゆっくりと膝から崩れ落ちていった。
「白石さん!」
「白石の嬢ちゃん!!」
紅谷はガクガクと震えていた。手も脚も、歯がカチカチとぶつかる音ですらハッキリと聞こえる程に………
そして、『彼』はハッキリと音を聞く。
頭から響いた『プツリ』と言う音を……
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
紅谷は叫ぶ、部屋全体に響き渡るように叫ぶ。喉から血が出るような声量でただただ叫んだ。
「あの、では博士。その『彼』は覚醒するとどうなるとお考えですか?」
「そうだねぇ……データ通りならば、一瞬で髪の毛の色素が抜けて真っ白になる。それから……そうだなぁ…目の瞳がじわじわと赤くなっていくな」
「化け物じゃ無いですか……」
「そりゃそうだ。何せ強化人間の第一段階を受けただけで九割の人間は狂人になってしまうのだから。最終段階まで正気を保っているあたり、既に化け物さ……」
「アイツ……!!」
土田は思い出す。思い出したくもない最低な記憶を思い出してしまう。
手段を選ばず、空気も読めず、ビビりで役に立たない男を……その男の名前を叫ぶ。
「金田ァ!!」
銀先は白石の容態を見る。生き残れるかギリギリといった所だ。
「翡翠!嬢ちゃんを連れて逃げろ!的確な処置を施さないと死ぬぞ!」
「了解した。しかしどこに行く?狂人達に見つからず手当できる箇所なんて……」
「じゃあ、ウチらのいた13番非常口の部屋に行くっス!道案内はウチがするっス!」
「緑川ちゃんと白石の嬢ちゃん連れてその部屋に行け!」
「了解した。急ごう」
翡翠は緑川と白石を背負いながら、13番非常口の部屋へと急ぐ。
一方、紅谷の様子を見ていた土田と夜透は彼の異変に気が付いた。
「ね、ねぇ久呼ちゃん……あの人の髪の毛……」
「そうね……色が落ちてる……」
ザワザワザワ…と紅谷の生まれつきの赤毛の色が抜けていく……真っ白に染まっていく……
叫び終わった紅谷はダラン…と腕を下げ、それから顔だけを動かし、金田を見る。
ギョロっと金田を睨むその瞳は真っ赤に染まっていた。
「ひ、ヒィィィィィィッ!?」
金田はその圧に気圧され、じたばたと情けない格好で震えている。
その光景を見ていた紅谷がとった行動は至極単純、走っただけ。
しかし、初速から出力が常人のそれと違う。1歩目の踏み込みで床の破片が舞い上がった。2歩目にはもう金田の前に来ていた。
「ヒィィィィィィ……こ、殺さないでぇぇぇ……」
金田は情けない声で命乞いをする。しかし、豹変した紅谷に、今までの情は無い。
「………死ね」
ボソッと一言、しかし聞いてる者をゾッとさせるような響きがあった。現にそれを聞いた土田や夜透、更には銀咲までも全身から血の気が引くのを感じていた。
紅谷は片手で金田の首をつかみ投げ飛ばした。金田の体格と紅谷の体格を考慮すれば、物理的に無理なはずなのだが、豹変した紅谷はそれを難なくこなした。
金田は壁に打ち付けられる。
「おぶぅっ!?」
ゲボっと自らの体液を撒き散らす。そこに紅谷は追撃をかけようとしていた。
しかし金田は巨体に似合わぬ素早さでまぐれにも紅谷の突進から逃れた。
……が、その矛先は逃げ遅れた奴隷に向き、その奴隷の顔を鷲掴みにすると、その勢いのまま、壁に打ち付ける。
『ドパァン!!』と妙に水っぽい音が響くと、打ち付けられた奴隷の頭があった場所にはカラーボールをぶつけたような模様が壁に浮かんでいた。
「アァァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははははははははははははははhahahahahahahahahahahahahaははははははははははは」
叫びながら紅谷の声色は次々変わっていく。
「……まずいな…非常にまずい……」
「え…」
銀咲が冷や汗を流しながら答える。
「紅谷はどういう原理か良く分からんが……暴走してる。多分翡翠を呼び戻しても殺される。しかも今は見境なしだ……」
「つまりどういうこと?」
「つまり……」
銀咲は諦めたような顔で笑うと答える。
「アタシらで、紅谷少年を止めないと、皆殺しにされるぞ……」
部屋に残っているのは、土田、夜透、銀咲の三人。瑠璃垣は意識が無いので戦力になりそうもない。そしてあの体格差の金田を片手で投げ飛ばした紅谷は見境無し。紅谷と同等の力を持っていた翡翠を呼び戻しても、おそらく意味は無い。
「どうすんのよ……」
狂っように叫び続けている紅谷を見て、土田はそう呟いた…
「まぁ、それでな機械的にストレスを与えてもダメだった。まぁ今の『彼』にその時の記憶は無いだろうがね?」
「はぁ、では博士はどのような状況になれば『彼』は覚醒するとお考えで?」
銅元が聞くと、紺道はうぅむ…と多少考えた後、こう発言した。
「まぁ、例えばだが長い事一緒にいた異性が撃たれるとかね」
「えーっと?」
「つまりはだね」
紺道博士はメガネを上げると続ける。
「特定の状況下で親密になった人物が、致命傷を負った……それぐらいのストレスが必要なのだよ」
「ははぁ……」
豪華なホテルを模した一室、もはや室内は大乱戦の末ボロボロになっていたが。
「んじゃあ、戻るか」
「そッスねぇ~」
「黄島さんも復活☆」
「死にそうな顔してたのに何言ってんのよ」
「久呼ちゃんもさっきまで死にそうな顔してたよね~」
「……殺すぞ」
「ふむ、螺旋階段が壊れちまったか。ま、飛び降りりゃいいかね」
各々フロアに集まる。銀咲に至っては、縛った瑠璃垣を肩に背負いながら螺旋階段の上から飛び降りた。
「なぁ、翡翠さん…あの人ほんとに人間なん?」
「それは私にも分からないのである。紅谷殿……」
それぞれが一段落と考え、安堵した瞬間……その音は鮮明に響き、それぞれは言葉を失った。
パァン!と乾いた音。普通ならまず聞くことのない音。一同がいっせいに音の方へ振り返ると、巨体の男が膝をカクカクさせながら拳銃を握っていた。
「や、やった…やったでごザル!!一人倒したでござるー!!」
音を鳴り響かせた犯人は、金田だった。
「……一人…倒した……?」
紅谷や土田、夜透は振り返る、そこには腹部から血を流し、その白い服を赤く染めて、白石がゆっくりと膝から崩れ落ちていった。
「白石さん!」
「白石の嬢ちゃん!!」
紅谷はガクガクと震えていた。手も脚も、歯がカチカチとぶつかる音ですらハッキリと聞こえる程に………
そして、『彼』はハッキリと音を聞く。
頭から響いた『プツリ』と言う音を……
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
紅谷は叫ぶ、部屋全体に響き渡るように叫ぶ。喉から血が出るような声量でただただ叫んだ。
「あの、では博士。その『彼』は覚醒するとどうなるとお考えですか?」
「そうだねぇ……データ通りならば、一瞬で髪の毛の色素が抜けて真っ白になる。それから……そうだなぁ…目の瞳がじわじわと赤くなっていくな」
「化け物じゃ無いですか……」
「そりゃそうだ。何せ強化人間の第一段階を受けただけで九割の人間は狂人になってしまうのだから。最終段階まで正気を保っているあたり、既に化け物さ……」
「アイツ……!!」
土田は思い出す。思い出したくもない最低な記憶を思い出してしまう。
手段を選ばず、空気も読めず、ビビりで役に立たない男を……その男の名前を叫ぶ。
「金田ァ!!」
銀先は白石の容態を見る。生き残れるかギリギリといった所だ。
「翡翠!嬢ちゃんを連れて逃げろ!的確な処置を施さないと死ぬぞ!」
「了解した。しかしどこに行く?狂人達に見つからず手当できる箇所なんて……」
「じゃあ、ウチらのいた13番非常口の部屋に行くっス!道案内はウチがするっス!」
「緑川ちゃんと白石の嬢ちゃん連れてその部屋に行け!」
「了解した。急ごう」
翡翠は緑川と白石を背負いながら、13番非常口の部屋へと急ぐ。
一方、紅谷の様子を見ていた土田と夜透は彼の異変に気が付いた。
「ね、ねぇ久呼ちゃん……あの人の髪の毛……」
「そうね……色が落ちてる……」
ザワザワザワ…と紅谷の生まれつきの赤毛の色が抜けていく……真っ白に染まっていく……
叫び終わった紅谷はダラン…と腕を下げ、それから顔だけを動かし、金田を見る。
ギョロっと金田を睨むその瞳は真っ赤に染まっていた。
「ひ、ヒィィィィィィッ!?」
金田はその圧に気圧され、じたばたと情けない格好で震えている。
その光景を見ていた紅谷がとった行動は至極単純、走っただけ。
しかし、初速から出力が常人のそれと違う。1歩目の踏み込みで床の破片が舞い上がった。2歩目にはもう金田の前に来ていた。
「ヒィィィィィィ……こ、殺さないでぇぇぇ……」
金田は情けない声で命乞いをする。しかし、豹変した紅谷に、今までの情は無い。
「………死ね」
ボソッと一言、しかし聞いてる者をゾッとさせるような響きがあった。現にそれを聞いた土田や夜透、更には銀咲までも全身から血の気が引くのを感じていた。
紅谷は片手で金田の首をつかみ投げ飛ばした。金田の体格と紅谷の体格を考慮すれば、物理的に無理なはずなのだが、豹変した紅谷はそれを難なくこなした。
金田は壁に打ち付けられる。
「おぶぅっ!?」
ゲボっと自らの体液を撒き散らす。そこに紅谷は追撃をかけようとしていた。
しかし金田は巨体に似合わぬ素早さでまぐれにも紅谷の突進から逃れた。
……が、その矛先は逃げ遅れた奴隷に向き、その奴隷の顔を鷲掴みにすると、その勢いのまま、壁に打ち付ける。
『ドパァン!!』と妙に水っぽい音が響くと、打ち付けられた奴隷の頭があった場所にはカラーボールをぶつけたような模様が壁に浮かんでいた。
「アァァァハハハハハハハハハハハハハハハハハハはははははははははははははははhahahahahahahahahahahahahaははははははははははは」
叫びながら紅谷の声色は次々変わっていく。
「……まずいな…非常にまずい……」
「え…」
銀咲が冷や汗を流しながら答える。
「紅谷はどういう原理か良く分からんが……暴走してる。多分翡翠を呼び戻しても殺される。しかも今は見境なしだ……」
「つまりどういうこと?」
「つまり……」
銀咲は諦めたような顔で笑うと答える。
「アタシらで、紅谷少年を止めないと、皆殺しにされるぞ……」
部屋に残っているのは、土田、夜透、銀咲の三人。瑠璃垣は意識が無いので戦力になりそうもない。そしてあの体格差の金田を片手で投げ飛ばした紅谷は見境無し。紅谷と同等の力を持っていた翡翠を呼び戻しても、おそらく意味は無い。
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