神様の仰せのままに

幽零

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穢祓い編

87話

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その出立ちに、紅葉はいつだったか結と共に読んだ巻き物の内容を思い出していた。




人知れず産まれし神々の怨敵、『穢れ』

これなるが神を蝕まん刻

世に永遠なる夜が訪れん

されど世界は終わりを迎えず

武の神の極みに至りし者、顕現せし

彼の者、夜を終わらし

遂には、穢れを討ち滅ぼさん



確か『無神機関』とやらの一件で谷透と仄がいない時だったか、とまでは思い出した。


そして、一つ気がついた。


『穢れ』が広まった世界を「夜」と表現していた。


あの男は、白獅子を継いだ男は、なんという名前だった。






谷透タニトウ 修哉シュウヤ






『彼の者、夜を終わらし』


まさか……まさかまさか!



シューヤといつも呼んでいた。出会ったのがもう随分と昔のように感じる。


そう、シューヤだ。つまりは『終夜シュウヤ


「……なるほどのう…」

紅葉は1人静かに言葉を落とす。

「つまりは、『極神 終夜』か………大成しよって…」







「これが……極神……」

谷透は感じていた。身を包む輝きが絶大な力を纏っている。

そして視界には、かつて見た封神剣の領域が共有されている。幾星霜に積み重なった無数の武器が、こちらに輝きを返している。


《ごロス!殺す!コロロロロ》


目の前の穢れの神は、もはや支離滅裂だ。

(……こっちの攻撃に対応されるなら…)

谷透は片腕を水平に掲げる。すると、谷透の周囲に突如渦潮のような円が現れる。

それらはひとつではなく、谷透の両翼に展開されるようにいくつも発生した。


「……『創刃』ッ!」


谷透が片手を前に振ると、その渦潮からいくつもの刀剣がその姿を現し、美しい軌跡を描きながら、穢れの神に飛んでいく。

さながら、刀剣の豪雨だった。


《おぉ……おぉぉぉぉぉぉッ!?!?》


猛々しい唸り声を上げながら、穢れの神となったものは、身体を作り替えていく。しかし、続く刀剣の豪雨に晒され、肉体の再構築が見るからに遅れていた。


《……ッ!?……ッッ!??》

穢れの神は肉体の再構築が間に合わなくなっている事に驚いてるようだ。

それもそのはず、谷透が使っている神通力『創刃』は、封神剣の中にある刀剣の記憶をトレースし神の力で形を収束させて射出している。


つまり幾星霜の間、幾千万に蓄積された刀剣が穢れの神に対して牙を剥いている。

『一度受けた攻撃に対応し、肉体を造り変える』


なるほど、ひとつの武器を極めんとする求道者相手ならば、これほど相性の悪い性質は無い。

だが、これが数えるのも億劫な数ならばどうだ。身体を造り替えている間も、絶え間なく『創刃』による刃の五月雨は続く。



……だが、その程度で押し切れるなら、穢れの神と名乗っていないだろう。


《お……おまぇは……この、こののの…》

『この手で……か、必ず…』

「殺すと決めたァァァァッ!!!」


雑音が組み合わせる音声から、徐々にクリアになり、ついには滑らかに声を発するに至った。


「俺は『穢れの神』ッ!神々の欲望を司る神だァっ!!」

ぐちゃぐちゃした姿は、再び収束する。覚束無いふわふわしたものが一気に凝縮されていくように、不穏な力が一点に集中していくのを感じる。


『穢れの神』はギュウギュウに凝縮された状態から、爆散するように外皮を取り外して再び降臨する。

そこには、銀河の輝きを思わせるような滑らかに輝く肉体を有した何かがいた。


「俺は『穢れ』だ。欲望のままに殺し!壊し!世界を滅ぼす!!」

穢れの神は手を横に振ると、汚泥のようなぶくぶくとしたものが地表目掛けて無数に降り注いだ。それらは地面にぶつかると、ドロドロと形を変えて、まるで猛獣のような姿に変わる。


「喰らえ!穢せぇッッ!!」


穢れの神の号令に応えるように、それらは一ノ門に集まっていた神社の勢力に襲いかかる。数は……そう、数えたくなくなるほどだ。


中央に座していた阿剣は、怒涛の勢いで指示を飛ばす。

「現時点より目の前の脅威を『穢物ケモノ』と命名!排除を命ずる!!」

呆気に取られていた神守達は、阿剣の号令で弾かれるように動き始める。しかし、穢物の表皮が頑丈で中々刀が通らない。ジリジリと神守の前線が後退し、六武衆も応戦しているが、数が多くて援護に向かえない。このままではジリ貧になってしまう。


その時……



ヒュンヒュンと何処からともなく飛んできた矢に貫かれ、低く唸っていた穢物が数体沈黙する。そのままボロっと崩れるように消えていった。


「フハッ!仲間のピンチに颯爽と現れて敵を射抜く……まぁ、確認してなかったけど敵で良いんだよな?いやぁなんとも浪漫ちっくな登場じゃあないかい?」

しなやかな体だが、武神のような大きさ、それでいて女性のような丸みを帯びたスタイルをしていた。阿剣は頭を抱えながらドヤ顔の武神の問いに答える。

「来るならもっと速く来い……弓羅」

「いやぁ、実は探し人を見つけるのに手間取って……」

と、会話してる隙に穢物が襲いかかるが、弓羅はノールックで素手のまま矢を投げる。直撃した穢物は砲弾に当たったかの如く、衝撃で身体が壊れる。

「……いや、なんかさも当然のように現れたけど誰って感じぃ…」

目の前のフリースロー大砲姉貴の活躍に若干引きつつ蒼糸は疑問を落とす。

「『支部』の武神の方々だ。神社の支部を駐屯として各地を回っている方で、名前を弓羅様という……あともう1柱いたと思うんだが……」

そんな中、弓羅の素手投げ大砲の威力にビビり散らかした穢物達は、ジリジリと後退し態勢を立て直そうと逃げに入る。真っ先に逃げ出した個体は……


「やれやれ、だから貴女は甘いのですよ弓羅。浪漫だなんだと言っていないで、少しは働いたらどうです?」


逃げ出す前に両断されていた。

今度はメガネをかけている、これまた武神のような大きさの男が戦斧片手に現れた。足元には真っ二つになった穢物がビクンビクンッと痙攣している。


「いや、穢神解剖してた奴に言われたくはないがなぁ」

「いつも鳥居の上でうたた寝している貴女に言われたくはないですね」


軽口を叩き合っているが、仲が良いんだか悪いんだかわからない2人である。そんな2人の後ろから、ものすごく気だるげに歩いてきた男がいた。

「あのさぁ、オイラあんまり来たくないって言ったよねぇ?」

穢物を断頭しつつ着物でスタスタと歩いて寄ってくる男。

「あ、あの男は……」

猿谷がいうと、風切が反応する。

「知っているのか?」

「えぇ、確か…」


いきなり現れた男の異様な雰囲気に当てられてか、穢物達はジリジリと後退する。


「ま、まさか………」

阿剣は顔を引きつらせながら叫ぶ。

「と、とうこっ……」

言おうとしたら、音速で利斧に口を塞がれる阿剣。


その男を、仄や猿谷達は知っている。窮地を救ってくれた恩人だ。


向こうも気がついたのか、ヘラヘラと笑いながら手を振っていた。また、そばに知らない顔がいることにも気がついてか穢物たちを牽制しつつ、男は名乗る。


「初めての顔もいるね~。オイラは雨谷、

ヘラヘラと笑いながら、そういうと刀を出して構える。

「ま、詳しいことはあとで言うとして、とりあえずこの気持ち悪いの倒しちゃおうか~」

雨谷と名乗る妖に悪ノリするように、弓羅と利斧も獲物を構える。

「かつての問題児組が再びこの地に集結して一世一代の大勝負に水を刺されないように援護に回る!この雰囲気!この熱!これはやっぱり浪漫があるなぁ!」

「口じゃなくて手を動かしてくれるとありがたいのですけどね」

「………変わってないねー……ほんとにさ……」

勢いに乗るように武神たちについて来た支部の神守が合流し、形成は一気に逆転した。



その様子を見ていた鉈久は意気揚々と大鉈を振り上げて最前線へと跳んだ。

「ふむ、ここで手柄をあげねば武神の名折れ。一番槍は此方が貰う!」

「……なぁ、阿剣…もういいか?俺もよ……」

鉈久の様子を見た槍丈はうずく腕を抑えられないようであった。

「そろそろひと暴れしてぇんだわ!!」

「……もう好きにせよ。言ったところで、あ奴らは聞かんだろう」

阿剣の半分呆れた許可を聞くや否や、槍丈は召喚した長槍を両手に前線へと飛んでいく。

「んにぃ~、フヌゥム…いや鉈久って言ってたよにぃ…元気だねーほんと」

遠目から見ていた花車はボキボキと関節を鳴らす。

「やっぱ、大暴れしてこその六武衆だよにぃ~!!行ってくる!!」

「ちょ、まっ…花車!アンタ服がもうボロボロで機能してねぇんですわ!せめて胸ぐらいは隠し…待つんですわ!!」

ほぼ全裸のような花車を追いかけるように四方も前線へ。

「御影、どうします?」

「姉さん、花車の自己中心的な行動は今に始まったことではないでしょうし、僕らはいつも通り、

「えぇ…暗躍は得意ですものね、お互いに」

姉弟は不適な笑みを浮かべつつ、すぅ…と戦乱の影で動くことを決めたらしい。

「はぁ…皆様勝手だ。やはりここは私がなんとかせねば……」

風切は刀を抜きつつ、神守たちへ隊列を組むように指示を出す。

「さぁてと…真骨頂、見せてやるかって感じぃ」

蒼糸は空中を歩くように前線へ、その後を走りながら満が追いかける。






「……お前が滅ぼそうとしている奴らは強い。これしきで折れる訳がねぇ」

全身を駆け回るように満ちていく神の力を手繰りながら、極神は言う。


「破壊と穢れを撒き散らすお前なんぞと違って、俺は抱える物が多いんだ」


浮かび上がる。フヒトと刃紗羅の面影が。



「だから俺は、『穢祓い』なんだ」




煌々と爛々と輝く極神は、穢れの神との最後の決着をつけようとしていた。




「……へぇ……成ったんだ」

神の力を感じていた雨谷は、穢物と対峙しながら、心で言葉を紡ぐ。


(……何だ。そこに居たのか刃紗羅……居たのか……)

極神になった谷透 修哉から、かつて肩を並べた武神の面影を感じていた。

もう戻らない過去と、選んだ現在いまと、守るべき未来を背に、刀を携えた妖は、露払いへと身を投じる。





全ては、継ぐべき次世代の為に。

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