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穢祓い編
85話
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かの神は、武神として二度目の生を受けた。
『武神』鉈久、彼はかつて四堕神の一柱「フヌゥム」として強さを求めていた。
彼は生まれつき、「邪視」という力に全ての神通力を注がれていた為、神通力を持っていなかった。
だが、「穢れ」をコントロールすることによって、肉体を強化し強大な力を得た。その神が今は鉈久として神通力を持つ武神として生まれ変わった。
「テメェ……なんで穢れ相手に立ち回れる……」
アダマゼルスは忌々しそうに呟く。当の本人は特に気にするでもなく答えた。
「なに、過去『穢れ』を身に纏って肉体を強化していたからな、その経験から神通力を肉体に纏って穢れを中和している。初めての力だが、やり方さえ知っていれば容易い」
鉈久は普通に言っているが、これが案外難しい。
武神の所有する神通力とは「武器への畏怖と信仰」から発生するものの為、かなり攻撃的なものが多い。その神通力を強化や防御といった面に使うにはそれなりの技量がいる。
特殊な例としては盾岩がそれに当たるのだが、ここに武神の力を防御に生かす事のできる新たな神が生まれた。
「だが…そんなモンもいつまで続けられるかナァ!?」
助っ人が現れたとは言え、アダマゼルスの手には禍津逆鉾がある。あの武器がある限り、時間は常に奴の味方であり、長期戦は不利になることを表している。
禍津逆鉾を構え、アダマゼルスは鉈久を見据える。
巨岩の大鉈を振り、アダマゼルスの攻撃を捌いているが、鉈久も相手の攻撃が徐々に重く、鋭く、速くなっているのを感じていた。
(……このままでは…ジリ貧か……だが…)
鉈久はわかっている。あの男は、必ず戻ってくると。
「ハッ!どうしたフヌゥムッッ!!捌き切るので精一杯かぁ!?」
「……そうだな…だが、今はそれで良い」
「…あん?」
怪訝な顔をするアダマゼルスに、鉈久は言い放つ。
「此方の心中は、使命で満ち溢れている。故に、あの男を護るのが此方の責務だ」
大鉈を構え、さらに言い放つ。
「此方は、その責務を全うする」
「イキってんじゃねぇぞくたばりぞこないがアァァァァァ!!!」
斬撃の応酬は、さらに加速する……
そして……
「……またここか……」
谷透は、再び彼の地を踏んでいた。
かつて幾星霜の果てし武の器が積み重なった領域へ。
ただし今は違う。封神剣の試練を乗り越えた時に、地面を埋めつくしていた朽ちた刀剣は、鈍色の輝きを放ちながら宙に浮いている。
その中央、中心に。
……あの神は居た。
「……で、お前か」
《汝は、どうにも良く死にかけるようだな》
顔の半分は燃えており、もう半分はかろうじて髑髏の顔なのが見える。相変わらずデカいし、腕を組んでいた。
「……だが…もうやりようがないだろ?」
谷透は自嘲気味に笑い続ける。
「封神剣の解放までいったはずだ。もう俺にこれ以上の力は望めない。そうだろ?」
《………》
「黙ってるってんなら、そうなんだろうな」
《……無いことも無い》
「……何?」
谷透は怪訝な顔をして、振り向く。武神の成れの果てと言っていた者は続ける。
《以前も言ったが、我は残留思念のようなもの。故に、この身体は神通力の集合体だ……言いたいことはわかるな?》
「……おいおい…」
谷透は乾いた笑みを浮かべ続ける。
「……まさか俺に神通力を寄越すってか?」
《左様…だが、人の身に神通力を宿せば早かれ遅かれ異形へと変化する。人間には戻れん。更に言えば、力に適合出来なければ死ぬ》
「………そうかい」
谷透は山の頂上に登り、聖剣のように刺さっている封神剣に手を添える。
「…つまり、アンタと話すのも最後になるんだな?」
《………》
武神は答えない。
「……やってくれ」
《良いのだな?》
「あぁ…短い付き合いだったが…濃い時間だったな」
《……同意だ》
途端に、身体中が焼けるような激痛に襲われた。
「……ッッッ!!」
燃えるように熱く、焼けるように痛い。
《……最期に…伝えておこう……》
消えかける身体で、武神は名乗る。激痛に耐えながら、谷透は目だけを動かして武神を見据える。
《我が名は……刃紗羅。かつて武神と呼ばれた者だ》
「……ッッッ!?」
燃えるような力が次々と注がれる中、断続的にしか聞こえなくなった声を拾い上げる。
《……彼らに……娘に……》
煉獄に包まれながら、確かに声は聞こえた。
「バ……サラ………ッッ!」
………宜しく頼む
察した者は少なく無かった。ほんの一瞬、ただし、焼き尽くさん限りの殺気と熱気と……神通力。
地を這うような煉獄が煌々と照らす。
「……な……に…」
阿剣は唖然とした。
「…あれって…」
槍丈は言葉に詰まり、
「……なんと…」
盾岩は愕然とする。
「……ふっ」
鉈久は「来たか」と笑い。
「………は?」
利斧は離れた地で困惑し、
「……うっそ…」
弓羅も同様に驚愕した。
「………有り得ないな~…でも、らしいっちゃらしいよね」
雨谷は懐かしい神通力に目を細めた。
「………あれは……」
紅葉は、そこに威厳と強さと、懐かしさを覚えた。
轟々と煌々と爛々と燃え盛る煉獄のような神通力が溢れる。その中心で這い上がるように立ち上がったのは……
白獅子 谷透 修哉
片目からは燃えるような神通力が溢れ、全身は炎を纏うように燃え盛っていた。
その姿に…アダマゼルスは……
恐怖を感じていた。
……そう、かつて相対した化け物を、そこに見ていた。
時間は、無神機関をシダマとゼシが乗っ取る前まで遡る。
第一総括補佐として無神機関を乗っ取っていたシダマと、巡り会う前。
そもそも、なぜ彼は無神機関を乗っ取る必要があったのか。
「……『穢れ』コイツはいい……ッ!!」
ゼシは、初めて触れる力に溺れていた。神々に挑戦し、『穢れ』で汚染する事によって支配欲すら同時に満たされた。
「……俺は…この世界で……ッ!!」
神すら超える事が出来る…と、
…そう本気で考えていた。
そして、その考えは絶対的で圧倒的な力により両断される。
「……ッッ!……ッ!?……」
声が出ない。ついでに四肢も無い。
かろうじて残った頭部で相手を見る。
「……汝は弱い。故に邪悪に染まる」
燃えるような神通力に、圧倒的な武力。
外来種が纏った邪悪は、神々の切り札には足元にも及ばなかったらしい。
それが『刃の武神』刃紗羅との対面だった。
「死ぬが良い邪悪なる者よ。死ぬが良い邪悪を纏う者よ。我は邪悪を決して赦さぬ」
圧倒的な殺気と、吐き気がするような威圧感に襲われ、気が付けば絶叫していた。
「うわあぁぁぁぁぁっっ!!ァァァァァッ!!!」
「……フンッ!」
一刀にて、ゼシの肉体は両断された。そして、爆散する。
しかし、刃紗羅はまだ知らなかったのだ。神人という種族の特徴を。
神人は、心臓部にあたる核さえ損傷しなければ死なない。つまり、核さえ無事なら肉体が無くても数百年かけて再生する事が出来る。
(……死ぬ…死ぬ……死ぬッ!!)
核になりながらも、惨めに生きながらえた。そして考えを改める。
力がいる。正面からアレと戦って勝てるような力が。
この出会いが、ゼシが無神機関の乗っ取りを考えつくきっかけとなった。
ただ、その時刻まれた恐怖は数百年経とうと癒える事は無かった。心の底からの敗北。内の内にまで刻まれた圧倒的恐怖。
癒えない…癒える訳が無い。
「あの……野郎……ッッッ!!」
アダマゼルスは禍津逆鉾を握りしめ、突如として立ち上がった谷透を見据える。
煉獄を纏いながら立ち上がった彼の背後に、刃の武神の幻影を見る。
(いや…冷静になれ…人間の身で神通力は使えない。どうせ持っても数分…あとは異形になってお終いだ)
神々が使う力「神通力」は、到底人の手に負えない力である。
無理やり行使すれば、人体が異形と化して二度と戻れない。
…要するに、アイツが自滅するまで逃げるか耐えれば良いのだ。
「ハッ!身に余る力で文字通り焼け死ね!谷透 修哉ァァァァァッ!!!」
「……~……~~」
「……あ?」
燃え盛る炎の中、何かブツブツと言っているのがわかる。
よく見ると、封神剣は白金の輝きを取り戻していた。
「……抽出……収束…」
「……あん?」
燃え盛る炎の中、封神剣では無い剣が1本、谷透の前に浮かび上がる。
「………剣?」
「……射出っ…」
谷透がそれを口にした途端。鈍色の輝きを放ちながら、宙に浮いた剣が一直線にアダマゼルス目掛けて飛んできた。
「……アッ!?」
反射的に弾くと、谷透を見据える。
(……アイツ…神通力を行使しやがった……!!)
神々が持つ神通力を、人の身で行使した。それがどういう意味を持つか、アダマゼルスは身をもって知っていた。
全力で叩かなければ、死ぬ。
「おい……あれは…」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ槍丈に答えるように、阿剣は続ける。
「間違いない……刃紗羅様の得意とした『創刃』だ……」
何故は後回し。今は叩き潰す事を優先する。
禍津逆鉾を振りかぶって、谷透目掛けて振り下ろす。
「……ッッッ」
轟々と燃える神通力の中、谷透は封神剣で受け止める。
だが、アダマゼルスは切り上げて受け止めた谷透を空中へと押し出した。
「……ッ!!」
ぶっつけ本番。刃紗羅からもらった神通力で『創刃』を放った。封神剣の記憶から形状を抽出し、形にして打ち出した。だが、まだまだ練度が低い。
弾かれた封神剣では、間に合わない。
(何かッ!!アイツの一撃を受け止められる何かがあれば……ッ!!)
「死ねぇぇぇッッ!」
(何かっ!)
唐突に、であった。アダマゼルスの放った首を落とす一撃は、谷透の持つ刀によって弾かれた。
谷透もほとんど反射的だっただろう。
……ところで、封神剣は相対した者の記憶の蓄積と解放を備えた神代遺物だ。
谷透が神通力を貰っても、神では無い彼には本来『創刃』は使えなかった。
だが、封神剣内部に蓄積された記憶を読み取り、それを応用する形で『創刃』を行使するに至ったのだ。
そう、封神剣の記憶の蓄積と解放がこの武器の本質。
では、谷透はあの瞬間何を望んだか。アダマゼルスの武器を受け止めるには、自分の知る限り1番強い武器を欲した筈だ。
……そして、それは自他ともに認める。『最強』の証であった。
『見守っています』
谷透の左手には……
「招雷刀……ッ!?!?」
かつてフヒトが振るった、神鳴りの刀が握られていた。
「なんだ…と…」
「おいおい…」
他の武神達はどよめく。谷透が神通力を行使したこともそうだが、神代遺物から神代遺物を召喚した事がだ。
宙に浮きながら、谷透は左手にある招雷刀を見る。無論、本物では無い。封神剣の中にあった記憶だ。
……だが…
「ありがとう…白獅子さん……」
バチバチッ!と谷透に応えるように招雷刀は紫電を放つ。
「……なん……だとっ……!!?」
フヒトの身体を持っても解放出来なかった招雷刀が、谷透には呼応するように反応する。
「招雷刀……解放ッ!!」
「ッッッ!!」
谷透が叫ぶと、呼応するように紫電を放ち、アダマゼルスを引き剥がす。
「……てめぇ…なんで……ッ!!なんでそんなっっ!!」
谷透がしている事は、神人から見ても異常だった。
神代遺物の同時解放
封神剣を解放した状態で、封神剣から召喚した招雷刀を解放した。
二刀を携えた谷透は巨悪を見据え、言い放つ。
「もう一度言う」
「俺が、二代目白獅子だ」
フヒトが育んだ意思は、確かに芽吹いていた。
『武神』鉈久、彼はかつて四堕神の一柱「フヌゥム」として強さを求めていた。
彼は生まれつき、「邪視」という力に全ての神通力を注がれていた為、神通力を持っていなかった。
だが、「穢れ」をコントロールすることによって、肉体を強化し強大な力を得た。その神が今は鉈久として神通力を持つ武神として生まれ変わった。
「テメェ……なんで穢れ相手に立ち回れる……」
アダマゼルスは忌々しそうに呟く。当の本人は特に気にするでもなく答えた。
「なに、過去『穢れ』を身に纏って肉体を強化していたからな、その経験から神通力を肉体に纏って穢れを中和している。初めての力だが、やり方さえ知っていれば容易い」
鉈久は普通に言っているが、これが案外難しい。
武神の所有する神通力とは「武器への畏怖と信仰」から発生するものの為、かなり攻撃的なものが多い。その神通力を強化や防御といった面に使うにはそれなりの技量がいる。
特殊な例としては盾岩がそれに当たるのだが、ここに武神の力を防御に生かす事のできる新たな神が生まれた。
「だが…そんなモンもいつまで続けられるかナァ!?」
助っ人が現れたとは言え、アダマゼルスの手には禍津逆鉾がある。あの武器がある限り、時間は常に奴の味方であり、長期戦は不利になることを表している。
禍津逆鉾を構え、アダマゼルスは鉈久を見据える。
巨岩の大鉈を振り、アダマゼルスの攻撃を捌いているが、鉈久も相手の攻撃が徐々に重く、鋭く、速くなっているのを感じていた。
(……このままでは…ジリ貧か……だが…)
鉈久はわかっている。あの男は、必ず戻ってくると。
「ハッ!どうしたフヌゥムッッ!!捌き切るので精一杯かぁ!?」
「……そうだな…だが、今はそれで良い」
「…あん?」
怪訝な顔をするアダマゼルスに、鉈久は言い放つ。
「此方の心中は、使命で満ち溢れている。故に、あの男を護るのが此方の責務だ」
大鉈を構え、さらに言い放つ。
「此方は、その責務を全うする」
「イキってんじゃねぇぞくたばりぞこないがアァァァァァ!!!」
斬撃の応酬は、さらに加速する……
そして……
「……またここか……」
谷透は、再び彼の地を踏んでいた。
かつて幾星霜の果てし武の器が積み重なった領域へ。
ただし今は違う。封神剣の試練を乗り越えた時に、地面を埋めつくしていた朽ちた刀剣は、鈍色の輝きを放ちながら宙に浮いている。
その中央、中心に。
……あの神は居た。
「……で、お前か」
《汝は、どうにも良く死にかけるようだな》
顔の半分は燃えており、もう半分はかろうじて髑髏の顔なのが見える。相変わらずデカいし、腕を組んでいた。
「……だが…もうやりようがないだろ?」
谷透は自嘲気味に笑い続ける。
「封神剣の解放までいったはずだ。もう俺にこれ以上の力は望めない。そうだろ?」
《………》
「黙ってるってんなら、そうなんだろうな」
《……無いことも無い》
「……何?」
谷透は怪訝な顔をして、振り向く。武神の成れの果てと言っていた者は続ける。
《以前も言ったが、我は残留思念のようなもの。故に、この身体は神通力の集合体だ……言いたいことはわかるな?》
「……おいおい…」
谷透は乾いた笑みを浮かべ続ける。
「……まさか俺に神通力を寄越すってか?」
《左様…だが、人の身に神通力を宿せば早かれ遅かれ異形へと変化する。人間には戻れん。更に言えば、力に適合出来なければ死ぬ》
「………そうかい」
谷透は山の頂上に登り、聖剣のように刺さっている封神剣に手を添える。
「…つまり、アンタと話すのも最後になるんだな?」
《………》
武神は答えない。
「……やってくれ」
《良いのだな?》
「あぁ…短い付き合いだったが…濃い時間だったな」
《……同意だ》
途端に、身体中が焼けるような激痛に襲われた。
「……ッッッ!!」
燃えるように熱く、焼けるように痛い。
《……最期に…伝えておこう……》
消えかける身体で、武神は名乗る。激痛に耐えながら、谷透は目だけを動かして武神を見据える。
《我が名は……刃紗羅。かつて武神と呼ばれた者だ》
「……ッッッ!?」
燃えるような力が次々と注がれる中、断続的にしか聞こえなくなった声を拾い上げる。
《……彼らに……娘に……》
煉獄に包まれながら、確かに声は聞こえた。
「バ……サラ………ッッ!」
………宜しく頼む
察した者は少なく無かった。ほんの一瞬、ただし、焼き尽くさん限りの殺気と熱気と……神通力。
地を這うような煉獄が煌々と照らす。
「……な……に…」
阿剣は唖然とした。
「…あれって…」
槍丈は言葉に詰まり、
「……なんと…」
盾岩は愕然とする。
「……ふっ」
鉈久は「来たか」と笑い。
「………は?」
利斧は離れた地で困惑し、
「……うっそ…」
弓羅も同様に驚愕した。
「………有り得ないな~…でも、らしいっちゃらしいよね」
雨谷は懐かしい神通力に目を細めた。
「………あれは……」
紅葉は、そこに威厳と強さと、懐かしさを覚えた。
轟々と煌々と爛々と燃え盛る煉獄のような神通力が溢れる。その中心で這い上がるように立ち上がったのは……
白獅子 谷透 修哉
片目からは燃えるような神通力が溢れ、全身は炎を纏うように燃え盛っていた。
その姿に…アダマゼルスは……
恐怖を感じていた。
……そう、かつて相対した化け物を、そこに見ていた。
時間は、無神機関をシダマとゼシが乗っ取る前まで遡る。
第一総括補佐として無神機関を乗っ取っていたシダマと、巡り会う前。
そもそも、なぜ彼は無神機関を乗っ取る必要があったのか。
「……『穢れ』コイツはいい……ッ!!」
ゼシは、初めて触れる力に溺れていた。神々に挑戦し、『穢れ』で汚染する事によって支配欲すら同時に満たされた。
「……俺は…この世界で……ッ!!」
神すら超える事が出来る…と、
…そう本気で考えていた。
そして、その考えは絶対的で圧倒的な力により両断される。
「……ッッ!……ッ!?……」
声が出ない。ついでに四肢も無い。
かろうじて残った頭部で相手を見る。
「……汝は弱い。故に邪悪に染まる」
燃えるような神通力に、圧倒的な武力。
外来種が纏った邪悪は、神々の切り札には足元にも及ばなかったらしい。
それが『刃の武神』刃紗羅との対面だった。
「死ぬが良い邪悪なる者よ。死ぬが良い邪悪を纏う者よ。我は邪悪を決して赦さぬ」
圧倒的な殺気と、吐き気がするような威圧感に襲われ、気が付けば絶叫していた。
「うわあぁぁぁぁぁっっ!!ァァァァァッ!!!」
「……フンッ!」
一刀にて、ゼシの肉体は両断された。そして、爆散する。
しかし、刃紗羅はまだ知らなかったのだ。神人という種族の特徴を。
神人は、心臓部にあたる核さえ損傷しなければ死なない。つまり、核さえ無事なら肉体が無くても数百年かけて再生する事が出来る。
(……死ぬ…死ぬ……死ぬッ!!)
核になりながらも、惨めに生きながらえた。そして考えを改める。
力がいる。正面からアレと戦って勝てるような力が。
この出会いが、ゼシが無神機関の乗っ取りを考えつくきっかけとなった。
ただ、その時刻まれた恐怖は数百年経とうと癒える事は無かった。心の底からの敗北。内の内にまで刻まれた圧倒的恐怖。
癒えない…癒える訳が無い。
「あの……野郎……ッッッ!!」
アダマゼルスは禍津逆鉾を握りしめ、突如として立ち上がった谷透を見据える。
煉獄を纏いながら立ち上がった彼の背後に、刃の武神の幻影を見る。
(いや…冷静になれ…人間の身で神通力は使えない。どうせ持っても数分…あとは異形になってお終いだ)
神々が使う力「神通力」は、到底人の手に負えない力である。
無理やり行使すれば、人体が異形と化して二度と戻れない。
…要するに、アイツが自滅するまで逃げるか耐えれば良いのだ。
「ハッ!身に余る力で文字通り焼け死ね!谷透 修哉ァァァァァッ!!!」
「……~……~~」
「……あ?」
燃え盛る炎の中、何かブツブツと言っているのがわかる。
よく見ると、封神剣は白金の輝きを取り戻していた。
「……抽出……収束…」
「……あん?」
燃え盛る炎の中、封神剣では無い剣が1本、谷透の前に浮かび上がる。
「………剣?」
「……射出っ…」
谷透がそれを口にした途端。鈍色の輝きを放ちながら、宙に浮いた剣が一直線にアダマゼルス目掛けて飛んできた。
「……アッ!?」
反射的に弾くと、谷透を見据える。
(……アイツ…神通力を行使しやがった……!!)
神々が持つ神通力を、人の身で行使した。それがどういう意味を持つか、アダマゼルスは身をもって知っていた。
全力で叩かなければ、死ぬ。
「おい……あれは…」
途切れ途切れに言葉を紡ぐ槍丈に答えるように、阿剣は続ける。
「間違いない……刃紗羅様の得意とした『創刃』だ……」
何故は後回し。今は叩き潰す事を優先する。
禍津逆鉾を振りかぶって、谷透目掛けて振り下ろす。
「……ッッッ」
轟々と燃える神通力の中、谷透は封神剣で受け止める。
だが、アダマゼルスは切り上げて受け止めた谷透を空中へと押し出した。
「……ッ!!」
ぶっつけ本番。刃紗羅からもらった神通力で『創刃』を放った。封神剣の記憶から形状を抽出し、形にして打ち出した。だが、まだまだ練度が低い。
弾かれた封神剣では、間に合わない。
(何かッ!!アイツの一撃を受け止められる何かがあれば……ッ!!)
「死ねぇぇぇッッ!」
(何かっ!)
唐突に、であった。アダマゼルスの放った首を落とす一撃は、谷透の持つ刀によって弾かれた。
谷透もほとんど反射的だっただろう。
……ところで、封神剣は相対した者の記憶の蓄積と解放を備えた神代遺物だ。
谷透が神通力を貰っても、神では無い彼には本来『創刃』は使えなかった。
だが、封神剣内部に蓄積された記憶を読み取り、それを応用する形で『創刃』を行使するに至ったのだ。
そう、封神剣の記憶の蓄積と解放がこの武器の本質。
では、谷透はあの瞬間何を望んだか。アダマゼルスの武器を受け止めるには、自分の知る限り1番強い武器を欲した筈だ。
……そして、それは自他ともに認める。『最強』の証であった。
『見守っています』
谷透の左手には……
「招雷刀……ッ!?!?」
かつてフヒトが振るった、神鳴りの刀が握られていた。
「なんだ…と…」
「おいおい…」
他の武神達はどよめく。谷透が神通力を行使したこともそうだが、神代遺物から神代遺物を召喚した事がだ。
宙に浮きながら、谷透は左手にある招雷刀を見る。無論、本物では無い。封神剣の中にあった記憶だ。
……だが…
「ありがとう…白獅子さん……」
バチバチッ!と谷透に応えるように招雷刀は紫電を放つ。
「……なん……だとっ……!!?」
フヒトの身体を持っても解放出来なかった招雷刀が、谷透には呼応するように反応する。
「招雷刀……解放ッ!!」
「ッッッ!!」
谷透が叫ぶと、呼応するように紫電を放ち、アダマゼルスを引き剥がす。
「……てめぇ…なんで……ッ!!なんでそんなっっ!!」
谷透がしている事は、神人から見ても異常だった。
神代遺物の同時解放
封神剣を解放した状態で、封神剣から召喚した招雷刀を解放した。
二刀を携えた谷透は巨悪を見据え、言い放つ。
「もう一度言う」
「俺が、二代目白獅子だ」
フヒトが育んだ意思は、確かに芽吹いていた。
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