神様の仰せのままに

幽零

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穢祓い編

84話

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『禍津逆鉾』

神代遺物の一つで、刀身の長い鉾に輪っかが2~3程回っている、一見奇妙な形をした槍のようなもの。


「……行くぞ」

「さっさと来い」


アダマゼルスが矛を振るうが、谷透は霊体化を駆使して攻撃を回避する。


当然、禍津逆鉾は谷透の体をすり抜けるのだが、その時妙なことが起きる。




ぐるんっ。




禍津逆鉾を囲むように浮いている輪が一瞬だけ早く回転する。


「……?」

谷透の体はどこも切れていない。違和感を抱きつつ、谷透は封神剣で応戦する。


………だが…


アダマゼルスの持つ禍津逆鉾が、霊体化した谷透を再び斬りつける……


すると……



「………なに…」


鉾はすり抜けたのだが、谷透の頬に切り傷が薄ら浮かんでいた。


「クハハッ!油断したか二代目ェ!?」

隙をつかれ腹部を蹴られる。2、3回地べたを跳ねながらも、谷透は立ち上がる。


「コイツの性能を教えてやろうか……」

勝ち誇った顔でアダマゼルスは鉾を前に出し、言葉を垂らしていく。

「『禍津逆鉾』、コイツの性能はな……『攻撃性質の最適化』だ」

「……なんだと…」

「コイツで斬りつければ、鉾自体が性質を最適化する。つまり、コイツの攻撃を受ければ受けるほどに全ての攻撃が致命傷になるってことだよ」

「………ッッ!」



戦闘が長引けば長引くほど、禍津逆鉾はより致命的に、より効率的に、火力が上がっていく。



……そして……




ゾブリと。



谷透の腹部にその凶刃が突き刺さる。


「……ぐ……かはっ……」


突如として封神剣の輝きは失われ、膝から崩れ落ちる谷透。





「やばい…かもですわ」

「ちょっと!どうするのよ!」

「姉さん…落ち着いて」

「んにぃ~…」

「……谷透 修哉…」



六武衆の心は、既に決まっていた。



たとえ死しても、白き獅子を未来に残すと。



次の行動は早かった。全員がアダマゼルスを囲い込むように立ち回る。





「雑魚は雑魚らしく引っ込んでなッッ!!」





だが、アダマゼルスの薙ぎ払うような一撃で、六武衆は弾かれる。



「……化け物ですわ…」

「……んにぃ~」



もう、立つことができない。このままでは、最後の希望を失ってしまう。




腹部を押さえて蹲る谷透は、もはや頭をあげることすらできない。それはまるで、罪人が罪を受け入れ断頭を待っているような姿だった。

「よく見とけよ。お前らの希望とやらが死に絶え、俺たち神の戦争の時代が幕開けるその瞬間をッッ!!」


禍津逆鉾が振り下ろされる。







……はずだった軌道は、それて地面を叩く。





「……あん?」


アダマゼルスは、ぎろりと目を横にずらす。そこには……




「……武神が一柱。阿剣」

「並びに、三ツ谷神社神主 三ツ谷結。参上いたしました」

「うっわ……なにあれ、パワーアップって感じぃ?超キショ」

「やかましいぞ蒼糸」



神社の総力が、集結した。


「……あー」



ガリッと自身の頭部を掴むと、憎悪のこもった声で続ける。


「……ウゼェんだよ。テメェら」


すると、アダマゼルスの背中から穢れが触手のように湧き出る。それらは全て神社の勢力へと向かうが……



蒼系や満などが表立ってその攻撃を捌く。



文章にしてしまえば端的、だが……そこにこの文が付け加えられたらどうだろう。



『音速とほぼ同速で』

『超多段的な』

『広範囲攻撃を』



人類に化け物と呼ばれる猛者は何人いるのだろう。

神社とは、幾星霜の間穢れに飲まれた神々を相手にしてきた組織だ。




だが、今……その幾星霜を、穢れが上回ろうとしていた。



そして、触手に攻撃を任せているアダマゼルスは、禍津逆鉾を振りかぶり、再び谷透を断頭するべく歩みを進める。



「……誰か……」


もはや立ち上がれない六武衆は、祈った。……かは、もはや本人たちにもわからないだろう。


だが、このままでは。


体がいうことを聞かない。誰か……



誰か誰か………











『誰かッッッ!!!』











「死ねぇェェェッッッッッ!!!」

禍津逆鉾は、谷透の首を捉えた。















…………はずだったのだ。






その場にいた誰もが、何が起きたのか分からなかっただろう。


そして、その場にいたほとんどが、分からなかった。








禍津逆鉾を逸らしていたものに、心当たりのあるものは、五人いた。









………所で、だが。





『武神』とは何か


それは、武器への畏怖と信仰により生まれる神々の切り札であり、戦闘に特化した神である。










六武衆は知っている。その神が奮った力を。


六武衆は知っている。その神の恐ろしさを。


六武衆は知っている。その神が………










……









彼らは畏怖したのだ。かの神が振るった力を。

彼らは信仰したのだ。かの神が振るった力を。






……そして。




そして、彼らは祈ったのだ。ここにいない誰か、ここに来て欲しい誰か。






彼らは強く、とても強く祈った。脳裏にチラついたのは、姿





「て、メェ………」

その神は巨躯だった。

「…………」




「あいつは……」

「え、あれは…」




そう、彼らは無意識だった………それほどまでに、かの神が振るったを、畏怖し信仰していた。





「…此方が何故ここにいるかは分からない」

「………テ………メェッッ!!」

「………どうやら、何かが起きたらしい」






「なぁ……阿剣…あいつ…」

「………まさか…新たに誕生したのか……?」





巨躯なる神は、続ける。


「……恐らくは、転生…というものだろう。此方の命は尽きた。それは間違いない」

かつて、神々の敵として立ちはだかった四堕神最強の者は……


「だが、呼ばれた気がしたのだ。そして、胸に満ちるこの使命、溢れてくるこの力」


かの神は、巨岩の大鉈を構え続ける。



「……今するべきは、神々を守らんとする英雄を助けることだ」





かつて、フヌゥムと呼ばれた神は、威風堂々名乗りをあげる。



「『武神』鉈久ナタク……それが、今の此方の名前らしい」



かつて、武神に生まれなかったことを恨み、それを越えようとした神は……今や、神々の守り手として生まれ変わった。





胸に満ちるは確かな使命。記憶に浮かぶは、かつての信者たち。

恨み、怨み、羨んだ先に、待っていたのは途方もない無力感。


「そうか……此方は…」


願ったのだ。叶ったのだ。そして今度は応える番なのだ。



かつて相対した者を救う為に。



そう、胸に満ちる確かな使命。

『神々を守れ』 

誰に言われずとも、たしかに聞こえる内の声。

『人々を守れ』

溢れるこの力が『神通力』というものだろう。

『世界を守れ』



鉈久は誰にでもなく、覚悟を確かめるように言葉を放つ。



「……あぁ…」







『今度こそ、護ってみせる』



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