78 / 93
穢神戦争編
78話
しおりを挟む
「……暗器か」
フヌゥムは知っているかのように呟く。
「流石、生き抜いてきた神ってところですかい」
血染めの形相になった四方は、悍ましい形状の武器を次々投擲すると同時に、懐からも暗器を取り出し仕掛ける。
「人間ができる動きではないな…」
フヌゥムは巨岩の大鉈で、暗器を薙ぎ払い、四方の攻撃を捌き続ける。
「…あまりこういう事は好みでは無いが」
フヌゥムは地面を思いっきり踏み付け、衝撃で地面を浮かばせて視界を塞ぐ。
(……目潰しのつもりか?)
視界で姿を確認できなくなった為、距離を取ろうと離れた瞬間、背後にフヌゥムが大鉈を構えていた。
「……ッ!!?」
「勝負あったな」
フヌゥムの鉈が振り抜かれる………
が、四方は予知していたかのように、体を捻ってかわす。
その反動を利用して、フヌゥムの体に有刺鉄線を大きくしたような暗器を刺し込む。
「ぬ……」
「残念ってなもんで」
四方は間髪入れずに再び投擲武器による攻撃を開始する。
「………人間業ではないな…」
あの顔になってから投げてくる武器も様子が変わった。一投一投に殺意がこもっている。ここで確実に殺すという意志、悪意すら感じる。
フヌゥムは真顔で体の奥まで刺さった有刺鉄線を引き抜くと、投げ捨てる。
(…人間であれば、苦しんで死ぬような作り……成程、つまり奴は……)
暗殺と拷問に慣れている。
「……此方と同じ、修羅の道を歩いてきたか」
「……さてねぇ、歩いてきたのは桃源郷かもってね」
「……それは、修羅そのものだろう?」
フヌゥムの指さすそれとは、四方の周囲に渦巻く怨念のようなものである。
「先程理解した。それは其方の中にある怨念や呪念の塊。それを具現化して、感覚を拡張している。先程の此方の攻撃を避けたもの、それの恩恵だろう」
「べらべらと喧しいってね」
全て正解である。四方は自身に募っていった感情、取り分け暗殺と拷問に対しての思いを封じ込めていた。
表面にそれを放出し、感覚を拡張する。例えるなら、無数の夢を見ている感覚。
「良くもまぁ、正気を保っていられるものだ」
「お褒めに預かり恐悦至極ってなもんで。幕引きといきましょうか…」
四方は懐からギザギザと刃こぼれしたような日本刀を取り出す。
「知っていますかい?鈍が一番苦痛なんでさァ」
「………そうだな」
フヌゥムは両手で巨岩の大鉈を構える。
「良くぞ、奮闘した。賞賛の意を持って、八割で御相手しよう」
さらに一段階、フヌゥムのギアが上がるのを四方は体感した。
(……ちっ…まだ届かねえんですかい…)
嫌悪する自分の本性を出して尚、この神の首に届かない。
「……ま、手を抜く理由にはなりゃあせんわ」
四方は突きの構えを取る。
「……此方の八割の力を前に、未だ一歩も退かぬその姿勢。見事」
フヌゥムは大地を蹴り、八割の力を持って大鉈を振り下ろす。
「勝ち誇って、足元掬われねぇよう気を付けなさんなッ!」
衝撃の後、土埃が晴れる。
「………あ~~あ…」
大地に沈んだのは……
四方 桃源
「……白獅子には絶対に見せたくなかった姿まで出して、結果がこれですかい…」
四方はもう指の力すらまともに入らない。
「……即死しないとは、流石だな」
目の前には、堂々とフヌゥムが立っていた。
「……彼岸でも誇ると良い。此方とここまで渡り合った人間は、其方が初めてだ」
「…………」
「せめてもの手向けだ。苦しませはしない」
「……ひとつ、訂正しなきゃいけねぇ事があるってね」
「……?」
四方の言葉にフヌゥムの動きが止まる。
「アンタと渡り合える奴ってのは……あっしゃだけじゃあ無くなる」
四方は、最後の力を振り絞り右手をあげると、ポツリと呟く。
「……って訳でバトンタッチですわ」
声は、虚空に響く。
「花車」
瞬間、大斧が弧を描いて飛来する。
「……む…」
フヌゥムはそれを難なく弾くと、距離を取った。
「四方~、珍しいにぃ~?まぁ寝てろって。たにとーに道を開ける。でしょ?」
「察しが良いのだけはホント助かりますわ」
しかし、どうやら彼女だけでは無いようだった。カツカツと2人分の足音が聞こえる。
「姉さん、あの四方が瀕死ですが」
「あら、助けたいのだけど…個人的に彼にはいい思いが無いのよね。谷透様との逢瀬を散々邪魔されましたし?」
「いや~…そんな事言ってる場合じゃねぇんですわ……」
「まぁ良いわ。意趣返しはこれくらいで。それで?あの目隠しを倒せば良いのね?」
「姉さん…僕ら満身創痍だから、そう簡単には行かないと思いますが?」
御影と真陽が合流する。
「貴方がここまでやられるとは……珍しいですね。四方さん」
さらに……
「遅くなりました。加勢致します」
最強の凡人、鳴神 風切が追い付く。
(……?あれは風切?出会った頃は僕の方が数段強かったですが……)
(あら?随分と雰囲気が変わったわね?)
(……ふーん、たにとーがゆーとーせーって言ってただけはあるってか~…)
「……何ですか?皆して私を見て」
「「「別にー?」」」
見ていたフヌゥムは唸る。
「ほう……」
強者が揃いつつあるこの状況、たしかに気持ちは昂っている。
「今日を記念とせずして何とするか」
巨岩の大鉈を構えながら、集う六武衆に向けて言い放つ。
「此方はフヌゥム。其方達の敵、四堕神の一柱」
「「「「……六武衆」」」」
お互いはお互いを見据える。知るべき事は全て知ったと言わんばかりに。
2回目の衝突が始まる。
フヌゥムは知っているかのように呟く。
「流石、生き抜いてきた神ってところですかい」
血染めの形相になった四方は、悍ましい形状の武器を次々投擲すると同時に、懐からも暗器を取り出し仕掛ける。
「人間ができる動きではないな…」
フヌゥムは巨岩の大鉈で、暗器を薙ぎ払い、四方の攻撃を捌き続ける。
「…あまりこういう事は好みでは無いが」
フヌゥムは地面を思いっきり踏み付け、衝撃で地面を浮かばせて視界を塞ぐ。
(……目潰しのつもりか?)
視界で姿を確認できなくなった為、距離を取ろうと離れた瞬間、背後にフヌゥムが大鉈を構えていた。
「……ッ!!?」
「勝負あったな」
フヌゥムの鉈が振り抜かれる………
が、四方は予知していたかのように、体を捻ってかわす。
その反動を利用して、フヌゥムの体に有刺鉄線を大きくしたような暗器を刺し込む。
「ぬ……」
「残念ってなもんで」
四方は間髪入れずに再び投擲武器による攻撃を開始する。
「………人間業ではないな…」
あの顔になってから投げてくる武器も様子が変わった。一投一投に殺意がこもっている。ここで確実に殺すという意志、悪意すら感じる。
フヌゥムは真顔で体の奥まで刺さった有刺鉄線を引き抜くと、投げ捨てる。
(…人間であれば、苦しんで死ぬような作り……成程、つまり奴は……)
暗殺と拷問に慣れている。
「……此方と同じ、修羅の道を歩いてきたか」
「……さてねぇ、歩いてきたのは桃源郷かもってね」
「……それは、修羅そのものだろう?」
フヌゥムの指さすそれとは、四方の周囲に渦巻く怨念のようなものである。
「先程理解した。それは其方の中にある怨念や呪念の塊。それを具現化して、感覚を拡張している。先程の此方の攻撃を避けたもの、それの恩恵だろう」
「べらべらと喧しいってね」
全て正解である。四方は自身に募っていった感情、取り分け暗殺と拷問に対しての思いを封じ込めていた。
表面にそれを放出し、感覚を拡張する。例えるなら、無数の夢を見ている感覚。
「良くもまぁ、正気を保っていられるものだ」
「お褒めに預かり恐悦至極ってなもんで。幕引きといきましょうか…」
四方は懐からギザギザと刃こぼれしたような日本刀を取り出す。
「知っていますかい?鈍が一番苦痛なんでさァ」
「………そうだな」
フヌゥムは両手で巨岩の大鉈を構える。
「良くぞ、奮闘した。賞賛の意を持って、八割で御相手しよう」
さらに一段階、フヌゥムのギアが上がるのを四方は体感した。
(……ちっ…まだ届かねえんですかい…)
嫌悪する自分の本性を出して尚、この神の首に届かない。
「……ま、手を抜く理由にはなりゃあせんわ」
四方は突きの構えを取る。
「……此方の八割の力を前に、未だ一歩も退かぬその姿勢。見事」
フヌゥムは大地を蹴り、八割の力を持って大鉈を振り下ろす。
「勝ち誇って、足元掬われねぇよう気を付けなさんなッ!」
衝撃の後、土埃が晴れる。
「………あ~~あ…」
大地に沈んだのは……
四方 桃源
「……白獅子には絶対に見せたくなかった姿まで出して、結果がこれですかい…」
四方はもう指の力すらまともに入らない。
「……即死しないとは、流石だな」
目の前には、堂々とフヌゥムが立っていた。
「……彼岸でも誇ると良い。此方とここまで渡り合った人間は、其方が初めてだ」
「…………」
「せめてもの手向けだ。苦しませはしない」
「……ひとつ、訂正しなきゃいけねぇ事があるってね」
「……?」
四方の言葉にフヌゥムの動きが止まる。
「アンタと渡り合える奴ってのは……あっしゃだけじゃあ無くなる」
四方は、最後の力を振り絞り右手をあげると、ポツリと呟く。
「……って訳でバトンタッチですわ」
声は、虚空に響く。
「花車」
瞬間、大斧が弧を描いて飛来する。
「……む…」
フヌゥムはそれを難なく弾くと、距離を取った。
「四方~、珍しいにぃ~?まぁ寝てろって。たにとーに道を開ける。でしょ?」
「察しが良いのだけはホント助かりますわ」
しかし、どうやら彼女だけでは無いようだった。カツカツと2人分の足音が聞こえる。
「姉さん、あの四方が瀕死ですが」
「あら、助けたいのだけど…個人的に彼にはいい思いが無いのよね。谷透様との逢瀬を散々邪魔されましたし?」
「いや~…そんな事言ってる場合じゃねぇんですわ……」
「まぁ良いわ。意趣返しはこれくらいで。それで?あの目隠しを倒せば良いのね?」
「姉さん…僕ら満身創痍だから、そう簡単には行かないと思いますが?」
御影と真陽が合流する。
「貴方がここまでやられるとは……珍しいですね。四方さん」
さらに……
「遅くなりました。加勢致します」
最強の凡人、鳴神 風切が追い付く。
(……?あれは風切?出会った頃は僕の方が数段強かったですが……)
(あら?随分と雰囲気が変わったわね?)
(……ふーん、たにとーがゆーとーせーって言ってただけはあるってか~…)
「……何ですか?皆して私を見て」
「「「別にー?」」」
見ていたフヌゥムは唸る。
「ほう……」
強者が揃いつつあるこの状況、たしかに気持ちは昂っている。
「今日を記念とせずして何とするか」
巨岩の大鉈を構えながら、集う六武衆に向けて言い放つ。
「此方はフヌゥム。其方達の敵、四堕神の一柱」
「「「「……六武衆」」」」
お互いはお互いを見据える。知るべき事は全て知ったと言わんばかりに。
2回目の衝突が始まる。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
織りなす楓の錦のままに
秋濃美月
キャラ文芸
※鳴田るなさんの”身分違いの二人企画”に参加しています。
期間中に連載終了させたいです。させます。
幕藩体制が倒れなかった異世界”豊葦原”の”灯京都”に住む女子高生福田萌子は
奴隷市場に、”女中”の奴隷を買いに行く。
だが、そこで脱走した外国人の男奴隷サラームの巻き起こしたトラブルに巻き込まれ
行きがかり上、彼を買ってしまう。
サラームは色々ワケアリのようで……?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる