神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

66話

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苛烈を極めていた。そこにあったのはただひたすらな暴力。

真陽の「死者の園」がヨゴウに向かっていく。それを掴み引きちぎり前進していくヨゴウ。


「最早効かぬな」

穢れを克服したのだろう、今までと雰囲気が全く違う。


「………チッ…」


真陽は頬を手の甲で拭いながら「死者の園」を絶やさず発動させる。


「言わなかったか?最早効かぬと」


ヨゴウは死者の園から生み出された四肢を引きちぎりながら、こちらに向かってくる。


「…………」


チラリと、背後に気を配る。思えば、肩を並べて戦うのは、いつぶりだろうか。







「はい、今終わりましたが…はい…」

使い捨ての携帯電話を片手に、血を拭いながら話す御影。

私はいつもそのちょっと後ろにいる。もう何度こうしただろうか。



を。




「はい……はい………さて、姉さん。帰りますか」

「えぇ、わかってるわ」



ずっと前、父だと言う人物と初めて対面してからはや数年。


私たち魔淵は、殺し合いを強制されていた。


先を行く御影に聞こえぬように、真陽は呟く。


「……お気の毒様、さん」


御影と一緒にいれば、負ける事は無かった。私が危なくなっても、御影が透明化で背後から奇襲してくれる。


『姉さんは、僕が守りますが』



ずっと前に言っていた言葉を、守ってくれているのだろう。





そして、あの日が来る。






『あぁ、御影は死神に相応しい。穢祓いとしても何ら問題は無いでしょう』

『そうですか。まぁ確かに『悪鬼』より強大では無いにしろ、自制と冷静さがあるのは利点ですな』

『えぇ…六武衆として紛れさせても問題は無いでしょう。それで?姉の方はどうするのです』

『あぁ…そちらは…』






ー私に代わり……魔淵の長を継がせますー






『……ッ…!!?』

影で聞いていた私は、御影の元に走った。


『……おや、聞かれていましたか』

『いかが致しましょう?常陰様』

『……御影に接触させては行けません。追いなさい』

『承知』


息が詰まる。人殺しの一族の長、その重圧。

走って走って、たった1人の弟を騙して、出来上がったのは死体の山。



弟は、愚直に襲い来る魔淵の一族を殺害した。



一族全員を。




その日から、生きる意味は弟になった。





そして歪な日々の中、に出会った。





……きっと、私はあの人の1番にはなれない。


見ればわかる。彼の中にはいつもがいる。そして、きっと思い出の中にも、もう1人がいる。また六武衆としても、彼の中の白獅子様を超えることは出来ない。



六武衆としても、女としても、思い出としても、彼の1番にはなれない。



……だから、せめて。



せめて、貴方の役には立ちたい。





「…わかっているんです」

「……どうした?今更実力差を自覚したか?」

ヨゴウの問いには答えず、真陽は続ける。

「……だからこれは私の我儘。私は1人で何かを成し得ない。だからいつも、土壇場で頼るの……お願い…あの人の為に……」

ヨゴウに首元を掴まれ、万力のように力が入る。閉まる首で、真陽は呟く。


「……助けて…御影…」


途端、突然真陽を掴んでいたヨゴウの腕が切断された。


「分かっていますが、姉さん」


その後にジワジワと景色から浮かんで来た。

先程の刀とは別の刀を持っている、死体のような顔の男が景色から浮かぶ。


歪んだ恐ろしい波紋の浮かぶ、長い刀だった。


(……俺の腕が斬られ…!?)

ヨゴウは咄嗟に距離を取る。



頭から血を流す御影は、気にせず刀を構える。


「御影…」

「えぇ姉さん」

姉弟は、肩を並べる。


あの時とは違う、人を殺す為じゃない。



、2人は肩を並べる。





姉弟を見て、ヨゴウは思考を回す。

(……あの男…いつの間にか回復していたのか…?いや、それよりも注意すべきは…)


男の持つ、あの刀。



「では…行きますか」

「えぇ、御影」


(まぁ…正面から俺に向かってきた所で返り討ちだ!)



ヨゴウは構えた直後に、硬直した。


男の方が消えたのだ。いや、それが直接的な原因じゃあない。


男が見えないと言うのに、女の方が空間から四肢を召喚してくる。


「うぉぉぉぉっ!?」


防ごうとすると、不可視の斬撃が襲う。

斬撃に注意しようとすると、質量攻撃が襲う。


(……男に当たるかも知れないのに…躊躇無く広範囲で攻撃してくるだと!?)


女に近付こうとすると、不可視の斬撃で攻撃される。間髪入れずに空間から四肢で打撃をくらう。


「……こ、こいつらァッ!!」


お互いを信頼しているのか、当たってもどうでも良いと考えているのか。


1つでもしくじれば、男が死ぬと言うのに、躊躇いなく攻撃する女に、全く躊躇無くその攻撃範囲に透明のまま踏み込んでくる男。



「……このっ!イカれた姉弟がっ!」


ヨゴウの言葉に、姉弟の声が重なる。




「「今更ですか?」」




次の瞬間、叫んで隙の出来たヨゴウに四肢が直撃する。動きの止まるヨゴウ、そして、何も無い所から聞こえてくる、男の声。


「……あの人になぞるなら、僕はこう言う。僕にも、


ヨゴウは一文字に両断される。



「…………俺は……俺の信者たちは……」


「半分になっても生きているんですか。少し驚いたんですが」

御影は、今度こそヨゴウを断頭する為に近寄る。


「俺の信者は…何も求めなかった…奪われただけだった!!ならば!奪うしか無いッ!!奪って何が悪いっ!」

「………」





『えぇ、では始めなさい』


初めて人を殺したのは、いつだったかもう覚えていない。

でも、どうやら「悪鬼」と呼ばれる人間の代わりに僕が育てられているらしい事は知った。


『御影、これを渡します』

幽霊のような顔付きの、父と名乗る人物からそれは渡された。

『これは…なんですか?』

『えぇ、鋭過ぎてこうして金属繊維を編み込んだ布で巻くしか方法がなくてですね』

その男が言うには、魔淵の技術を使ったふたつの武器のうちの1つらしい。

魔淵に大量にある一族の死体を使った武器。


ただ鋭さを追求した挙句、まともな鞘に収まらなくなった刀。

名前を、『斬鉄剣』と言うらしい。


……僕は、使わなかった。


僕は、僕の力で姉さんを守る。

一族を皆殺しにしても、後悔は無い。一つだけ気掛かりなのは、僕が殺した一族の中に、父と名乗る奴の顔は無かった。


……だが、最早どうでも良い。たった1人を守る事が、僕の生きる意味なのだから。





ヨゴウに向けて、斬鉄剣を構える。

「確かに、僕も普通の生活を望み、奪う奪われるの生活から抜け出したいとも思った……ですが…」


ここに来て、御影は初めて笑った。


「僕は、姉さんがいれば幸せでしたが」

ヨゴウは、ハッとした顔つきになり、その後穏やかな笑みを浮かべた。

「……そうか…そうだな」


ヨゴウは、首を差し出すように姿勢を低くした。

「…私も…彼らさえ居れば……それで幸せだったんだ……」

「……失礼」




斬鉄剣は、音もなく




神の首を両断した。










「………ここは?」

いや、知っている。この景色を知っている。

「あ!ヨゴウ様!」

「早すぎですよ!なんでこっちいるんですか!」

「まぁまぁ…ヨゴウ様もお疲れでしょう」




かつて夢見た、あの日。




「……ハハ…」

「……?ヨゴウ様?」

「聞かせて下さいよ!何があったんで!?」


ヨゴウは、石に腰掛けて笑みを浮かべて口を開ける。


「あぁ…君たちにも聞かせようか……」




たった一つの事に気が付くまでの、長い長い道のりを………









「……御影」

「えぇ、姉さん」

崩れていくヨゴウの身体を看取り、2人は地べたに崩れる。

「流石に疲れましたが……」

「他の人も頑張ってるわ、私たちだけ休む訳には行かないでしょ」

「………なんか昔の姉さんに戻ったみたいですが」

「何を言っているの?今も昔も、私は私のままですが?」

「……口調は真似しないで良いですが……」



「……ふふっ」
「……ははっ」




かつて、魔淵という神社の暗闇に生きていた姉弟が居た。そんな闇で過ごす内に、姉と弟の関係は歪に歪んでいった。




その2人は、長い長い時間を経て……




「行きましょうか、御影」
「行きましょうか、姉さん」




かつての姉弟の形を、取り戻した。


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