神様の仰せのままに

幽零

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穢神戦争編

62話

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陥落した一ノ門では、破狩とゼシが天守閣から景色を眺めていた。


「いやぁ、壮観ですねぇ」

破狩は解魔槍を傾けつつ、一人ぼやく。

「俺が穢れを撒き散らしたからな、今は一ノ門で滞在してるが、ここを完全に掌握し次第世界を滅ぼすぞ」

「……お好きに」


破狩が目を逸らした瞬間、彼の顔がぴくりと動く。

「……おや」

「あ?………あぁ」

どうやらゼシも察したようだ。





白獅子達ヤツらが来た。





巫女や非戦闘員を三ツ谷に駐留させ、その他ほとんどの戦力を率いて、白獅子は一ノ門強襲に打って出た。


道中、無論襲われなかった訳ではない。だが、どういう訳か、神守一人一人の強さが底上げされているような雰囲気だった。愚直に進撃してくる神社勢力、その最前線に。



「進めッ!敵は一ノ門にいる!誰1人かけるなッ!」


総大将であるはずの白獅子が自ら先陣を切っていた。


「ちょ、ちょい、旦那っ!アンタ総大将なんですわ!」

「たにと~!速すぎーッッ!!」

「白獅子様、付いて来られてるの僕と風切だけなんですが?」

「はぁ…神守ッ!総大将自ら最前線にいるッッ!あんなバカでも死なれては困る!全力で追いつけっ!」

「おいコラ優等生ッ!どさくさに紛れてバカ呼びすんじゃねぇ殺すぞ!」

「勝手に死んで来いこの馬鹿ッ!」



「はぁ、はぁ…六武衆の方々も…白獅子様もなんで最前線に…」

「というか速すぎる…」

「俺たちは……一応……一ノ門の上位にいたはずなんだが…」


最前線を駆け抜ける白獅子と六武衆は、他の神守達を差し置いて、直線で一ノ門へと進行していた。谷透に死なれたら困ると他の六武衆は必死に付いていくのだが、いかんせん谷透が速すぎる為、横に並んで走っているのが御影と風切しかいない。四方は隊列が離れすぎないように四方八方へと隊列維持のために奔走していた。

先頭の馬鹿…もとい脳筋インテリの全力疾走のせいで、隊列はまるで矢印のような形で一ノ門へと進撃していた。




「……おい、破狩…あれは…なんだおい」

(……おかしい、あんな寄せ集めに、穢れた神を跳ね除けながら進軍する力などない筈……二ヶ宮の神守も私が一強になるように立ち回り、満さんは重症の筈……あんな気迫はどこから…?)

思考を回す破狩を横目で見た後、ゼシは歯噛みする。

(…テメェが目をかけてただけの事はあるって事かよ…フヒト…)


自身が乗っ取った肉体を見ながら、忌々しそうに心の中で吐き捨てるゼシ。



(神人を率いて戦争してた時、フヒトが率いた軍は、実際の数の数倍戦力が上がった……カリスマと言うよりは、味方を鼓舞する天賦の才。あの人間…まさか…)



英雄とは、ただいるだけでは英雄足り得ない。そこにある資質と実績で後の世に語り継がれるのだ。

『神殺しの英雄』 フヒトは傲慢な神々に挑み、そして打倒していった。「たかが模造品如きに」という油断もあったろうが、もうひとつは戦力を見誤った事だ。

フヒトが率いる軍は、死を恐れずに神に挑み続けた。半身が吹っ飛んでもくってかかる神人まで現れる始末。全ては、神人を解放するという大義の為、そしてフヒトと呼ばれる絶対的な英雄の道を創る為。


稀に現れる、英雄足り得る資質を持つ真の英雄。



「……おい、フヒトが目をかけてたあの人間、確実にここで殺すぞ」

フヒトのようになられては、野望の邪魔になる。

「……えぇ、ご自由に」

ゼシが谷透への殺意を明確にした中、破狩はただ1人、先頭に付いて走っているたった1人の弟子を見ていた。

(………きっと、貴方が私の前に立ちはだかるのでしょうね)

破狩はどこか運命めいたものを予感しながら、解魔槍を構えた。

「ったく。俺の野望を邪魔しやがって……鬱陶しい連中だ」

ゼシは天守閣から振り返ると、後ろに控える3つの人影に話しかける。


「……二度目の神代戦争の幕開けだ。お前ら、派手に暴れて来い」

ゼシは3言い放つ。

「『四堕神シダシン』」


ゼシの前にいた、身長80cmくらいの少女のような格好をした神はぴょこぴょこ跳ねながら答える。

「お姉様の仇の為に、シクウ頑張る!」

その様子を見ていた、傷だらけの上半身を出した神はぶっきらぼうに答える。

「はっ…ナンタラの為とか、どうでも良いだろ……俺は欲しい物は手に入れる…何でもかんでも…俺は…お、俺ヴァァァッッ」

傷だらけの上裸の神は、話している内に普通の穢神と同じような言動になる。

(……穢れを完璧には克服出来ていない?たまにこうして暴走する……なるほど…)

「俺ヴァァァッッボシぃものうごぉぉッッ!全部俺のものニィぃぃっ!!」

見境がつかなくなりかけている神は、破狩の方へと襲いかかった。破狩が『解魔槍』を構え、対抗しようとした時。






「止まれ、ヨゴウ」





空気が、痺れた。





低く澄んだその一言で、『ヨゴウ』と呼ばれた神は正気に戻り、更には後退りする。


「自制が効かないとは言え、此方こなたを不快にさせるのであれば……容赦はしない」

瓦礫に腰掛けた一柱の傍らには、巨岩を削って造ったような武骨な剣が置いてある。形は刀のように片刃だが、大振り過ぎてシルエットは大鉈のそれだ。

こちらにも伝わるような殺気を放つ一柱は、いかにも戦神のような風貌で、目元に黒い帯を巻いており、髪の毛は逆立っていた。衣服は道着のような印象を受けるが、所々に帯が巻かれている。


その神の発する殺気に怯えたシクウは、破狩の背後に隠れ、ヨゴウは顔をひきつらせて後退りする。


「待て、フヌゥム。お前は確かに強ぇが、身内に向けんな」

ゼシが制止をかける程の威圧感。背後にいるシクウを気遣いながら、破狩は『四堕神』と呼ばれた神を順番に見る。


(『四堕神』ヨゴウ…凶暴だが穢れを操りきれていない。たまに暴走するが、力技で呼び戻すことも可能…)

「フ、フヌゥムもう怒ってない?」

「えぇ、大丈夫みたいですよ」

破狩は背後にいたシクウを気遣いながら、薄目で鋭く観察していた。

(同じく『四堕神』シクウ…一見少女の姿をしているが…穢れを操れている時点で普通ではない……)

破狩の視線に気がついていないシクウは、健気に破狩の裾を握っていた。そんなシクウを置いて、破狩は視線を横に動かす。


(……そして、『四堕神』の中でも特に警戒すべきは……)


破狩の蛇のような視線は、殺気を放っていた一柱に向けられる。


(「フヌゥム」……どうやら戦神のようですが…『穢れ』を完璧に克服している…一見してもわかるその強大さ…それに加え……)


先ほどゼシと言い合っていたフヌゥムは、興味を失ったように再び瓦礫の上に鎮座していた。ゼシは外を眺めているふりをして、目線はフヌゥムの動向を注視しているようだった。


(……あのゼシですら警戒する程の神……『四堕神』の中でも頭ひとつ抜けていると言っても過言では無い最強格…私の全力でも五分…恐らく『武神』に負けるとも劣らない強さ……)


「おい、先ほどから此方を見て何をしている」

フヌゥムは鎮座した状態から顔を上げて破狩を見据えていた。

「ッ……いいえ、随分と巨大な剣をお持ちのようでしたので」

気取られないように気をつけたつもりが、看破されていた。正直心臓が一瞬冷えたような感覚に襲われた。

「……ほう、気になるか。ならば」


瞬間、破狩の前方で、巨大な剣を寸止めしているフヌゥムが現れる。突風が吹き、破狩の髪が揺れる。


「その身を持って味わうか?」

「……いいえ、遠慮しておきます」

破狩は、穏やかな仕草で剣に手をかけ、それを下ろした。


「ったく…テメェら神代戦争だってのになんで身内を殺したがってんだ」


「私は元々神守ですし、そもそも神代戦争などやった事もありません」

「シクウまだ神人とかわかんないー」

「ハンっお前しか知らねぇんじゃねぇのかぁ?」

「外来種が調子に乗るな……潰すぞ」


盛り上がりにかけると言ったら、その他の四堕神から総攻撃を受けたゼシ。

どこか面白くない顔をしながら、続ける。



「連中は俺たちの事を「穢神」とかって定義したみてぇだが。それがどうしたって感じだ。暴れようぜ、不敵に行こうぜ?神らしくな」

ゼシの獰猛な言葉の後、四堕神と破狩は各々飛び出していく。









ーさァ、殺し合いだー







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