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無神機関編
34話
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「えーっと、とりあえずって感じぃ……」
蒼糸は両手からワイヤーを射出し、とある2人の動きを止めていた。
もちろん、谷透愛好家の二名である。
「落ち着こうって感じぃ。いや、マジで」
蒼糸はこの2人がもうどちらかが死ぬんじゃないかというほどの激突を繰り広げていた時に、ちょうどよく止めに入ったのだった。
本来このふたりはその気になればワイヤーを引きちぎれるはずなのだが、あまりにもお互いに熱中しすぎていたため、ワイヤーが複雑に絡まっているのに気がつくのが遅れた。それが理由で現在蒼糸は2人を抑えれているのである。
「どけ蒼糸、貴様も殺すぞ」
「蒼糸さんと言いましたか?早くこれを解いて下さい」
「とりあえず落ち着こって言ってるって感じぃ……そもそもさ、この組織シダマに乗っ取られ始めてるし、ここでお互いぶつかってても意味無いでしょー。それに谷透さんもどっか行っちゃってるし」
言われて2人、同時に辺りを見回す。
そこには愛しの彼は居なかった。
「「早く言えこの阿呆っ!!」」
「えー……」
もしかすると、今後ずっとこんな役回りなのかもと感じる蒼糸であった。
「って訳で、とりあえずお前の言った通りに行けばシダマってやつの場所に出れるんだな?」
「……あぁ…」
「その子、お前に一旦預けるぞ……また妙な事しやがったら、お前わかってるな?」
「……わかっているとも」
斑目に少女を預け、谷透は第一補佐 シダマのいるとされる大堂へと向かう。
谷透の居なくなった研究室、少女は斑目に話す。
「ねぇ、あの人は何しに行ったの?」
見た目からは考えられないような色っぽい声が響く。
「あ、あぁ…ここの第一補佐と言う人を倒しに行ったんだ」
「なんで私は置いてかれたの?」
「い、いや、それはお前が幼いからだろ」
「ふぅん…」
少女がそういうと、目をつぶる。すると、みるみるうちに身長が伸び、気が付けばナイスバディな女性になっていた。
さて、ここで問題。少女の姿を想定して作られていた白衣は、少女がオトナな女になった場合どうなるでしょうか?
正解は「サイズが合わなくなって破ける」だ。
「ふぅ…これでいいかしらね」
「……………」
斑目は目を剥いてポカーンとしている。
「お、おいお前っ!本当に何者なん…っ」
「お前じゃ無いわ。『ヒミコ』よ。そういう名前なの。呼ぶならそう呼んで頂戴」
「う…あ、ひ、ヒミコ。お前は…」
「『お前』なんて、失礼ね。少なくとも貴方より数千年は長く生きてるのだから。敬語を使いなさいな」
「ぐぬっ…ヒ、ヒミコさん。おま…あなたは一体何者だ」
「…まぁ及第点かしらね。良いわ。あなた達私の事をなんて呼んでたかしら」
「し、『シント』と」
「あら?なんだ知ってるんじゃない。その通り、私は『神人』。ま、詳しくはどうせ知らないのでしょうから省くけど、神話の時代に生きた人とでも思ってて頂戴。説明するのが面倒だわ」
ヒミコはそういうと、再び話題を戻す。
「それで、あの人はシダマとか言う人を倒しに行ったと言っていたわね」
「あ、あぁ……」
情報量が多すぎて、頭脳がパンク寸前の斑目を差し置いて、途端にヒミコが真剣な表情になる。
「すぐ辞めさせるか、助けに行った方がいいわ」
「……ん?何でだ。谷透とか言う奴は見た感じ並の人間より強いぞ?」
「強い弱いの問題じゃ無いのよ。私もみすみす恩人を死なせたくないわ」
ヒミコが1度目をつぶったあと、厳かに言葉を紡ぐ。
「シダマね、アイツは…………」
谷透は仰々しい扉の前に立っていた。扉を開くと、でかでかとかした部屋…いや、部屋と言うよりは大堂に近いそこに、1人の男がふてぶてしく椅子の上に座っていた。
「おやおや、侵入?侵略?侵攻者かな?いやぁ、この組織も色々補強したつもりだったんだけどねぇ……」
「……お前が、シダマか」
「そうね、そうだね、その通り。シダマ第一補佐とはこのシダマだ」
シダマはゆっくりと椅子から降りると、袖裏から二本の鉄の棒を取り出す。T字のと言うよりはカタカナの「ト」に似た形のそれを掴む。初めて見るが、トンファーという武器だろう。
谷透は封神剣を引き抜いて、構える。
「行くぞ」
「え、ちょっと待って…」
無視して谷透は切りかかる。
「おわっ、ちょっと!いや待ってって!」
「……」
シダマは谷透の攻撃に防戦一方だ。
「ちょっ、ちょっと!」
(今か!)
体勢を微妙に崩したシダマに封神剣を振り抜く。
「なぁァァァァァァっ!!!??」
シダマに封神剣の切っ先が向かう。
……しかし、血を流したのは谷透の方だった。
「……….んちゃって(笑)」
シダマの持っているトンファーの先端が谷透の顔にクリーンヒットした。
「……グッ」
シダマはトンファーを遠心力でヒュンヒュンと回す。
「いやーいやいや、ダメだね、ダメだよ。自分で戦わない奴は弱いなんておもってちゃあ」
調子よく話すシダマに続けて封神剣を振り抜く。が、再びカウンターを受ける。
「……ぐうっ」
カウンターで向こうが合わせてくるので、霊体化のタイミングが掴めない。
「はっはー……ん?」
谷透は封神剣を水平に構えると、言葉を発する。
「……悪ぃな。お前の言う通り舐めてたわ」
谷透は素早く言葉を紡ぐ。
「封神剣……解放……」
谷透の言葉により封神剣が光る。
「……ふぅん」
今度はシダマから襲いかかるが、谷透は先程とは別人のように立ち回る。
未来予知にも似た何か、封神剣の力を使ったことで、その感覚を再び手に入れている。シキヨと対峙し、得た力だ。
「さっきよりは動けるみたいだねぇ」
しかし、依然としてシダマは余裕だった。
「……ひとつ聞くぞシダマ。なんでこの組織を乗っ取った…」
谷透の問いにシダマは両手を広げて答える。
「乗っ取ったなんて人聞きが悪いなぁ…この組織の総括が何も言ってこないんだから……」
「その総括はお前に監禁されていることを知っている」
「………」
シダマの言葉を遮るように谷透は言葉を指す。
「……へぇ……」
シダマのふざけた雰囲気が消える。
「……じゃ、もういいか」
次の瞬間、ドッッ!!という地面を踏む音が響くと、ものすごい勢いでシダマが谷透の目の前に迫る。
「……ッ!!」
谷透は霊体化を駆使して、シダマの攻撃をやり過ごす。
「……あれ、へぇ…変わった力を持ってるんだねぇ。でもさ……」
ゆらりとシダマの姿が揺れたかと思うと、目の前から消える。
「もういいんだって、人の力に収まらなくても」
目の前で消えたシダマの声が谷透の背後から響く。
「……ッ!?」
不意をつかれ、霊体化が間に合わずシダマのトンファーが腹部に深くめり込む。
「ゴホッ……カハッ!…」
2、3回バウンドして、床を滑る。
シダマは手元のトンファーを回して、言葉を発する。
「……お前、こっちが創った物使いこなせて無いね……人の物使っといてそれは無いだろ」
「……ゴホッゴホッ……あ?」
みぞおちを抑えながら立ち上がる谷透は睨むように返す。無視してシダマは続ける。
「お前の持ってるソレ、名前どんなのか忘れたけどさ、それ作ったのお前らじゃ無いでしょ」
「お前何言ってんだ……?」
「……まぁ、人間がそれ使ったところでそんなもんだよね。こっちと違うんだしさ」
シダマは1人納得するように言うと、谷透に言い放つ。
「早い話さ、こっちは『神人』なんだよ。お前が1人奮戦したところで、勝ち目は無いわけ」
「…………は?」
シダマが散々言っていたソレ。
谷透の持つ『封神剣』
神代遺物とされるそれらは、神代戦争時に『神人』と呼ばれる、神を模して創られた種族が産み出した遺物。
『無神機関』第一補佐 シダマ
彼は神々と戦争をしていた種族『神人』だった。
蒼糸は両手からワイヤーを射出し、とある2人の動きを止めていた。
もちろん、谷透愛好家の二名である。
「落ち着こうって感じぃ。いや、マジで」
蒼糸はこの2人がもうどちらかが死ぬんじゃないかというほどの激突を繰り広げていた時に、ちょうどよく止めに入ったのだった。
本来このふたりはその気になればワイヤーを引きちぎれるはずなのだが、あまりにもお互いに熱中しすぎていたため、ワイヤーが複雑に絡まっているのに気がつくのが遅れた。それが理由で現在蒼糸は2人を抑えれているのである。
「どけ蒼糸、貴様も殺すぞ」
「蒼糸さんと言いましたか?早くこれを解いて下さい」
「とりあえず落ち着こって言ってるって感じぃ……そもそもさ、この組織シダマに乗っ取られ始めてるし、ここでお互いぶつかってても意味無いでしょー。それに谷透さんもどっか行っちゃってるし」
言われて2人、同時に辺りを見回す。
そこには愛しの彼は居なかった。
「「早く言えこの阿呆っ!!」」
「えー……」
もしかすると、今後ずっとこんな役回りなのかもと感じる蒼糸であった。
「って訳で、とりあえずお前の言った通りに行けばシダマってやつの場所に出れるんだな?」
「……あぁ…」
「その子、お前に一旦預けるぞ……また妙な事しやがったら、お前わかってるな?」
「……わかっているとも」
斑目に少女を預け、谷透は第一補佐 シダマのいるとされる大堂へと向かう。
谷透の居なくなった研究室、少女は斑目に話す。
「ねぇ、あの人は何しに行ったの?」
見た目からは考えられないような色っぽい声が響く。
「あ、あぁ…ここの第一補佐と言う人を倒しに行ったんだ」
「なんで私は置いてかれたの?」
「い、いや、それはお前が幼いからだろ」
「ふぅん…」
少女がそういうと、目をつぶる。すると、みるみるうちに身長が伸び、気が付けばナイスバディな女性になっていた。
さて、ここで問題。少女の姿を想定して作られていた白衣は、少女がオトナな女になった場合どうなるでしょうか?
正解は「サイズが合わなくなって破ける」だ。
「ふぅ…これでいいかしらね」
「……………」
斑目は目を剥いてポカーンとしている。
「お、おいお前っ!本当に何者なん…っ」
「お前じゃ無いわ。『ヒミコ』よ。そういう名前なの。呼ぶならそう呼んで頂戴」
「う…あ、ひ、ヒミコ。お前は…」
「『お前』なんて、失礼ね。少なくとも貴方より数千年は長く生きてるのだから。敬語を使いなさいな」
「ぐぬっ…ヒ、ヒミコさん。おま…あなたは一体何者だ」
「…まぁ及第点かしらね。良いわ。あなた達私の事をなんて呼んでたかしら」
「し、『シント』と」
「あら?なんだ知ってるんじゃない。その通り、私は『神人』。ま、詳しくはどうせ知らないのでしょうから省くけど、神話の時代に生きた人とでも思ってて頂戴。説明するのが面倒だわ」
ヒミコはそういうと、再び話題を戻す。
「それで、あの人はシダマとか言う人を倒しに行ったと言っていたわね」
「あ、あぁ……」
情報量が多すぎて、頭脳がパンク寸前の斑目を差し置いて、途端にヒミコが真剣な表情になる。
「すぐ辞めさせるか、助けに行った方がいいわ」
「……ん?何でだ。谷透とか言う奴は見た感じ並の人間より強いぞ?」
「強い弱いの問題じゃ無いのよ。私もみすみす恩人を死なせたくないわ」
ヒミコが1度目をつぶったあと、厳かに言葉を紡ぐ。
「シダマね、アイツは…………」
谷透は仰々しい扉の前に立っていた。扉を開くと、でかでかとかした部屋…いや、部屋と言うよりは大堂に近いそこに、1人の男がふてぶてしく椅子の上に座っていた。
「おやおや、侵入?侵略?侵攻者かな?いやぁ、この組織も色々補強したつもりだったんだけどねぇ……」
「……お前が、シダマか」
「そうね、そうだね、その通り。シダマ第一補佐とはこのシダマだ」
シダマはゆっくりと椅子から降りると、袖裏から二本の鉄の棒を取り出す。T字のと言うよりはカタカナの「ト」に似た形のそれを掴む。初めて見るが、トンファーという武器だろう。
谷透は封神剣を引き抜いて、構える。
「行くぞ」
「え、ちょっと待って…」
無視して谷透は切りかかる。
「おわっ、ちょっと!いや待ってって!」
「……」
シダマは谷透の攻撃に防戦一方だ。
「ちょっ、ちょっと!」
(今か!)
体勢を微妙に崩したシダマに封神剣を振り抜く。
「なぁァァァァァァっ!!!??」
シダマに封神剣の切っ先が向かう。
……しかし、血を流したのは谷透の方だった。
「……….んちゃって(笑)」
シダマの持っているトンファーの先端が谷透の顔にクリーンヒットした。
「……グッ」
シダマはトンファーを遠心力でヒュンヒュンと回す。
「いやーいやいや、ダメだね、ダメだよ。自分で戦わない奴は弱いなんておもってちゃあ」
調子よく話すシダマに続けて封神剣を振り抜く。が、再びカウンターを受ける。
「……ぐうっ」
カウンターで向こうが合わせてくるので、霊体化のタイミングが掴めない。
「はっはー……ん?」
谷透は封神剣を水平に構えると、言葉を発する。
「……悪ぃな。お前の言う通り舐めてたわ」
谷透は素早く言葉を紡ぐ。
「封神剣……解放……」
谷透の言葉により封神剣が光る。
「……ふぅん」
今度はシダマから襲いかかるが、谷透は先程とは別人のように立ち回る。
未来予知にも似た何か、封神剣の力を使ったことで、その感覚を再び手に入れている。シキヨと対峙し、得た力だ。
「さっきよりは動けるみたいだねぇ」
しかし、依然としてシダマは余裕だった。
「……ひとつ聞くぞシダマ。なんでこの組織を乗っ取った…」
谷透の問いにシダマは両手を広げて答える。
「乗っ取ったなんて人聞きが悪いなぁ…この組織の総括が何も言ってこないんだから……」
「その総括はお前に監禁されていることを知っている」
「………」
シダマの言葉を遮るように谷透は言葉を指す。
「……へぇ……」
シダマのふざけた雰囲気が消える。
「……じゃ、もういいか」
次の瞬間、ドッッ!!という地面を踏む音が響くと、ものすごい勢いでシダマが谷透の目の前に迫る。
「……ッ!!」
谷透は霊体化を駆使して、シダマの攻撃をやり過ごす。
「……あれ、へぇ…変わった力を持ってるんだねぇ。でもさ……」
ゆらりとシダマの姿が揺れたかと思うと、目の前から消える。
「もういいんだって、人の力に収まらなくても」
目の前で消えたシダマの声が谷透の背後から響く。
「……ッ!?」
不意をつかれ、霊体化が間に合わずシダマのトンファーが腹部に深くめり込む。
「ゴホッ……カハッ!…」
2、3回バウンドして、床を滑る。
シダマは手元のトンファーを回して、言葉を発する。
「……お前、こっちが創った物使いこなせて無いね……人の物使っといてそれは無いだろ」
「……ゴホッゴホッ……あ?」
みぞおちを抑えながら立ち上がる谷透は睨むように返す。無視してシダマは続ける。
「お前の持ってるソレ、名前どんなのか忘れたけどさ、それ作ったのお前らじゃ無いでしょ」
「お前何言ってんだ……?」
「……まぁ、人間がそれ使ったところでそんなもんだよね。こっちと違うんだしさ」
シダマは1人納得するように言うと、谷透に言い放つ。
「早い話さ、こっちは『神人』なんだよ。お前が1人奮戦したところで、勝ち目は無いわけ」
「…………は?」
シダマが散々言っていたソレ。
谷透の持つ『封神剣』
神代遺物とされるそれらは、神代戦争時に『神人』と呼ばれる、神を模して創られた種族が産み出した遺物。
『無神機関』第一補佐 シダマ
彼は神々と戦争をしていた種族『神人』だった。
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