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御前試合編
19話
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日が昇る。そして御前試合最後の日でもある。
フードを羽織る。封神剣を持つ。
「用意はできましたかー?」
「……あぁ」
あれ以来、仄は俺の部屋で寝るようになった。
離れを後にする。そして会場へと向かった。
御前試合の会場には既に、各神主と武神達が居た。
「シューヤ!行ってこい!」
「あの、が、頑張って下さいね」
「谷透さーん、頑張ってくださいー」
「あぁ……」
会場に登ろうとした時、風切から呼び止められる。
「おい、野蛮人」
「……なんだ、優等生」
「負けるなよ」
「言われなくても」
会場には、純白に輝く六武衆真の筆頭がそこに立っていた。
「少し、遅くなりましたが、これで最後ですね。四方と花車の件があったとはいえ、良くここまで来て頂きました。嬉しく思います」
「……ま、俺は白獅子さんに勝てるとは思いませんが……それでも、俺なりにやらせて頂く」
谷透は封神剣を引き抜く。透き通るような黒い刀身が顕になる。
「……なるほど…神代遺物を扱う……貴方はもう六武衆と同等の力をお持ちだ」
白獅子は鬼の面の下で、微笑む。
「もう御前試合をしなくても、貴方は充分に有力でしょう……しかし」
白獅子は刀に手をかけると言葉を紡いだ。
「だからこそ、試したい。貴方が私に次ぐ神代遺物の解放者足り得るのか」
「!?」
白獅子の刀を改めて見る。あの夜に持っていた普通の刀とは違う。あの刀は何処と無く似ている……ッ!!封神剣に!!
白獅子が刀を抜くと、紫色の雷が発生する。白獅子が軽く刀を振ると、紫電がズバチィッ!!と辺りに放射された。
「神代遺物 招雷刀。名前の通り、雷を招く刀です。では……」
白獅子は招雷刀を鞘に収め、居合の構えをとる。
(待て待て待てッッ!!)
ただの突きですら、反応出来ない速さをたたき出す白獅子が、封神剣と同じ神代遺物で、それも剣技の中でも最速クラスの『居合』を放とうとしている。霊体化したところで、雷に足が打たれればおしまいだ。
「………始めましょうか」
雷の速度で放たれた居合は、その一閃に紫電を纏わせ、確実に谷透の首に狙いを定めていた。
普通に考えれば、谷透は首を切断され、紫電にその体を焼かれている。
………普通に考えれば、だが。
「……なるほど」
「………ッッ!!」
谷透は封神剣で白獅子の居合を受け止めていた。
谷透は白獅子が居合を放つ直前、どこに何が来るかを予感のように感じ取っていた。シキヨの時と同じだ。
「それが封神剣の力。でしょうか?」
「俺にも分かりませんがね……ッ!!」
一旦距離を取ると、白獅子は言葉を放つ。
「しかし、まだ解放までには至っていない様子。神代遺物は使い手を自らの領域に引き込んで試練を与えます。乗り越えた先にあるのが、『解放』という物。『解放』を行う事で、神代遺物の力を引き出すことができるのです。例えば……」
白獅子は招雷刀を天に向けて高く掲げると、前方に紫の雷が落下してきた。
「ウグゥッ!?」
目の前に落ちたため直撃はしなかったものの、閃光と轟音で怯んでしまう。
「このように。谷透さん、封神剣の領域に引き込まれましたか?」
谷透は落雷でクワンクワンする頭をなんとかまとめて、答える。
「そういえば…なんか武神とか名乗るヤツがどーのこーの言ってた気がしますが……」
「ふむ…では、谷透さんはまだ『解放』には至っていない……言うならば、『仮解放』と言った所でしょうか?」
白獅子は谷透と封神剣の状態をそう結論付けると、再び構える。
「話しすぎてしまいましたね。続きを」
「……わかりました」
結果は圧倒的。何度予感で見切ろうが、何度霊体化でやり過ごそうか、神速と雷速を合わせ持つ白獅子には届かなかった。ついに谷透は膝を付いて立てなくなってしまう。
「……ぐっは……」
喉元に招雷刀が迫る。
「いいぞ!やれ!白獅子!」
富太が下卑た声で叫ぶ。しかし……
白獅子は招雷刀を下げ、納刀した。
「この者は一度、私が倒しています。2度も倒す必要は無いかと」
「……は?…え?」
谷透が記憶をたどる。一度倒している……?
「何を言ってるんだ!?」
富太が叫ぶと、白獅子はかくも冷静に答えた。
「ある月夜に、私はこの者と一度戦っているのですよ。一度死んだ者は殺せません。そうでしょう?」
「………あ」
谷透は思い出した。四方に連れられ、月夜に白獅子と対峙したあの日。
……まさか、あれはこの為の布石……?
「と、言う訳でございます。私は死者にとどめを刺す方法を存じ上げません。では、私はこれで」
白獅子は何事も無かったかのように会場を降りた。
「………って事は…」
谷透が呟くと、一ノ門神主は凄く嫌そうに結果を叫ぶ。
「六武衆全員撃破により、『穢祓い』谷透 修哉は有力と判断する!以上で御前試合は終了とする!」
三ツ谷の面々はワァッ!と会場に上がってきた。
「谷透さーん良かったですー!」
「仄…俺は勝ったが無傷じゃないんだ…そんなにきつく抱きつかないでくれ……」
「良かったですね!谷透さん!」
「シューヤならできると思っていたぞ!」
「野蛮人、よくやったな」
そこへ、花車が上から降ってきた。
「たにとーー!おめでとー!!これでアタシと一緒にヤりあえるね!!」
「お前はすぐ誤解を生むような発言を控えッ…っていだだだだだだだッッ!!やめろ!俺は怪我人だ!!」
大柄褐色にキツく抱き締められ、軽く追い打ちをかけられた谷透だった。
会場を後にした白獅子は、誰もいない林の中でボソリと呟く。
「……四方」
「へい」
名前を呼ばれた途端、まるで木の葉のようにシュバッと四方が現れた。
「どうでしたか?」
「……やれやれですわ。一ノ門神主、狙撃手なんて雇っていやがったみてぇですわ。他にもうじゃうじゃ。余程旦那を殺したかったみてぇで。白獅子様の言う通り、あっしゃが一番最初に負けて身軽になったのが功を奏したようですわ」
「大丈夫でしたか?」
聞かれた四方は手から手裏剣をだす。そこには人の血のような跡が着いていた。
「何も問題は無かったですわ。あっしゃの敵じゃあ無かったんで」
「それは良かった。あぁ、くれぐれもこの事は内密に」
「わかってますわ。こんな汚れ仕事、他の誰にもやらせたくねぇんで。あっしゃ一人で充分ですわ」
「ありがとうございます。四方さん」
谷透が御前試合をしている間、四方と白獅子は、また違う戦いをしていた。
その事を知るものは、彼ら以外誰もいない。
フードを羽織る。封神剣を持つ。
「用意はできましたかー?」
「……あぁ」
あれ以来、仄は俺の部屋で寝るようになった。
離れを後にする。そして会場へと向かった。
御前試合の会場には既に、各神主と武神達が居た。
「シューヤ!行ってこい!」
「あの、が、頑張って下さいね」
「谷透さーん、頑張ってくださいー」
「あぁ……」
会場に登ろうとした時、風切から呼び止められる。
「おい、野蛮人」
「……なんだ、優等生」
「負けるなよ」
「言われなくても」
会場には、純白に輝く六武衆真の筆頭がそこに立っていた。
「少し、遅くなりましたが、これで最後ですね。四方と花車の件があったとはいえ、良くここまで来て頂きました。嬉しく思います」
「……ま、俺は白獅子さんに勝てるとは思いませんが……それでも、俺なりにやらせて頂く」
谷透は封神剣を引き抜く。透き通るような黒い刀身が顕になる。
「……なるほど…神代遺物を扱う……貴方はもう六武衆と同等の力をお持ちだ」
白獅子は鬼の面の下で、微笑む。
「もう御前試合をしなくても、貴方は充分に有力でしょう……しかし」
白獅子は刀に手をかけると言葉を紡いだ。
「だからこそ、試したい。貴方が私に次ぐ神代遺物の解放者足り得るのか」
「!?」
白獅子の刀を改めて見る。あの夜に持っていた普通の刀とは違う。あの刀は何処と無く似ている……ッ!!封神剣に!!
白獅子が刀を抜くと、紫色の雷が発生する。白獅子が軽く刀を振ると、紫電がズバチィッ!!と辺りに放射された。
「神代遺物 招雷刀。名前の通り、雷を招く刀です。では……」
白獅子は招雷刀を鞘に収め、居合の構えをとる。
(待て待て待てッッ!!)
ただの突きですら、反応出来ない速さをたたき出す白獅子が、封神剣と同じ神代遺物で、それも剣技の中でも最速クラスの『居合』を放とうとしている。霊体化したところで、雷に足が打たれればおしまいだ。
「………始めましょうか」
雷の速度で放たれた居合は、その一閃に紫電を纏わせ、確実に谷透の首に狙いを定めていた。
普通に考えれば、谷透は首を切断され、紫電にその体を焼かれている。
………普通に考えれば、だが。
「……なるほど」
「………ッッ!!」
谷透は封神剣で白獅子の居合を受け止めていた。
谷透は白獅子が居合を放つ直前、どこに何が来るかを予感のように感じ取っていた。シキヨの時と同じだ。
「それが封神剣の力。でしょうか?」
「俺にも分かりませんがね……ッ!!」
一旦距離を取ると、白獅子は言葉を放つ。
「しかし、まだ解放までには至っていない様子。神代遺物は使い手を自らの領域に引き込んで試練を与えます。乗り越えた先にあるのが、『解放』という物。『解放』を行う事で、神代遺物の力を引き出すことができるのです。例えば……」
白獅子は招雷刀を天に向けて高く掲げると、前方に紫の雷が落下してきた。
「ウグゥッ!?」
目の前に落ちたため直撃はしなかったものの、閃光と轟音で怯んでしまう。
「このように。谷透さん、封神剣の領域に引き込まれましたか?」
谷透は落雷でクワンクワンする頭をなんとかまとめて、答える。
「そういえば…なんか武神とか名乗るヤツがどーのこーの言ってた気がしますが……」
「ふむ…では、谷透さんはまだ『解放』には至っていない……言うならば、『仮解放』と言った所でしょうか?」
白獅子は谷透と封神剣の状態をそう結論付けると、再び構える。
「話しすぎてしまいましたね。続きを」
「……わかりました」
結果は圧倒的。何度予感で見切ろうが、何度霊体化でやり過ごそうか、神速と雷速を合わせ持つ白獅子には届かなかった。ついに谷透は膝を付いて立てなくなってしまう。
「……ぐっは……」
喉元に招雷刀が迫る。
「いいぞ!やれ!白獅子!」
富太が下卑た声で叫ぶ。しかし……
白獅子は招雷刀を下げ、納刀した。
「この者は一度、私が倒しています。2度も倒す必要は無いかと」
「……は?…え?」
谷透が記憶をたどる。一度倒している……?
「何を言ってるんだ!?」
富太が叫ぶと、白獅子はかくも冷静に答えた。
「ある月夜に、私はこの者と一度戦っているのですよ。一度死んだ者は殺せません。そうでしょう?」
「………あ」
谷透は思い出した。四方に連れられ、月夜に白獅子と対峙したあの日。
……まさか、あれはこの為の布石……?
「と、言う訳でございます。私は死者にとどめを刺す方法を存じ上げません。では、私はこれで」
白獅子は何事も無かったかのように会場を降りた。
「………って事は…」
谷透が呟くと、一ノ門神主は凄く嫌そうに結果を叫ぶ。
「六武衆全員撃破により、『穢祓い』谷透 修哉は有力と判断する!以上で御前試合は終了とする!」
三ツ谷の面々はワァッ!と会場に上がってきた。
「谷透さーん良かったですー!」
「仄…俺は勝ったが無傷じゃないんだ…そんなにきつく抱きつかないでくれ……」
「良かったですね!谷透さん!」
「シューヤならできると思っていたぞ!」
「野蛮人、よくやったな」
そこへ、花車が上から降ってきた。
「たにとーー!おめでとー!!これでアタシと一緒にヤりあえるね!!」
「お前はすぐ誤解を生むような発言を控えッ…っていだだだだだだだッッ!!やめろ!俺は怪我人だ!!」
大柄褐色にキツく抱き締められ、軽く追い打ちをかけられた谷透だった。
会場を後にした白獅子は、誰もいない林の中でボソリと呟く。
「……四方」
「へい」
名前を呼ばれた途端、まるで木の葉のようにシュバッと四方が現れた。
「どうでしたか?」
「……やれやれですわ。一ノ門神主、狙撃手なんて雇っていやがったみてぇですわ。他にもうじゃうじゃ。余程旦那を殺したかったみてぇで。白獅子様の言う通り、あっしゃが一番最初に負けて身軽になったのが功を奏したようですわ」
「大丈夫でしたか?」
聞かれた四方は手から手裏剣をだす。そこには人の血のような跡が着いていた。
「何も問題は無かったですわ。あっしゃの敵じゃあ無かったんで」
「それは良かった。あぁ、くれぐれもこの事は内密に」
「わかってますわ。こんな汚れ仕事、他の誰にもやらせたくねぇんで。あっしゃ一人で充分ですわ」
「ありがとうございます。四方さん」
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