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序章
2話
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「とりあえず、説明してくれ。ガキ」
小さな川で付着した返り血を洗い流しながら谷透は紅葉に尋ねた。
「あのデカブツは神なのか?そもそもお前は何者で、この剣は一体何なんだよ」
「質問が多い奴じゃのうー。妾に過重労働させるつもりかの?」
谷透は頬をひきつらせながら答える。
「質問に答える事のどこか過重労働なんだよガキ……」
「まぁたガキって言いおったなー!ふーん!もう知らん!なんも教えてやらんもんねーっだ!!」
谷透は抜けない剣を地面にさしながら、近くの切り株に座る。そして穏やかな顔で続けた。
「あーあー悪かったよ。クソガキ」
「悪化しておるんじゃがー~ッ!?」
ボロボロの社に戻る頃には服はすっかり乾いていた。紅葉が出した剣は腰の刀を固定していたベルトには合わなかったため、結局手で持ち歩く事になりそうだ。
「さて、結果的に妾も助けられたのじゃし、教えてやるとするかの。よう聞けよ。人の子よ」
「勿体つけねぇでさっさと話せ」
紅葉はため息をつきながら「せっかちじゃのう」と漏らした後に続けた。
「まず前提条件じゃ。妾が神だと信じて貰わねば、話が進まぬ」
「とりあえず信じてやるから話を進めろ」
「うむ」
紅葉はひとつ息を整えると、続ける。
「妾たち神は妖やそなたらのような人の子の信仰で存在しておる。たまにどっちつかずもいるがそれは稀じゃな。そういう輩はだいたい先延ばしにしておるが……いずれ限界が来よう。妖に堕ちるか、神として昇華するか、それは彼ら自身が選ぶことじゃな……そうじゃ…」
紅葉はフゥと一息ついて続ける。
「いずれ選ぶ時は来るんじゃ……」
紅葉はほんの一瞬、神妙な顔をした。
「話がズレたの。元に戻そう。お主が昨晩から早朝にかけてその剣で殴り殺したのは紛れもない神じゃ」
谷透は答える。
「お前の知り合いか?神にしては随分頭のおかしい奴だと思ったが?」
「それじゃ。その通りじゃ人の子よ。今、神界では異変が起きとる。神が穢れて魔物と成り果てているのじゃ」
「………穢……?」
谷透の言葉に紅葉は続ける。
「うむ、穢れに飲まれた神々は自我を失い。施しを忘れ、授かりも忘れ、ただ欲の赴くまま、暴虐の限りを尽くす。魔物と成り果てるのじゃ。そなたら人の子も良く言うじゃろ………」
紅葉は自身の細指をこめかみに突き立てる。
「『魔が差す』……とな」
「………それで、結局お前の出したこの剣はなんなんだ」
「うむ、ここまでを経て、ようやくそこに辿り着けるのじゃよ。穢れに飲まれた神を祓う存在が『穢祓い』、と呼ばれておるな」
紅葉は谷透の持っていた剣を「ちょっと貸せ」といい取ると、自分の胸の前に持ち上げる。
「『穢祓い』は神を穢れた神から守る事と言えば聞こえは良いが、その実『神を殺す』汚れ役じゃ。こちらの世界で良い顔はされんし、数もそこまで居ない。そして『神を殺せる武器』がこれになる訳じゃ」
「まだ少しも抜けてないがの」と付け加える紅葉。「うるせぇ」と言いつつ剣を取り返す谷透。
「それでなんだ。俺が殴り殺したあのデカブツはその『穢れた神』とか言うやつで?この剣が神を殺せる力を持ってるって事か?」
「そうじゃな。まとめるとそうなる。どうだ、理解はできたかの?」
「……まぁ穢れだのなんだのは知ったこっちゃねぇが、神だの妖だの……化け物みてぇな男だのは見飽きてるからな」
「そうか……!では!ほれ!」
そう言うと、紅葉はグイッと頭を突き上げる。
「………あん?」
「ほれっ!……ほれっ!」
「………何してんだテメェ」
「何をしておるはそなたのほうじゃ!『穢祓い』として妾に仕えるのじゃろう?ほれ!頭を撫でよ!優しくな!」
「……………」
谷透はグイグイと押し付けてくる頭を右手で鷲掴みにすると、万力のようにギリギリギリィ……と力を込める。
「おぉぉぉぉぉぉっ!?痛い!痛いぞ人の子よ!」
「テメェみたいなガキに誰が仕えるかッ!」
「残念じゃのー神である妾から武器を受け取った時点でもう『しょるいじょー』は妾の『穢祓い』じゃよーっと!」
「んだとぉっ!!!」
怒りで血管が切れそうになっている谷透をよそに、紅葉は御堂の隙間から外を見る。
「ぬ?もう夕方では無いか。ふむ、今日は妾の穢祓いに施しをしてやろうでは無いか。この辺の木の実は美味での。少し待っておれ!」
そういうや否やピューっと御堂の外へダッシュしていく紅葉。1人残された谷透は既視感のある謎の疲労感に襲われながら、床に座り込む。
………あぁ、これあれだ。雨谷の所にいた時の疲労感と似てるんだ。
外が段々と暗くなって来た。あのうるさいガキが帰ってくる前に少し眠るとしよう。
谷透は目をつぶった。
(……そういえば、アイツは結局どういう事情があったんだ……?)
神の事、穢れの事は聞けたが、結局剣の詳しいこととアイツ自身の事は聞けていない。
(………まぁ、今は良いか)
谷透は段々と重くなっていく体を、そのまま御堂の壁に預けた。
小さな川で付着した返り血を洗い流しながら谷透は紅葉に尋ねた。
「あのデカブツは神なのか?そもそもお前は何者で、この剣は一体何なんだよ」
「質問が多い奴じゃのうー。妾に過重労働させるつもりかの?」
谷透は頬をひきつらせながら答える。
「質問に答える事のどこか過重労働なんだよガキ……」
「まぁたガキって言いおったなー!ふーん!もう知らん!なんも教えてやらんもんねーっだ!!」
谷透は抜けない剣を地面にさしながら、近くの切り株に座る。そして穏やかな顔で続けた。
「あーあー悪かったよ。クソガキ」
「悪化しておるんじゃがー~ッ!?」
ボロボロの社に戻る頃には服はすっかり乾いていた。紅葉が出した剣は腰の刀を固定していたベルトには合わなかったため、結局手で持ち歩く事になりそうだ。
「さて、結果的に妾も助けられたのじゃし、教えてやるとするかの。よう聞けよ。人の子よ」
「勿体つけねぇでさっさと話せ」
紅葉はため息をつきながら「せっかちじゃのう」と漏らした後に続けた。
「まず前提条件じゃ。妾が神だと信じて貰わねば、話が進まぬ」
「とりあえず信じてやるから話を進めろ」
「うむ」
紅葉はひとつ息を整えると、続ける。
「妾たち神は妖やそなたらのような人の子の信仰で存在しておる。たまにどっちつかずもいるがそれは稀じゃな。そういう輩はだいたい先延ばしにしておるが……いずれ限界が来よう。妖に堕ちるか、神として昇華するか、それは彼ら自身が選ぶことじゃな……そうじゃ…」
紅葉はフゥと一息ついて続ける。
「いずれ選ぶ時は来るんじゃ……」
紅葉はほんの一瞬、神妙な顔をした。
「話がズレたの。元に戻そう。お主が昨晩から早朝にかけてその剣で殴り殺したのは紛れもない神じゃ」
谷透は答える。
「お前の知り合いか?神にしては随分頭のおかしい奴だと思ったが?」
「それじゃ。その通りじゃ人の子よ。今、神界では異変が起きとる。神が穢れて魔物と成り果てているのじゃ」
「………穢……?」
谷透の言葉に紅葉は続ける。
「うむ、穢れに飲まれた神々は自我を失い。施しを忘れ、授かりも忘れ、ただ欲の赴くまま、暴虐の限りを尽くす。魔物と成り果てるのじゃ。そなたら人の子も良く言うじゃろ………」
紅葉は自身の細指をこめかみに突き立てる。
「『魔が差す』……とな」
「………それで、結局お前の出したこの剣はなんなんだ」
「うむ、ここまでを経て、ようやくそこに辿り着けるのじゃよ。穢れに飲まれた神を祓う存在が『穢祓い』、と呼ばれておるな」
紅葉は谷透の持っていた剣を「ちょっと貸せ」といい取ると、自分の胸の前に持ち上げる。
「『穢祓い』は神を穢れた神から守る事と言えば聞こえは良いが、その実『神を殺す』汚れ役じゃ。こちらの世界で良い顔はされんし、数もそこまで居ない。そして『神を殺せる武器』がこれになる訳じゃ」
「まだ少しも抜けてないがの」と付け加える紅葉。「うるせぇ」と言いつつ剣を取り返す谷透。
「それでなんだ。俺が殴り殺したあのデカブツはその『穢れた神』とか言うやつで?この剣が神を殺せる力を持ってるって事か?」
「そうじゃな。まとめるとそうなる。どうだ、理解はできたかの?」
「……まぁ穢れだのなんだのは知ったこっちゃねぇが、神だの妖だの……化け物みてぇな男だのは見飽きてるからな」
「そうか……!では!ほれ!」
そう言うと、紅葉はグイッと頭を突き上げる。
「………あん?」
「ほれっ!……ほれっ!」
「………何してんだテメェ」
「何をしておるはそなたのほうじゃ!『穢祓い』として妾に仕えるのじゃろう?ほれ!頭を撫でよ!優しくな!」
「……………」
谷透はグイグイと押し付けてくる頭を右手で鷲掴みにすると、万力のようにギリギリギリィ……と力を込める。
「おぉぉぉぉぉぉっ!?痛い!痛いぞ人の子よ!」
「テメェみたいなガキに誰が仕えるかッ!」
「残念じゃのー神である妾から武器を受け取った時点でもう『しょるいじょー』は妾の『穢祓い』じゃよーっと!」
「んだとぉっ!!!」
怒りで血管が切れそうになっている谷透をよそに、紅葉は御堂の隙間から外を見る。
「ぬ?もう夕方では無いか。ふむ、今日は妾の穢祓いに施しをしてやろうでは無いか。この辺の木の実は美味での。少し待っておれ!」
そういうや否やピューっと御堂の外へダッシュしていく紅葉。1人残された谷透は既視感のある謎の疲労感に襲われながら、床に座り込む。
………あぁ、これあれだ。雨谷の所にいた時の疲労感と似てるんだ。
外が段々と暗くなって来た。あのうるさいガキが帰ってくる前に少し眠るとしよう。
谷透は目をつぶった。
(……そういえば、アイツは結局どういう事情があったんだ……?)
神の事、穢れの事は聞けたが、結局剣の詳しいこととアイツ自身の事は聞けていない。
(………まぁ、今は良いか)
谷透は段々と重くなっていく体を、そのまま御堂の壁に預けた。
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