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8話
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全面ガラス張りの豪華な社長室。
その中央に位置する豪華で壮麗な装飾の施された椅子に、灰城炭仁は座っていた。
そしてその向かい側にあるエレベーターから、藍堂は現れた。
「おやおや、藍堂くん。どうされたかな?珍しいね、君から訪ねてくるなんて」
「火急でお尋ねしたい件がございまして。我が社にちょっかいをかけている『パンドラ』についてなのですが……」
その単語を出した途端。灰城は机の上で肘をつき、手を合わせその上に顔を乗せるような姿勢をとった。
「ほぅ…?何か私に聞きたいことでもあるのかな?」
「はい、信頼のある筋からの情報で、『パンドラ』の構成員が、政府公認の暗殺組織『黒鴉』の構成員だと判明しました」
「……ほぅ、それで?」
「『黒鴉』は『大脱退』の日以降、確実に組織は弱体化しています。ですが、『黒鴉』は未だにその勢いを弱めていません」
藍堂は一つ一つ確信するように言い放つ。
「これは私の推測ですが、『黒鴉』は我が社に随分前から買収されていたのでは?」
「ほぅ、なぜそう思うのかね?」
「私がまだ構成員だった頃、突如『黒鴉』のリーダーは「人助け」の殺人から「金儲け」の殺人を優先するようになりました。それからです、組織が分裂し始めたのは」
「………」
灰城は表情を崩さないまま黙って藍堂の話を聞いている。
「『黒鴉』を衰退させ、我が社に取り入れる。その交換条件として、組織の頭である現『黒鴉』リーダー『大鷲』は大脱退の日に逃げた構成員の処理を我が社に提示したのでは?」
「……ふむ、中々愉快な話だが、それと『パンドラ』になんの関係があるのかな?」
灰城は相変わらず微笑を浮かべている。
「裏社会にいた人間は、平和な世界には簡単には馴染めない。その不安を煽り、脱退した連中に『パンドラ』を結成させた」
言い終わると、藍堂は灰城に向かって言い放つ。
「違いますか!社長!」
灰城はおぞましく残忍な微笑を浮かべ答えた。
「そうだよ」
あっさり、いとも容易く、こちらが拍子抜けしてしまうぐらい簡単に認めた。
「でもね、それがどうしたと言うんだい?」
灰城は机の上にあった手帳を手に取り、万年筆を取り上げ、何かを書きながら藍堂に言葉を投げる。
「より強い力を取り込むために、あえて弱らせる。それがどうかしたのかね?それに『パンドラ』は今、緋山くんがそれこそ命懸けで処理してくれている。それの何が問題だと言うんだい?」
藍堂はギリッと奥歯を噛み締めたあと、答える。
「緋山は元黒鴉の構成員です。『パンドラ』との戦闘行為が明るみに出ても、緋山の素性を利用すれば、『とある組織の抗争』で片付けられる。そのために緋山を選んだのでは?」
「私が彼を選んだのは、その実力を買っての事さ。言いがかりは辞めて欲しいね」
(思ってもいないことを口走りやがって……)
そう心の中で毒づくいていると、真横から彫刻刀のようなものが三本飛んできた。
藍堂は、咄嗟に転がり彫刻刀を避ける。
「社長、どう致しますか?」
声の方向には、いつも社長の横にいるあの女秘書がたっていた。手には彫刻刀を三本ほど指の間に挟んで構えている。
「やめたまえ藤裂くん。行かせてあげなさい」
社長がそう言うと、藤裂は彫刻刀を収め、道を開けた。
藍堂は走りながら、エレベーターへ飛び乗る。
藍堂のいなくなった社長室で、藤裂が社長に訪ねる。
「よろしかったのですか?彼女を行かせてしまって」
「良いのだよ藤裂くん。彼女の好きにさせてあげなさい」
灰城はそう言うと席を立ち、後ろのガラス張りの壁から下にある街を見下ろす。
「この国を裏から支配する。そのためにはより強い力が必要なのだよ藍堂くん……」
灰城は誰に聞かせるでもなく、呟いた。
藍堂は『処理課』と書かれたドアを勢いよく開ける。
「……ッ!?あ、藍堂さん!?あ、いや、これは間食をとっていただけで、決して仕事の手を抜いていた訳では……」
一人処理課にいた緑川伊織の手には、かなり大きいおにぎりが握られていた。
「緑川!至急だ!緋山の救援に向かう!」
「へ……あ、はい!」
緑川はバッと身なりを整え、小走りで藍堂について行った。
「………死んでくれるなよ…緋山……」
藍堂は嫌な予感がしていた。
彼女はよく、その予感が的中してしまうのだった。
その中央に位置する豪華で壮麗な装飾の施された椅子に、灰城炭仁は座っていた。
そしてその向かい側にあるエレベーターから、藍堂は現れた。
「おやおや、藍堂くん。どうされたかな?珍しいね、君から訪ねてくるなんて」
「火急でお尋ねしたい件がございまして。我が社にちょっかいをかけている『パンドラ』についてなのですが……」
その単語を出した途端。灰城は机の上で肘をつき、手を合わせその上に顔を乗せるような姿勢をとった。
「ほぅ…?何か私に聞きたいことでもあるのかな?」
「はい、信頼のある筋からの情報で、『パンドラ』の構成員が、政府公認の暗殺組織『黒鴉』の構成員だと判明しました」
「……ほぅ、それで?」
「『黒鴉』は『大脱退』の日以降、確実に組織は弱体化しています。ですが、『黒鴉』は未だにその勢いを弱めていません」
藍堂は一つ一つ確信するように言い放つ。
「これは私の推測ですが、『黒鴉』は我が社に随分前から買収されていたのでは?」
「ほぅ、なぜそう思うのかね?」
「私がまだ構成員だった頃、突如『黒鴉』のリーダーは「人助け」の殺人から「金儲け」の殺人を優先するようになりました。それからです、組織が分裂し始めたのは」
「………」
灰城は表情を崩さないまま黙って藍堂の話を聞いている。
「『黒鴉』を衰退させ、我が社に取り入れる。その交換条件として、組織の頭である現『黒鴉』リーダー『大鷲』は大脱退の日に逃げた構成員の処理を我が社に提示したのでは?」
「……ふむ、中々愉快な話だが、それと『パンドラ』になんの関係があるのかな?」
灰城は相変わらず微笑を浮かべている。
「裏社会にいた人間は、平和な世界には簡単には馴染めない。その不安を煽り、脱退した連中に『パンドラ』を結成させた」
言い終わると、藍堂は灰城に向かって言い放つ。
「違いますか!社長!」
灰城はおぞましく残忍な微笑を浮かべ答えた。
「そうだよ」
あっさり、いとも容易く、こちらが拍子抜けしてしまうぐらい簡単に認めた。
「でもね、それがどうしたと言うんだい?」
灰城は机の上にあった手帳を手に取り、万年筆を取り上げ、何かを書きながら藍堂に言葉を投げる。
「より強い力を取り込むために、あえて弱らせる。それがどうかしたのかね?それに『パンドラ』は今、緋山くんがそれこそ命懸けで処理してくれている。それの何が問題だと言うんだい?」
藍堂はギリッと奥歯を噛み締めたあと、答える。
「緋山は元黒鴉の構成員です。『パンドラ』との戦闘行為が明るみに出ても、緋山の素性を利用すれば、『とある組織の抗争』で片付けられる。そのために緋山を選んだのでは?」
「私が彼を選んだのは、その実力を買っての事さ。言いがかりは辞めて欲しいね」
(思ってもいないことを口走りやがって……)
そう心の中で毒づくいていると、真横から彫刻刀のようなものが三本飛んできた。
藍堂は、咄嗟に転がり彫刻刀を避ける。
「社長、どう致しますか?」
声の方向には、いつも社長の横にいるあの女秘書がたっていた。手には彫刻刀を三本ほど指の間に挟んで構えている。
「やめたまえ藤裂くん。行かせてあげなさい」
社長がそう言うと、藤裂は彫刻刀を収め、道を開けた。
藍堂は走りながら、エレベーターへ飛び乗る。
藍堂のいなくなった社長室で、藤裂が社長に訪ねる。
「よろしかったのですか?彼女を行かせてしまって」
「良いのだよ藤裂くん。彼女の好きにさせてあげなさい」
灰城はそう言うと席を立ち、後ろのガラス張りの壁から下にある街を見下ろす。
「この国を裏から支配する。そのためにはより強い力が必要なのだよ藍堂くん……」
灰城は誰に聞かせるでもなく、呟いた。
藍堂は『処理課』と書かれたドアを勢いよく開ける。
「……ッ!?あ、藍堂さん!?あ、いや、これは間食をとっていただけで、決して仕事の手を抜いていた訳では……」
一人処理課にいた緑川伊織の手には、かなり大きいおにぎりが握られていた。
「緑川!至急だ!緋山の救援に向かう!」
「へ……あ、はい!」
緑川はバッと身なりを整え、小走りで藍堂について行った。
「………死んでくれるなよ…緋山……」
藍堂は嫌な予感がしていた。
彼女はよく、その予感が的中してしまうのだった。
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