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九死に一生
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「ギュピッ!ギュピッ!マスター!マスター!」
ガチャガチャガシャガシャ!!と多脚ロボットが走り回る音で目が覚めた。
「……う…ん?……カンカン……か……?」
「マスター!ご無事でナニヨリ!端末を充電して終わったら、死にかけマスターがいました!」
……まだ身体に気だるさは残るが、何とか動く事は出来る。
「マスター、とりま端末は充電出来ましたヨ」
カシャカシャと横に倒した円柱の様な形のカンカンの上部に、端末がささっていた。
……あぁ、そうだ…充電してたんだっけ……
………あ
「なぁ!カンカン!近くに女の人はいなかったか!?」
おぼろけながら覚えている。その女性に何かを飲まされ、だいぶ体調が整った事を。
「ギュピ?女性ですか?……それは…」
「……お目覚めか?」
上半身を起こしてテントの入口を見ると、そこには曖昧ながらも、見覚えのある顔があった。
「やれやれ、『ミチズレキノコ』なんて食う奴いるたァなァ」
その女性は水着とも下着ともつかない黒い薄着に、太ももが丸見えのジーパン(自分で切ったんだろうか?)をはいていた。髪の毛は少し灰色の混じった黒色で、後ろで1本にまとめている。そして腰の辺りにポーチやらケースやらがベルトで巻かれており、手には槍の先端をペンチにしたようなものを持っていた。
「あ、あの、ありがとうございました」
「全く、アタシは一人でフラフラしたかったってのに、アンタが必死に呼び止めるから居てやったよ」
すると、ポーチの一つから細い円柱のようなものを取り出し、ジッポライターで火をつけた。先端の燃えた円柱からは煙が出ていた。
「た、煙草ですか?」
煙からでる独特なニオイでわかった。
「アン?なんだよ悪いか?」
「いや、ここテントの中なんですけど……それに、健康に悪いですよ。せっかくVTIHの『抗体持ち』なのに」
そうだ、世界の文明は人類の滅亡と共に崩れてしまった。VTIHという、たった一つのウィルスによって。しかし、世の中にはまだ生存している人間がいる。俺や、この女性の様なVTIHに対する『抗体』を持った人間だ。
……それも世界で十数人しかいないのだが……
そんなせっかく生き延びた身体を自分で痛めつけるような事を、この女性はしているのだ。
しかし、女性は特に気にしてもいない様子だった。
「別にいいだろうよ。逆にせっかく生き延びたんだ。好きな事をしても良いだろうが」
……なるほど、そういう考え方もあるのか
「……確かに、一理ありますね」
「だろォ?」
女性は得意げに笑いながら煙草を吸い続ける。
「アンタは何かやりたい事あんのかい?」
「え?」
「だから、アンタのやりたい事だよ。生き延びたってのに何もないってこたァねぇだろ?」
………やりたい事か…そもそも自分が生きる事自体が目的の様なものなのだが…
あ、いや、あるわ。やりたい事というか、やらなくてはいけない事。
「俺は、今の世界がどうなっているかを見たい。それだけです」
「はぁ?それだけぇ?」
女性は戸惑った様な、ガッカリしたようなふうに反応する。
「えぇまぁ、俺の…最初で最後の『親友』からの助言なんですよね「今の世界を見てみると良い」って」
「ふぅ~ん…ま、良いんじゃねぇの?何も目的ねぇ野郎よりよっぽど良いぜ」
カッカッカッと煙草を咥えながら笑う。口は悪いが、悪い人では無さそうだ。
「で、すいません。外で吸ってくれませんか?そろそろ煙がこもります……」
女性の吸っている煙草がどうもテント内にこもってきた。
「そうだな、そろそろけむったくなってきたし、外で吸うか」
女性は槍の先端をペンチにしたようなものを肩に担いでテントの外に出ていった。
「さて、俺も受動喫煙で体調を崩す訳にも行かないし、外に出るか」
セーフティをかけた自動小銃を肩にかけ、煙のこもり始めたテントを後にする。
「コイツァ驚いた。アンタ随分吐いた見たいだけど、よく脱水にならなかったな」
道路を見るとテントの横に昨晩俺の吐いたものが溜まっていた。……おぇ…
「水分はミズボでとっていましたから……」
「にしてもよォ、な~んで『ミチズレキノコ』なんてモン喰ったんだよ」
「あの、その『ミチズレキノコ』ってどんなキノコなんですか?」
すると女性は驚いたのか、口から煙草を落としそうになった。
「おまっ……えぇ!?知らねぇで食ってたの!?」
「えぇまぁ……その…空腹だったのと、この端末が充電切れで……」
女性はガシガシと頭をかくと、答えた。
「お前の症状から察しただけだが、お前、赤いかさに白い斑点のついたキノコ食ったろ?」
思い出すと、確かそんな模様だったかもしれない。
「まぁ、確か…そんな模様でした」
「やっぱりなぁ…」
と、再び女性は煙草をゆらゆら揺らしながら答える。
「アンタの食ったろソレは『ミチズレキノコ』っていってな、食ったヤツはもれなく体調が絶不調になって死に至るってキノコだよ。その名の通り、食ったヤツ全員道連れにするから『ミチズレキノコ』だ。アタシがこれ飲ませなきゃ死んでただろうね」
女性がコレといって取り出したのは、細い瓶に入った果実水の様なものだった。
「それは?」
「コイツァ『ロネの果汁』だ。ロネの実って奴はまぁ…言っちまえば『猛毒』だ。だけどどういう訳か、アタシやアンタ見たいな『抗体持ち』に対しては万能薬見たいな働きをする。ロネの実自体が滅多に無いもんだから貴重なものなんだぜ?全く」
「それは…どうもありがとうございました」
素直にお礼を言われるとは思って無かったのか、女性は「お、おぅ…」と、しどろもどろになった。すると、再び煙草をふかして話し始める。
「九死に一生のとこ悪ぃんだが、そろそろアンタの名前を聞かせてくんねぇか?」
「え?」
「だから名前だよ、どうせ『折角出会ったなら一緒に行動しようよォ~』ってハラだろォ?ま、その方がお互い生存率も上がるし、合理的だよなァ?何よりアタシも一人は飽きてきた所さね。長ぇ付き合いになると思ってよォ」
煙草を咥えながら、手をヒラヒラと振る。
そうか、名前か……人類の文明が崩壊した今、元の名前で名乗らなくても言い訳だし、なんと名乗ろうか……?
「別に言いたくなきゃ言わなくて良いぜ」
女性は口元の煙草を相変わらず揺らしていた。
……さて、なんて名乗ろう?
ガチャガチャガシャガシャ!!と多脚ロボットが走り回る音で目が覚めた。
「……う…ん?……カンカン……か……?」
「マスター!ご無事でナニヨリ!端末を充電して終わったら、死にかけマスターがいました!」
……まだ身体に気だるさは残るが、何とか動く事は出来る。
「マスター、とりま端末は充電出来ましたヨ」
カシャカシャと横に倒した円柱の様な形のカンカンの上部に、端末がささっていた。
……あぁ、そうだ…充電してたんだっけ……
………あ
「なぁ!カンカン!近くに女の人はいなかったか!?」
おぼろけながら覚えている。その女性に何かを飲まされ、だいぶ体調が整った事を。
「ギュピ?女性ですか?……それは…」
「……お目覚めか?」
上半身を起こしてテントの入口を見ると、そこには曖昧ながらも、見覚えのある顔があった。
「やれやれ、『ミチズレキノコ』なんて食う奴いるたァなァ」
その女性は水着とも下着ともつかない黒い薄着に、太ももが丸見えのジーパン(自分で切ったんだろうか?)をはいていた。髪の毛は少し灰色の混じった黒色で、後ろで1本にまとめている。そして腰の辺りにポーチやらケースやらがベルトで巻かれており、手には槍の先端をペンチにしたようなものを持っていた。
「あ、あの、ありがとうございました」
「全く、アタシは一人でフラフラしたかったってのに、アンタが必死に呼び止めるから居てやったよ」
すると、ポーチの一つから細い円柱のようなものを取り出し、ジッポライターで火をつけた。先端の燃えた円柱からは煙が出ていた。
「た、煙草ですか?」
煙からでる独特なニオイでわかった。
「アン?なんだよ悪いか?」
「いや、ここテントの中なんですけど……それに、健康に悪いですよ。せっかくVTIHの『抗体持ち』なのに」
そうだ、世界の文明は人類の滅亡と共に崩れてしまった。VTIHという、たった一つのウィルスによって。しかし、世の中にはまだ生存している人間がいる。俺や、この女性の様なVTIHに対する『抗体』を持った人間だ。
……それも世界で十数人しかいないのだが……
そんなせっかく生き延びた身体を自分で痛めつけるような事を、この女性はしているのだ。
しかし、女性は特に気にしてもいない様子だった。
「別にいいだろうよ。逆にせっかく生き延びたんだ。好きな事をしても良いだろうが」
……なるほど、そういう考え方もあるのか
「……確かに、一理ありますね」
「だろォ?」
女性は得意げに笑いながら煙草を吸い続ける。
「アンタは何かやりたい事あんのかい?」
「え?」
「だから、アンタのやりたい事だよ。生き延びたってのに何もないってこたァねぇだろ?」
………やりたい事か…そもそも自分が生きる事自体が目的の様なものなのだが…
あ、いや、あるわ。やりたい事というか、やらなくてはいけない事。
「俺は、今の世界がどうなっているかを見たい。それだけです」
「はぁ?それだけぇ?」
女性は戸惑った様な、ガッカリしたようなふうに反応する。
「えぇまぁ、俺の…最初で最後の『親友』からの助言なんですよね「今の世界を見てみると良い」って」
「ふぅ~ん…ま、良いんじゃねぇの?何も目的ねぇ野郎よりよっぽど良いぜ」
カッカッカッと煙草を咥えながら笑う。口は悪いが、悪い人では無さそうだ。
「で、すいません。外で吸ってくれませんか?そろそろ煙がこもります……」
女性の吸っている煙草がどうもテント内にこもってきた。
「そうだな、そろそろけむったくなってきたし、外で吸うか」
女性は槍の先端をペンチにしたようなものを肩に担いでテントの外に出ていった。
「さて、俺も受動喫煙で体調を崩す訳にも行かないし、外に出るか」
セーフティをかけた自動小銃を肩にかけ、煙のこもり始めたテントを後にする。
「コイツァ驚いた。アンタ随分吐いた見たいだけど、よく脱水にならなかったな」
道路を見るとテントの横に昨晩俺の吐いたものが溜まっていた。……おぇ…
「水分はミズボでとっていましたから……」
「にしてもよォ、な~んで『ミチズレキノコ』なんてモン喰ったんだよ」
「あの、その『ミチズレキノコ』ってどんなキノコなんですか?」
すると女性は驚いたのか、口から煙草を落としそうになった。
「おまっ……えぇ!?知らねぇで食ってたの!?」
「えぇまぁ……その…空腹だったのと、この端末が充電切れで……」
女性はガシガシと頭をかくと、答えた。
「お前の症状から察しただけだが、お前、赤いかさに白い斑点のついたキノコ食ったろ?」
思い出すと、確かそんな模様だったかもしれない。
「まぁ、確か…そんな模様でした」
「やっぱりなぁ…」
と、再び女性は煙草をゆらゆら揺らしながら答える。
「アンタの食ったろソレは『ミチズレキノコ』っていってな、食ったヤツはもれなく体調が絶不調になって死に至るってキノコだよ。その名の通り、食ったヤツ全員道連れにするから『ミチズレキノコ』だ。アタシがこれ飲ませなきゃ死んでただろうね」
女性がコレといって取り出したのは、細い瓶に入った果実水の様なものだった。
「それは?」
「コイツァ『ロネの果汁』だ。ロネの実って奴はまぁ…言っちまえば『猛毒』だ。だけどどういう訳か、アタシやアンタ見たいな『抗体持ち』に対しては万能薬見たいな働きをする。ロネの実自体が滅多に無いもんだから貴重なものなんだぜ?全く」
「それは…どうもありがとうございました」
素直にお礼を言われるとは思って無かったのか、女性は「お、おぅ…」と、しどろもどろになった。すると、再び煙草をふかして話し始める。
「九死に一生のとこ悪ぃんだが、そろそろアンタの名前を聞かせてくんねぇか?」
「え?」
「だから名前だよ、どうせ『折角出会ったなら一緒に行動しようよォ~』ってハラだろォ?ま、その方がお互い生存率も上がるし、合理的だよなァ?何よりアタシも一人は飽きてきた所さね。長ぇ付き合いになると思ってよォ」
煙草を咥えながら、手をヒラヒラと振る。
そうか、名前か……人類の文明が崩壊した今、元の名前で名乗らなくても言い訳だし、なんと名乗ろうか……?
「別に言いたくなきゃ言わなくて良いぜ」
女性は口元の煙草を相変わらず揺らしていた。
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