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11.ヨハネスは知る

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 恩師の葬儀には行かなかった。

 手紙をくれた元同僚とは、久しぶりに会うことにした。彼は随分と疲れていて、「先生が急に亡くなって大変だった」と溢した。
「先生、全ての運営権を握ってたからさ。俺とか何人かで先生だけが分かってるようだと、何かあった時に困るから手伝うってずーっと言ってたんだぜ!なのに、年寄り扱いするなとかって怒ってさ、蓋を開けたらビックリよ。あのジジイ!」
 
 聞けば、先生は随分と横暴な経営をしていたらしい。恩師をジジイという元同僚は、なかなか新鮮だ。

「ごめんな、ヨハネス。お前がおかしくなっていっているのに、薄々気がついていたのに、何だか声が掛けられなかった。お前は、先生の秘蔵っ子だったし、俺なんかより期待されてただろ?余計なお世話かなって、思ってしまって…」
「そうだったんだ…僕は、君の方が先生に気に入られてるって思ってたよ。先生は、僕にはダメ出しばかりで…」
「らしいな。俺たちの前では、ヨハネスを見習えって言ってくせにな」
「そうなのか…知らなかった…」
「やっぱそうか…最初はお前が盗作したのかと疑いもしたんだけど、学生の頃に話してた事があったやつだったから、おかしいと思ってな。その時は、まだ先生の事を信じたい気持ちもあったんだ…でも、お前の態度でわかったよ」
「僕も先生を信じたかった。君に言われて、問い質したら退職さ」
「……何か、尊敬してた先生がああなるとショックだったよな」
「うん。ほんとにな」

 あの頃はチームを外された劣等感から、周りにどう思われているかが怖くて、同僚たちと距離を置いていた。他所から見た当時の状況を初めて知る。

 今は研究所の進退を巡って、親族同士で揉めているそうだ。彼も含め開発者たちは皆、辞めるつもりだと言う。幸いな事に、金銭的には保証されそうだと聞き、ほっとした。

「今更だけど、俺は、研究室は辞めたとしても、ヨハネスにこの業界には残ってもらいたかったんだよな」
「うーん…もう僕は戻るつもりはないなぁ。今の生活、結構気に入ってるんだ。相棒も居るしね」

 足元のシルバーを見る。シルバーはふふんと自慢げに胸を反らし、元同僚の方を向いた。彼は、残念と言いながら、「ヨハネスをよろしくな」とシルバーを撫でた。

 新しく研究室を立ち上げるという彼は、気が向いたら連絡してくれ。いつでも歓迎だよ、と笑った。

 当時を思い出すと、辛い気持ちになる。けれど、かつて志しを共にした友が、友のままだったのを知り、重苦しい想いが少し減った気がした。


 元同僚との再会の後、食欲が戻り久しぶりに沢山食べた。
 まだ時間が必要だけど、いつか墓参りに行って、恨み言の一つも言ってやろうと思う。そしたら、きっと、師を心から悼む事ができるだろう。

 そう思える日まで。さようなら、先生。

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